第22話 接敵! その相手は……
あれから三週間が経ち、襲撃する教会がある街、エルサにエクリオン・ソサエティのメンバー全員が揃う。
ユリウスとアリサは、拠点から千里眼を使って街を一望していた。
「私たちも行きたかったね」
「仕方ない。戦闘になったら、俺たちは置換魔法を切らない限り戦力外になるだけだ」
そんなことを言いながらも、彼らはもしもの時に備えていた。
そして夜になると、星雲が動き出す。
だが、その日の夜は不気味なほどに静かだった。
イータは、教会の屋根上で待機していた。
彼女は、戦闘中以外はよくドジるから、潜入には向いてないとティアが判断したからだ。
そして潜入チームは、三手に別れていた。
ティアとエリナ、アリスとルミア、アルビオンのみの三チームだ。
アルビオンは、肉体を粒子化して壁を無視して中に入り、建物内で実体化することで侵入する。
他の二チームは普通に扉から侵入した。
重要な物があるだけあって、かなり厳重な警備体制だ。
アルビオンは装備を外して、可愛い白と赤の服に魔法で着替えた。
小柄なことを利用して、勝手に侵入したイケない子供で通すつもりらしい。
他の面子は、暗殺を主にしながらゆっくりと神父の部屋に向かう。
地下の保管室の鍵は、神父が持つ鍵以外で開けると警報が鳴る仕組みになっていた。
星雲は、この事実を知らないがその可能性を考え、今回は正攻法で攻略することにしていた。
そして事は順調に進む。
アルビオンが先に神父の部屋に到着し、眠っていた神父の頭部を容赦なく握り潰して殺す。
その理由は、アルビオンが神父への神託の内容を閲覧したからだ。
――大いなる自然の領域。その入り口たる土地に厄災が訪れる。汝よ天尽大禍玉を祀り上げよ。さすれば厄災は、遠のくであろう。
その曖昧な神託。
そして使われるであろうアーティファクト。
それを知ったアルビオンは、落胆した。
そのアーティファクトは、災いを呼び起こすものだと知っていたからだ。
「これは、貰ってくよ」
アルビオンが鍵を回収し、合流地点に向かう。
鍵を回収したことを、指輪を経由して全チームに連絡した。
そして保管室に先行して、鍵を開けると中で他チームの合流を待つ。
しばらくして全員が合流した。
「お待たせ。あれが――」
「うん。今回の目的物。気をつけて、あれは災禍の禍玉だから」
「聞かなくてもわかるわ。名前的にやばいものでしょ?」
「うん。厄災を起こす、それもとびきりのね」
ティアが小さくため息を吐く。
扱いが大変そうだと思ったからだ。
そして一行が禍玉に近づくと、禍玉が放つ魔力を受けて固唾を呑む。
「じゃあ、始めるわよ」
全員で拘束具を慎重に外し始めた。
数分かけて一本の鎖を外していく。
そして拘束具を解いて棺の様な箱を開けると、厳重に何重にも魔法が施されている箱を開ける。
そこには黒紫色の禍々しい物があった。
それをユリウスから受け取っていたカルニベと呼ばれる封印専用の魔導具の中に入れる。
入れる際は、アルビオンが特殊な魔力で包むことで、直接触れるのを避ける。
「ふぅぅ」
ティアが慎重にカルニベに禍玉を移し終えて、一息吐く。
アルビオンは、余裕そうな表情をしていた。
「回収完了。ルミア、封印をお願い」
「はい」
ルミアがカルニベに魔力を流し込み、封印を開始する。
さらにその上からティアが封印魔法を重ねがけした。
「気配が増えてきた。さすがにバレたかも」
入口を見張っていたアリスが、ティアたちの元に戻って報告する。
「撤収するわ」
「「はい」」
ティアの指示に各々が返事を返す。
そして彼女達は、保管室を後にする。
そのまま地上階に出ると、かなりの数の聖騎士隊が侵入者を探し回っていた。
それを見てティアがエリナに視線を送る。
その意図を察して、エリナがあらかじめ仕掛けていた爆発の魔法を起動した。
爆発音が教会中に響き渡る。
聖騎士達が原因を探しに行くのをティア達が確認したのと同じタイミングで、教会の天井をぶち抜いてイータが突入した。
「ハハハ! イータを! 私を! 楽しませるのデース!! ヒャハハハ」
戦闘モードのイータが最初から全力戦闘を始めた。
壁や天井そして小物類など、お構い無しで破壊行為が行われる。
聖騎士達が対応に回るが肉体を引き裂かれたり、斬り飛ばされたり、風穴を空けられたりと惨劇が始まった。
陽動として上手くティア達から聖騎士の注意を引くことには成功して、彼女らは教会を脱出した。
そして彼女達が脱出したのを確認すると、イータが目くらまし替わりに教会を半壊させて戦域を離脱した。
それから少し経って、隠れ家で全員が合流する。
「楽しかった――」
イータが高揚で未だに頬を赤く染めていた。
そんな彼女を横目に、今後の動きを確認する。
「ここからは手はず通りにイーリアス森林地帯に向かい、そこから転移で移動するわ」
「では、この建物に爆破魔法を設置してきます」
「ええ、頼むわ」
エリナが爆破の準備を整えると、一行は隠れ家を後にしてイーリアス森林地帯を目指す。
屋根伝いに移動を始めると、一行は周辺の雰囲気が変わったことに気づく。
そしてティアが瞬きをした瞬間、目の前に赤目の少女が立っていた。
それに気づいた瞬間に、全員が警戒態勢に入る。
「あらあら、どこに行くのですか?」
友好的な口調だった。
「……」
一行は、沈黙することで答える。
それに不自然に一泊置いてから、少女が口を開く。
「ええ、ええ。なるほど。イーリアス森林地帯に向かうのですね。イヒヒ」
その瞬間だ。
指輪の力で剣を作り出し、ティアが殺気と共に斬りかかる。
それと同時にアルビオンが少女の正体に気がつき、制止の声をあげる。
「ダメ!! 攻撃するなーー!!!」
ティアが少女の目の前に迫った時だ。
アルビオンがティアの首を掴み、後ろにほうり投げると同時に盾で少女の攻撃を防ぐ。
その後、アルビオンも少女と距離を取った。
「君、もしかして時の女神だね」
「ええ、ええ。流石かのアルビオンですわ。私の正体をこの短時間で」
「何しに来たの?」
「ふふ。今回の神託、誰がしたと思う?」
その言葉を発した瞬間には、少女の背後から首筋に二本の剣が迫っていた。
だが、次の瞬間には剣が空を斬る。
先程まで少女がいた所には、誰もいなくなっていた。
少女は数歩先の場所で、余裕の笑みを浮かべている。
「バカな!? 私に時止めの魔法は効かないのに……まさか!?」
アルビオンが戦闘中に何が起こったのかすぐに悟り、理解した。
「そのまさかですわ。あなた相手なら少しだけ権能を使ってあげますわよ。弱っているとは言え、流石に伝説の存在相手に油断はできませんもの」
「なら、これでどう?」
アルビオンが急加速して更に加速していく。
時の権能に捕まるのなら、時間を振り切ればいい。いつも私がやっていたように。これなら力を封印してる今でもできる!!
いつも使っている戦い方で挑む。
それは光の速度を超えて、時の束縛を振り切るという力任せだが、シンプルで彼女らしい戦法だった。
体が軋む。鎧も耐え切れなくて、亀裂が入り始めてる。……なら、形状を少し変えて負荷を逃がす。
指輪の力と自身との共鳴を使って、鎧の形状を変えてさらに機動力に特化させる。
そして光の速度を超えた。
「境界の龍らしいとてもシンプルな戦法。ですが、私には通用しませんよ」
虚空からハンドガンを取り出し、自身の頭部に銃口を向ける。
そしてそのまま引き金を引き、銃声と共に脳が飛び散った。
神が自殺したのを見て、アルビオン以外の星雲が唖然としている。
アルビオンの刃が少女の首元に触れる瞬間に、時間が止まる。
少女の死体の隣に、少女に瓜二つのもう一人の少女が立っていた。
「私にこれを使わせるなんて……境界の守り手は伊達ではないみたいね。でも残念。タイムパラドックスは無効化されてるの。だから、一秒前の私が死んでも未来の私は生きてられる。って、この止まった世界で誰に言ってるのかしら」
少女がおかしく笑う。
「パラドクス・クロノローズは、自信の命を消費して時の束縛から解放された者、及び時に束縛されない者などでも強制的に時に縛りつけて停止させる魔法よ。いくらあなたでも、これから逃げることは不可能だわ」
空中で停止しているアルビオンの目の前に立って、まるで話かけるように言う。
そしてハンドガンに魔力を込め、一発だけ撃つ。
しかも、頭部めがけてだ。
弾丸はアルビオンの眉間に触れるかどうかの場所で止まる。
時止めの影響だ。
「――エクスタ」
黝い魔力が、銃口に吸われていく。
そして少女がまた発砲した。
だが、この弾丸は時止めの影響を受けることなく、アルビオンの肉体にめり込みダメージを与えた。
それを更に三回撃った。
「時は動き出す」
その言葉に呼応するように時が動き出す。
アルビオンの体から鮮血が噴き出す。
そして目の前の弾丸をアルビオンは、超人的な反射で回避するが体勢を崩して、地面に落ちる。
慣性のままに地面を滑っていき、片手で飛び起きると、両足と片手で滑るのを止めるように力を込める。
アルビオンの体の一部は、地面に落ちて滑った際に肉が抉られたせいで、骨が剝き出しになっていた。
「クッ! 私としたことが……」
痛みを感じていない様子だった。
だが、その言葉から痛みを感じている様な気配があったが、実際にはほとんど感じていなかった。
「あれを避けるのですか!? 少々驚きましたわ。そしてお見事」
「あれくらい、どうってことないよ」
アルビオンが不敵の笑みを浮かべた。
それと同時に少女の肉体が切断されて鮮血が飛び散った。
そして内臓がどしゃり、と音を立てて地面に散らばる。
アルビオンが体勢を崩して落ちる瞬間に、剣の剣身を伸ばして無理矢理に
攻撃していたのだ。
だが、瞬きをした瞬間には死体の隣にもう一人の少女が立っていた。
「みんな逃げて! ここは私が受け持つ!!」
体にめり込んだ銃弾が炸裂し、内蔵を傷つけられてアルビオンが吐血した。
そしてアルビオンが攻撃を仕掛けようとした時だ。
無謀にもイータが力を解放した。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛! がああああ!! あ、いいあああ!」
紋章の力を使ったことで、膨大な魔力に包まれるイータ。
苦痛の声を上げながら、人喰みの力を発動させる。
魔力に包まれているイータの姿が変容していく。
肉体が肥大化していき、二、三倍の大きさになる。
腕も当然肥大化していき、人並みの大きさと太さになり、特に右手の中指の爪が発達していた。
さらに、脇から脇腹にかけての場所の背中からさらに左右一本ずつの変異前の腕の大きさの腕が生える。
特に特徴的なのが、首の左側からもう一つの頭部が形成された。
これにより、イータの方の頭部は敵味方の識別のみを行う以外の機能が失われる。
その中には自我も含まれる。
そして体のあちこちに目が出現し、肉体の死角が無くなった。
目の大きさはまちまちだった。
左肩には巨大な目玉があるのに対し、後方の右脇腹には小さな目玉があるといった具合だ。
「ガあああ!!」
「やめなさい! イーータァァァァ!!」
ティアが制止しようとするが、声が届かない。
「あなたには、私の影の相手をしてもらおうかしら」
少女の周辺に真っ黒の少女に似た影が現れて、イータに襲いかかる。
だが、イータはその悉くを蹂躙する。
ただ暴れ回るだけで、影が消えていく。
どんな攻撃を受けても、彼女が怯むことはない。
しかも体中にある目が、攻撃を認識することでダメージを抑えるように魔力で自動的に防御を行う。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
その光景を見ていたアルビオンがティアに問う。
「ねぇティティア、あれ制御出来てると思う?」
「明らかに、できてないわね」
「だよね」
暴走するイータが、影の攻撃を受けながら本体である少女を襲う。
そしてイータの爪が回避が遅れた少女の体を深々と抉る。
だが、一瞬で傷が無くなった。
「いい、一撃だったわ。これはお返し」
そう言うと少女の指先に魔力が集まる。
それを放つと、まるで豆腐に石を当てたようにイータの左腕が飛び散った。
イータは、悲鳴をあげることも無く、少女に追撃しようとしていた。
そして少女が迎撃しようとした時だった。
アルビオンがイータの首を跳ねて、彼女の頭部をティアに投げ渡す。
「逃げて! 私なら何とかできるけど、ティティア達じゃあ、こいつには勝てない!!」
ティアが何かを言おうとした時、アルビオンが彼女の言葉を悟る。
「安心して! イータなら生きてる! あの力のおかげで体の再生が始まってるから大丈夫!」
アルビオンの言葉を聞き、ティアが胸をなでおろす。
そして撤退の指示を出した。
「今のうちに行くよ!」
「「はい!」」
星雲が各々転移魔法を使った。
しかし、転移することが出来なかった。
「!?」
その疑問に答えるように少女が言う。
「この周辺一帯で、低位の転移魔法は使えないようにしておきましたわ。……いえ、正確には低位魔法無効化と言うべきかしら?」
その口調からは余裕が伺えた。
アルビオンが時間を稼ぐために、攻撃を仕掛けようと踏み込んだ瞬間だ。
少女の気配が変わった。
「イヒヒヒヒ!!! キヒッ! ヒャハヒヒ!!」
少女の前に魔法陣が展開された。
その射線上には、アルビオンがいた。
やばいと察したアルビオンが、射線から逃げようとするが体が動かない。
「クソッ! 捕まった!!」
時に体を縛り付けられ、外からの干渉以外ではどうにもならない状態となっていた。
そこにドス黒い魔力砲撃が放たれる。
魔力砲撃が直撃する瞬間、アルビオンは何者かに引っ張られた。
「間に合ったー!!」
ユリウスが全力で防御魔法を使った。
時属性のせいで魔法の時間が巻き戻るが、連続展開でそれを防ぐのだった。
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