第10話 そして翌日2
その後ユリウスたち四人は、日が暮れるまで鍛錬を続けていた。
そして鍛錬メニューの大半が終わり、ひと段落したことで四人は屋敷へ帰ることにした。
少し歩いたところで、四人は森に生息する小型の比較的弱めな魔物が一方向へ逃げていくのを、遠目で目撃した。
小型の魔物が逃げるのを見て、周辺に何か強力な魔物がいることを察し、四人は急いで屋敷に戻ろうとした時であった。
ユリウスとアリサの索敵範囲に一体だけ周囲の魔物とは比べ物にならない程の強力な魔物が引っ掛かった。
魔物もこちらに気付き、近づいてくる。
「……手遅れかも」
アリサの一言にユリウスが同意するように頷いた。
「陣形を組め! 一時方向からくるぞ」
ユリウスの言葉を聞き、一時方向を向いて四人が警戒態勢に入った。
イリヤが固唾を飲みこんだ。
緊張からか、剣の柄を握る手に力がこもる。
魔物との接敵までの間に、ユリウスとアリサが枝を捨て、剣を腰に装備した。
四人とも剣に手を掛け、臨戦態勢で魔物が来るのを待つ。
暫くすると、茂みから一体の大型の魔物が姿を現した。
その魔物は、イリヤにとって因縁深い相手だった。
特徴的な二本の大きな牙を持ち、ワイルドボアよりも強靭な四肢を持った魔物……グリズリーボアである。
「え!? グ、グリズリーボア!!?」
アリサの手が恐怖で震える。
あの時の光景が脳裏に浮かび、引きつった顔をしていた。
(私は強くなった! 私は強くなった! 私は……)
何度も自分に言い聞かせるように言う。
少しでも恐怖を薄めるために。
だが、目に自然と涙が溜まる。
「Aランク指定魔獣のグリズリーボアか」
「おお! 今回の個体はデカいな!!」
「しかも、成体だよ~」
ギルは冷静に魔物の分析をし、ユリウスはイリヤとは真逆に嬉々とした表情を浮かべ、心躍らせていた。
アリサもユリウスに釣られるように、少しワクワクしていた。
「今の自分の実力を測るにはいいかも」、と心の中で思いながら。
成体のグリズリーボアは、幼体時とは決定的に違う部分がある。
それは、特徴的な二本の牙に魔力を流すことで、魔力の使用量に応じて長さや大きさを変えることが出来るという点だ。
もちろん、強度を相応に上昇する。
そしてグリズリーボアの成体の一部が、災害級に認定されるその所以は、強靭な四肢と二本の牙を使った突進である。
シンプルな攻撃だが、並みの槍すらへし折る毛皮に身を包まれたグリズリーボアの突進は、止めるのが困難であり、牙には魔力による属性変更によって他の属性を得ることができるため、属性耐性が低い属性攻撃を受けると、城壁すら破壊しかねない火力があるからだ。
それがこの魔物が恐れられる力である。
それを理解しているからこそ、ユリウスが三人に指示を出す。
「三人とも散れ!!」
その指示を聞き、ギルはグリズリーボアの正面から右側へと移動した。
アリサはユリウスとは逆方向で、ギルと同じ右へ即座に移動する。
だが、イリヤは恐怖で足がすくみその場から動けずにいた。
昔のトラウマが原因の様だ。
足が震えており、股間の辺りがじわじわと水が垂れて行き、下には水溜まりができ始めていた。
ユリウスは、それを目尻で確認すると、遊ばずに早急に終わらせた方が良いと考える。
再度指示を出すが、反応がない。
「仕方ない」と呟き、速攻で仕留めに向かう。
「ギルはイリヤを頼む!」
「了解!」
指示に従い、イリヤの元に駆けつけた。
「アリサ、合わせろ!」
「オッケー」
二人同時に動き出し、息の合った完璧な連携でグリズリーボアに攻撃を仕掛ける。
互いに互いの攻撃を避け、思う存分に斬る。
攻撃をしながら、二人は敵の注意を引き付け、とりあえず巻き添いにならないようにグリズリーボアの方向を変えさせ、突進してもイリヤ達に当たらないようにうまく場をコントロールする。
それから暫くすると二足歩行していたグリズリーボアが四足歩行に切りかえた。
それを見た二人は、剣を握る手に力を込めて迎撃の準備をする。
「いつでも来やがれ!」
「ぶった切って上げるよ」
二人が不敵の笑みを浮かべる。
二人の言葉に呼応するかのように、グリズリーボアが突進を仕掛けてくる。
その攻撃を二人は正面から迎え撃つ。
当たるか当たらないかの瀬戸際で、互いに反対方向へ回避し、それと同時に前足を切断。
返す刃でアリサが首を、二本目の剣で、ユリウスも首をぶった切る。
互いの剣が紙一重の位置で交差した。
グリズリーボアの首が宙を舞う。
そして鮮血をまき散らしながら、勢いを弱めずに地面に崩れ落ち、数メートルほど進み絶命した。
二人は返り血で赤く染まりながらも、ハイタッチした。
その光景をイリヤが憧れの眼差しで見ていた。
「私の勝ち~。お兄ちゃんの剣、刃こぼれしてるよ」
「クソ~。力んじまったーー!!」
アリサがしてやったという顔をしていた。
そしてユリウスが悔しがっている。
そんなやり取りをしながら、二人はイリヤの元へ戻って行く。
イリヤはユリウスが前に来るや否や、すぐ地面に崩れそうになったが、それをユリウスが両手で受け止めた。
「大丈夫か? イリヤ」
「ケガはなさそうでよかった」
二人の言葉を聞き、イリヤは溜まっていたものが、決壊するように溢れてきた。
ユリウスが胸に抱きよせ、大丈夫だと言い聞かせながら頭を撫でる。
アリサもユリウスに後に撫でる。
そしてユリウスがギルの方に視線を向ける。
「すまん、少し開ける」
「うん、わかってるよ」
それからすぐにイリヤと共に、二人は近くの茂み入ると粗相をしたそれをポケットに入れていたハンカチで拭いてあげていた。
「ご、ごめんなさい……なの。こ、怖くて動けな……かったの」
泣きながら言う。
「別に気にする事はないぜ。ギルがおかしいだけで、あれが普通の反応だからな。この歳でグリズリーボアと対面したんだ気にするなよ」
「そうそう。あの時の恐怖を思い出して、竦んじゃったんでしょ」
二人でイリヤのおしっこを拭いていると、「おかしくて悪かったな」と、茂みの向こうからギルの声が届く。
「聞こえてたのかよ」とユリウスが苦笑いをしながら言った。
そして小さな声でイリヤが「おにいちゃん達もなの」と言う。
彼女の声はユリウスの耳にしっかりと届いており、「それは言うな」と言いながら頭にチョップを入れた。
その時、イリヤが小さくひゃんと悲鳴をあげたのだった。
そして暫くするとまだ下着が濡れているイリヤを背中に背負ったユリウスがギルの前に現れた。
背中はもちろん結構濡れていた。
「待たせたなギル」
「全然待ってないよ。グリズリーボアの残骸を漁ってたから」
その言葉通り、彼の手が血塗れになっており何をしたかすぐわかる状況であった。
そして四人は、今度こそ帰路に着いた。
イリヤはと言うと、今日の疲れのせいでユリウスの背中で眠っていた。
「何かいい物でもあった?」
「全然。魔石が首の所にあったみたいで、真っ二つだったよ。よくピンポイントで斬ったね」
ギルが呆れた表情をしていた。
「タイミング的に、あそこしか斬れなかったからな。……とりあえず、今回は街に被害がなくて良かったと思って、目を瞑ってくれ」
「はぁぁぁ。そういうことにしとくよ。それと戻ったらイリヤをお風呂に入れてあげるんだよ」
「もちのろんだよ~」
アリサが返事を返した。
そして三人は会話を弾ませながら帰宅した。
屋敷に着く頃には、月が昇り始めていた。
月光照らすなか、ギルとは屋敷に着く少し前に別れており、今はユリウスとアリサそしてイリヤの三人である。
屋敷に戻るとメイドのフィニアが出迎えた。
「お帰りなさいませ。お嬢様、ユリウス様も。クレア様がお呼び、で……す……」
それから少しの間が空き、フィニアの思考が追いつきはっ! という顔をした後、ユリウスとアリサの体に付いた血と後ろで寝ているイリヤを見て慌てて近寄ってきた。
「だ、大丈夫ですか? ユリウス様それにお嬢様たちも!!」
「ああ、大丈夫だ。イリヤは寝てるだけでこの血は魔物の血だからな」
「それよりも風呂の準備をして欲しい。イリヤをこのままにはしておけないからね~」
そういうとフィニアに背中を向けた。
「湯は入れたばかりなので、タオルなどの準備をしてまいります」
「わかった。風呂に入っても問題ないか?」
「はい、大丈夫です」
フィニアが一礼し、タオルなどを取りにその場を去っていく。
それを眺めた後、ユリウスは背中を軽く揺すってイリヤを起こした。
「……うーん。ここは?」
「お家だよ~」
アリサがイリヤの頭を撫でながら言った。
それを聞くと、イリヤはユリウスの服を汚した事に気が付きすぐに謝る。
「うう、ごめんなさいなの。その……服を汚しちゃって」
俯きながら言った。
「イリヤ、気にすることはない。妹なんだからもっと甘えてもいいんだよ。お兄ちゃんはそっちの方がうれしいからさ」
「お兄ちゃん、それ昔も言ってたよ~」
「そう言えばそうだな」
アリサに言われ、少し懐かしく思う。
笑顔で語らう二人を見て、イリヤもほっとしているのであった。
それから暫くしてユリウス達は入浴を楽しんでいた。
「それにしても、おねえちゃん達の連携攻撃凄かったの!! グリズリーボアをズババってやってたあれ」
「そう? あれくらいなら、ある程度の技量があれば、後は息を合わせて連携するだけだよ」
「むーー。それが一番難しいなの」
イリヤが頬を膨らませていった。
「強くなればあれくらい一人でも倒せるぞ。イリヤには才能があるんだから、近いうちに出来るようになるはずだ」
「えへへ」
それを聞くと嬉しそうに笑った。
そんな会話をしていると、不意にフィニアの声がした。
「タオルと着替えをお持ちしました。こちらに置いておくのでお使いください。それからクレア様が入浴後、執務室まで来るようにとのことです」
「わかったなの。いつもありがとうなの」
「仕事ですので」と言うが、フィニアは口元を緩めて去っていった。
そしてアリサは、聞きたい事を思い出し、二人に一つ質問をした。
「二人は、グリズリーボアを前にした時なんで怖くなかったの? あの時からずっと思ってたなの」
「ん? そうだな~」
手を顎に当て、ユリウスが首を捻る。
アリサもユリウスに続いて思考を巡らせていた。
簡単そうで難しい質問。
だからこそ、あえて弱かったころのことを思い出す。
弱かった頃の自分たちと重ね、一つ思い当たることを思い出す。
それがとても懐かしく感じる二人。
「そうだな、あえて言うなら自信かな」
「うーん、自信の有無かな」
二人はほぼ同時に言った。
「自信?」
「ああ、そうだ。自分は強いって思えるからどんな奴でも怖くない」
「自信さえあれば大抵何とかなるよ~。そういう面だと、イリヤにはまだ足りないみたいだね」
「アリサの言うとおりだな。イリヤ、お前にはまだそういう自信が足りないと思う。だから、もっと自分に自信を持て、そうすればきっと強くなれるし、怖くもなくなる」
二人の意見を聞いてもなお、イリヤにはピンと来ていなかった。
だが、なんとなくそれを察し、首を傾げてはいたが少し頷いた。
「いずれわかるよ~。人間、意外とそう思ったりするとどうにかなるもんだね」
「何となくわかるような? なの」
イリヤもそれは本などで読んだ覚えがあり、何となくの想像はついていたが、体験が無いためしっくりきていない様子だった。
「そろそろ出るか。母さんも呼んでることだし」
「はいなの」
それから三人は、風呂から出て着替えると執務室に向かった。
ノックをしてから、入室の許可が出たため三人は入室した。
するとクレアは声のトーンを低くしながら三人を迎えた。
「それでなぜ、昨日の今日で何も言わずに出て行ったの? 昨日言ったはずよ」
イリヤはクレアの気迫に負け、アリサの後ろに隠れていた。
ユリウスが先に口を開いた。
「それについては、昨日イリヤを借りるかもと報告してるから目を瞑って欲しい。そしてアリサが何も言わずに、俺たちについてきたのは、何か言いたかったからじゃないか?」
そう言うとアリサがイリヤを肘で軽く小突き、何か言うように促した。
その意図に気付き、口を開いたが少しおどおどしていた。
「え、えーとね。そ、その、休みが欲しかった、なの」
ユリウス達は、夜どれだけ勉強しているのかを知っている。
そのせいで自由な時間はほとんど予習でなくなり、剣の稽古や魔法の勉強が出来なくなっていることも。
「夜にしっかり勉強してるみたいだから、少し大目に見てあげて欲しいな」
アリサの言葉を聞き、クレアが俯きながら何かを考えていた。
それから間もなく、顔を上げると申し訳なさそうな表情をして口を開く。
「ごめんさいねイリヤ。そこまでちゃんと考えてあげられなくて。ユリウス達の異常なまでの学習速度を見ていてそれが普通だと、錯覚してしまってたみたい。……これからは勉強を減らして、休める様に予定を調整するわね」
「うん、わかったの。ありがとうなの」
イリヤは明るい返事で返し、二人の腕を両腕で抱いながら言う。
その隣ではコクコクと頷く、ユリウスの姿があった。
それから暫くしてユリウスは、自室で試作品の魔導銃の改良に勤しんでいた。
アリサもそれを手伝っている。
「前に試射をしたときは、ひどい目にあったな」
「暴発して、腕ごと持っていかれたもんね~」
耐久性や弾の調整など、やるべきことをリストアップしていく。
銃本体の一部の可変機構による耐久性の低下が一番のネックとなり、二人を悩ませていた。
とりあえず、二人で部品の調整と破損個所の修復を分担して行う。
「早く完成させて、ロマンを味わいたいね」
「豪快な銃声を轟かせながら、撃つのが楽しみだ」
アリサが部品の細かい調整を行い、ユリウスが物理弾の火薬量を調整する。
破損個所を修復を遅らせているのは、破損の仕方を見て、そうならないように調整するためだ。
そしてある程度の修理と調整を終えると、部品を組み立て仮止めの状態にして、ユリウスが空間収納に雑に投げ入れた。
「さて、今日はこのぐらいにして寝るか?」
「そうだね。明日は新しい魔法の調整とかしたいしね」
そう言ってユリウスが自分の布団に入ると、さもしれが当然と言わんばかりに、自然な動作でアリサも布団に入る。
(まったく。いつまで経っても変わらないな)
ユリウスの腕を抱き枕にしているアリサを見て、不意に昔のことを思い出し、小さく笑った。
二人が寝始めてから数時間後、誰かが体を揺すっていた。
「ね……ちゃん……にいちゃん……きて、おにいちゃん起きてなの」
寝ていたユリウスには、そう聞こえていた。
それからすぐに目を覚ましたユリウスと少し遅れて目を覚ますアリサ。
起きてすぐに涙目になっているイリヤが視界に入った。
「おねえちゃん起きて……なの」
「どうしたのイリヤ?」
イリヤの言葉に二人は何かを察し、彼女の体の下の方を見た。
そしてズボンの上の方が濡れいるのに気付くと、アリサがイリヤの頭を撫でた。
「そう言うことか」
「うん。怖い夢を見たの」
「大丈夫だよ。お姉ちゃんたちがいるから」
アリサが安心させるように、優しい声音で言った。
そして夢の内容を聞くと、グリズリーボアに襲われるものだったとイリヤが言った。
二人は励ましながらベットを降りた。
「とりあえず着替えようか。部屋まで一緒に行ってあげるから」
「うん」
そう言うとイリヤは二人の間に入り、腕ををギュッと掴み部屋まで歩いていった。
「ほら着いたぞ。とりあえず下の方を着替えようか」
「うん。おにいちゃんそこにいてなの」
涙目でそう言うズボンを先に、それからハート柄のパンツを下ろし着替え始めた。
「ほら、お姉ちゃんが手伝って上げる。これなら怖くないでしょ?」
「うん」
ユリウスは目を逸らそうとしたが、イリヤが怖いから見てと言ってきたのでそのままイリヤを眺めながら話かけた。
「イリヤもまだまだ子供だな」
その言葉を聞いたイリヤが頬を膨らめた。
「むーう子供じゃないなの」
「おねしょをしてるんだから、まだ子供じゃないか」
「こ、これは汗なの!!」
着替え終えたイリヤが、膨れたままポカポカとユリウスの体を叩いた。
「はいはい、そう言う事にしておくよ」
そう言いながら頭を撫でると、イリヤが顔を少し赤くして膨れた。
(うん。可愛いいやつだな)
(ふふ、やっぱり可愛い)
二人の感想がほぼ一致したのだった。
「それでどうする? とりあえずできる範囲で誤魔化そうか?」
「うん。お願いなの」
アリサの視線に気づき、ユリウスが頷いて、イリヤのベッドのシーツを変える。
そして三人は洗面所にやってきた。
「とりあえず簡単に洗って隠すとするか」
「ね、ねぇなんで明かりを点けないの」
イリヤが暗闇を怖がって、アリサの腕にギュッとしがみつく。
「変に明かりが点いてると怪しいだろ。もしかしたらバレるかもよ。まぁ、俺たちは夜目が利くから点けないってのもあるけどな」
「なるほどなの。でも、ちょっと怖いかもなの」
「夜目の練習だと思えば、少しは怖くなくなるんじゃない?」
アリサの提案にイリヤが賛成して、必死に自分に言い聞かせながら、二人を交互に見る。
ユリウスは桶に水を入れ、その中に服を入れて洗い始める。
そのとき、自分たち以外の誰かが近くにいることも、頭の片隅に入れながら。
「それにしても何で兄さんの所に行かなかったんだ?」
「だって……母上に言いそうなんだもん」
「ふふ、たしかに……残念ながらバレちゃったみたい」
アリサが言うのが早いか遅いかのタイミングで、明かりが点いた。
「何をされているんですか? ユリウス様、そしてお嬢様たちも」
「ははは。バレましたな」
そこに現れたのはフィニアであった。
イリヤに視線を向けると、隠したものがばれた子供の表情をしながら頷いていた。
ユリウスとアリサは、しっかり自分の言いたいことが通じていることを確認し、フィニアに口を割った。
「実は……」
そして今に到るまでのことを説明をする。
すると、フィニアは小さく溜息を吐くと「それならば、私に申してくだされば良かったのですよ」と可愛い物を見る目で言う。
「むーう」
イリヤが、膨れながらいじけている。
「ユリウス様、ここは私に任せてお休みください」
「ああ、ならお言葉に甘えさせてもらうよ。とりあえず兄っぽいこともできたし、よしとするか」
そして部屋に戻ろうとした時、イリヤが釘を刺すように言う。
「母上には、言わないでねの」
「わかりました。これは秘密にしておきます」
フィニアが人差し指を口に当て、可愛らしく笑った。
イリヤも安心したのか胸を撫でおろす。
「イリヤ様、寝る前にトイレに行っておくといいですよ」
「はーい」
そしてイリヤの付き添いで二人はトイレに寄り、イリヤの寝室に向かった。
イリヤの寝室前に着くと、彼女が何かを言いたそうに二人を見ていた。
「どうしたの? イリヤ」
アリサの問いに、イリヤが素直に答えた。
「その……一緒に寝たいなの」
「そんなことか。別に構わんよ」
「ありがとうなの」
そうしてイリヤは、ユリウスとアリサと一緒に寝たのであった。
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