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灯火

 受付嬢に案内されて冒険者ギルドの


応接室の前に立ったラック。



 「これにてわたしは失礼します。」


ラックに受付嬢はそう言った。



 受付嬢にラックは軽く頭を下げた。


「ありがとうございました。


とても助かりました。」


受付嬢の胸ポケットについた名札を


ラックは見た。


(ミラシュアさんって名前か。


これからもお世話になるかもしれないし


覚えておこうかな。)



 ラックにミラシュアはお辞儀してその場を去った。



 ラックは応接室の前に立った。


コンコンコンとラックはノックした。



 「誰だ。」と扉の奥から


ギルド長ボーグ・テシュワルドの声が聞こえた。



 「ラックです。入っていいですか。」



 「どうぞ。入りたまえ。」



 ラックは扉を開けると


応接室内のテーブルの椅子にボーグは座っていた。



 ラックは扉を閉めた。


「よぉ! 暗黒騎士ボーグ。


用意してくれた物資は、めちゃくちゃ助かった。


余った分は返却するから後で引き取ってくれ。」



 ボーグは立ち上がり深く頭を下げた。


「クエストお疲れ様でございました。


陛下ならば、パーティーではなく


おひとりの方が何かと


動きやすかったのではないですか? 」


そう言って、ラックの為に


ボーグは椅子を引いた。



 「まぁ~ね。


でも、人間として生きるなら団体行動にも


慣れておかないとね。


心を許せる知り合いを増やした方が


日常生活には有益だと思ったからな。」


そう言って、ラックは椅子に座った。



 ボーグは自分の椅子に戻って腰を掛ける。


「陛下の深いお考えには恐れ入ります。」



 ラックは苦い顔をした。


「世辞はよせ。


それより色々とややこしくなってるな。


『黒』の魔王の手下が街を襲って迷宮作ってたぞ。


『黒』は随分と侵略まがいの事してんじゃん。


お前ら知ってて『黒』を野放しにしてんだろ。」



 ボーグは両肘をテーブルの上に置いて手を組んだ。


「ややこしいですか。そうですな。


今の人間界はややこしい事であふれております。


私たちの存在自体がややこしいですからな。」



 ラックは右足を椅子に乗せて


椅子の背もたれに体重をかけた。


「そりゃそうだろうけどさぁ。


俺は一般人として暮らしていきたいわけよ。


迷宮ダンジョンは魔石が取れるから


冒険者の俺としては小遣い稼ぎにいいなと


思って迷宮については黙認する約束を


『黒』の配下と交わした。」



 「さすが陛下ですな。


賢明なご判断だと思います。


魔界の技術の土台は魔力。


魔石をただ無償で人間に与えてしまっては


コスト面でマイナスですし


魔石の流通管理や価値を人間に支配もされたくもない。


魔物を殺さないと魔石を手にすることはできない。


魔物を殺せるのは、軍隊か、冒険者。


軍を動かすのはコストがかかりすぎますし


兵が死ねば、領主が兵の家族に補償を与えねばならず


領主が軍を動かして魔石を手にするのは


コストパフォーマンスが悪すぎるわけです。


その点、冒険者なら、死んでも問題ない。


冒険者が取った魔石をギルドが全て買い取る。


ギルドから魔石を買った方が


相場が安定しているので


領主は人的損失を防げるし


安定相場で取引が出来るので都合が良いのです。」



 「ほう、魔石なんて魔法使い以外に必要ないだろ。


・・・まさか・・・魔界の魔導機械技術を


もうすでに人間界に持ち込んでいるのか!? 」



 ボーグは頷いた。


「『青』の魔王陛下が配下を使って


積極的に魔導機械技術を


各国領主たちに売り込んでおります。」



 「おい。それ、俺は嫌だなぁ。


やっと魔法の文化が人間に定着しはじめているのに


魔導機械技術なんて人間界に持ち込んだら


人間界の文化水準が一気に上昇してしまいかねない。


『青』の魔王『リヴァイアサン』か。


あいつ、真面目で不真面目だからなぁ。


研究熱心なのに研究成果には興味ない。


魔導機械研究の第一人者なのに


魔導機械技術に興味はなくて


考えなしに人間に安売りしてそうだな。」



 ボーグはククククッと笑った。


「さすが陛下、『青』陛下の性格をよくご存じで。


『黒』の魔王オリシス様も『魔導機械は


人間界にとっては生活は豊かになるかもしれんが


ただ人間同士が虐殺し合うだけの戦争を


生み出す要因にもなる。


人口増加に繋がる代わりに


人間が人間に沢山殺される。


それでは人間の命の価値が低下しかねない。


リヴァイアサンのしようとしている人間界への


魔導機械技術導入はもっと人間社会が成熟して


倫理観りんりかんが形になってからの方が良い。』と


言っておられたそうでございます。



 ラックは右肘をテーブルにのせて右手に頭をもたげた。


「『黒』が人間界の魔石を管理したいってことは


『青』は技術だけを人間界に持ち込んでいるが


動力源の魔石には興味がないわけね。


まったくもってリヴァイアサンらしいね。


まぁ、いいや。


リヴィー(リヴァイアサン)とは、


会ってじっくりと話さないといけないな。」



 ボーグが口を開いた。


「『青』陛下は大陸の西側諸国に肩入れしてしております。」



 ラックはハッとした。


「それじゃ、ガンボルト大公の大陸統一は難しくなる。


リヴィーの魔導機械技術は


もはやサイエンスフィクションだからな。


ガンボルトは武力以外でも


あらゆる手段を尽くさざるおえなくなっていくだろう。


あ。クラウス達はいま出張だっけ。


東に向かったって事はガンボルト大公に用事か? 」



 ボーグはうなずいた。


「ルシファー閣下はガンボルト大公に


一刻も早く大陸統一してもらいたいのでしょう。


異界の混沌こんとんが大陸を覆いつくす前に。」



 「なるほどねぇ。


俺の紫の光炎は『世界を浄化する炎であり


世界にとっての灯火ともしび』なんだとさ。


俺を作り、俺に役割を与え、


5つの世界を作った創造神の言葉なんだが


この人間界に混沌こんとんが覆う時は


俺が紫の炎で人間界を燃やし尽くしてやる。」



 ラックの左目に紫色の光が閃いた。






はじめまして。


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