衝撃の戦斧
「ブエレンの街に生存者は確認できなかった。」
昼食が終わり、まったりしている仲間達に
ラックはブエレン偵察の結果をそう報告した。
ラックには人間の魂を遠くからでも
確認する能力がある。
ラックは街に生存する人間がいないかを
目で見て確認していた。
しかし、生存する人間の魂は一つもなかった。
仲間達にその能力を話す事は出来ないので
ダンジョン化した街の様子を語るしかなかった。
バーナードは真剣な顔をした。
「ダンジョン化しちまったら
街の中に潜んで生きるなんて難しいだろうな。」
ノーラは悲しげな表情をした。
「住人の皆さまのご供養をしてあげたいですね。」
テューネは眉間に皺を寄せた。
「供養するならダンジョンを攻略して
街を取り戻さなきゃだろうねぇ。」
バーナードが口を開いた。
「ダンジョンを攻略した冒険者は
まだいないんだぜ。
S級冒険者は何故か、
ダンジョン攻略には行かないしなぁ。
あいつらならダンジョン攻略だって
余裕だろうによ。」
ラックの脳裏にふとした疑問が浮かんだ。
「俺はダンジョンに詳しくないから訊くけれど
ダンジョンを攻略したら
何か得する事でもあるの? 」
「「レベル上限解放。」」
バーナードとテューネが同時に言った。
ラックが目を大きく開けた。
「上限の100から
どの程度、レベル解放されるの? 」
バーナードが首をかしげた。
「それはわからん。
誰が言ったのかもわからんが
ダンジョンを攻略したら
レベルキャップが外れるというのが
昔からの常識になってるな。」
ラックが口を開いた。
「へぇ~。もし、200まで解放されたら
強力なスキルを2つも極められるんだね。」
テューネが「ふふふ。」と笑った。
「理論的にはそうだけどね。
経験値100にするだけでも難しいんだ。
レベルが上るほどに強い怪物と戦わないと
まともな経験値なんてもらえやしない。
バーナードがレベル82なんて
どうやってなれたのか訊きたいよ。」
バーナードは口を開く。
「オレは北の洞窟が狩場だな。
あそこの殺人アリは人間や家畜を襲うし
農作物も食い荒らす、
だから討伐クエストの依頼も頻繁に出る。
数が多いし、動きは単調だが弱くはない。
断罪のスピアは奴らには
高いダメージを与えるんだ。
やつらの素材はギルドが良い値段で
買取りしてくれるんだぜ。
自分に合った狩場を得る事が
レベルアップの近道だな。」
手に持ったグラスの酒を飲み干した。
「北の洞窟の殺人アリがカモだなんて
嫌味もいいところだよ。
あたいじゃ、殺人アリの固い甲殻に
傷の一つもつけられやしないよ。」
エリックが興味津々な顔で口を開いた。
「オレっち、今まで武者修行のつもりで
怪物たちと戦ってたんですけれど
冒険者になったらお金にもなって
スキルまで得られるんですね。
考えてみたら、このクエストの報酬も
オレっちはもらえないわけで。
オレっちも冒険者登録していれば
もっと楽に暮らせてたんすね。」
「「ああぁ~~~。」」と
エリック以外の4人は同情するような声をあげた。
ラックは席を立ちあがると
エリックの肩を手でトントンと叩いた。
「エリックの頑張りがなかったら
このクエストは成功しなかった。
俺の取り分の報酬から半分をエリックに渡すよ。」
「ラックさん、いいんすか!?
ここまでのオレっちの飲食代も
全部、払ってくれているのに。」
肩に乗ったラックの手をエリックは強く握った。
ラックは大きく頷いて
「帝都に帰ったら冒険者登録もすればいい。
うちでの執事の仕事をしながら
冒険者で副業してくれてもいいからね。
エリックの実力なら収入的には
すぐに執事が副業になっちゃうだろうけれどね。」
「オレっちはなんて
素晴らしい主君に出会えたんだ。
ご主人様、生涯の忠誠を誓わせてください。」
「うん。ラオの森の怪物を俺が倒したら
絶対に一生懸命に働いてくれよな。
エリックって手を抜くの上手そうだから
一生懸命になってくれるかが本当に心配なんだ。」
「それはもちろんですよ。
ラオの森の怪物には
オレっちだけでは太刀打ちが難しかった。
あいつらもマナの力を使うんです。」
ラック以外の3人は驚いた表情をした。
バーナードが口を開いた。
「マナの力だったのか!
異界の怪物の強さはそういう事か。」
バーナードは苦々しい顔をした。
テューネが口を開いた。
「異界の怪物で一番弱いと
言われているゴブリンでも強いよ。
ゴブリン討伐に行ったA級パーティーが
全滅させられたって話が
ごくごくたまにあるくらいだからね。
あたいは異界の怪物とは戦った事が無いよ。」
ノーラが申し訳なさそうに口を開いた。
「そんなに強い怪物なら
わたくしは何のお役にも
立てないかもしれません。
足手まといになるかもしれませんので
ラオの森では待機させて頂いた方が
よろしいのでしょうか。」
ラックは頷いた。
「出来れば、エリックと俺以外は
帝都に戻って欲しいくらいなんだ。
でも、それだと
俺とエリックの移動手段がなくなる。
『ボモガロ』の街で待機してもらいたい。」
バーナードはテーブルに両手をついて
勢いよく立ち上がった。
「おい! なんでそうなるんだよ。
オレたちもついていくぜ。
盗賊団の村を守るくらいなら
オレたちにも出来んだろ。」
「あたいもダスティンとなら最強になれるよ。」
テューネは人面剣を腰から持ち上げた。
「もしも、怪我人が出たら
回復ができるわたくしがいた方が良いと思います。
戦闘ではお役に立てませんが
治療ならわたくしは役に立つことができるはずです。」
ラックは額に手を当てた。
「おいおい。みんなは冒険者だろ。
今回はクエストじゃないんだ。
折角、みんな無事に帝都に帰れるってのに
なんで、わざわざ死地に赴こうとする。
ハッキリ言うけれど
異界の怪物は食屍鬼より強い。
しかも、俺とエリックとは別行動だ。
みんなを助けることだって出来ない。
お金にもならないのに命をかける必要はない。」
バーナードはテーブルを両手で叩いた。
「ダチを助けるのに金取る馬鹿がいるかよ! 」
テューネは人面剣を手で掲げた。
「報酬はダスティンでいいよ! 」
「それは絶対に駄目!!! 」
テューネにラックは即答した。
「ケチ! 」と言って
テューネはラックに向かって
思い切り舌を出した。
「わたくしは神官です。
助けを求める人がいるのなら助けたいのです。」
ノーラは控えめな声でそう言った。
エリックは苦笑いした。
「もう何を言っても無駄みたいですよ。
オレっちの我儘に
みんなを付き合わせてしまうのは心苦しいですが
あえて、みんなに甘えてしまってもいいですか? 」
ラックが口を開いた。
「おい! エリック、本気で言ってるのか? 」
エリックは頷いた。
「オレっちたちは
パーティー『ダンデライオン』という仲間で
いわば家族みたいなもんじゃないですか。
オレっちとラックさんが
怪物を討伐したって
村人たちが殺されたら意味ないです。
村人たちの手当てや護衛、
避難を誘導できる仲間が
いてくれた方が心強いです。」
ラックはお手上げという顔をした。
「バーニーの断罪のスピアは
強力な武器だけれど、特性が限定されすぎている。
この街の武器屋で汎用性のある武器を探さないと。」
ラックにエリックが目を向けた。
「武器といえば、馬車の荷台に強力な武器が
あったんですけれど、
あれはバーニーのではなかったんですね。」
ラックは思い出した。
「ああ。あの戦斧か。
あれをエリックは知ってるのか? 」
「知ってますよ。
かつて、コルクスター公国の
将軍だったミエド・アルキンダって人の武器ですね。
オレっちが子供の頃はミエド将軍は有名でしたよ。
コルクスター公国とエトミア公国との戦争で
ミエド将軍は捕虜になって以来、
消息不明になってしまいましたけど。
あの戦斧はミエド将軍の物だと思います。
子供の頃に何度か見ただけなのですが覚えています。」
ラックは口を開いた。
「あ。そうなの。
ギネタールでの戦争で敵兵から奪ったものだよ。
あの戦斧って何か特性ってあるの?
使ったけれど強い武器ってだけしかわからなかった。」
エリックは思い出すような素振りをした。
「特性ですか。確かありますよ。
あの戦斧は『衝撃の戦斧』と言いまして
敵に当たったら追加で
強い衝撃波が発生するって聞いたことがあります。」
ラックは思い出したかのような顔をした。
「そういえば、あの戦斧を使っていた兵士が
地面に戦斧を叩きつけたら
爆発したように土煙があがったな。
でも、俺が使ってもそんなの出なかったよ。」
エリックは「クククッ」と笑った。
「それはラックさんが衝撃波が発生する前に
敵を真っ二つにしたからじゃないですか? 」
ラックは腑におちない顔をした。
「そうなのかなぁ。
そんなに強い武器ならバーニーに貸してもいいよ。」
バーナードは嬉しそうな顔をした。
「あとで見せてくれ! 」
ラックは不安な顔をした。
「いいけれど、返してね。
テューネさんみたいに
カリパクしようとしないでね。」
バーナードはムッとした顔をした。
「馬鹿にすんな!
気に入ったら正当な金額で買い取る! 」
ラックは困った顔をした。
「だから、返却してくれるだけでいいから。
テューネさんも呪われた武器を愛剣に
しないで俺に絶対に返してよ。」
テューネは聞こえないと言わんばかりに
両手で両耳を塞いだ。
ラックは人に物を貸すのが嫌になった。
「昼間の森では怪物とは遭遇しなかったから
敵の怪物はおそらく夜行性だと思う。
食堂を出たら、馬車に乗って森に向かうよ。
森に着く頃には夜になっている。
盗賊団の村に着くまでに
怪物と戦闘になる事も想定しといてね。」
ラック以外の4人は大きく頷いた。
ラックら一行は宿屋『鳩小屋亭』の食堂を
出ると、外に停めていた馬車に乗り込んで出発し
『ボモガロ』の街をあとにした。
はじめまして。
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