異界の怪物
「どうしよっかなぁ。」
馬車の操縦席でラックは呟いた。
ブエレンの街近くの丘で
野営していたラックら一行は
馬車に乗り込んで帝都に向かって進行している。
ラックの左横に座るエリックが口を開いた。
「ラオの森の怪物を倒してもらいたいのは
山々なんすけど、一度、帝都に戻った方が
いいんじゃないっすかねぇ。」
ラックは考え込むような表情をした。
「帝都に戻ると、
奥さんから色々と用事を申し付けられそうなんだ。」
ラックの右隣りでバーナードは
「ははは!」と笑った。
「婿養子ってのも辛いな。」
「まだ、住む場所も決まってないからね。
うちの奥さんが焦っている気持ちもわかるんだ。」
ラックは困った顔をした。
エリックは口を開いた。
「それじゃあ、今は宿屋住まいですか。」
「うん。」とラックは返事した。
「宿賃が高いホテルでね。
長期間の宿泊は財政的負担が大きいんだよ。」
ラックに対してエリックは同情した。
「まだ生活も落ち着かない状況では
奥さんも不安でしょうね。
オレっちだけラオの森に残りますから
生活が落ち着いたらラオの森に来てください。」
バーナードが口を開いた。
「森の怪物って具体的な情報ってないのか? 」
エリックが「ありますけど。」と返事した。
「それが少し厄介な話なんすよ。
森の怪物って、森の獣が狂暴化するってのが
今までのパターンだったんですけれど
最近、現れた怪物はどうも違ってるんです。」
バーナードが首をかしげた。
「そこを詳しく話してくれよ。」
「はい。」とエリックは返事した。
「異界の怪物が現れ始めたんです。
最初はゴブリン、オーク、オーガ、コボルト。
それから巨大蜘蛛も現れたんです。
ラオの森は帝国の守護獣グリフォンの
縄張りなんですが、
なぜか最近、グリフォンの姿を見かけなくなった。
グリフォンがいたから、ラオの森は
怪物が住みづらい環境だったんすけれど
グリフォンがいなくなったラオの森は
怪物たちのやりたい放題です。」
「それだけ? 」とラックは言った。
「その怪物たちって
異界から来たんなら連れてきた奴がいるはずだよ。」
エリックは「え!? 」と言った。
「怪物って
何かの原因で自然に発生するんじゃないんですか? 」
「自然はないと思うよ。」とラックは言った。
「自然ってのは、獣の突然変異とか狂暴化でしょ。
異界から怪物が自然に来るって
すごく違和感を感じるけれどね。」
バーナードが口を開いた。
「オレも異界の怪物は自然に発生すると
思っていたんだが違うってのか? 」
ラックは「う~ん。」と考え込んだ。
「自然に発生するんだったら
それはもう異界ではなくこの世界の怪物として
定着してるってことになるんじゃないかなぁ。
どこかの土地に住み着いた異界の怪物が
繁殖して流れてくるって話なら納得はできるけれど。
それだけの種類の怪物が突然現れるってのは
なんだか、きな臭い話に思えるね。」
エリックが思い出したような顔をした。
「そういえば、盗賊団の村の子供たちが
肌が黒くて耳が尖った人間を
見たって言ってたんです。
耳が尖った人間なんてエルフのような特徴ですが
エルフなんて滅多に現れるものじゃないでしょ。
しかも、黒いエルフなんて
聞いた事もなかったので、、
それはきっとゴブリンだという話で
落ち着いたんです。
ですが、子供たちは今でもゴブリンでは無かったと
口を揃えていうんです。
ラックさんは黒いエルフが存在するなんて思いますか?
それとも新種の怪物か何かでしょうか。」
「黒いエルフかぁ。さぁ、どうだろう。」
ラックの目がギラっと光った。
「でも、俺の中で今後の方向が決まった。
ラオの森の怪物退治を優先するよ。」
バーナードが嬉しそうな顔をした。
「腕が鳴るぜ! 汚名返上のチャンスだな。」
ラックは目を丸くした。
「ちょっと! バーニーは参加しなくていいよ。
今回はクエストじゃないんだ。
報酬も出ないのになんで参加する必要があんの?
異界のモンスターの強さは
バーニーは知ってるでしょ。」
バーナードは「そっか。」と言った。
「しかしなぁ。
その間、待ちぼうけってのもつまらんしなぁ。」
「暇つぶしで命かけないでくださいよ。」
バーナードにエリックが呆れ顔で言った。
はじめまして。
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