買取り
早朝、『ラオの森』の東端に
位置する盗賊団の村に
ラックの操縦する馬車が到着した。
馬車の操縦席には
ラック、バーナード、エリックが乗っている。
盗賊村には村人たち全員が
跪いて両手を胸の位置で組んで
祈りを捧げているという異様な光景であった。
村のあちこちにはコボルトやゴブリンの死骸が
多数、地面に横たわっていた。
村人たちの祈りを捧げている対象は天使だった。
天使は白銀の翼を背から生やし
右手に白銀の剣、左手には白銀の盾、
体には白銀の鎧を纏っており
白銀の兜をかぶっていて顔はわからなかった。
ラックら操縦席に座る3人は
操縦席から地面に降りた。
ラックは天使に大きく手を振った。
「ただいま~! ノーラさんお疲れ様~! 」
ラックたちの姿を見てノーラは
地面から跳ね上がると
「ラックさんだ!
みんなおかえりなさ~い!」と言って
兜を脱ぐと、ラックたちに向かって駆けよってきた。
バーナードはノーラの頭を撫でた。
「ノーラ、お前のおかげで助かった。」
エリックはノーラの肩に手を置いた。
「ノーラの羽根に
何度、命を助けられたかわからないよ。」
ノーラにラックは笑顔を向けた。
「『天装』を装着できただけでも凄いのに
天装の能力を自在に操るなんて
とんでもない才能だよ。」
ノーラは顔を真っ赤にして照れた。
「ラックさんがわたくしの守護天使さまと
交渉してくださったおかげです。
このような力を天がお与えくださったのも
全て、ラックさんのおかげです。」
ラックは右手の指で自分のこめかみをかいた。
「まぁ、六道修羅の力があるから扱えたのは
事実なんで俺のおかげではあるかなぁ。
人間のポテンシャルで扱える装備じゃないからね。
六道修羅を解く時は必ず天装は解除してね。
それをつけたまま六道修羅を解くと最悪、死ぬよ。
言い間違えた。
俺のいる時に六道修羅を解除しないと
ノーラは確実に死ぬから気をつけてね。」
ノーラは怯えた目をした。
「はい! わかりました! 」
バーナードは口を開く。
「ラック。天使と交渉したのか!?
もうお前が何しても驚かねぇけどよ。
お前が人間なんて言われても嘘臭さしか感じねぇ。」
エリックがクスっと笑った。
「オレっちはもっと凄い所を見ましたよ。
ラックさんはグリフォンを相手に
簡単に勝っちゃいましたからね。」
バーナードとノーラは唖然とした顔になった。
馬車の乗車席から
テューネがダークエルフを連れて降りてきた。
バーナードが苦い表情を浮かべた。
「まさか、褐色の肌のエルフが女だったとはな。」
ダークエルフは毛布に身を包んでいる。
縄などで体を拘束されてはいなかった。
テューネは困ったような表情をラックに向けた。
「この子どうすんの?
村人に引き渡して処刑しちゃうのかい。 」
テューネの言葉にラックは難しい顔をした。
「その子は、俺のスキルで無力化した。
もう、マナなんて使えないし
召喚術なんて高度な魔法も使えないだろう。
膂力も人間の女の子と同等にしてある。
村人が殺すというなら人間の子供でも
その子を簡単に殺せるだろうね。」
ノーラは驚いた顔をした。
「え!? 処刑するのですか!?
抵抗しない人を殺すなんて
神はお許しにならないでしょう。
ラックさん、慈悲をかけては頂けませんか? 」
ラックは困った顔をした。
(抵抗したら俺がダークエルフたちを
この世から根絶やしにするぞって脅したから
このダークエルフは
しおらしくしているだけなんだろうけれど。
それが仲間の同情を
誘っちまう結果になるとはなぁ。)
ラックは口を開いた。
「エリックはどうするのが正しいと思う?
当事者の一人としての意見をくれないか。 」
エリックは少し悩んだ様子を見せる。
「その子を殺しても何も得られませんよね。
家族を殺されて失った人は
このダークエルフの少女の命を
奪えば救われるのでしょうか。
多少は気が晴れるくらいのものです。
何か、深い事情があったというなら
情状酌量の余地もあるのでしょうが。」
ラックは首を横に振った。
「このダークエルフから名前や事情など
あらゆる情報を聴き出してはいけない。
それを聞いてしまったら
ダークエルフの勢力から標的にされる恐れがある。」
ラックにエリックは微笑みを向けた。
「じゃあ、お金でこの子を
ラックさんが買うという形ならどうでしょうか。」
ラックは右手で顔を覆った。
「買う? マジか。くそ!
うぬぬ。思わぬ出費になるが仕方ないか。
そこら辺が落としどころってやつかなぁ。」
ラックにエリックは笑顔を向けた。
「俺の取り分、金貨25枚も
この子の買取りに使ってくれてもかまいません。」
ラックはブスっとした顔をした。
「いらん! エリックの取り分は
俺の家で働くための支度金みたいなもんだ。
他のみんなも寄付とかいらないからな。
全額、俺が払う形にしてくれ! 」
(仕方ない。あれを使うか。)
ラックの肩をバーナードは叩いた。
「さすが俺たちのリーダー!
太っ腹だな! お前はやっぱり人間だ! 」
テューネが口を開いた。
「ラックに嫁がいなかったら
あたいをもらって
もらいたいくらいには男気を感じたよ。」
ラックにノーラは抱きついた。
「ラックさんの慈悲深さに感動しました! 」
盗賊団頭目ゼノガとラックは
村の頭目の自宅で交渉をした。
ラックはダークエルフの身柄を買い取りたいと
交渉すると頭目ゼノガは金品の受け取りを断った。
「ダークエルフはどうぞお連れになってください。
俺たちが捕えたわけじゃありませんので
自由にして頂いてかまいません。
それに貴方方に無礼を働いた俺たちの命を取らず
それどころか、この村まで救って頂いた。
本来ならこちらから金品をお支払いする立場です。
貴方様から金品を受け取れる立場ではありません。
盗賊とはいえ、そこまで落ちぶれたくねぇです。」
ゼノガは両目から涙を流して訴えた。
ラックはタダで済むならそれでいいかと悩んだが
この『ラオの森』から盗賊団を撤退させないと
この次はどの勢力が
この森の支配権を取りに来るかがわからない。
いずれにせよ、
この森から人間は撤退させるべきであった。
撤退には当然、費用が必要になる。
「いずれ、この森に、またダークエルフや
悪魔がやってくるかもしれないです。
この森から出るための
費用を稼ぐために俺たちを襲ったわけですから
金品を必要ないと言われても説得力がないです。」
ラックは金を受け取らせる方向に話を始めた。
「では、不躾なお願いと思いますが
お金を無利子でご融資しては頂けませんでしょうか。
この森を出て、暮らしが安定したらお金は
必ずお返しいたします。
もしも余裕があればいくらかの利子をお支払いします。」
ラックにゼノカは頭を下げた。
ラックは「うむ。」と頷いた。
「わかりました。
では、おいくらぐらい融通すればいいのですか? 」
ゼノガは申し訳なさそうに上目づかいをした。
「金貨にして1000枚ほどあれば助かるのですが。」
ラックは歯ぎしりしたい気持ちを必死で抑えた。
「いいでしょう。とりあえずこれを渡します。」
そう言ってテーブルの上に大金貨を置いて
頭目の方に大金貨を滑らせた。
ゼノガは大金貨を手に取って持ち上げた。
「これは大金貨!
初めて見やした。
金貨100枚の価値でしたよね。」
ラックは暗い顔をした。
大金貨はテレサから
結婚祝いでもらったものであり
実はテレサの気持ちを
ラックはとても嬉しく思い、
大金貨は使わないで
部屋に飾るつもりだった。
「残りの金貨900枚は
後日、エリックに届けさせます。
もちろん無利子でかまいません。
本来発生するはずの利子分で
ダークエルフを買い取ったとしましょう。
しかし、融資である以上は
返済義務が発生する事はお忘れなきよう。
音信不通になって逃げても構いませんが
その時は俺が問答無用で魂を奪いにきますからね。」
頭目ゼノガはテーブルの席から立ち上がると
その場で両膝をついた。
「はは~! かしこまりましてございます。」
と言って床に頭を擦り付けて平伏をした。
はじめまして。
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