天使の羽根
ラックは「ラオの森」の中央付近で馬車を止めた。
ラックは馬車の操縦席で目を瞑っている。
白銀に光る一枚の羽根がラックの耳元に舞い降りる。
「ラックさん、ラオの森、
北西をテューネさんが制圧中。
南西をバーナードさんが制圧中。
北東はわたくしが制圧しました。
南東にてエリックさんが
大蜘蛛と遭遇、大蜘蛛の背には
褐色の肌をした亜人が騎乗していると
エリックさんから報告ありました。」
ラックは報告に耳を傾けていた。
「了解。ノーラさん、ご苦労さま。
ノーラさんは
北東にある盗賊団の村に留まって警戒を。
エリックには改めて作戦優先と指示して。
ノーラの天使の羽根にて
エリックへの支援と援護をよろしく。」
「わかりました。精一杯がんばります。」
ラックの耳元に顕現した羽根がフワリと操縦席に落ちた。
ラックはまた瞼を閉じた。
(エルフか。エルフだって、異界の怪物のはずだ。
しかし、普通のエルフは人間たちには
エリックからの話では
なぜか『亜人』として認識されている。
エルフが属する精霊界を
俺は5度、滅亡させている。
人間は歯応えがないから
暇つぶしのつもりだったが
精霊界の戦士は戦闘力が高くて
ちょっとだけ滅ぼしがいがあったなぁ。
精霊大神から『やりすぎ!
粘着とかウザいからやめて。』と
苦情を言われて俺は侵略はやめたが
精霊大神とは仲直りして友だちになれた。
肌が黒いエルフは精霊界の
世界樹を中心とした大森林の外側に住む民。
農耕民族で怪物を使役する事に長けた種族。
精霊界ではダークエルフの社会的地位は低い。
俺は、本来ならその肌の黒いエルフとやらと
話し合いをもって解決したかったが
すでに、人間を複数、殺している事実がある上に
人間に襲いかかる意思を俺たちに見せた。
俺の気功術『六道修羅』は
かけられた者の攻撃力と防御力を飛躍的に上げる。
しかし、所詮は人間。
上昇する能力値には、やはり限界はある。
黒きエルフ・・・ダークエルフ相手には
エリックでも少し分が悪いかもしれないな。」
『ラオの森』南東付近。
「人間如きがなんでこんなに強いんだ! 」
黒蜘蛛に騎乗するダークエルフがそう叫んだ。
黒蜘蛛の周囲には大鬼の死体が
何十体も死体が地面に横たわっている。
大鬼の死体には
矢で射抜かれたような傷跡が無数に残っていた。
ダークエルフの顔には焦りの色が浮かんでいた。
「どこに隠れやがった金髪の小僧! 」
(マナでの探知にひっかからないとは。
マナの術に精通した人間なのか?
そんなことがあるのか? )
シュッ と目には見えない矢が
ダークエルフの顔を目掛けて飛んできた。
しかし、ダークエルフの
体の周囲に漂っている黒き霧に当たると
矢は消滅して、かき消えた。
カンッ カンッ と大蜘蛛の甲殻から
矢が当たった音がしたが大蜘蛛の甲殻に
傷一つ、つかなかった。
ザッ ザッ ザッ と足音とともに
金髪の人影が大蜘蛛の前に姿を現した。
その人影はエリックであった。
「あんた、雑魚ではないらしいね。」
エリックは片膝をついて腰をおろした。
エリックは弓を持ってはいないが
弓を構える動作をした。
エリックは弓を引く動作のあと右手を離した。
ヒュンッ! と不可視の矢が
エリックから放たれた。
カンッ と大蜘蛛の目の一つに当たったが
まったく効果はなかった。
「あははは! お前ごときの攻撃で
土蜘蛛に傷などつけられん。
我が配下を殺した罪を死んで償え! 」
エリックにダークエルフがそう叫ぶと
土蜘蛛の口から無数の糸が発射された。
エリックは不可視の剣を構えると
襲いかかる無数の糸を
エリックは素早い剣裁きで弾いた。
しかし、糸の勢いは衰えず
何度も何度も土蜘蛛の糸は
エリックに襲いかかった。
「殺した罪を死んで償えか。
こっちも何十人も仲間を殺されている身なんでな。」
ラックは剣で糸を弾きながら後退していく。
ラックは構えを解くと
背後の木の後ろにサッと隠れた。
土蜘蛛の糸が木に巻き付くと
糸を引っ張る力で木をなぎ倒した。
そこにはエリックの姿はなかった。
ダークエルフは首をかしげた。
「逃げたのか? 」
ダークエルフの探知に人間の気配が感知された。
「探知にひっかかった。
あの人間、道に向かっているのか。
仲間と合流しようって魂胆だな。
仲間もろとも殺してやる! 」
土蜘蛛の八本の足は動き出した。
木々を避けながらエリックの後を追った。
エリックは木々を防壁にしながら
森の中央に向かって走っていく。
土蜘蛛から放たれる糸が
周囲の木に絡み、
木を軸にして屈折しながら
縦横無尽に
エリックに襲いかかってきた。
エリックはなんとかそれを回避するが
エリックの体には糸の攻撃によって
多くの傷が出来ていた。
エリックはたまらず地面を転がった。
エリックは転がりながら
腰のポケットに手を入れて羽根を1枚出した。
その羽根を空中に投げると
白銀の羽根が3枚に分裂して、
エリックの体の周囲を囲む。
白銀の羽根の付け根から
エリックに向けて光が放たれた。
羽根からの光はエリックの
体の傷を癒やし、体力を回復させた。
「ノーラ、助かったよ。
蜘蛛から逃げるのは本当にキツイな。」
エリックはそう呟くと素早く態勢を整えて
土蜘蛛の無数の糸攻撃を
不可視の剣で弾き飛ばす。
エリックは腰を上げると
また森の中央に向かって走り出した。
はじめまして。
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