召喚
デルミック王家旧領三ヵ国。
広い平原に穀倉地帯を有するゴルドリア国。
広い草原に遊牧民たちが暮らすソルトン国。
砂漠に覆われ西側諸国の貿易路を有するミラド国。
この三ヵ国は大陸内の国々の中でも
国土面積はトップクラスである。
三ヵ国の中でまず攻略しなければならないのは
農業国家ゴルドリアであるとラックは考えていた。
ゴルドリアを押さえれば兵糧の確保が万全になる。
敵である北方連合国は食糧難に陥る。
しかし、ゴルドリアを占領すれば
ゴルドリアは
北、西、東の三方から攻撃を受ける事になる。
「あ~。人材が不足してんなぁ。」
ラックは愚痴をこぼす。
「兵は増やせても、それを率いる将が足りない。
デスト本家の三兄弟は優秀だと思うが
それは最後の最後での戦闘で参加してもらう。
戦死のリスクが無い場面で美味しい所を
もっていってもらうのがベストだろう。
占領後、統治するにあたって
侵略者のイメージは
デスト本家の国家統治に
影を落とすことになりそうだなぁ。
デスト本家の人達は侵略者というよりは
統治者としての資質を感じる。
汚れ役は俺が買ってでないと。」
デスト本家の邸宅を出て三日経過している。
自宅から天馬に騎乗し
空からの移動でゴルドリア国の
国境に近くの町に到着していた。
ゴルドリア国境近くの
デスト領『シセギ』という町で
ラックはこの町で宿を取り滞在していた。
正午を過ぎた頃。
宿の部屋の室内でラックは
ベットのシーツの上に
金の腕輪、金の首飾り、金の冠を置いた。
それらはブリジットからラックに
託されたデルミック王家の秘宝である。
「ここで召喚魔法を使うのは危険か。
サイズが大きすぎたら宿が壊れるもんな。
かといって、外でも
魔物を召喚なんて危険かもなぁ。
う~ん。仕方ない。
心象結界を発動するか。」
ラックは目を閉じて
左右に両手を広げると
胸の前で勢いよく両手を合わせて
パチン! と一拍した。
室内のあらゆるものが霧散した。
壁も天井も家具もベットも消えて
頭上に空が広がり、床は砂となった。
砂漠のど真ん中にラックは立っていた。
『心象結界』とは
心に描いた景色を具現化する魔法であった。
「ここなら召喚しても問題ないだろう。」
ラックは地面に落ちている三つの宝具を見下ろす。
「さて、何が召喚されるか楽しみだな。」
ラックは右手を三つの宝具にかざす。
右手から紫色の電撃が飛ぶ。
3つの宝具の魔力結晶に一撃ずつ電撃を当てた。
魔力結晶から紫色の光が湧きたった。
紫色の光が広がり、何かの形を作っていく。
3つの紫色の光体は
装飾品を浮かせながら大きくなる。
空中に膨張した紫の光は、バンッ! と弾けた。
ラックの目の前に三体の怪物が顕現した。
三体の怪物は、何が起こったのかわからない様子で
キョロキョロと周囲を見渡していたが
三体の怪物は眼前にいるラックに視線を止めた。
身長3メートルくらいの猿の怪物が口を開く。
「人間、あたしらを召喚したのはお前かい? 」
「ああ。俺が呼んだ。
お前は魔猴族だな。
他は水蜥蜴族と、牛頭族か。
雑魚悪魔だな。期待外れもいいところだ。」
魔猴は眉間に皺を寄せた。
「人間ごときがあたしらを雑魚とは
よく言ったもんだ。
いい度胸だ! これでも食らいな! 」
魔猴は両手を合わせて頭上に腕を振り上げると
ラックに向かって目いっぱい振り下ろした。
「知能も低いのか。使えないな。」
ラックは左腕を上げた。
バシンッ!!! と音が響いた。
魔猴が振り下ろした両手は
ラックの左手に当たっていた。
しかし、ラックの体はビクともしなかった。
「召喚された早々、死にたいのか? 」
ラックは左手で止めた魔猴の両手に
紫色の電撃を流した。
バリバリバリバリ!!! と魔猴の体に電撃が走る。
(雷属性魔術を使ってみたが
昔の感覚は忘れてないみたいだ。)
「ウガガガガガ! キャアアアぁぁぁぁ! 」
魔猴は白目をむきながら悲鳴をあげた。
「あああ・・・あんただち・・
観てないで・・だすげなさいよ!!! 」
「もう! 人間相手に情けないわね! 」
半透明な肉体を持つ水蜥蜴が口を開けた。
ビュアアアアアア!っと
水蜥蜴の口からラックに向かって激しく水が噴射された。
「おい! 濡れるだろうが! 」
ラックは右手を水蜥蜴にかざした。
右手から紫色の光の壁が展開された。
(お。障壁魔術もちゃんと発動した。)
水蜥蜴の口から放たれたブレスは
ラックが展開した壁に当たって防がれた。
(うそっ! わたしのブレスを止めたの!? )
「水に電気は通りやすそうだな!
死んでも知らないぞ! 【天雷】!!! 」
ラックは水蜥蜴を睨み付けた。
その瞬間、空から稲妻の閃光が走り
稲妻が水蜥蜴の体に落ちた。
「ぐぎゃあああああああああ!!!! 」
体長6mはあろうかという水蜥蜴は
砂の上を仰向けになりながら
尻尾をバタつかせて、のたうち回った。
牛の頭を持ち、体は筋肉隆々。
身長4mくらいある牛頭は恐怖で目を激しく見開いた。
「えええ!?
紫色の魔力・・・もしかして。
紫の魔力は紫皇帝陛下しか。
いや、その眷属も・・・どちらにしても
オマエら、紫帝に反抗した。
うううう、オレたち反逆罪で殺されるぞ! 」
牛頭は内股で膝を震わせて身をくねくねさせている。
「チッ! 正体がバレたならもういいか。
お前ら。降伏して忠誠を誓うなら許してやる。
まだ、ささやかなる反抗をするなら
残酷な死と残酷な死後の世界をくれてやる。」
ラックは砂の上に腰を下ろして胡坐をかいた。
「!? 紫陛下だなんて!
あたしゃ、そんな恐ろしい御方に
無謀にも喧嘩を打ったのかい!? 」
電流を流された魔猴は全身の毛が逆立ち。
体中が焦げついている。
魔猴は砂上に横たわり
ビクンビクンと痙攣している。
水蜥蜴は意識朦朧としており
身体は仰向けになり、口からは泡を吹いていた。
しばらくして、三柱の悪魔はラックに平伏した。
ラックは口を開いた。
「ところで、お前ら
魔界で爵位は持っているか? 」
魔猴は顔を上げた。
「あたしは爵位を持ってないですが
一番上の兄貴が大猿公爵です。」
ラックは驚いた顔を見せた。
「大猿公爵ってハマーンか? 」
「はい! 陛下も兄貴をご存じなんですね。」
魔猴は嬉しそうだった。
「もちろん知っている。
それなら兄貴を呼んでこい! と
言いたいところだがいまのところは
召喚する術もないし諦めよう。」
ラックは水蜥蜴に目を向けた。
「わたしも無爵です。でも・・・
遠い親戚に男爵がいるって聞いたことあります! 」
水蜥蜴は記憶を絞り出して答えた。
ラックは右手で自身の顔を覆った。
「お前の爵位の話をしてんだよ!
親戚の爵位なんて聞いてねぇ! 」
ラックは呆れた様子でため息をついた。
ラックは次に牛頭を見た。
牛頭はおどおどしながら口を開いた。
「お母さんが貴族の出だって自慢してました。」
ラックは右拳で地面の砂を叩いた。
「お前ら!
身内の自慢大会してんじゃねぇ!
結論は全員が爵位が無いってことだろが! 」
三柱の悪魔は砂に額をつけて平伏した。
ラックは深呼吸したあと口を開いた。
「爵位が無いってことは
魔界に自身の領地が無いって事と同義。
領地が無いってことは軍団を持っていない。
何が言いたいかっていうと
俺は戦争するための兵力と
それを率いる将軍が欲しかったんだ。
俺が期待する条件を
お前らは何ひとつ満たしていない。」
悪魔たちは反論する事もできずに
ただただ平伏したままだった。
ラックは笑顔を悪魔たちに向けた。
「お前ら、チカラが欲しいか? 」
三柱の悪魔は一斉に顔を上げて目を輝かせた。




