第16話 エクリオン・ソサエティ結成
ハイエルフの少女は、元の姿に戻り困惑していた。
「!? わ、私の体!!? え、嘘……あれだけ腐り果てていたのに……元に……戻った、の……!?」
その困惑は二度と戻ることがないと思っていたからだ。
自分の姿が人に戻っているのに気がつき、嬉しさのあまり涙を流す。
「な……なんてお礼を言えばいいか分からないわ。この恩は一生をかけて返します!!」
ハイエルフの少女が感極まった声で言った。
(ど、どどどどする妹よ!!)
(こんなに感謝されると、さっき実験台にしてたのが心に!!)
どうやら肉塊の時の記憶がほとんどない様な反応をするハイエルフの少女の礼を聞き、さすがの二人も良心が抉られる。
(こうなったら風呂で話してたあれで乗り切るぞ!)
(わかった!! あれだね。設定もそのまま使おう!)
一瞬、ユリウスとアリサが視線を交差させて結論を出す。
「気にするな。それよりも貴様には二つの選択肢がある」
思わせぶりなユリウスの口調。
そして何より、魔力を開放することで紋章を一時的に変質させ殺気を纏う。
アリサも同様に魔力開放により紋章を発現させる。
雰囲気を出すためだけの行為のため、魔力の消費量は極限まで抑えられていた。
「私たちのことは忘れて、元の生活に戻るという選択肢。そして今の名を捨て、私たちの配下となって共に来るという選択肢」
「さあ、選べ」
「え?」
突然のことにハイエルフの少女が困惑していた。
(でしょうね!! いきなりこんなこと言われても意味不明)
(しかも重要そうな雰囲気出しちゃってるからよけにね)
(具体的な目的くらいは今後の為にも必要か)
(なら、乗っかりやすい設定を――)
アリサが即興で設定を考えようとした時、ハイエルフの少女が恐る恐るといった感じで口を開く。
「あなた達は一体、何者なんですか?」
その言葉に二人は心の中でガッツポーズを取る。
(よしキター!!)
(これならシンプルにいける!!)
ユリウスがゆっくりを話し始める。
「我はかつて殲滅者と呼ばれ、魔王と畏怖された存在だ」
「そして私は、かつて焼却者と呼ばれ、魔女と恐れられた存在」
「その転生体が我らの正体だ」
そして、これならいけると判断したユリウスが、勢いで押し切ろうと更に言葉を紡ぐ。
(これは確定情報じゃないけど……仕方ない)
アリサと一瞬、視線を合わせて互いに頷く。
「貴様が肉塊となっていた理由も語ろう」
ユリウスが一泊おいて口を開く。
「今より更に昔、大昔に貴様ら新人類と我ら旧人類の大規模な戦争があった。そしてその大戦には、神々も参戦していた」
「神の目的は私たち旧人類の絶滅。そのために数多にあった終戦機会を悉く潰していた」
「それにより数百年規模での戦争が続き、神は新人類を作り続けることで絶対的な数の有利を誇っていた」
「そんな中、神々は密かに勇者という存在を作っていたの。他の新人類とは違い、圧倒的なまでの力と神器に等しい聖剣を操る力を持った存在。そして私は勇者に殺された。聖剣は、不死を殺し、蘇生を拒み、そして無限の再生を阻害する力があった」
「勇者は数多の戦いを経て、気づいてしまった。神々が意図的に戦争を終わらないようにしていたことを。そして我は勇者に種を託し、勇者は我に世界を託した。黒幕を倒すと同時に我は深手を負い、転生することを選んだ」
「そして今に至る。……君はかつての新人類の英雄、そう、勇者と呼ばれた存在の末裔なの」
「だが、ここで神すらも予期せぬことが起きた。それは勇者が持つ聖剣を制御する力と自信を永続的に強化し制御する力……勇者の力とでも呼ぼうか。それが子に継承されてしまったことだ」
「力自体は、勇者ほどじゃない。でも、その一部が継承されたことで、新たな理である洗礼時の紋章の付与で不具合が生じたの」
「新たな力と中途半端に残った古の力が混じることで、現代では制御する術がない状態になり……あとはわかるな」
ハイエルフの少女は、絶句して言葉が見つからずにいた。
かろうじで頷くことができるくらいだった。
「祝福が呪いへと変わり、英雄の子孫は迫害の対象なってしまった。それが【神の呪い】いや【人喰み】……君の身体を蝕んでいた病気の事だよ」
「ここからは推測だが、十中八九【人喰み】は昔、称えられていただろうな。何せ世界を救った勇者の子孫なんだから」
「そんな……噓でしょ。だって今は称えられるどころか迫害の対象なのよ!?」
そんなことはあり得ないという表情で、ハイエルフの少女が叫ぶ。
「長い歴史の中で歪んでしまった。何せ、あれから一万年以上の時が流れたのだから」
「普通は、お兄ちゃんが言ったように考えるよね。でも、違う」
アリサが目を細める。
「歴史を歪めたのは、神と呼ばれる存在。継承された勇者の力を鬱陶しく思い、人の思考ごと歴史を消した。その証拠に、かつてあった大戦が伝説にすら残されていない。その痕跡すらね」
「なぜなら、それが神にとって不都合なことだからだ。勇者の力は神に届きうる物であり、再び世界を神の支配下に置くのに邪魔になるからだ。……神も一枚岩じゃない。一部の神が抵抗しただろうが、現状を見るに敗北したのだろう」
ユリウスがかつて旧人類側についた神のことを思い出す。
そしてすぐに思考を切り替え、神の目的以外の用意した偽の設定を話始める。
「悪神どもの駒となり、動いてる連中がいる。そいつらは自らの意思で、悪神に従っている」
「自身の存在を隠す為に、神の単語を出しても怪しまれない組織……つまり、教団を名乗って動いている。当然、教団を名乗っていない者もいる。裏で繋がっているにも関わずね」
「そして、奴らは何も知らない人間を神の贄に、そして人喰みを兵器として使うことで風評被害を増やし、人喰みの力が制御できる事を悟らせないようにしている」
「そして奴らは、ほとんど表に出てこない。指導者の様な絶対的な地位を手に入れたりしない限りはな」
そこで、二人が一泊置いた。
「だから私たちは、力を失ってもなお、神に世界を渡さないよう古き存在として戦い続けている」
「それが我らエクリオン・ソサエティ。神を滅ぼし、失墜させる者」
ユリウスがかっこよく言い放つ。
全力でかっこつけて。
「ふっ、決まった!」
「お兄ちゃん、心の声漏れてるよ」
幸いにもハイエルフの少女には、聞こえていなかった。
(やった!! 一度言ってみたかったセリフも言えたよ!)
(ああ! 満・足!! 一度こういうのやってみたかったんだ!!! く~たまんねー)
二人は心の中で達成感を覚え、もう死んでもいいとすら感じていた。
もはや、嬉しすぎて死にそうまである。
(これからどうするの?)
(ある程度の年齢になるまでは、ごっこ遊びを続けよう。その方がこのハイエルフも心の整理ができるだろ)
(そうだね。それに子供の内にやりたいことリストを埋めないと)
二人は軽く視線を交差させて、アイコンタクトだけで意思疎通をしていた。
そして二人が舞い上がっているところに、ハイエルフの少女が話を始める。
「……敵は神。世界に干渉できるほどの超常的存在で、一部の人間はそれを信仰している。そして裏で動けるということは、権力者も敵になるのね」
言い終えるとハイエルフの少女は目を瞑る。
今までの過去を思い出す。
良い事も悪い事も。
だが、そこに思い残すものはなかった。
王族という立場上、実の親ですら自分の娘が人喰みだと知った瞬間、殺そうとしたからだ。
そこに躊躇いはあった。
だからこそ、最終的には殺されないよう逃がしたが、王族という地位と共に全てを失った。
そして覚悟を決めて、ハイエルフの少女が言い放つ。
「私の様に何も知らないまま殺される人もいる……そんなのは許されることじゃない!! だから私は、エクリオン・ソサエティに命を懸けるわ。人に祝福を!! 神に断罪を――……!!」
その瞳には、決意と世界を守るという確固たる意志、無念に散った同胞を弔う優しさ、そして神への復讐心があった。
「いいだろう。今日から貴様の名は、ティア・プレアデス」
「名前の由来は、星雲と呼ばれる存在。その中でも星団と呼ばれる無数の惑星で構成されたものそれから付けさせてもらったよ」
「これまでの貴様は死んだが、今日から再び光輝くだろう。新たな人生を歩むがいい」
「組織として動かないときはこれまで通りの名前を使ってね。ようは使い分けをうまくしてってこと」
ティアは二人から与えられた名前をあっさりと受け入れた。
「あなた達の名前は?」
「そうだった。自己紹介が遅れたな。我の名はアルス=マグナ。そして俺の真名はユリウス・アルバートだ」
「私はカース=マグナ。そして真名はアリサ・アルバートだよ」
二人は前世の名前で答えた。
「好きな方で呼んでくれ」
ユリウスが魔王としての演技をやめる。
雰囲気が一変したことにティアもすぐに気がつく。
だが、これに何かを言う気は無いようだ。
「じゃあ、私とお兄ちゃんどっちかの力を少しだけあげるね。好きな方を選んで。ちなみに私は火属性に特化してるからね」
「俺は魔法の威力や破壊力と言った物に特化している。さあ、選べ。俺らの力でお前の内なる力を上書きして、再び貴様が力に喰われないようにする」
「でも、代償として――」
一瞬ティアは悩む仕草をしたが、答えはもう決まっていた。
そしてアリサの言葉を遮る様に言った。
「二人の力が欲しい!! もう何も失いたくないの! この力で少しでも苦しむ子を救いたい! だから、お願いします」
「いいだろう。だが、いいのか? 代償を聞かなくても」
「私はこの命の全てを捧げると言ったはずよ」
「わかった。その覚悟しかと見届けた」
ユリウスとアリサが胸元に手をかざす。
ユリウスの象徴たるドラゴンの紋章とアリサの象徴たる炎の紋章が混ざり、新たな眷属印が刻印された。
その紋章からは、膨大な力を感じ取れる。
しかし、肉体に適応した瞬間、力は感じ取れなくなった。
「刻印は終わったぞ。これで晴れてティアも不老不死の仲間入りだ」
「……不老……不死……」
ぽつりとティアの口から言葉が漏れる。
その声からは、実感がこもっていないように聞こえる。
「でも、安心して。一定の年齢までは成長するから」
アリサが優しい口調で言った。
「これが代償?」
「ああ。大きな力と引き換えに、お前は死ぬことが許されなくなった。とはいえ、まだお前の不死性は低いから外的要因で死ぬが常人よりは頑丈になってるはずだ。ま、過信はするなよ」
「……でも、不老不死が代償なんてそんな……。あっ! 苦しい事があっても死ねないのね」
ティアが何かを察したように、小さな声で言った。
ユリウス達には、聞こえていない。
「じゃあ、行こうか。私たちの拠点に」
「ええ!」
ティアが決意に満ちた顔で立ち上がり、アリサ達の後をついて行くのだった。
(無駄に魔力使ったせいで転移魔法が……)
ユリウスはそのことは黙っていようと決める。
そしてティアに防御魔法をかけて森を歩き、拠点に向かう。
拠点に着くまでの道中で魔物と遭遇することはなかった。
「到着だ。ここが俺たちの拠点だ」
「自分の家だと思って使ってね」
「ええ。わかったわ」
ユリウスが扉を開けて中に入る。
それに続くようにして二人が中に入った。
「す、凄い!!? 夜なのにこんなにも明るいなんて! 私の住んでいた所でも、魔道具は使っていたけど、ここまでは明るくなかったわ」
「これくらいで驚いてたら、この先やっていけないぞ」
ユリウスが小さく笑った。
ティアが彼らの拠点の設備を見て、感動していた。
そしてアリサからタオルと着替えを借り、ティアは久しぶりの風呂に入るのだった。
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