第19話 襲撃
アルビオンが地上で暴れ回っている頃、ティアたちは教会地下へと侵入していた。
「思ったより深いわね」
「それだけ、重要」
アリスが短く言う。
四人が暗い廊下をゆっくりと降りていく。
明かりもなく、空気が冷えていた。
そして何より人の気配が全くない。
それに不信感を持ち、警戒を高める。
「明かりが……」
階段の先が明るくなる。
それを見て、ルミアがポツリと呟いた。
「先行する」
アリスがそれだけを残し、足早に階段を駆け下りていく。
入口から中を除くと二人の門番が、暇そうに雑談をしていた。
アリスが手話で、状況をティアたちに報告した。
そして自分が右をやるとアリスが手話で合図する。
(わたしが、右を殺る)
ティアが頷き、もう一人を自分でやろうと剣を握った。
「ティア様、もう一人は私が」
ルミアが弓を用意して言う。
「わかった。任せたわよ」
「はい」
ルミアが弓を構え、準備を終えるのを確認して、アリスが気配をして高速移動で中に侵入する。
そして短剣を腰から抜き、天井から襲い掛かる。
左側の敵がアリスの奇襲に気付くと同時に、ルミアがヘッドショットを決める。
「ふぅ」
「やっぱルミアの腕はすごい」
「ありがと、エリナ」
「二人とも行くわよ」
ティアが先導して中に入ろうとする。
「待って。罠」
そう言ってアリスが光の魔法で罠を可視化させた。
「助かるわ」
「ん」
四人が合流して、扉を開ける。
扉はかなりの重さがあり、身体強化の魔法を使わないと開けられない程だった。
部屋に入って、最初に四人の視界に入ったのは棺の様なものだ。
豪華な装飾がされ、厳重に鍵がかけられている。
「あたしの出番ね」
エリナが指輪の力を使って、ピッキングツールを作る。
そして鍵穴に差し込み、器用に開錠を始める。
その間にティアは、部屋の調査を始めていた。
他の二人は出入り口で見張りをやっている。
ここの教会も同じような壁画ね。
他と何も変わらないみたい。
ティアがゆっくりと壁画をなぞる様に見ていく。
これは!?
一か所だけ、今まで見たものと違うものを見つけた。
それを記録用の魔法で撮影する。
道具?
でも、この書き方は部品に近いわね。
となると、あの中の物と関係があるのかしら?
壁画を見て、色々考察していると、カチャッという鍵が開く音が小さく響く。
それを聞き、ティアがエリナの元に戻る。
「開きました。罠に気をつけてください」
「ええ、お疲れ様」
ティアがゆっくりと蓋を持ち上げる。
少し開くと、それ以上は持ち上げずにエリナが中を確認するのを待つ。
「どう?」
「問題ないよ」
「わかったわ」
罠がないことがわかると一気に蓋を開ける。
そこにあったのは、神々しさを感じる小さなアーティファクトだった。
「これは!?」
見たこともない物を見て、エリナが目を丸くして驚く。
ティアが指先で恐る恐るつつく。
何も起こらないのを確認すると、布で包んでなるべく直に触らないように気をつける。
「撤収よ。目的の物は回収した」
一同が頷き、駆け足でその場を後にして、教会の外を目指す。
長い階段を登っていると、複数の足音が響いてくる。
「敵」
「そうみたいね。このまま蹴散らして進むわ。ルミア、これをお願い」
「はい!」
ルミアは、ティアからアーティファクトを受け取った。
そして接敵する。
「何者だ!!」
「名乗るほどのものではないわ」
「じゃあ死ね!」
それを合図にする様に一斉に敵が一行に襲い掛かるが、その全てをティアが蹂躙する。
剣を抜くと同時に素早い動きで、数人の首を飛ばし、胴を斬り裂き、真っ二つにする。
鮮血やら内臓が辺りにまき散る。
綺麗な金髪に返り血がつく。
「邪魔者も居なくなったし、このまま進むわよ」
ティアの戦いを見て、改めて一同はその強さを再認識した。
「やはり入口で待ち伏せしてるようね」
「わたしが行く?」
アリスが言った。
戦闘態勢に入り、暗闇に溶け込むために黒く変えていた髪の色を元に戻す。
すると、綺麗な銀灰色の髪になる。
「ここは、わたしが持つわ。三人は離脱して、アーティファクトをお願い」
「了解です」
ルミアが返事を返す。
同時に地上階に出ると、二手に別れようとした時、鎧を着た屈強な騎士が暗闇から現れる。
「そう簡単に逃がすとでも?」
「あら、このまま見逃す方が身のためよ」
「はっ! この俺が小娘どもに後れを取るでも? これでもそこそこ死線を潜り抜けてるんだぜ」
「弱い犬程なんとやらって言うわね」
「そうかよっ!!」
騎士がティアを無視して、一瞬で距離を詰めてルミアたちに襲い掛かる。
そして騎士が剣を振ろうとした時、ティアが背後から斬りかかる。
「あなたの相手は私よ」
「チッ」
騎士が舌打ちをして、そのままティアとの交戦状態になる。
「行きなさい」
「あたしは、行きたいところがあるので」
エリナの言葉を聞いて、ティアがすぐにその意図を察した。
「わかったわ」
そして三手に別れるのだった。
その頃、アルビオンが襲撃をしたメインホールでは、侵入者の情報を聞いて生き残った聖騎士たちが、ティアたちの方へ向かおうとしていた。
混乱は収まりきっていないが、経験が豊富なだけあって、優先順位はすぐに付けられるようだ。
そんな時だ。
天井からイータが下りてきたのは。
「貴様! 何者だ!!」
イータを囲むように、聖騎士たちが陣を取る。
「え、えーと。ティアティアからの合図もあったからいいんだよね」
作戦内容思い出して確認し、大丈夫だとわかった瞬間に、目の前にいた聖騎士の上半身を力で引きちぎった。
内臓が飛び散った。
まるでゴミを捨てるようにイータが、その辺に聖騎士だったものを投げる。
「かかれー!!」
イータの行動で即座に彼女が敵だと判断した指揮官が合図を出し、聖騎士が一斉に統率の取れた動きで、イータに襲い掛かる。
「ハハハ! ヒヒ、ハハハハハ!! ヒャハハハ!」
イータが純粋な子供の様な笑みを浮かべた。
それからはもはや誰も止めることができない状態だった。
好き放題に暴れる。
周囲にある物など関係なしに、全てを破壊しながら暴れまわる。
アルビオンと違うのはその戦い方に、芸があるかないかだ。
アルビオンは、あくまで技をもって敵を打ち倒す。
だが、イータはまるで獣の様に本能に従って、周辺被害を度外視しての蹂躙だ。
しかも、厄介なのが剣や槍、そして魔法などをその状況に合わせて使い分けて戦うことだ。
建物が倒壊を始めても、戦いをやめない。
「ハハハ! ヒャハハハ! イー」
イータの笑い声が教会に響く。
体を真っ赤に染め、所々に内臓片が付いているがお構いなしだ。
その狂戦士ぶりに、聖騎士たちは再び恐怖に襲われる。
アルビオンから受けたものとは、また違った恐怖だ。
イータに必死に斬りかかるが、彼女の身体に触れた瞬間に剣が弾かれる、もしくは折れた。
戦闘時のイータの筋肉はとても硬く、並みの剣では傷一つ付けられない。
そして聖騎士を鏖殺するまで、蹂躙劇が終わることはなかった。
一方、ティアと騎士の戦いはティアが優勢だった。
「あらあら、剣戟が弱まってきてるわよ」
ティアが騎士の剣を軽くいなす。
まるで子供を相手しているかのように。
「クソが! チッ!」
子供にいいようにされて騎士が、キレ始める。
馬鹿な!
この俺がこんなガキにいいようにされるなんて!!
認めざるを得ない――か
騎士が魔法を使って、ティアから距離を取った。
「いいだろう。貴様は強いだからこそ、これを使ってやる!」
騎士が懐から筒状の注射器を取り出す。
そしてそれを首に刺して、中の液体を流し込む。
心臓が強く鼓動し、全身に魔力が迸ることで肉体が肥大化する。
「どうだ。ご、ごれれれなならあぁぁぁぁぁ!!!」
「薬に飲まれてしまうなんてね」
ティアが溜め息を吐く。
これだと情報は聞けそうもないわね。
残念。
じゃあ、終わらせましょうか。
ティアが目を細めて、少し本気を出す。
剣速が上がり、魔力が高まる。
一瞬の攻撃で、無数の剣閃が走る。
「はっ!」
ティアが、騎士の腕を斬り飛ばした。
理性を失った騎士が痛みに絶叫する。
「が、ああぁぁぁぁああ!!」
「アルスから教わった魔法を、使うまでもないわね」
少しガッカリしながら、剣の技量だけで騎士を圧倒する。
騎士がどれだけ攻撃をしようと、ティアが紙一重で避けながら着実に削っていく。
そして騎士の懐に踏み込んだティアが、騎士の片足を斬り飛ばして、返す刃で残りの腕を斬り飛ばす。
追い詰められた騎士が、壁に背を預けて座り込む。
ティアが近づいていくと威嚇するように唸った。
騎士の足を魔法で拘束し、懐を漁る。
だが、役に立ちそうなものや薬の予備は見つからなかった。
それに落胆し、ティアがとどめを刺そうとした時だ。
騎士の真上に魔法陣が展開された。
ティアは直ぐにそれに気がつき、上空を見上げると同時に騎士から離れた。
それから間もなくして、黒い光が降り注ぎ、騎士が蒸発した。
「全くこらえ性がないんだから」
ティアは、その魔法が誰なのかもう既に察していた。
それは置換魔法の影響で戦闘ができないから、研究室で魔法の開発をして暇を潰ししていたユリウスの魔法だった。
現在の状態でどこまで火力が出るかの実験の為に、放った魔法でもあった。
騎士の残骸を魔力視で見て、再度何もないことを確認してティアも作戦域から離脱した。
アリスとルミアは、離脱途中にアルビオンに回収してもらったおかげで、もうすでに森の中で身を潜めていた。
そこにイータとエリナが合流し、最後にティアが合流する。
「結構貯めこんでたよ」
そういってエリナが、教会の宝物庫に貯めてあったものを空間収納から出す。
「き、金貨がいっぱいデス。お肉どれだけ食べれるんだろう~」
「これだけあれば活動資金に使えそうね」
ティアが金貨を数枚持ちながら言った。
「みんなお疲れ様。戻りましょうか」
星雲の面々が各々返事を返す。
そして出した金貨などを回収して、ユリウスとアリサが待つ拠点に一行は帰るのだった。
星雲が帰還すると、テーブルに人数分のお茶が菓子と一緒に置かれていた。
「おかえり~」
「派手に暴れたみたいだなお前ら」
アリサとユリウスが星雲を出迎える。
「おかげで収穫があったわ」
ティアがルミアに目配せする。
ルミアが頷くと、回収したアーティファクトをテーブルの上に置いた。
ユリウスとアリサが興味深そうに、アーティファクトを観察したり触ったりする。
魔法などによる鑑定も同時に行った。
「分析してくる。お前らはゆっくりしてるといい」
「主の言葉に甘えるデス」
イータが早速、席についてお茶をゆっくりと飲み始めていた。
「お茶を飲んだらお風呂いこールミア」
「うん!」
星雲が各々羽を伸ばす。
その間にユリウスとアリサの二人は、研究室に戻って魔道具などを使いながらアーティファクトの分析を進める。
翌日、分析が終わり朝食を済ませた後にユリウスとアリサが、アーティファクトについて話し始めた。
「分析の結果、このアーティファクトは部品であることが分かった」
「これだけでも効果は、発揮するよ。例えば、事象干渉力が増幅するとかね」
「事象干渉力?」
アリスが聞いたことのない単語に首を傾げた。
「簡単に言うと、魔法の性能を上昇させるってことだ」
「例えば、本来使うことができない魔法を使えるようにしたり、みたいな効果も付属してると思ってね」
「じゃあ、それを使えば更に強くなれるデス?」
イータの言葉をユリウスが肯定した。
「イータの言うとおりだ。だが、やめといたほうがいい。このアーティファクトは、元々神器の一部だった可能性があるからだ」
「多分だけど、神器の一部が破損した物を更に細かくしたのがこれ。だから、下手に使うと使用者が喰われる可能性があるってこと」
「そのアーティファクトはどうするの?」
ティアが問う。
「破棄する。どの神器の破片かわからない以上、能力の一部が暴走したら手に負えなくなる」
エリナが少し思考を巡らせて口を開く。
「……なるほど。じゃあ、アーティファクトは破壊して素材にしたらどう?」
「いい案だね。それじゃあ、その方針で行こうか。ティアちょっと来て」
アリサに呼ばれて、ティアが彼女の元に行く。
その時、アリサが何を考えているのかを考察し、すぐに答えを導き出した。
「これからアーティファクトを破壊して素材にする方法を教えるね」
「今の俺らだと、少し心もとないからな。それに俺ら以外でもできる方が、後々役に立つかもしれん」
こうして二人の指導の下、アーティファクトの解体が始まる。
指示に従いティアが、慎重にアーティファクトの能力の削除を始める。
二人が魔法を教え、それを見ながらティアがアーティファクトを解体して素材に戻す作業を手伝う。
解体が終わると、緊張の糸が解けてティアが小さく息を吐く。
「上出来だ」
「この感覚を忘れないでね」
「ええ」
ティアが新しい技術を学んだことに、満足感を覚える。
そして素材を保管庫にしまうと、早速ティアがこの魔法の練習を始まるのだった。
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