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2つの思想

 老人の姿をした悪魔に案内されて


ラックは近くにある家屋の中に入った。



 家屋に二人は入った。



 「まさか、『紫』陛下が


人間に転生なさっているとは


思いませんでした。


紫の魔光を見るまではですが。」


リビング中央のテーブルの椅子を


老人の姿をした悪魔が引いて


その椅子に手を差し伸べた。



 ラックは頷いた。


「まぁ、人間になったのは


偶然のなりゆきだったけれどね。」


老人の姿をした悪魔が


引いた椅子にラックは腰を下ろした。


「お前、『黒』の配下の悪魔か? 」


老人の姿をした悪魔にラックは問いかけた。



 「はい。左様でございます。」


老人の姿をした悪魔は


ラックの正面の椅子に腰を下ろした。


「わたしの名はシェディムと申します。


何度か、『紫』陛下にお目通りしておりますが


覚えてはいらっしゃらないですかな。」



 「シェディム・・・なるほど、大物だな。


死霊しりょうを操る専門家スペシャリストがこんなところにいるとは。」


シェディムの事をラックは思い出した。


「お前みたいな大物がこんなところで


迷宮主ダンジョンマスターをしているのか。


左遷させんでもされたのか。」



 「左遷ですか。そうでもありません。


ここは帝都に対するくさび


かなりの重要な拠点となる予定でして。」


ラックにシェディムはそうこたえた。



 「そうか。詳しくは知らないが


各魔王が色々と動いているらしいな。」


ラックは漠然とした事を言った。



 シェディムは大きく頷いた。


「はい。ですが、各魔王勢力だけではなく、


天界、精霊界、竜界も


それぞれ思惑をもって動いておりまする。


それもこれも『紫』陛下の御意向が原因でして。」



 ラックはまゆを上げた。


「え!? 俺の意向って何? 」



 シェディムは驚いた顔をした。


「陛下。勇者を作る計画を


お忘れになられたのですか。」



 「ああ。それ、


こないだ思い出したとこ。」



 「では、人魔共存世界を作る計画は? 」



 「ああ。それもこないだ思い出した。」



 シェディムは肩肘をついて頭を抱えた。


「そうですか。


思い出してくださって、なによりでございます。


統一神信仰の人間界は排他的であり


天使以外は魔族も精霊も竜も人間にとっては『悪魔』。


『紫』陛下の思想は、魔界だけではなく


精霊界、竜界にも大きな影響を与えました。


精霊も竜も悪魔と人間から見なされている以上、


人魔共存なる思想に共感するのは必然。


天界でさえ、『紫』陛下の思想に共感しておりまする。


陛下の2つの思想に影響を受けて


各界は『紫』陛下の2つの思想を


独自の解釈をして思想に変化を加えながら


各界は協力したり、敵対をしたりしながら


人間世界に影響を与え続けております。」



 「・・・俺って、霊体になって漂っている間も


この世界に影響を与え続けてたってこと?


なんというか。みんな、暇人なのかなぁ。」



 ラックの言葉にシェディムは眉間にしわを寄せた。


「陛下がそんなことをおっしゃるとは。


各魔王、それに各界の代表は皆、陛下の信奉者となって


命がけで計画の実現に向けて邁進まいしんしております。


『紫』陛下が復活されたとなれば、


陛下が五界の旗頭となって


この世界を率いて導くべきではありませぬか。」


ラックにシェディムは語気を強めてそう言った。



 ラックは両手で頭を抱えた。


「無理! 話が大きすぎてついていけない。


俺はいまは一人の人間として生きているんだ。


過去の俺とは、もうグッバイしちゃったの。


各勢力の代表は、大人だし、


権力も軍隊も持ってるんだろ?


それぞれ、独り立ちして自分の思惑通りに頑張れよ。」



 シェディムは困った顔をした。


「そうですか。


それが『紫』陛下のいまの御意向でらっしゃいますか。


しかし、『紫』陛下の復活が各勢力に知られれば


『紫』陛下に接近してくる勢力も当然出てきましょう。


そうなっても知らんぷりを決め込められますかな。


『紫』陛下の直臣も


陛下の思想に沿って動いておるようですぞ。」



 ラックはテーブルに両手をついて腰を上げた。


「知るか!


あいつらには今は別の主君がいるし


俺の知ったこっちゃない!


俺の平穏な日常を脅かす勢力がいたら潰す! 」



 シェディムは悲しそうな顔をした。


「各世界から


厚い尊敬を集めている『紫』陛下の言葉とは


思えませんが、しかし、


それが『紫』陛下の現在の御意向というのは


事実なのでしょうな。」



 ラックは椅子に再び腰を下ろした。


「そういうことだ。


で、なんでここにダンジョンを作ったのか、


詳しく説明してくれる? 」



 「ええ。わかりました。


話が長くなりますので


かなり手短に申しますが


『冒険者』。それは人類の進化の希望。


冒険者とは人間よりも強い種族に


立ち向かう戦士たちを指すでしょう。


『黒』の勢力は迷宮ダンジョンを各地に作り


冒険者達を引き込んで冒険者達の成長をうながす。


『黒』の勢力は


人類の戦闘力の底上げをになっております。


勇者を作る上での土台作りの為に


迷宮ダンジョンを作っておりまする。」



 ラックは肩肘をついて手で頭を支えた。


「ふ~ん。それはいいんじゃない。


人間の敵対心をあおるために


街を襲って迷宮を作ったのかな。


悪魔の立場の俺がどうこうは言えないな。


天使が動かないという事は黙認されているのか。


なんだか世界が歪み始めてはいないか。」



 シェディムはため息をついた。


「陛下が歪みを指摘しますか。


理想の実現のためには


小事に目をつむって理屈を飛躍させねば


何も前には進まない。


そうおっしゃったのは


『紫』陛下ご自身ではありませんか。」



 ラックは右眉を上げた。


「え? 俺って、そんなこと言っちゃってた?


恥ずかしい。マジで俺って恥ずかしい奴じゃん。


そんな事実から目を背けて生きていきたいわ。」



 「『紫』陛下は今後、どうなさるおつもりですか。」



 「え?


人間として普通に暮らして生きていく予定だけれど。」



 シェディムは微笑んだ。


「では、陛下は人間の一個人として


人間としての幸福を追求されていく。


各勢力とは距離を取って部外者の立場を貫く。


そう解釈をして宜しいのですか。」



 ラックは大きく頷いた。


「理解が早くて助かるよ。」



 シェディムは椅子から立ち上がった。


「では、わたしから話すことはもうありません。


陛下の幸せを祈っております。」



 「ああ。サンキュな。


迷宮ダンジョンを壊して悪かったな。


俺は帝都に帰るとするよ。


『黒』には宜しく伝えておいてくれ。」


ラックは椅子から立ち上がると


出口に向かって歩き出した。



 シェディムも椅子から立ち上がった。


「はい。『黒』陛下にはそう伝えておきます。


この迷宮はすぐに修復させる事はできますが


『紫』陛下はそれを黙認してくださいますか。」



 ラックはシェディムを見ない。


「ま、いいだろう。黙認しよう。


俺には全世界を敵に回してまで


成し遂げたい目標なんて、今はないからな。」



 家屋の出口を出たラックを


シェディムは深く頭を下げて見送った。



 ラックは夕焼けに染まる空を見上げた。


「俺って何のために復活したんだっけ。


偶然? 必然? わからん。


行きあたりばったりで生きていくしかないのかな。」


ラックは仲間の待つ馬車へと向かって走り出した。








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