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第14話 ユリウスとアリサのいない日

第14話 ユリウスとアリサのいない日


 ユリウスとアリサが姿を消して二日が経った。

 収穫祭は中止となり、領民が自主的に捜索活動を行うような事態になっていた。

 未だ遺体は見つかっていない。

 二人の埋葬もまだ行われていない。

 せめて遺体を見つけたらにしたいと、領民と領主の意見が一致したからだ。

 ユリウスとアリサだった物は防腐処理をして、大切に保管されていた。

 そしてイリヤは、この二日ほとんどを部屋に閉じこもっていた。


「……おにいちゃん……おねえちゃん……」


 ぬいぐるみを抱きながら、ベッドの上でうずくまっている。

 シスとクレア達は、事の収拾に追われ、てんやわんやの日々が続いていた。


「シス、イリヤが今どうしているかわかる?」

「相変わらず部屋に篭ってる。何かやる事を振った方が、気を紛らわせられんじゃないか?」

「……そうね」


 シスの提案に、クレアが納得の色を見せて考え込む。

 少しして答えが出たのか、小さく頷くクレア。


「じゃあ、二人の遺品の整理を頼むのはどうかしら? イリヤに残せる物もあると思うの」

「いいと思うよ、母上」

「じゃあ、イリヤの付き添いもお願いできるかしら?」

「任せてくれ」


 シスがその場での仕事を終えると、イリヤの元へ向かった。


 イリヤが一人でベッドの上でうずくまっていると、不意に部屋の扉がノックされた。


「……開いてるなの」


 元気のない返事をした。

 すると、ゆっくりと扉が開いてシスが入ってくる。


「よっ! 今、大丈夫か?」

「うん」


 イリヤがぬいぐるみを抱きながら、ベッドの縁に移動して座る。

 シスも適当な椅子に腰掛ける。


「頼みたい事があるんだが、いいか?」

「なーに?」

「アイツらの遺品の整理をして欲しいんだ。オレも手伝うからさ。少しは気を紛らわせると思ってな」

「…………」


 しばらくの沈黙のあと、イリヤが首を縦に振る。


「……わかったなの。まずは、おにいちゃんのやつからやりたいの」

「了解だ」


 イリヤが枕元にぬいぐるみを置き、シスと共に部屋を出る。

 ユリウスの部屋に向かいながら、少し話す二人。


「おにいちゃんは、悲しくないの?」

「いや、お前と同じでオレもアイツらが居なくなってすげー悲しいぞ。だけどな、領主……しかもその長男だから、今回の騒動についてやらないと行けないことが山ほどある。だから、感傷に浸れないんだ。オレだって、ずっとアイツらの事を考えていたいのにな」


 シスの切なそうな顔を見て、イリヤが自分と同じなんだとそこで初めて理解した。


「……おにいちゃんも私と同じだったんだね」

「誰でも大切な物を失えば悲しいんだぞ。立場のせいでそれを表に出来ないだけなんだ」

「私もしっかりしないと……」


 そんな話をしていると、ユリウスの部屋に到着し、中に入った。

 いつもと変わらない光景に、かつての光景を重ねてイリヤの目尻に涙が溜まる。

 もしかしたら、いつもの様に二人が優しく迎えてくれる。

 そんな思いを抱いてしまうのは、仕方がないのだろう。

 今にも泣き出しそうなイリヤを、シスがそっと撫でる。


「や、やる、なの」


 イリヤの声に嗚咽が混じる。


「そうだな」


 整理を始めると、色々な物が出てくる。

 何故か大量にあるポーション。

 ユリウスが加工に失敗した謎の物体を見た時は、シスとイリヤの二人で面白可笑しく笑った。

 そしてちょっとエッチな本は、シスがこっそりとイリヤに見つからないように、くすねたりしていた。

 変な物とかが出てくるせいでついぞ話題には事欠かない。

 

「おにいちゃん、これ」


 イリヤが手に持ってシスに見せたのは、よくユリウスが愛用していた黒のチョーカーだった。

 しかも、中々にえげつない付与がされた代物だが、イリヤ達は知る由もない。


「イリヤ、貰っておけ。ユリウスの形見だ」

「でも――」


 シスがイリヤの言葉を遮る様に言う。


「オレよりも、イリヤが持ってる方がアイツも喜ぶだろ」

「……わかったなの」


 早速、慣れない手つきでチョーカーを付ける。


「どうだ?」

「う〜ん……あまり着けたことないから、ちょっと違和感があるなの」

「ははは。最初はそんなもんだ」


 そして遺品の整理を再開した。

 それからそこそこの時間が経ち、ユリウスの遺品整理がひと段落しそうになった所で、ユリウスとアリサの二人が、イリヤに宛に残した物が机の中から出てきた。


「これは?」


 イリヤが不思議そうな声を出す。


「手紙みたいだな。お前に宛てた物みたいだし、見てみたらどうだ?」

「そうだね」


 二人で手紙を覗き込む。

 そこにはユリウスとアリサの二人分の物が入っていた。


 ――これを読んでるって事は、俺たちはもう家にはいないってことだな。イリヤ、お前の誕生日を一緒に祝えなくてごめんな。俺たちにも、事情が出来てな。俺とアリサはしばらく旅に出るつもりだ。だいたい一年から二年くらいしたら戻ってくるから安心してくれ。次に会う時には、どれだけ強くなってるか楽しみだぜ。兄さんと母さんたち、そしてギルによろしく言っといてくれ。というわけで、じゃあなイリヤ。そうそう忘れるところだった。お前へのプレゼントはアリサ所にあるぜ。ちょいと早い誕生日プレゼントだ。

  ユリウスより


 そして二枚目にはアリサが書いた物だった。


 ――私が書くことはあまりないかな。お兄ちゃんがだいたい書いてくれたから。旅から帰ったら、イリヤが強くなってることを楽しみにしてるよ。その為の物を残したから。じゃあね。また近いうちに会おうね。

  アリサより

 追記 私たちより強くなってたら、イリヤが欲しいものを用意してあげるね♪ だから、努力し続けるんだよ。イリヤがどんな戦い方をするのか今から楽しみにしとくから。今度こそ、バイバイ。


 二人の手紙を読んで、イリヤが涙を流す。


「もう、会えないじゃん……バカ!」

「なんて言うか手紙っぽくないな。ま、アイツららしいけど」


 旅に出ることについて二人とも驚いていた。

 だけど、二人らしい置き手紙にシスはどこか清々しく感じ、イリヤも決意を決めることができた。


「おにいちゃん、おねえちゃん、私強くなるよ。二人が誇れるくらい」

「オレも応援してるぞ」

「ありがとう。おにいちゃん」


 イリヤが少し吹っ切れたような顔をしているのを見て、シスが安堵の息吐く。


「イリヤ、プレゼントを探しに行くか!」

「うん!!」


 二人は、ユリウスの部屋を後にして、イリヤの部屋に戻る。

 イリヤとアリサは同じ部屋を二人で使っていたからだ。

 そして二人で、アリサのエリアを探索する。

 もちろん、遺品の整理をしながら。

 整理中に見つかったアリサの愛用している剣をイリヤが貰う。

 大事そうに持って、部屋に剣を鞘ごと飾る。


「これでよし! なの」

「こっちも片付いたぞ。多分、この箱がイリヤへのプレゼントだな」


 シスが特殊な箱を持ってイリヤに渡す。

 開け方が分からず二人で困惑していると、イリヤが鍵の場所を触った瞬間に、鍵が開く音がした。


「どういう仕組みなの?」

「多分だけど、イリヤの魔力に反応したんじゃないか」


 シスが憶測を話す。


「なるほどなの。……開けるの」

「ああ」


 二人が固唾を飲んで箱の中を見る。

 そこには、四冊の分厚い本が入っていた。

 明らかに箱より大きい。

 それを見て箱が魔道具である事を悟る二人。


「なんだろ? この本……」


 イリヤが本を四冊取り出した。

 そして箱の奥に小さな手紙がある事に、シスが気づく。


「これ見て」

「もしかして! なの」


 本についての説明が書いてあると二人が予想した。

 そしてそこには、二人の予想通りの物が書かれていた。


 ――無事見つけられたみたいだな。この本は俺たちの魔法研究の成果を一部書いてある。


 ここで文字がアリサのものに変わる。


 ――全部を記してないのは、研究者としての矜持かな。でも、確実に強くなれるから頑張ってね。


 短くそれだけが残されていた。

 それを見て本を開くと、魔法についての様々な事が書かれていた。

 それを見た二人は目を丸くした。

 なぜなら、そこにはこの時代では失われたはずの技法などが書かれていたからだ。


「イリヤと同じくらいの歳でこれだけの研究を……」

「さすが……おにいちゃんとおねえちゃんなの」


 イリヤが感嘆の声を漏らす。

 そして自慢の兄と姉がいた事に誇らしげな気分になる。


「私も頑張らないと!!」


 イリヤが気合いを入れる。


(この調子なら大丈夫そうだな)


 そして遺品の整理を終えると、早速魔法や剣についての事を学び始めるイリヤ。

 四冊の本は魔法が二冊、剣技が二冊と半々に別れていた。

 それを見て、ユリウスとアリサが使っていた剣技と魔法を学び始めた。

 その日を境にイリヤは、毎日のように庭で剣を振り、剣技の稽古に打ち込む。


「はぁぁあああ!! ……ふう、こんな感じかな」

「せいが出てるね」

「うん! おにいちゃん達に追いつきたいからなの」


 暇が出来たギルがイリヤの元を訪れる。


「あれくらいじゃあ、ユウ達は死なないと僕は思ってるけどね」

「そうだね。あのおにいちゃん達だもん」


 イリヤとギルが懐かしそうに語る。


「一戦お願いなの」

「いいよ」


 二人は、剣を構えていつも通りの模擬戦を始める。

 こうしてユリウスとアリサ無き日々が始めるのだった。

いつも読んで下さり有難うございます。

『面白い』や『よかった』と思っていただけたら評価やブックマーク、感想等をしていただけると嬉しいです。


これからもよろしくお願いします。


更新は毎週木曜日もしくは土曜日の予定です。

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