方向性
(この屋敷に入るのは嫌だ! )
そうラックは思った。
自宅になったという豪邸に
このまま帰宅するというのは
ラックにはリスクと感じられた。
(仲間4人は
重度の、うつ状態になっているし
ダークエルフのメアリーもいる。
このまま帰宅するわけにはいかない。
ワンクッション置きたいな。)
メイドにラックは
「はじめまして。ラックです。
この屋敷で働いて頂いているんですか? 」
ラックにメイドは一礼した。
「はじめまして。ラック様。
わたくしはフェノと申します。
デスト本家でメイドをしておりました。
デスト本家の命令により
このお屋敷で働くこととなりました。
本採用していただくかは
ラック様のご判断を仰ぐ形でと
デスト本家から申し付かっております。」
メイドのフェノという女性は
落ち着きからか20代後半のようにみえる。
地味な印象ではあるが美人の部類に見えた。
太陽の日に当たると
フェノの髪はブラウンに輝いた。
所作から仕事ができる雰囲気は垣間見えた。
「そうですか。
事情はまた帰ってから
詳しく聞かせてください。
俺はクエストから戻ったばかりなので
冒険者ギルドに寄ってから改めて来ます。」
「かしこまりました。
では、夕食はどうなさいますか? 」
(夕食!?
マリアは夕食をすっぽかしたら
拗ねて怒るんだろうなぁ。
邪魔くさいなぁ。)
ラックは悩んだ。
「帰りが遅くなるので先に食事を済ませてと
マリアに伝えておいてください。」
「かしこまりました。
奥様にお伝えしておきます。」
フェノの表情を見てラックは
(このメイドさん、
早く帰ってこないと
マリアが怒っても知らないぞって
目で訴えているんだろうか。
こっちだってわかってるんだ。
俺はわかったうえで言ってんだよ! )
「ごめんさない。と言っていたと
マリアに伝えておいてください。」
フェノに情けない言伝をラックは頼んだ。
ラックは馬車をUターンさせて
トスコとともに豪邸を後にした。
トスコは馬車と並んで馬を歩かせてる。
「ラック様、浮かない顔をしていますね。
帝都で大きな豪邸に住めるのというのに
何か、ご不満でもあるんですか? 」
トスコに目を向けて
ラックは口を開いた。
「う~ん。
不満とかじゃないんですがね。
デスト本家と俺は関係がないんですよ。
俺は会ったこともなければ
血の繋がりさえもない。
そんな俺にデスト本家は親切心だけで
動いてくれたのかが心配になります。」
トスコは難しい顔をした。
「ラック様はデスト本家とは
関係が薄いんですね。
それでデスト本家には
政治的意図があると思われたわけですか。
なるほど。あまり自分程度の者が
政治的な事は言いにくいのですが
帝国の宰相は代々デスト家が世襲してきました。
しかし、今度、宰相が変わるって噂があります。」
ラックは興味を示した。
「へぇ~。どなたが宰相になるんですかね。
もう、わかっているんですか? 」
トスコは言いにくそうな顔をした。
「決まってるわけではありません。
あくまで噂ですので。
噂では次の帝国宰相は
ガンボルト大公キシューロ殿下と
もっぱらの噂です。
もしも、そうなればデスト家の立場は
非常に微妙なものとなってしまいます。
ギネタールで名をあげたラック様を
デスト本家は味方につけたいでしょうね。」
ラックは困った顔をした。
「うわぁ。俺、政治に関わりたくないです。」
トスコは苦笑した。
「ははは。ラック様は
デストを名乗られているのですから
無関係というわけにはいかないでしょ。
それならいっそデスト本家の方と
会われてみてはいかがですか? 」
トスコの意見にラックは納得した。
「そうですね。
俺も一度、本家にご挨拶に伺おうとは
思っていたんです。」
(ガンボルト大公国は超大国だという。
自力で大陸を制覇することだって
きっと可能だろう。
なら、なぜ衰退した帝国の宰相の地位を狙う?
考えられるとすれば『禅譲』だろうな。
帝国皇帝から正当な形で皇帝位を譲り受ける。
大陸を統一した後、皇帝位を奪うよりも
皇帝から皇帝位を譲られるという形の方が
いいに決まっている。
まだ噂というが、
火のない所に煙は立たずともいう。
滅びゆく帝国は
滅んでいくだけの要因があるわけだから
俺はガンボルト大公が皇帝になった方が
人間たちにとっては良いと思うんだがなぁ。
滅びゆく帝国に味方して大国を討つってのも
かっこいいとは思うが、さて俺はどうしたものか。)
ラックは薄暗くなる空を見上げながら
自分の将来の方向性を決めかねていた。
はじめまして。
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