表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/81

デスト本家

 夕刻、広間でデスト本家の晩餐ばんさん


長方形の食卓には


上座にメンデルとブリジット。


右側の席にはサイラス、フィリアス、ロンバート。


左側の席にラックとマリアが座っている。



 給仕がワゴンから豪華な装飾の陶磁器の皿を


持って運び、食卓の各自の前に置いていく。


皿にはスープが乗っていた。


ワゴンの横に控える料理長が


「海亀のスープでございます。」と説明した。


食卓の皆で神に祈りを捧げた後に


食卓に置かれたスプーンを手に取った。



 ラックはスプーンで


スープをすくって一口すすった。


(美味い!


サッパリしているのにコクがあるな。


帝国領には海がない。


それなのに海産物の料理というのは


値が張りそうだなぁ。)



 ラックのジャケットの裾を


マリアは引っ張る。


「すごく美味しいね。」


ラックにマリアは嬉しそうな顔を向けた。



 次にロブスターが一匹丸々出てきた。


ラックはロブスターの殻を手で


剥いて身を付け合せのソースにつけて食べると


口の中に酸味と甘味が広がった。



 そのあと、骨付きの子牛の肉のロースト。


季節の野菜のサラダの盛り合わせ。


サーモンの野菜巻きにはキャビアが乗っていた。


ラックはお腹が空いていたので味わうことを


忘れて夢中で食べていた。



 ラックの様子を見て、


マリアは不満げな顔をした。


「もっと味わって食べなさいよ。」


ラックにマリアは小声で注意した。



 ブリジットはラック夫妻に目を向けた。


「いいのよ。


ラックくんは運動したのだから


お腹が空いているのよね。


ラックくんは本気のロンバートに


無傷で勝つなんてさすが英雄様ね。」



 ブリジットにラックは困った顔を向けた。


「いやいや、


ロンバート様にあのような能力があるとは


思いもよりませんでした。


俺がデスト家の縁者でなかったら


情報隠蔽じょうほういんぺいのために


命を狙われかねないですからね。」



 ラックにマリアは驚いた顔を向けた。


「え!?


単なる稽古じゃなかったの?


なんでそんな物騒なことになるのよ。」



 マリアにラックは顔を向けた。


「ロンバート様には


とてつもない能力があったんだ。


それは軍事機密になるような事だろ。


デスト家の人間じゃなかったら


そもそも、そんな能力を使わないさ。


だから、心配はいらないって話。」



 マリアは胸を撫で下ろした。


「そう、それならいいけれど。」



 ブリジットにラックは目を向けた。


「で、色々と腑に落ちない事があるのですが


質問しても構わないでしょうか。」



 メンデルは口を開いた。


「うむ。それは食事を終えてからにしよう。」



 ラックは頷いた。


「そうですね。失礼しました。」



 デザートのケーキを食べた後、


コーヒーが運ばれてきた。


全員にコーヒーが行き渡ると


執事は料理長と使用人たちを連れて広間を出た。



 メンデルはコーヒーに口をつける。


「ラック君、マリア君、わしらは


君達をデスト家の一員として認めている。


君達はデスト家の一員としての自覚を


持っておかなければならない。


そのために必要な情報は提供しよう。」



 メンデルにラックは顔を向ける。


「では、メンデル様、デスト本家は丞相とはいえ


国を持たない帝国の一家臣にすぎない。


帝都の警備はデスト本家が担当しているのは


知っていますが文官であるはずのデスト本家は


なぜか武官色が強い。


デスト本家は文官に徹していた方が


後々、お家の存続に有利のはずです。


なぜ、有力者に警戒されるような武力を


お持ちになる必要があるのですか? 」



 メンデルは眉間にしわを寄せる。


「帝国のために必要だと言ったら


ラック君は胡散臭く感じるかね。」



 ラックは少し悩んだ。


「・・・失礼と思いますが


その答えは胡散臭いですね。


メンデル様は帝都での人気が高い。


乱世でも帝都が繁栄しているのは


メンデル様の政治手腕の賜物たまものではないかと


俺は思っています。


しかし、帝国の全体の国力は


衰えていっているはず。


東の覇王に帝国丞相就任の噂があると耳にしました。


もしも、そうなれば聡明なメンデル様なら


それを受け入れると俺は思っていました。


いや、むしろ、東の覇王に丞相職を譲りたいのは


メンデル様ではないかとすら思っております。


東の覇王が帝国の味方につけば


帝位を簒奪されるのは大陸を


統一する目算がついた時でしょう。


大陸が統一されなければ


帝国は安泰、厄介事は東の覇王に丸投げできます。


デスト本家は一時は閑職に追いやられたとしても


文官として有能なら東の覇王だって


デスト本家を重く用いると予想します。


しかし、武力はその足枷になる。


警戒されればデスト本家は潰されかねません。


だからこそ俺は腑に落ちないんです。」



 メンデルは深く頷いた。


「なるほど。良い分析だ。


だが、ラック君は情報不足でもあるな。


まだ帝都に来たばかりというのもあるだろう。」



 ラックは頭を下げた。


「たしかに、俺は無知です。」



 メンデルは首を横に振った。


「いや、軍人でも官僚でもないラック君は


帝国の事情に興味などなかっただろう。


簡単に説明するとだな。


帝国の西側に2カ国持つのはデルミック家。


当主ホルンは先帝の正室の弟君であり


現皇帝の叔父に当たる。


ホルンは、いまは帝国大将軍の地位にある。


帝国の南側は軍務大臣ヒデア家が一カ国領しておる。


帝国東側は外務大臣モトローア家が一カ国領している。


帝国本領は3カ国。合わせて7カ国が帝国勢力。


帝都は北に防壁となる国が無い。


帝国の東側と南側は東の覇王がほぼ押さえた。


西側諸国は東の覇王を目の敵にしており


帝国は眼中にないと言える。


ラック君、問題は帝国の北側なのだよ。


北方連合国に東の覇王は一度も勝ててはいない。


帝国北側にはかつて3カ国を


領した帝国勢力が存在した。


それはベルリック家、帝国建国の功臣の家の一つだ。


30年ほど前にベルリック家は


北方連合国の支援を受けた勢力に


突如、攻撃を受けて滅んだ。


また北側から帝国を攻撃されたら帝都は滅ぶ。


ブリジットはベルリック家の元王女だ。


ベルリック家が滅んだのちに


デスト家で保護しわしの妻となった。


わしは結婚の条件として妻とある約束を交わした。


それはベルリック家の再興だ。


わしは政務に追われて妻との約束を先延ばしに


してきたが丞相職を東の覇王に譲ったのちは


私兵でベルリック旧領を取り返そうと思っておる。」



 ラックは困惑した顔をした。


「・・・それはあまりに無謀ではありませんか。


北は連合国ということは、敵は大勢力。


一諸侯の兵力で勝てるわけがない。」



 ブリジットは口を開いた。


「それでもやらねばならぬのです。


私はそのために沢山の物を犠牲にして


息子たちに力を授けました。


長年、帝国に尽くしてきたベルリック家に


帝国に何もしてくれませんでした。


誰の力も借りずに北の蛮族どもを


一人残らず駆逐して差し上げます。」



 ブリジットの気迫にラックは圧倒された。


ラックは少し考え込んだあとに口を開いた。


「・・・面白いですね。」


そう言ってラックはニヤリと笑みを浮かべた。



 その場にいた一同が驚いた表情を浮かべた。



 ラックは口を開く。


「そのための布石はもう打っていたわけですね。


グリフォンに褐色のエルフ、異界の魔物。


それらを兵力にして北へ侵攻する。


その軍に俺も加えて頂きたい。」



 メンデルは口を開いた。


「それはありがたい申し出だが


君は政治や軍事に


関わらないのではなかったのかね。」



 ラックは頷いた。


「俺は政治にも軍事にも


興味はありませんし


関わりたくもありませんが


デスト本家は俺を


家族の一員としてお認めくださった。


家族が死地に赴くというならば


俺も参加しなければなりません。


家族を苦しめる勢力があるのならば


俺を苦しめているのと同じ。


それは政治ではありません。


デスト家の誇りの問題です。」



 マリアは不安な表情を浮かべたが


何も意見できずに聞いている。



 マリアの手をラックは握る。


「俺が動くからには絶対に勝つ。


マリアは安心してくれて大丈夫。」



 ブリジットの両目から涙が溢れた。


「私はあなたの事を過小評価していたようです。


私の持っているものならば全て差し上げましょう。」



 ブリジットにラックは顔を向けた。


「ありがとうございます。


では、ブリジット様が所有している魔力結晶を


全て、俺に譲ってくれませんか。


必ずや、デスト軍の兵力にしてご覧にいれます。」



 ラックの目をブリジットはジッと見つめた。


「いいでしょう。


我がベルリック家の秘宝をあなたにお譲りします。」









はじめまして。


Cookieです。


もしも続きを読みたいを思って頂けたのなら


ブックマークや評価をして頂けると励みになります。


よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ