第13話 収穫祭の事件
収穫祭が始まった。
朝から大勢の人で盛り上がり、その盛況はユリウス達の屋敷にまで届いていた。
「祭りだー!!」
「おおーー!!」
ユリウスとアリサが朝からテンションが上がっていた。
「もー! おにいちゃん達、もう少し落ち着いて」
イリヤがそんな二人を抑えようと頑張っていた。
「元気でいいじゃないか」
「シスお兄ちゃんがそれだから、おねえちゃん達が盛り上がるなの」
「まあいいじゃないか。祭りは盛り上がってこそだろ」
「確かにそうだけど〜」
異様にテンションが高い二人がいるせいか、一周回って自分が冷静になってしまったイリヤ。
シスが、可愛い妹の頭をそっと撫でる。
「じゃあ三人とも、そろそろ行くか? 流石にお腹も減ってきたし」
「待ってたぜ! この時をよ!!」
「楽しそうで何よりだよ」
四人で仲良く街へ向かう。
そんな四人をクレアが執務室の窓から見守っていた。
「あの子達も随分楽しそうね」
「ユリウスとアリサに限っては、はしゃぎすぎでイリヤがはしゃげてないように見えるがな」
「いいじゃない。あれから色々あったけど、兄弟揃ってお祭りを楽しめるんだから」
「そうだな。でも、やっぱユリウスは兄として少し自重を覚えた方がいいな」
「あはは」
クレアと使用人のサラが楽しげに話をしていた。
街に出るとユリウス達は匂いに負けて、真っ先に串焼きを買って食べ歩きをしていた。
しばらく屋台を回っているとギルとその兄妹と鉢合わせた。
「よっ、ギル」
「早速楽しんでるみたいだね」
ユリウスの串焼きに視線を向ける。
「まあな。やっぱ祭りはこうじゃないと。そういうギルは、兄妹でか?」
「そんな所かな。おねえちゃんが一番騒がしかった」
「ははは。お前の姉貴、中身が俺らより子供だもんな」
ユリウスが苦笑いをする。
ギルも困ったと言いたげな表情をしていたが、どこか嬉しそうでもあった。
「私たちは、そろそろ行くね」
「バイバイなの」
「アリサ達も楽しんでね」
そうして一行は、ギルと別れて再び屋台を回り始める。
少しすると顔見知りが屋台をやっているのに気づく。
「大将、屋台出したんだな」
「おうよ。四人とも食ってくだろ。少しまけとくぜ」
「じゃあ、お言葉に甘て〜」
ユリウスとアリサが人数分の焼き鳥を頼んだ。
そして串を受け取り、分配した。
「またこいよー」
大将の屋台を後にし、一行は祭りを楽しむため色々な店を回る。
「次は向こうに行きたいなの」
「そんなに慌てると転ぶぞ」
シスがはしゃぐイリヤをなだめる。
一行が楽しそうにしている時、ユリウスとアリサが魔力を感知した。
(この気配……魔法を使う気か。そこそこ距離があるな)
(魔力量的に攻撃魔法ではなさそう)
二人は警戒レベルを上げ、とりあえず様子を見る。
しばらくすると魔法の気配が消え、二人が警戒を解く。
今はとりあえず祭りを楽しもうと気持ちを切り替える。
「さーて、輪投げやるぞ!」
「おー」
四人で騒ぎながら、輪投げなどを楽しむ。
そして次のお店へ行こうと移動している時に、事が起こった。
空に浮かんでいる黒装束の魔導士が魔法を展開した。
魔法の発動に気づき、ユリウスとアリサが咄嗟に反応し対応しようとした。
だが、一瞬遅れた。
それは二人が想定していたのとは、違ったからだ。
「まさか!?」
「この時代に!?」
二人は、転移魔法の想定をしていなかった。
この時代に転生してからそれらしいものを見なかったからだ。
あったとしても国宝レベルの魔道具という認識だった。
(クソ!! アンチ魔法が間に合わねー!!)
(全盛期ならこんなことなかったのに!)
後悔よりも先に体が動く二人。
アリサがイリヤを突き飛ばし、ユリウスが兄シスを突き飛ばした。
「おねえちゃん!? いきなり何するの?」
「ユリウス!?」
イリヤとシスが困惑が混じった声を漏らす。
そこには二人が悪ふざけしているのだろうと言うような雰囲気があった。
だが、イリヤとシスが振り返った瞬間。
ユリウスとアリサの足元が光り、魔法陣が展開されていた。
「イリヤ、強くなれよ」
「当面のお別れかも――」
まるで遺言の様に言った。
アリサに限っては最後まで言い切る事が出来なかった。
二人の視界が真っ白に染まる。
そして二人がイリヤとシスの前から消えた。
先程までユリウスがいた位置には、顔の目から上の左半分が転がり、心臓、肺及び肝臓らしき物がどしゃり、という音と共に地面に落ちる。
アリサがいた場所には、同様に脳の一部と左腕、心臓と一部臓器が転がる。
それを見たイリヤとシスの二人の顔が真っ青になる。
「い、いやぁぁぁぁぁぁあああ!!!!」
イリヤの絶叫が辺りに響く。
「おにいちゃん!! おねえちゃん!!!」
イリヤの目から溢れんばかりの涙が流れ、呂律が回らなくなる程泣いていた。
まるで赤子のように嗚咽を混ぜながら。
シスも叫びそうになったが、イリヤを見て少しでも冷静を保とうと見繕う。
そして咄嗟にイリヤを胸に抱き寄せた。
ユリウスとアリサだった物を見せないように。
二人は悟っていた。
ユリウスとアリサが死んだと。
周囲が慌ただしくなり、駐屯兵や自警団が駆けつけ、お祭りをやっている暇などなくなってしまった。
クレアも事の収拾に動くことになり、二人の死を実感できたのはそれから少し経ってからだった。
ユリウスとアリサは、転移後に視界が開ける前に互いに背中合わせになって武器を構える。
転移直後の隙を無くすために。
「敵は……いないな」
「そうだね。……ここどこ?」
「見た感じ、牢屋だな」
視界が開けるとそこは石造りの牢屋だった。
所々、苔が生えており、壁に亀裂が走っている。
かなり古い施設のようだ。
「にしても、やけに視界が狭いな」
「私もなんか体が軽い気がする……」
アリサがユリウスの方を振り返り、一瞬言葉に詰まった。
「……お、お兄ちゃん、顔どこに置いてきたの?」
「顔?」
言われて気づき、ユリウスは確かめるように顔の左側を手で触る。
ヌメリとした血の触感と脳の感触が手に伝わる。
「まじか。顔がなくなっ――ゲホッゲホ! ゲホゲホ」
ユリウスが口に手を当てると血を大量に吐き出した。
びしゃびしゃと音を立てて、床に血が広がる。
少ししてアリサも同様に大量の血を吐き出した。
「アリサ……お前、左腕付け忘れてるぞ」
「ほんとだ。どこで落としたんだろ」
アリサが咄嗟に回復魔法を使う。
「――フレアヒール」
癒しの炎がアリサを包む。
そしてユリウスは、闇が欠損部分から溢れ出して修復が始める。
「転移の失敗みたいだね」
「典型的なやつだなこれは……。それよりも不味くないか?」
「??」
アリサが不思議そうに首を傾げた。
「考えても見ろ。俺たちの重要器官の内蔵やらが転移してないってことは、だ」
「あ! 私たち死んだことになってる!?」
「そう! それだ!」
アリサもやっとわかったようだ。
二人にとっては、肉体の欠損は死にはしないが、普通の一般人なら死んだと判断する。
つまり――。
「お葬式されちゃうね」
アリサが笑いながら言った。
「生きてるの知ったら驚くぞ〜」
ユリウスも愉快そうに笑っている。
「さて、脱出するか」
「だね〜。ここがどこかも分からないし」
ユリウスが剣を握り、錆びた鉄格子を斬り捨てた。
「お兄ちゃん、室内で魔法と剣使わないでね」
「わかってる」
腰に装備している魔導銃を抜く。
ユリウスは、大雑把な性格のため室内でもお構い無しに大火力の魔法などを使う。
だから、アリサが釘を刺す。
「近くに生体反応があるね」
「二つ隣だな」
二人が少し警戒しながら、壊した鉄格子から出て反応があった場所に向かう。
そこにあった物を見て、二人は言葉を失った。
「な、なんだこれ」
「……本当に生物なの?!」
二人の前には、肉塊の化け物がいた。
肉塊の一部から肋骨や背骨らしきものが顔を覗かしていた。
しかも、場所が不規則だ。
口は縦に裂けるようにしてあり、目はその上に一つある。
もう一つの目は、正面からはわからない。
腕や脚は原形すらなく、痕跡もないほどだ。
大量の魔力を垂れ流すだけに成り果てていた。
醜い肉塊が死を求めるように二人の方を見る。
「お兄ちゃん」
「わかってる。調査は後回しにして脱出を優先しよう」
いい研究材料を見つけたられた、と思いながら二人は通路を走り、上に向かう階段を登る。
そして通路入口に立つ門番の二人を背後からナイフで刺し殺す。
音が立たないように、死体を置く。
ユリウスがガンホルダーに魔導銃を差し込み、ブーストバレルを装着した。
ガンホルダーには、追加バレルアタッチメントを自動で着脱出来る機能を付けている。
そしてガンホルダーから抜き、ブーストバレルを威力増幅機能から消音機能に切り替える。
アリサと手信号でコミュニケーションを行い、敵の位置などを共有し合う。
魔法による索敵で位置は分かっているが、どうしても障害物などの情報が抜けてしまうからだ。
障害物も込みで索敵できる魔法を使えるが、魔力が足りないという理由もある。
距離がある敵は、ユリウスが銃撃で処理して進んでいく。
「もうそろそろか」
「だね。もうすぐで出れそう」
二人とも魔法は使わずなるべく隠密行動を心がける。
しばらく進んでいると出入口に到着した。
出入口付近には敵がいなくて、拍子抜けをくらった二人であった。
外に出るとそこは森だった。
「どこだよここ」
「うーん……森林地帯みたいだけど、流石に情報が足りない」
とりあえず謎の施設から離れ、木々を調べながら歩みを進める。
「お兄ちゃん、Sデバイスを使えば私たちの時代のマップと照合できるんじゃない?」
「確かに。やる価値はありそうだな」
ユリウスが空間収納からスマホくらいの大きさの軍用端末を取り出す。
端末に魔力を流して起動し、マップ機能を立ち上げる。
「イーリアス森林地帯だと!?」
「え!? ……結構やばいところに飛ばされたね」
「まあ、強い奴と戦えるからいっか」
「それに昔の拠点が残ってれば使えそうだしね」
二人はマップを頼りに、昔に探索拠点としていた場所を目指す。
その道中、大型な蜘蛛の魔物と接敵した。
ユリウスが魔導銃のブーストバレルを威力増加機能に切り替える。
そして数発撃ち込んだ。
「チッ! 硬すぎだろ!!」
魔導銃を盛大にぶっぱなすが、悉く弾かれる。
剣で斬りかかっても、硬すぎる外皮に弾かれ、刃が欠ける。
弾を物理弾から魔力系の弾に入れ替えたが、それでも効果がない。
「きっつ!」
「剣が先に折れちゃう!」
互いに目配せした。
「魔法を解禁しよう」
「これだけ離れてれば大丈夫だよね。多分……」
魔力隠蔽を解除して、思う存分に魔力を解放する。
「――ゼノ・ブレイズ!」
ユリウスが極大の漆黒の太陽を放つ。
大型の蜘蛛の魔物に直撃する。
そのとてつもない威力により、外皮の一部が吹き飛び、魔物が苦痛の声を上げながら突っ込んでくる。
それを横飛びで回避する。
「あれ食らったらやばそうだな」
ユリウスが楽しそうに笑う。
久しぶりに味わうピンチが楽しいようだ。
「――ヘル・ブレイズ!!」
アリサがゼノ・ブレイズを改良した自分専用の魔法を使う。
とてつもない熱量を誇る極大の太陽を放つ。
太陽はただそこにあるだけで周囲を焼き払い、地面が溶け始めている。
それを直撃した蜘蛛の魔物は、外皮を溶かされていく。
だが、それでも致命傷にはならない。
「なかなかタフだね」
「こんなのが都市に向かったら、この時代の魔法だと対処できなさそうだな」
雑談する余裕がある二人。
高位の魔法を二人で撃つがそれでも耐える魔物。
そしてユリウスが蜘蛛の魔物に、前脚で腹部を貫かれる。
「グハッ!」
ユリウスが吐血した。
そして魔物が刺さったユリウスをまるでゴミを投げるように投げ飛ばす。
投げ飛ばされたユリウスが木々を折りながら、数メートルの位置に落ちた。
「ガハッ! ……ちッ! いいものもらっちまった」
口の中の血を吐き出し、血を拭う。
傷は闇によって修復される。
「油断禁物だよ、お兄ちゃん」
「へいへい」
体勢を立て直し、武器を構え直す。
「一気に削る。後は任せた」
「おけ」
ユリウスが魔法陣を展開する。
「これ使うのも久しぶりだな。――セブ・リテイシス」
戦術級魔法と呼ばれる第九位階に属する魔法を使う。
魔法陣が輝き、眩い爆発の光が周囲を呑み込む。
「あ、やばい……これ、死ぬやつ」
「お兄ちゃんのバカー!!」
敵に背を向け、二人は息の合った動きで勢いよく逃げる。
全力で。
当然のように敵が追いかけようとするが、ちゃっかりアリサが拘束魔法を使って動きを封じていた。
「ちょっと待って死んじゃう!!」
眼前まで迫る閃光に、焦りを感じるアリサ。
二人は、魔法の範囲外に飛び込むようにダイブして逃げた。
「ギリギリセーフだな」
ユリウスがへばりながら言う。
「こういう時はお約束をやるべきだな」
「だね」
一泊置いて、息を揃える。
「「やったか!!?」」
お約束通り、蜘蛛の魔物はまだ生きていた。
だが、流石に無傷ではない。
硬い外皮が抉れ、脚が取れている。
魔物も満身創痍だった。
「俺はもうガス欠だ」
「あとは任せて!!」
アリサが単騎で突っ込む。
「――アブソリュート・エンチャント! ヘル・ブレイズ!!」
強制付与の魔法で攻撃魔法を無理矢理、剣に付与する。
剣の耐久力がすごい早さで減っていく。
とてつもない熱量に耐えられず、ボタボタと溶け始める。
「一撃で決める!」
魔物の魔法攻撃と物理攻撃を紙一重で避けて、じわじわと距離を詰めていく。
「ここまで来れば!!」
敵の前脚の踏みつけを剣で受け流す。
その時、剣先が欠ける。
そして攻撃をやり過ごすと同時に、剣技の構えをとる。
「はあぁぁぁあああ!!! 薙ぎ払う!」
――秘剣・昇飛竜
獄炎を纏った一撃で、蜘蛛の魔物を両断した。
しかし、悪足掻きをくらい胸に風穴が開く。
「ッ!!」
即座に魔力解放を行い、紋章の力で回復する。
傷口から炎が燃え上がり、アリサを癒していく。
「いっちょあがり!」
アリサが一息つき、溶けた剣を捨てる。
「やっぱ鉄製の剣じゃダメだったか〜」
刀身がなくなった剣を見ながら言う。
「おつかれ〜」
ユリウスが気楽に手を振りながら、アリサの元に向かう。
「完璧!!」
アリサが親指を立てる。
「さて、目的地に向かいますか」
「だねだね」
そうして二人は、魔法で出来た荒野を後にする。
しばらく歩き、目的地に到着した。
「何も無いね〜。ちゃんと隠蔽出来てるみたいで良かった良かった」
「さて、掘り起こすか」
ユリウスがアリサに視線を移す。
それだけでアリサは、ユリウスの言いたいことを理解した。
「魔力供給だね!」
「頼む」
二人が口づけをして、魔力供給を行う。
離れようとするユリウスをアリサが、強引に引き止める。
「プハッ! これだけ送れば十分だね」
「体が焼ける……」
アリサは火属性に変質した魔力を宿し、それをユリウスに流し込んだ結果、体の内側から炎に焼かれることになる。
「さて、いっちょやりますか。――ディアイ・トーロル」
地形操作の魔法を使う。
一万年以上経っているため、周辺の景色にかつての面影が無いが、地中に拠点を隠しているため、地殻変動がない限り問題ない。
そして地中からそこそこの大きさの建物が現れるのだった。
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