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自宅

 空が茜色あかねいろに染まり始めた。


ラック一行を乗せた馬車は帝都の正門に到着した。



 正門の警備兵にギルドカードをラックは見せると


警備兵から少し待って欲しいと言われた。


ダークエルフの身元について不審がられたのかと


心配になったが、ギルドのクエストについての


情報は訊かないのが警備兵の常識のようで


人間となったダークエルフの少女については


警備兵からは、つっこんだ質問をされはしなかった。



 ラックは警備兵に事情を訊くが


「担当者が来ます。


我々には事情は知らされていません。」と


警備兵に言われた。



  馬車を正門内に停めてラックは担当者を待った。



 しばらくして、


ラックと顔見知りの警備兵が


馬に騎乗して手を振りながら


ラックの馬車に駆け寄ってきた。


その警備兵は


ラックの馬車の近くで馬を降りる。


「ラック様、おかえりなさい。」


ラックに馬で駆け寄ってきたのは


帝都に来たばかりの時に


帝都を案内してくれたトスコ・ダルミだった。



 ラックは会釈して馬車の操縦席から降りた。


「どうも、トスコさん、その節はお世話になりました。」



 トスコは恐縮きょうしゅくする。


「いえいえ、自分はただ仕事をしただけであります。」



 トスコにラックは笑顔を返した。


「担当者が来るまでと、ここで待たされているのですが


何か、事情をご存じありませんか? 」



 トスコは自分自身を指さした。


「担当者というのは自分であります。


ラック様にご自宅に案内するようにと


上司から申し付かっております。


自分がご案内しますので


ラック様はどうぞ馬車にお乗りください。」



 ラックは考え込んだ。


(自宅?


俺とマリアはホテル住まいのはずだが。


ああ、俺が忙しくて物件の話が進まないから


マリアはもう物件を決めてしまったのかな。


それで知り合いのトスコさんに


案内を頼んだというところか。


しかし、上司の指示とトスコさんは言った。


まぁ、それはマリアが別の警備兵に頼んで


トスコさんの上司を経由して


トスコさんに伝わったのかな。)


トスコにラックは


「わかりました。


トスコさんが紹介してくれたホテルに


行くのではないのですね。」と返事した。



 ラックにトスコはうなずいた。


「詳しい事情は奥様から聞いて頂いた方が


よろしいかと思います。」



 トスコにラックは「わかりました。」と


言って馬車の操縦席に戻った。



 トスコは馬に騎乗すると


「では、自分についてきてください。」と言って


馬の腹を軽く蹴って前進させた。



 ラックは手綱を持って


しならせて弾くと馬車は発進した。


帝都の大通りを真っすぐ進んでしばらくすると


トスコの乗る馬は東に向かって右折した。


帝都は北側に城があり、北に行くほどに


貴族の邸宅が増えていく。


東に向かう道をしばらく進むと


トスコの馬は北へ向かって左折した。



 ラックの横に座るダークエルフの少女は


帝都の街並みを興味津々の目で


キョロキョロと街を見回している。



 ダークエルフの少女に向かって


ラックは口を開いた。


「お前に名前を付けないといけないな。」



 ラックの言葉にダークエルフの少女は


ラックに顔を向けて「はぁ? 」と答えた。


名前ならあるぞ。というような表情だった。



 ダークエルフの反応に


ラックは察しが悪いなぁと思った。


「お前はこれからは人間として暮らすんだぞ。


本名では色々と不味いだろう。


とりあえず、『メアリー』と名乗っておけ。


気に入らなかったら別の名前を考える。」



 ダークエルフの少女は


「・・メアリー・・いい響きだ。


ウチはメアリーという名前に不満はないぞ。」



 ラックはホッとした顔をした。


「では、今からお前はメアリーだ。


本名はとりあえず忘れろ。


気を許す友人が出来ても絶対に本名は明かすな。


異界の情報は一般人を


トラブルに巻き込む可能性があるからな。」



 メアリーは「うん。わかった。」と頷いた。






 しばらくラックは馬車を進ませていくと


美しい庭が広がる大きな邸宅が左側に見えた。


庭を囲む鉄の柵もデザインが洗練されていて


ラックは(大貴族の邸宅かな。)と、


その邸宅を横目で見ながら馬車を進めていった。



 トスコの馬がラックが見ていた邸宅の


正門の前で停まった。



 ラックは手綱を引いて馬車を止めると


操縦席を飛び降りてトスコに駆け寄った。


「トスコさん、


こんな所で止まってどうしたんですか? 」



 ラックにトスコは笑顔を向けた。


「この御屋敷がラック様のご自宅ですよ。」



 ラックは目を丸くした。


「はぁ~?! どういうことですか!


うちの奥さんはこんな豪華な家を買ったんですか? 」



 トスコは顔を横に振った。


「自分は案内だけで詳しい事はわからないんです。


ただ、ここはデスト家が管理していたお屋敷なので


デスト家から借りたのか、買ったのか、


譲り受けたのか、それは自分にはわかりかねます。


詳しい事情は奥様に訊くのが一番じゃないでしょうか。」



 ラックは苦い顔をした。


(しまった! 先手を打たれた!


俺はギネタールの戦場で一騎当千の武勇を示した。


その俺を帝国は押さえたいと思うのは必然。


俺と直接交渉を避けて留守の間に


マリアと交渉するなんて


帝国には名のある策士でもいるのか!?


今後住む物件についてのマリアからの相談に


キチンと乗らなかった俺の責任でもあるが。


ここにマリアが引っ越したという事実は


デスト本家に俺が


属したという既成事実になりかねない。


邪魔臭い事になっちまったなぁ。)



 トスコは正門の横にある呼び鈴を鳴らした。


すると、メイド姿の女性が正門に歩み寄ってきた。


メイドが門の鍵を開けて開門すると


メイドはラックの前に進み出た。


メイドは自分のスカートを両手で軽く摘まむと


キチンとした作法でラックに一礼した。


「おかえりなさいませ。ご主人様。」



 凛としたメイドの所作に


(この人、正真正銘しょうしんしょうめいの本職だ。)と


ラックは思わずうなった。






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