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本家当主

 ラックとマリアをサイラスは


デスト本家当主の書斎へ案内した。



 トントントン とサイラスは


書斎の扉をノックした。



 扉の向こうから「・・・サイラスか。


入ってよいぞ。」と低い声がした。



 「失礼します。」と


言ってサイラスは扉を開けて書斎に入った。


「ラック夫妻が到着いたしました。」



 ラックとマリアは


緊張した面持ちで書斎の中に入った。



 口髭くちひげを生やした白髪の男性が


書斎の奥の机の椅子に座っていた。


「2人ともよく来たな。


わしがこの家の当主、メンデルだ。」


そういってメンデルは立ち上がった。


メンデルは貴族の装束を着ていたが


筋肉質の肉体が衣服を盛り上げており


眼光鋭く、厳つい顔をしていた。


文官というより武将といった雰囲気があった。



 ラックは頭を下げた。


「メンデル丞相閣下じょうしょうかっか、お初にお目にかかります。


わたくしはラックと申します。


こちらに控えるは妻のマリアでございます。」



 マリアはスカートをまんで腰を落とした。


「初めまして、メンデル閣下。


ラックの妻マリアでございます。」



 メンデルは「うむ。」と頷いた。


「フィガロ子爵とマーチスから書状が届いておる。


君たちの事をよろしく頼むと書いてあった。


わしが用意した屋敷は気に入ってくれたかね。」



 ラックは顔を上げた。


「はい。わたしどもには


もったいないほどの


立派なお屋敷で驚きました。


閣下の過分なお配慮痛み入ります。


妻マリアも閣下の用意して頂いたお屋敷を


大変、気に入っております。」



 マリアは姿勢を正した。


「メンデル閣下、ありがとうございます。


大変優秀なメイドまで派遣して頂いて


感謝の言葉しかありません。」



 ラックとマリアにメンデルは笑顔を向けた。


「そうか、そうか。


気に入ってくれたのなら、なによりだ。


今夜は晩餐を用意しておる。


ゆるりと楽しんでいってくれ。」



 ラックとマリアは頭を下げた。


「「ありがとうございます。」」



 メンデルは頷く。


「ラック君は少し話があるから残ってくれ。


部屋を用意してある。


サイラスに案内させるから奥方は


その部屋でラック君を待っていてくれるか。」



 マリアは「わかりました。」と返事した。



 マリアにサイラスは歩み寄ると


「では、ご案内しましょう。


こちらへ。」と言ってマリアを連れて


サイラスは書斎を出ていった。



 メンデルは椅子に座った。



 メンデルの机にラックは歩み寄って


肩幅に足を開いて


前で両手を組んで休めの姿勢をとった。



 メンデルは難しい顔を浮かべた。


「ラック君、貴君は冒険者になったそうだな。」



 ラックは姿勢を崩さず「はい。」と返事した。



 メンデルは両肘を机の上に置いて両手を組んだ。


「そうか。配下の報告では


貴君はクエストを受けてブエレンの街に


向かったそうだが


クエストは達成したそうだね。おめでとう。」



 ラックは笑みを浮かべて


「ありがとうございます。」と返事した。



 メンデルは厳しい表情をしていた。


「それで本題だが。


クエストの道中、ラオの森を通らなかったか? 」



 ラックは怪訝けげんな顔をした。


「はい。通りました。」



 メンデルは、ため息をついた。


「ラオの森の怪物を一掃したのは貴君か? 」



 ラックは答えに迷ったが


正直に話さないと相手の意図はわからない。


「はい。怪物が襲い掛かってきましたので


迎撃し、森から一掃いたしました。」



 メンデルから笑みがこぼれた。


「貴君の強さは噂以上だったようだな。」



 ラックはホッとした。


「いえ、買いかぶりですよ。


それほど大した強さではありません。」



 メンデルは椅子から立ち上がると


後ろの窓から景色を眺めた。


謙遜けんそんだな。


外界の怪物を一掃など人間が出来るはずがない。


それを貴君は事も無げに出来たという。


それほどの武力があれば


敵兵士2000人の首を取るくらいは


造作もないか。」



 ラックは首をかしげた。


「閣下はどうも回りくどい言い方をなさいますね。」



 ラックにメンデルは振り返ると苦笑した。


「おそらくだが貴君は人間ではないのではないか。」



 ラックは困った顔をした。


「閣下、誤解されては困ります。


わたくしは人間です。」



 メンデルはフっと笑った。


「そうか。それならそれでいい。


貴君の武力は素晴らしい。


我が配下に加えたいくらいだ。


しかし、貴君の武力は


この世界を壊す類の物かもしれん。


ここからの話は他言無用で願いたい。」



 ラックは「はい。


秘密は守ります。」と頷いた。



 メンデルは言いにくそうに口を開いた。


「君はこの世界のバランスを崩す力がある。


異界の怪物は確かに人間に害をなす悪。


そういう認識を人類には


持っていてもらわねばならん。


襲ってきた異界の怪物を倒した貴君は


冒険者として当たり前の事をしたのだから


他人から責められる筋合いはないだろう。


しかし、人間が住むこの世界は


もう、異界の干渉無しでは


成り立たなくなっているのだ。


ラオの森にダークエルフ達を送ったのは


実はわしなのだ。」



 ラックは目を丸くした。


「そんな!? いったいどうしてですか! 」



 メンデルは頭髪を手の指でいた。


「それはな。精霊界の農耕民族ダークエルフは


森の自然を豊かにし、


土地に活力を与える術に長けている。


知性も高く、話し合いも出来る。


マナを地域に循環させる技法を


ダークエルフは使う事ができ、


聖獣が住める環境を整備することができる。


いまの帝国の実質的所領は3か国だ。


3か国程度の国力では


今の情勢下では領土を広げるのはほぼ不可能。


そんな中で国力を増強させるには


ダークエルフの力を借りるのが効率的だった。」



 政治でよくあるマッチポンプ的な手段を


メンデルは使っているんだなとラックは納得した。


「なるほど。そうですか。


異界の怪物を帝国領内に飼って恩恵を受ける。


怪物を率いているダークエルフたちと


閣下は交渉して人的被害は最小限に抑える。


他国と戦争になった時は怪物たちは


兵力にだってなりますよね。


でも、怪物は人類の敵という建前は


帝国は絶対に崩すわけにはいかない。


たまに冒険者に討伐依頼でも


出しておけば格好はつく。


人間の冒険者程度では


異界の怪物を駆逐するほどの力はない。


そのはずが、怪物を駆逐する冒険者が出現した。


それが、帝国丞相デスト家から出たっていうのは


非常にまずい展開だったってことでしょうか。」



 メンデルは複雑な表情をした。


「まずくはない。と言いたいな。


わしは怪物を駆逐した君に


勲章と褒賞を与えねばならん。


近々、そういう場を設けたいと思っている。


本音を言えばデスト家から


強者が出た事を心から嬉しく思ってもいる。


しかし、世界は異界の力無しでは


成り立たない現実もあるということだ。


精霊界から送られてくるマナは特に重要だ。


人間界にマナが送られてくるおかげで


天候は安定し、


疫病は蔓延せず、


異界の住人は効力の高いハーブや


戦力になる聖獣を持ち込んでくれる。


土地の作物の生産量も増え、作物の栄養価も高まる。


そんな多くの恵みをもたらす精霊界の住人を


貴君は根絶やしにしてしまうかもしれない。


それは、人類にとっては不都合ではある。」



 ラックは「う~ん。」と考えた。


「閣下わかりました。


俺は政治や軍事には


直接は関わらないことにします。


冒険者としても自重した行動を心がけます。


この世界は善悪を白黒ハッキリさせたら


色々とまずいというのが理解できました。


たぶん、メンデル閣下が


管理しているというダークエルフ達から


俺は昨夜、襲われたんですが


ダークエルフ達を殺さなかったのは


俺は賢明な判断をしていたんだな。」



 メンデルは驚いた顔をした。


「なに!? あやつらが貴君を襲っただと!?


誤解があってはならんが、わしの命令ではないぞ。


貴君はそのダークエルフ達をどうしたのだ? 」



 ラックは「捕えています。」と答えた。



 メンデルは苦々しい表情を浮かべた。


「うぅ・・・このような願いは


筋違いとは思うが


そやつらを解放することはできぬか。


わしが払える対価なら支払おう。」



 ラックは「いや、対価はいらないですよ。


無条件で解放しましょう。」と返事した。


「メンデル閣下とは良好な関係でいたいので。」



 メンデルに顔に笑みが浮かんだ。


「そうか! 本当にすまない。


貴君にはわしは誠実であり続けることを誓おう。」






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