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グリフォン

 『ラオの森』中央の道。


ラックは馬車の操縦席で目を瞑って


腕を組んで胡座あぐらをかいている。


ラックの乗る馬車の頭上には


ノーラが作った光る球体が辺りを照らしている。


閉じていたまぶたを開けた。


「来たか。エリック、よくやった。」



 バサァァァァ! っと


草むらからエリックが飛び出してきて


道の地面に体を回転させてひざをついた。


「やっと、着いたぁ。


ラックさん!


敵の首領っぽいのを連れてきました! 」


エリックは馬車に駆け寄った。



 ラックは笑顔をエリックに向けた。


ラックは馬車の操縦席から飛び降りて


エリックの肩を軽く叩いた。


「エリック。ご苦労さま。


ここからは俺に任せてもらえるか。」



 バババババババサァァァァァ! と


体長3メートルはあるように見える土蜘蛛アーススパイダー


木々をなぎ倒して道に大きな体を現した。



 ラックは土蜘蛛にゆっくり歩み寄る。


ラックは眉間みけんしわを寄せて厳しい顔をしていた。



 土蜘蛛はラックに向かって糸を吐いた。


土蜘蛛の糸にラックの体はグルグル巻きにされる。



 「ラックさん! 」


エリックは不可視の大剣を両手に持って構えた。



 「エリック! 大丈夫だ!」


ラックから大きな声が聞こえた。


「『爆発勁』」とラックの声が発せられた。


ラックに巻き付いた糸から


ラックのオーラが浸透しながら


土蜘蛛の体へと伝播していった。


ブッチチチチツ! とラックは


体に巻き付いた糸を力づくで引き裂いた。



 土蜘蛛に騎乗していたダークエルフは


驚愕の表情を浮かべた。


「素の力で土蜘蛛の糸を切るなど。


人間ごときの力でそんなことが・・ありえん! 」



 ラックが放った発勁は土蜘蛛の体へ浸透していった。


「弱いなぁ。もうちょっと骨があるかと期待してたのに。」


ラックはそう言い放つと、親指と中指で


パチンッ と音を鳴らした。



 バァァァァン! バァァン! バァン! と


土蜘蛛の各部位から爆発が起こって


土蜘蛛の体を粉々にしていった。



 ダークエルフは爆発に吹き飛ばされながらも


態勢を整えて地面に着地する。



 降りかかる土蜘蛛の体液が


爆発し続けてダークエルフは


闇の霧を発生させて爆風を防ぐが


その爆風に耐えきれず吹っ飛んで地面を転がる。


「なんだお前!!!


お前、絶対に人間じゃないだろ! 」


ダークエルフはラックに向かってそう叫んだ。



 ラックはため息をついた。


「いまは人間だよ。


昔の俺は精霊界でも有名だったよ。


天空を支配した『地獄眼ヘルズアイ』だったっけ。


そんな感じで呼ばれてたっけな。」



 ダークエルフは呆然ぼうぜんとした表情を浮かべる。


「え・・・ヘルズアイ。


お前が精霊界を紫の光で焼き尽くした魔神だっての?


馬鹿な冗談だ。そんなわけない。


そんなことあるはずがない! 」


ラックに向かってダークエルフは両手をかざした。


「闇に呑まれろ!『ダークファイア! 』!!! 」



 ラックの体の周囲に黒い霧が発生した。


ラックの体は黒い炎が発火して燃え上る。


ラックは黒い炎に包まれながら


「あはは。正体を明かしたのに


こんなしょうもない攻撃してくるとはなぁ。


お前、ダークエルフ三大支族の中の末端か? 」


ラックは黒い炎に包まれた事を気にもせず


ダークエルフに歩み寄っていく。



 ダークエルフは爆風によって


衣服は破れ、体は傷だらけになっていた。


ダークエルフはヨロヨロと立ち上がる。


「なんなの・・この異様な威圧感は。


本当に地獄眼だというのか。


そんなことあるはずがない。


そんなことはあってはならないのだ!


召喚! 『グリフォン』」


ダークエルフは地面に両手をつけた。


青白い光が地面を走り、召喚陣が発生した。



 召喚陣からグリフォンが姿を現した。


グリフォンの首には金の首飾りが


取り付けられており、モチーフには


ルビーのような大きな宝石が輝いていた。



 エリックは驚いた顔をグリフォンに向けた。


「帝国の守護獣『アルフレッド』か。」


エリックはそうつぶやいた。



 「グリフォン相手にどう戦う?


自称魔神様! 」


ダークエルフはヨロヨロと


グリフォンに近づくと


グリフォンの背に飛び乗った。



 ラックの表情は哀れみの色を浮かべた。


ラックは、バッと右手で宙を払う。


すると、ラックに


まとわり付いていた黒い炎はかき消えた。


「グリフォンとかいうけれどさぁ。


首飾りにつけた精霊石の力で


ガチガチに縛って弱体化してんじゃん。


弱体化しないと神獣を


制御もできないなんて


お前、やっぱり三下さんしたもいいとこだな。」



 ダークエルフの顔から汗が滴り落ちた。


「なんで・・・


なんでお前が精霊石を知ってるんだ!? 」



 「だって、それ作ったのは俺だからだ。


精霊石は全部で5個あるんだが


4つは俺が、とある場所に所有してんだ。


5つ目はどっかで無くしたんだが


こんなところにあるとは嬉しいなぁ。」



 「お前が作っただと!?


意味のわからないウソをつくな! 」


グリフォンの翼が風を起こした。



 グリフォンが放った風から竜巻が起こり、


巨大に膨れ上がった竜巻はラックに襲いかかった。


ラックは竜巻を右手で触る。


「心意気功術『反射』!!! 」


ラックの右手から放たれたオーラで竜巻が


方向を変えてグリフォンに襲いかかる。



 「撥ね返しただと!? 」


ダークエルフは狼狽しながら


グリフォンに命令を与える。


「竜巻で押し返せ! 」



 グリフォンは翼を、はためかせて


竜巻を発生させて、


遅いくる竜巻を相殺させようとした。



 ラックがね返したした竜巻と


グリフォンが再び起こした竜巻がぶつかる。


周囲の森の草木や土を巻き上げながら


2つの竜巻がぶつかった。



 ラックの撥ね返した竜巻は


グリフォンの起こした竜巻を飲み込んで


更に巨大化してグリフォンに襲いかかった。



 「飛べ! 」とダークエルフは


グリフォンに指示を出すがもはや遅かった。


巨大な竜巻にグリフォンは飲み込まれて


竜巻の周囲を回りながら宙に上昇していく。


竜巻の風圧でダークエルフもグリフォンも


体がズタズタに引き裂かれていく。



 ラックは両腕を腰で引き絞ると


『覇』!!! 」と叫んで


両手を前方に思い切り突き出した。


ラックの両手から放たれた衝撃波が


巨大な竜巻に当たると竜巻を打ち消した。



 ズダン! ズダン! バタ! バタ! ズン! と


竜巻が飲み込んだ石や木々が地面に落下してきた。



 ドン! ドン! と体を引き裂かれたダークエルフと


グリフォンが地面に落下した。


ダークエルフの意識はなくなっていた。



 瀕死で、もがくグリフォンにラックは近づくと


グリフォンの首飾りから


ラックは精霊石を引きちぎって左目の前で掲げた。


「これは俺の体の一部であり


お前ら、精霊界の住人たちの


数百万、数千万の魂で出来てる。


俺の体の一部なんだから返してもらうぞ。」


精霊石は赤い光体となって


ラックの左目に吸収された。



 グリフォンの横にラックはかがむ。


「神気を分けてやる。」


グリフォンの体をラックは両手で触れた。


すると、グリフォンの体が再生していった。



 グリフォンは我に返った。


「我は何者かに


操られておったのか・・・


ううう・・・お前が助けてくれたのか。


我はアルフレッドと申すグリフォンである。


お主は何者であるか? 」



 ラックは立ち上がると


「人間になった地獄眼ヘルズアイだ。」とだけ言った。



 グリフォンは目を丸めた。


「・・・地獄眼も人間界に・・・


地獄眼とは恐れ入りました。


汝に命を救われた事は深く感謝する。


で、我はなんじ


仕えればよろしいのですかな? 」



 ラックはダークエルフの方に体を向けた。


「いらん。


騎乗するための馬はもういるからな。


その馬をもしも返還したら改めて話をしにくるかもな。


その日までは今まで通りに行動してくれればいい。」



 グリフォンは4本の足で立ち上がると


「相分かった。汝のいまの名を聞かせてもらえるか。」



 グリフォンに振り返りもせずに


「ラックだ。」とだけ、ラックは答えた。



 グリフォンはラックの答えを聞いて頷くと、


翼をはためかせて宙を上昇し


星空が煌めく夜空へと飛び上がっていくと


グリフォンは北西の空へと消えていった。







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