馬小屋
ラックは馬車で単身で
マリアの待つ屋敷に戻った。
メイドのフェノに案内されてラックは
屋敷の馬小屋に行くと
試行錯誤しながら馬車を
ペガサスから取り外した。
「ラブリー。お前がんばったなぁ。」
ペガサスの顔を撫でながらラックは
ペガサスを馬小屋に入れた。
ペガサスは動くのが好きなようで
馬房内をグルグルと回った。
ラックは近くに立っているフェノに目を向けた。
「フェノさん、デスト本家から
あなたは送られてきたって事は
俺たちの情報を報告する任務なんかを
デスト本家から命じられていたりするの? 」
フェノは口を開いた。
「いえ、そのような事は命じられてはおりません。
あくまでメイドとして赴任するようにと
命じられてきたのでございます。」
フェノの目をラックはジッと見た。
「そう。それなら別にいいんだ。
それにしてもこんな大きな屋敷は
俺とマリアの二人で
維持管理するのは大変だ。
フェノさんを本採用で雇うよ。
他にも2名、執事とメイドを決めていてね。
その2人は素人だから
フェノさんに鍛えてもらおうと思っているんだ。」
フェノは中指で自分のメガネの位置を直した。
「かしこまりました。
新人教育もわたくしにお任せください。」
フェノにラックは微笑みを向けた。
「助かるよ。給与面の交渉は改めてする。
でさ、訊くけど、マリアはどんな感じ? 」
フェノは少し思案した。
「その質問は、ラック様に対して
いま、奥様がどういった感情を
持たれておいでかという質問でしょうか。」
「そそ。察しがよくて助かるよ。」
「正直に申し上げれば
今夜、ラック様と夕食を一緒に
食べることができなかった不満は
奥様にはありますが、無事にラック様が
帰ってこられたことを
心から喜んでおいででした。」
「そっか。
で、いま俺が屋敷内に入ったら
マリアは不機嫌な態度だと思う? 」
フェノは難しい顔をした。
「奥様とお話した感触では
不機嫌な態度を取って
ラック様を困らせたいと
思っておられるとは感じました。
それは不安から来る態度だと存じます。
あまり2人でお過ごしになられてないそうですね。
奥様もラック様がお仕事で
忙しいというのも理解されているのですが
女性というのは感情で動くところがございます。
一時の優しさで誤魔化すよりも
普段からのコミュニケーションの積み重ねが
大事だとわたくしは思います。
説教臭い物言いをしてしまって申し訳ありません。」
ラックは納得した顔をした。
「いやいや、その通りだよ。
フェノさんの言う通りだと思った。
マリアはずっと俺に話しかけ続けていたのに
俺はマリアの話に耳を傾けることを
邪魔臭がってしまった。
まぁ、帝都に来たばっかりで
無職で無収入だったからね。
俺も心に余裕がなかったのかもしれない。
冒険者の仕事もなんとかやっていけそうだし
この帝都で知り合いも増えた。
心に少し余裕が持てた気がするんだ。
だから、これからは出来るだけ時間を作って
マリアと一緒に過ごすようにするよ。」
フェノは軽くお辞儀した。
「賢明なご判断だと存じ上げます。」
ラックはニヤリと笑った。
「フェノさん、俺を応援してくれるなら
今夜、マリアと揉めたら助け船を頼むよ。」
フェノもニヤっと笑った。
「初めからそのつもりでございました。」
ラックとフェノは堰を切ったよう大声で笑った。
ラックは心が軽くなったようだった。
「今夜の晩御飯はフェノが作ってくれたのかい? 」
足取りも軽く屋敷の玄関に向かって歩き出した。
ラックの後ろについて歩くフェノは微笑んだ。
「奥様とわたくしの2人でお作りしました。」
ラックは嬉しそうな顔をした。
「マリアは地元では剣術ばっかりしてきてね。
全然、料理が出来ないんだ。
マリアに料理を教えてくれてありがとう。」
フェノはフフフと思い出したように笑った。
「奥様、本当に一生懸命でしたよ。
料理が出来ない事を引け目に
感じておられたご様子で。
でも、ラック様、ご心配はいりません。
奥様は料理の才能はおありです。
きっと料理上手になられるでしょう。」
ラックは意外そうな顔をした。
「へぇ~。マリアに料理の才能があったのか。
今夜の晩御飯でマリアの料理の才能の
片鱗は見れるのかな。」
フェノは明るい笑顔をラックに向けた。
「きっと、ラック様は、びっくりなさいますよ。」
フェノは玄関の階段をラックより先に上ると
玄関の扉を開けて、うやうやしくラックを招き入れた。
はじめまして。
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