第12話 収穫祭の前日
その後、アリサとユリウスが先に来ていたイリヤ達に迎えられた。
「二人とも、どうだった?」
「この通りだ」
ユリウス達が、二人に右手の甲を見せた。
何も刻まれていないことに、二人は別の反応をした。
ギルは予想通りと言った感じの反応をみせ、アリサは目を丸くする程、驚いていた。
「予想通りだったよ〜。スキルが無いからもしかしたらとは、知った時から思ってたし」
アリサは呑気に気の抜けた声でいった。
「僕も予想はしてたけど、実際見ると意外って言葉しか出てこないよ」
「そ、そんな……」
イリヤが切なそうな表情を浮かべる。
「気にすることはない。なかったものが増えただけだ」
「そうそう、無い物ねだりしても仕方ないよ。それに、今までと変わらないから気にするだけ無駄だよ〜」
二人の言葉からは、未練など全く無いのがわかる。
それだけに、イリヤが言葉を失ってしまう。
当の本人達が、気にしていないのに「自分が何かを言う資格があるのか」と思って……。
「……ま、そんな感じだから、そんな顔するな」
ユリウスがイリヤの頭を撫でる。
イリヤは、俯いて悔しそうに唇を噛む。
「……うん……」
重い空気を変えるべく、ギルが手を叩き、乾いた音が森に響く。
「じゃあ、切り替えて稽古しようか。もうすぐ収穫祭だから、準備が忙しくなると思うよ」
「そうだね。去年の感じからして、たぶん明日くらいからやる余裕が無くなりそうだしね」
アリサがギルの提案に乗った。
「そんじゃあ、基礎からやっていくか」
ユリウスの声に従うように、一行は素振りや基礎体力作りを始める。
一通り終わらせると、一行は模擬戦形式で稽古を行う。
現在は、イリヤとユリウスのペアと、ギルとアリサのペアで行っていた。
「イリヤ、踏み込みが浅いぞ! それだと力が込めきれない!」
「はい!! はぁぁぁぁあああ!!」
二撃、三撃とイリヤが斬り込むが、ユリウスに悉く受け流される。
何回もいなされながら、渾身の一撃を狙う。
そしてユリウスが一歩引いた瞬間を狙い、フェイントを掛けて渾身の一撃を放つ。
だが……。
「視線でバレバレだ! フェイント掛けるなら視線の位置を気をつけろ!!」
「ひゃん!」
ユリウスが剣を弾き、優しく木剣でイリヤの頭を叩く。
イリヤがアリサたちの方に視線を向け、終わってないを確認する。
「もう一回なの!!」
「いつでもかかってこい!」
ユリウスに注意されたことを意識し、イリヤが立ち回りを変える。
少しでも、ユリウスとアリサに近づきたい一心で。
「いい踏み込みだ」
さっきよりも深く踏み込むイリヤ。
だが、その分大振りの剣技になってしまう。
「大振りは隙がデカい。タイミングを見計らえ」
「!! わかったの」
大振りにならないよう間合いを管理しながら、得意な連撃で攻める。
「これはどう受ける?」
ユリウスは、イリヤが大振りをした瞬間を狙って横薙ぎに剣を振る。
「!?」
(間に合わない!!)
イリヤが剣を逆手に持ち替え、無理矢理ユリウスの一撃を受けきった。
安堵の息を吐く。
その瞬間、ユリウスの二撃目が来る。
そして迎撃が追いつかず、首元に木剣を突きつけられた。
「戦闘中に安心するなとは言わないが、気を抜くな」
「はいなの。……おにいちゃんの言う通り油断してたの」
緊張の糸が解け、イリヤが深く息を吐く。
ユリウス達の模擬戦が終わって少しすると、アリサ達が合流した。
「ユウ達も終わったみたいだね」
「ああ、ちょうど今終わったところだ」
ギルが水を飲む。
「どうしたの? おねえちゃん」
「油断してたら、ギルに一本取られるところだったよ〜。危なかった」
「ギル兄すごいなの」
「ははは、もう少し油断してくれてればなー」
ギルが参ったという様な表情をしながら笑った。
そして一行は、二周ほど模擬戦を繰り返すと、残った時間を魔法に回すことにした。
ギルは魔力球の中に魔法陣を複数展開する練習を黙々と行い、コツを掴めそうで掴めなくて唸っていた。
一方、イリヤはユリウスとアリサの指導の元、魔力制御と魔法展開の練習を行っている。
二人とも感覚派のせいで、イリヤの目が棒になっている。
それを見たギルが、呆れと苦笑いが混ざった様な表情する。
「そこで魔力を抑え込め」
「こ、こう? なの」
「そうそういい感じだよ〜」
「魔力を使う瞬間に、ガッ!! って感じに一気に開放してみろ」
「――ファイアボール!!」
イリヤが魔法を使う瞬間に、圧縮した魔力を開放した。
すると、普段よりも高火力の魔法に仕上がっていた。
初めてできた達成感と感動に興奮が止まらないイリヤ。
そして褒めて欲しそうに、キラキラした目で、二人を見る。
「成功だ!」
「流石、私達の妹だよ!」
ユリウスとアリサが、イリヤを撫でる。
ちなみにギルはと言うと、結構う前に成功させている。
今日遅れてイリヤが達成したのだ。
「その感覚を忘れる前に、やりまくれ」
「無意識に出来るようになるのが、次の目標だよ」
イリヤが再び魔法をれんぱつして、体に叩き込んでいた。
「それにしてもよくそんな方法を見つけたよね。魔力を圧縮して、使うときに開放することで、最小の魔力で真価を発揮するなんてさ」
「まあ、長い期間研究をしてれば嫌でも見つける」
「ははは、そういうことにしといてあげる。どうせ真剣に答える気はないんでしょ?」
「あったり〜。いくらギル達でも私達の研究成果は、おいそれと渡せない。いち魔導士と研究者としてね」
それでも、その一部を教えてくれていることに、ギルは口にこそ出さないが感謝していた。
それから四人は、互いに教え合いながら魔法を使いまくっていた。
そして日が暮れると、四人は帰路に着き、屋敷前で解散した。
三人は風呂と夕食を済ませると、イリヤ兼アリサの自室にいた。
ユリウスとアリサが勉強と魔法を教えていた。
二時間後、イリヤが寝てしまうと、ユリウスがベッドまで運び、アリサが布団をかけた。
それ以降の日は、収穫祭の準備で忙しかった。
朝から夜までお祭りの準備をする。
なにせ、ユリウス達がいる領地、クレイドルを上げての祭りだ。
各方面から英雄である、ユリウス達の両親に合うためにたくさんの貴族が来訪し、平民も英雄を一目見るために各地から集めるくらいの祭りだ。
しかも、クレイドル領の中でも一番大きい祭りなのだから。
領民全員が書き入れ時と言っても過言ではないため、全員やる気満々だ。
そのせいでユリウス達までもが、準備に駆り出されていた。
「母さん、資材持ってきたよ」
「ありがとう。それを向こうのカフカさんの所まで、運んでもらえる?」
「了解!!」
指示通り、ユリウスが資材を運ぶ。
「あんがとな、ユリ坊」
「おうとも」
資材を運び終えたユリウスは、広場中央へ足を運ぶ。
すると、友人や他の人がユリウスに指示を貰いに来た。
ユリウスは、全員に的確な指示を出し、祭りの準備を進める。
違う所で、アリサもユリウスと同じことをしていた。
そんな二人を見て、イリヤが気合いを入れ、自分が出来ることを手伝う。
ギルは、三人のアシストを行う。
人手が足りない所に出向いたりもしていた。
「人手は足りてる?」
「全然足りてねー。ギル、こっちの方を手伝ってくれ」
「了解。僕はこれを運ぶね」
「ああ、頼む」
ユリウスとギルが分担して、飾りの道具を運んだ。
収穫祭の準備が着々と進んで行く。
たまに、ユリウス達の屋敷の使用人や街の料理人たちが、水や軽食を各方面に差し入れていた。
それを楽しみにしながら、準備を行うものもいた。
何せ、お高い店を経営する料理人も参加しているのだ。
ある意味、ご褒美みたいになっていた。
そして準備を進めて数時間。
日が暮れ始め、飾りつけも一段落した。
屋台も準備され、残るは商品の陳列などだけになった。
ここまでくれば、あとは明後日を待つだけだ。
収穫祭前日は、街の人々も落ち着きを取り戻し、のんびり最後の調整を行っていた。
そしてその夜には前夜祭も兼ねてちょっとした宴が開かれる。
一足早くこの街に訪れていた旅行客も混ざりながら、楽しい一夜を過ごして英気を養う。
ユリウス達も羽目を外して楽しんでいた。
宴が終わり、一行が屋敷に戻ると風呂を済ませてすぐに個々の寝室に向かうのだった。
そんな中、夜遅くにアリサがユリウスの部屋を訪れる。
「お兄ちゃん、やっぱり起きてた」
「ま、寝なくてもいい体だしな。それに手紙も仕上げときたかったからさ」
「私はとっくに仕上げてるよ」
「相変わらず早いな」
二人は、他愛も話をしながら小さなべランで出る。
ユリウスが空間収納から年代物のワインと二つのワイングラスを取り出して、手すりに置いた。
手際よくアリサがコルクを開けて、グラスにワインを注ぐ。
「もーお酒はいけないんだよ、お兄ちゃん」
「と言いながらちゃっかりワインを注いでるじゃん」
「へへん。器以外はセーフだからね」
アリサがワインを少し飲む。
「体の方はどう?」
「相も変わらず、自壊してる。我ながら嫌になるね」
「ふふ。だね」
二人は、星空を見ながらワインを嗜む。
「そうだアリサ。これをまた渡しとくよ。念のためな」
ユリウスがかなり豪華なカギをアリサの前に垂らした。
「封印の鍵だね。もう必要ないんじゃない?」
「器が脆くなってるからな」
「……うん、わかった。そっちの手綱は任せて。力の制御はユメにやらせるんでしょ?」
「まあな」
ユリウスがワインを一気飲みし、アリサが空いたグラスにワインを注ぐ。
「……出てこいユメ公。聞いてるんだろ」
『もうーうるさいわね。せっかく気持ちよく寝てたのに』
ユリウスの背後から小さな妖精が現れる。
髪色は銀髪よりの青で、髪を後頭部で束ねてそこからツインテールのようにしており、体は少し薄れており半透明に近い状態だ。
「久しぶりねアリサ。何年振りかしら。こいつが魔王と呼ばれる頃からアタシは寝てたから、時間がよくわからないけどね」
「うん、久しぶり。私的には数年ぶりって感じかな」
「そう。ま、変わってなくて何よりよ」
ユメが嬉しそうに微笑む。
「で、アタシを呼び出した用件は? まさか同窓会感覚で呼び出してないわよね」
「「…………」」
ユリウスとアリサが黙って微笑む。
「は~まいいわ」
「飲むか?」
「遠慮しとく。私はそう言うの出来ないって知ってるでしょ」
「一応確認しただけだよ~」
アリサが軽く返す。
「それよりあんた達、体がボロボロじゃない」
「転生の影響だな」
「もー仕方ないわね」
呆れた様な声で言うと、ユメが二人の前に手をかざす。
ユメの手のひらに淡い光が灯る。
「どう? 力の制御をアタシがしてあげたから、少しはマシになったんじゃない」
「だいぶマシになったぜ。あんがとな」
「うんうん、ありがとう」
二人が素直に礼を言う。
「それで? 今更昔話をするってわけでもないんでしょ」
早く本題を言えと、態度に出ている。
「ま、それはまたおいおいだ」
「今日は再会のために呼んだんだよ~」
「はぁぁ……まったく、少しだけ付き合ってあげるわよ」
三人は星空の下で、昔話に花を咲かせながら収穫祭当日迎えるのであった。
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