第18話 出陣
龍の少女がユリウスとアリサの元に歩いてくる。
星雲の面々は、状況が呑み込めず、ティアとエリナを除いて思考が止まっていた。
「これからよろしく人間」
鈴の様な透き通った綺麗な声音で、龍の少女が言った。
「ようこそ。我らが世界へ」
「歓迎するよ」
ユリウスとアリアが歓迎した。
「まずは、力を押さえてくれないか?」
「普通の人間は、そこまで凄まじい魔力を常時放出していないよ」
言われるがままに、龍の少女が力を押さえる。
すると、見た目は完全に普通の少女となり、側頭部に二本の小さな龍角があり、紅の瞳が綺麗なプラチナブロンドの瞳となり、髪も混じりけのない綺麗な銀髪となった
「これでいい?」
「バッチリ!」
アリサが親指を立てる。
「じゃあ、改めて。私を君たちの仲間に入れてくれないかな?」
「大歓迎だ」
「私たちも歓迎するわ」
ユリウスに続いて、ティアが笑顔で言う。
「そうだな……お前の名前は……アルビオンだ」
「ユリウス、それだと今までの名と変らない」
「ティア、これでいいんだよ。実際にアルビオンと言う名の星雲は、宇宙の果て、つまり外宇宙との境界線上に存在するから。それにアルビオンの様な一部の幻想種は、その名前に大きな意味と責務を持つ。だから、おいそれと変えることは出来ないの」
アリサの言葉をアルビオンが肯定する様に首を縦に振る。
「そう、わかったわ。二人の意見に賛成よ。それで、これからどうするの?」
「一旦、戻るぞ。この魔力汚染地帯に長くいるとお前らが持たない」
「行くよ皆」
アリサが先導する。
「ちょっと待って」
ティアが一行を止め、アルビオンに一着の服を渡す。
「今、手持ちがこれしかないけど、よかったら使って」
アルビオンが服を不思議そうに眺めていた。
「人間、これは何?」
「服よ。私たちみたいに着ればいいわ。詳しくは道中で説明する」
「ふむ……わかった」
アルビオンが前と後ろを反対に着て、ユリウス達の後を追う。
帰る道中にアルビオンが周囲の状況を見て、眉をひそめる。
これをやったのが自分だと思うと、少し思うところがあったようだ。
ユリウス達は駆け足で移動し、高濃度の魔力汚染領域を出ようとしていた。
そして高濃度の魔力汚染領域から離脱し、ユリウスとアリサも結界を解く。
それから少しして、魔力汚染領域を出ると星雲たちがマスクを外し、一行が落ち着いた頃にユリウスとアリサ以外が自己紹介を始めた。
「私はティア・プレアデス。種族はハイエルフよ。よろしく頼むわ」
ティアの後にイータが続く
「イータの名前は、イータ・カリーナなのデス。種族は獣人。よろしくお願いなのデス」
「ワタシの名前は、ルミナリアです。種族はエルフで、皆からはルミアって呼ばれてるよ。よろしくね」
「アイリスペンデ。……種族はハーフエルフ、よろしく」
アリスが淡々と言う。
「えーと、わたしの名前エリナスです。種族はヒューマン。よろしくー」
一行の自己紹介を終え、アルビオンの番がやってくる。
「私はアルビオン。種族は境界の龍。よろしくねみんな」
「全員、終わったみたいだな。アルビオンに関しては要らないと思うが、俺とアリサの力は必要か?」
「うーん……」
アルビオンが考え込む。
「マスターの力は欲しいかも。私の力を抑える為のリミッターにしたい。意識して抑えるのは面倒だから」
「オッケー。……じゃあ、やるよ」
二人がアルビオンに眷属印を刻印する。
こうして恒例の刻印を済ませるのだった。
そしてそれから数ヶ月が経った。
メンバーも揃い本格的に組織として活動が始まった。
ユリウスとアリサはアルビオンの加入により、置換魔法に専念できる状況を作ることができ、ついに本格的に魔法を発動させた。
これにより、二人は実質的に一時的な戦力外となる。
とある日、アリスが集めた情報に、聖遺物がイーリアス森林地帯の近くにある教会に運ばれたというものがあり、それの奪取の為、星雲が教会に襲撃かけようとしていた。
そして、現在、星雲は教会付近の森で待機し、相手の状況を確認していた。
「アリス、場所は教会の奥でいいのね?」
「ん。確認した」
ティアの問いにアリスが短く答え、見取り図を出して指を指した。
「じゃあ、ワタシとエリナがティア様と行けばいいのよね」
「ええ、頼むわね」
ルミアの肩にティアが手を乗せた。
「頑張るね」
「任せて!」
エリナが自信ありげに返事をする。
「イータは作戦通りに頼むわ」
「はいデス! ティアティアの合図で暴れるデスね?」
「そうよ」
「任されたデス!」
イータが不敵に笑って立った瞬間、頭上にあった枝に頭部を強打して頭を押さえていた。
その光景に苦笑いを浮かべる面々。
「私は、陽動のための強襲だね」
「派手に頼むわ。あなたのプライドが許さないと思うけど、なるべく魔族だと思われた方が事が情報を偽装できるから」
「仕方ないな~。……じゃあ、私は先に行くね。開始の合図待ってるから」
それだけを言い残し、凄まじい速度で上空に上がっていくアルビオン。
そして指定座標まで高速飛行する。
「うん。この装備にも完全に馴染んだ」
アルビオンが満足そうに頷き、装備を渡された時のことを思い出す。
アルビオンは、ユリウスとアリサに工房へと呼び出された。
工房に着くと二人の後ろに灰白色に輝く装備が飾られていた。
それを見た瞬間、アルビオンはそれが何で出来ているのかを悟った。
「来たか」
「それは?」
アルビオンが問う。
「ふふん! これはね~アルビオン専用の装備だよ!!」
「その名もセンチネル! 俺らが置換魔法を本格的に使う前に完成してよかった……」
「これが私の装備――」
鎧などに手を当てる。
「素材は、何となく予想してると思うけど――」
「私の体でしょ」
ユリウスの言葉を遮るようにアルビオンが言った。
「やっぱり、そういうのわかるんだね」
アリサが感心気味に言う。
「私たちの技術をありったけ注ぎ込んで作った逸品だよ! これ作ってたら、体のほとんどが壊れてきちゃったけど」
アリサが苦笑いを浮かべる。
「効果は、装備すればわかるはずだ。お前の血肉が教えてくれるからな。一つだけ言っておくとしたら、その装備は、生きている。お前の思うがままに、色、形、性能、その全てを変えられる」
「それに! アルビオンが人型の龍化形態になると、装備本来の力が解放されるようになってるんだ~」
「変形!!? やっぱりロマンは大事だね」
アルビオンが目を輝かせる。
「なるべく、境界の龍の力は使うなよ。この時代だと、俺たちの力は強力すぎるからな」
「それ、マスターにだけは言われたくないよ」
自重をあまりしないユリウスに言われ、アルビオンが不服そうにしていた。
「とりあえず装備してみろ」
「私たちが療養に入ると調節できなくなっちゃうから、今のうちにやっときたいな」
ユリウス達の言葉に、アルビオンが頷く。
そしてその場で着替えを始める。
彼女には、まだ羞恥という感情がない。
だからこそ、普通に服を脱いで全裸になり、装備用のインナーなどに着替える。
アルビオンが、先ほどまで着けていたチェック柄の可愛い下着をたたみ、近くの台に置く。
それから鎧を着て、二つの小盾を装備した。
小盾には、アルビオンの紋章が刻まれており、鎧も上半身のみで下半身にはちょっとしたものしかついていなかった。
アルビオンのリクエストで高速戦闘用に重視した結果だ。
鎧にも飛行時の空気抵抗を軽減できる機構を持たせながら、防御力に優れたものになっていた。
「どう?」
アリサが今か今かと感想を待っていた。
「すごくいい! 軽くて頑丈だし、何よりカッコイイ!!!」
小盾に魔力を流すと剣が現れた。
「おお!」
アルビオンが感嘆の声を漏らす。
「その剣は、魔力で属性や強度、さらに刀身の長さも変えられる」
「しかも、マテリアルマナブレードだから物理と魔力、両方の性質のいいとこ取りをしてるの」
二人は自重しないで作った装備を、自慢げに話す。
「もしかして打撃力も上がってる?」
「ああ。殴るだけでもえげつない火力を出せるぞ」
「しかも、魔法の性能を上げる機能も付けたしね」
「「そして何より! イージスの魔法を組み込んだから、片方ずつで半球上の絶対防御フィールドを展開できる!!」」
二人が白熱しすぎて会話が重なる。
「でも、世界の敵になりうるような強敵にだけ使えよ」
「流石にこの時代でそれを使うと、アルビオンの立場的にやばいと思うし……」
ユリウスとアリサが忠告する様に言った。
「うん。わかってる。普段は機能に制限をつけるつもり。戦士と戦うなら技量で戦いたいもん」
自重を知らない二人と違い、アルビオンはその辺がしっかりしていた。
そしてアルビオンは、満足げに鎧を撫でるのだった。
そんなことを思い出しながら、アルビオンは指定座標でニヤつきながら待機していた。
それから数分して、星雲が配置についた。
各々、指定座標で待機して、いつでも突入できる状態になったのを確認して、ティアがアルビオンに合図を送る。
『いつでもいいわ。アルビオンの好きなタイミングで始めて』
『了解』
アルビオンが凄まじい速度でさらに上空へ移動し、飛行能力を切る。
それにより地上に向けて自由落下が始まる。
落下して下を向いた瞬間、アルビオンが飛行能力を使って超加速した。
一秒未満で音の壁を越え、重力魔法でさらに自身を加速させる。
上空おおよそ五○○メートル地点からの高速落下だ。
そのかなりの運動エネルギーを保持したまま、作戦目標の教会に落下した。
教会の一部が吹き飛び、所々が半壊状態だ。
落下地点の屋根はなくなり、星空が見える。
「何者――!!?」
言い切る前に神官の首が飛ぶ。
『民間人はなるべく殺さないように。顔を見た者だけにしなさい』
『わかってる。……頃合いを見て離脱するから、早めにお願い』
『ええ。こっちは任せて』
ティアとアルビオンの会話を終えると、裏口からの潜入組が動く。
「行くわよ」
「「了解」」
作戦が始まった。
予定通り、ティアたちは教会深部で向かった。
その間、アルビオンが教会のメインホールで好き放題暴れていた。
「ま、魔族だ!!」
聖職者の一人が叫び、戦闘態勢に入る。
それに続き、次々と武装した敵が現れる。
「敵は一人だ!! 囲って確実に仕留めろ!」
指揮官の聖騎士が部下たちに指示を出す。
聖騎士が数人がかりでアルビオンを襲うが、その悉くがアルビオンの剣で両断される。
背後から攻撃してきた敵を、軽くジャンプして回し蹴りで首をどこかへと蹴り飛ばす。
そして間合いが合わなくなって、剣を邪魔に感じたアルビオンが剣を引っ込め、聖騎士を殴り飛ばす。
その威力は、とてつもなく高かった。
殴った箇所が弾け飛ぶほどだ。
倒れた者は足で踏み抜き、距離があるものは魔法で消し炭する。
メインホール内を縦横無尽に動きながら、敵を斬って殴って貫いて、ありとあらゆる手段で蹂躙する。
新米騎士とアルビオンの目が合う。
新米騎士が震えあがり、ゆっくり近づいてくるアルビオンに恐怖して腰を抜かす。
そして恐怖に負けて、失禁する。
股間の辺りに水たまりが広がり、他の匂いも漂い始める。
「漏らすなんて、それでも戦士? 私が戦った人間は、もっと誇り高かったよ」
「やめ――」
命乞いをする暇もなく、新米騎士は恐怖と絶望の表情を浮かべたまま、アルビオンにサイコロステーキほどのサイズに刻まれた。
「頃合いかな」
教会の中にいた敵がほとんど自分の所に集まり、パニックが伝播して教会中が混乱状態になったことを確認してアルビオンが離脱した。
凄まじい速度で飛び去って行くアルビオンを、敵が唖然としながら見送った。
「た、助かったのか」
混乱を聞きつけて現れた指揮官が間抜けな声で言った。
「被害状況を調べろ!!」
その指示により、周辺被害を聖騎士と聖職者たちが調べ始める。
この時、彼らはまだ知らなかった。
もう既に、教会深部にエクリオン・ソサエティが潜り込んでいることに。
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