迷宮になった街
(ダンジョンに入るなんて、いつぶりだろう。)
ブエレンの街を囲む高い壁をラックは見上げた。
シュッ! ズサッ!と
壁の上から放たれた矢がラックの前の地面に刺さった。
地面に刺さった矢をラックは屈んで手で抜いた。
(ほう、死属性。即死させる矢か。)
次々と無数の矢が壁の上から降り注ぎ始めた。
数本のラックに矢が当たったが
ラックに当たった矢は力を失ったように
地面に落ちていった。
手の持った矢を捨ててラックは壁沿いに歩く。
(ダンジョンの周囲は怪物はいないのか。)
ラックはブエレンの街の正門の前に立った。
(門は閉じているな。
さて、ダンジョンなら迷宮主がいるよな。)
ダンジョンって悪魔にとっては城だ。
ここを拠点として何か帝国に仕掛ける気なのか。)
ラックは正門の巨大な扉を両手で触れた。
ラックの左目が紫の魔光を纏う。
「心意気功術『覇撃』!!!」
木造の扉に無数の亀裂が走る。
木造の巨大な扉が崩れ落ちていった。
多くの木片がラックに降り注いできたが
ラックは気にもしなかった。
ラックの視界に街並みが広がった。
(ブエレンって大きな街だなぁ。
山に囲まれた盆地で交通も不便な土地なのに
なんでこんなに大きな街ができたのか。)
ラックは門の前で街の様子を伺ったが
街に怪物の姿は見当たらなかった。
(省エネモードってやつか。
ダンジョンモンスターは
魔力で具現化した召喚モンスター。
意味なく具現化をしていたら魔力の無駄だもんな。)
ラックは正門を通ってブエレンの街に足を踏み入れた。
すると、街の地面に無数の召喚陣が展開しはじめた。
(おでましか。)
ラックの周囲の召喚陣から
骨で出来た狼たちが姿を現した。
遠巻きに鎧を着た骨戦士も無数に現れた。
骨狼が集団でラックに襲いかかった。
ラックは骨狼たちはラックに噛み付いた。
襲いかかった骨狼の大群によって姿が見えない。
ラックを襲った骨狼の大群の山の中から
「『覇』!!!」ラックの声が聞こえた。
山の中心から衝撃波が放たれ
ドーーーーン!!!っと、爆発したかのように
ラックの周囲の百を超える骨狼は空中に吹き飛びながら
骨狼の骨は粉々に砕け散った。
(この程度の強さか。
これなら冒険者団体でもギリギリで勝てるかもな。)
ラックは頭や肩に乗った骨の欠片を手で払った。
今度は遠巻きにいた数十体の骨戦士たちが
斧を振り上げながら襲いかかってきた。
遠巻きの地面にまた召喚陣が展開されて
今度はローブを着た骨魔術師が
数十体、姿を現した。
(戦力を小出しにしてくるんだね。)
ラックは両手の親指と人差し指でタメを作った。
襲ってきた骨戦士たちに向けて
高速で手の指を弾いて連続で衝撃波を放った。
「『神気指弾』!!!」
ラックの指から放たれた小さな気で
出来た弾に当たった骨戦士は動きを止めた。
「神気ってのは心意(心の意志)で
事象を変換する効果も出せるんだ。
一々、敵の相手をするのも面倒なんでね。
支配権を俺に渡してもらう。」
骨戦士は後ろを振り返ると
なんと、骨魔術師たちに襲いかかり始めた。
骨魔術師たちは何も出来ずに
骨戦士たちの斧で体を砕かれた。
「俺の心意で強化された骨戦士は強いよ。」
ラックは52体の骨戦士の支配権を神気で奪った。
ラックは同時に骨戦士を
神気で強化して精鋭部隊へと昇華した。
地面の無数の召喚陣から姿を現す骨の怪物たちを
ラックが支配する骨戦士が次々と撃破していく。
ラックからかなり離れた前方に
巨大な召喚陣が浮かび上がった。
(もう、中ボス戦かな。)
ラックは自分の周囲に魔石が転がっているのを見た。
(迷宮怪物は魔石が核となってるんだっけな。
悪魔の特性が俺に残っているなら吸収できるかな。)
紫の魔光を纏った左目で周囲の魔石を視認した。
すると、ラックの視認した無数の魔石が
魔力の塊となってラックの左目に吸収された。
(魔力適正は持ってるけれど
使える魔力を持ってなかったんで、これは助かるなぁ。)
巨大な召喚陣から骨翼竜が姿を現した。
ラックが支配する骨戦士たちが骨翼竜に襲いかかった。
ラックが支配する骨戦士たちは骨翼竜の四本足の骨に
斧で傷をつけることが出来た。
しかし、傷ついた骨翼竜の足の骨はすぐに再生をした。
(超再生特性を持ってるってわけか。)
ラックは歩きながら
地面に落ちた魔石を左目で吸収していく。
ラックが支配した骨戦士たちは
骨翼竜の足に次々と踏み潰され
骨戦士たちは数を減らしていった。
(所詮は骨戦士か。)
ラックは骨戦士たちが倒されても冷静だった。
骨翼竜は首をグルリと回しながら
周囲に瘴気の息吹を撒き散らした。
骨戦士たちは瘴気を浴びると、
骨戦士の骨は砂のようになって崩れていった。
(俺が倒さないとだめか。)
ラックはゆっくり歩いて骨翼竜の目前に立った。
骨翼竜は右前足でラックを踏みつけた。
踏みつけてきた骨翼竜の右足を
ラックは左手でパンッと弾いた。
骨翼竜は大きく右横に体勢を崩して
ズシーンッ! と右肩を地面につけて倒れた。
(魔石で魔力を溜めたし
魔法ってやつを使ってみるか
う~ん。詠唱はどうしようかな。
奇跡の力は俺という存在から引き出すか。)
ラックは目の前で自身の両拳を握った。
「魔界の主『紫』よ。
その権能を以って
我が拳にその威を纏わせろ!
パープルエンチャントナックル! 」
ラックの両拳が紫の魔光を纏った。
ラックに向かって骨翼竜は
口から瘴気の息吹を吐きかけた。
骨翼竜の息吹をもろともせずにラックは前進する。
「魔法適正MAXだと威力がありすぎるかなぁ。」
地面に横たわる竜の頭に向かって
ラックは手加減しながら右拳で拳撃を打ち込んだ。
ラックの右拳から紫の光が扇状に前方に放たれた。
紫の光を受けた骨翼竜は一瞬で消滅してしまった。
(ああ。やりすぎたか。)
ラックは両拳の魔法を解いて右手で頭を掻いた。
ラックから扇状に放たれた紫の光は
骨翼竜だけではなく
ブエレンの街の大半を消滅させていた。
(随分と見晴らしがよくなってしまった。)
地面に落ちている骨翼竜の大きな魔石を
ラックは左目で吸収した。
「カッカッカ!
相変わらず凄まじいお力ですな! 」
ラックの頭上から男性の声が聞こえた。
ラックは頭上の空を見上げた。
コウモリの翼羽ばたきながら
空中で停止する影があった。
(迷宮主の悪魔かな。
召喚怪物よりも
実際の悪魔と戦って力だめししたいな。)
ラックは大きく息を吸った。
「おまえは!? さては悪魔だな!
おりてこい!
俺は冒険者ラックだ!
この俺がお前をたおしてやる! 」
わざとらしくセリフを吐いて
空中にいる敵影をラックは挑発した。
空中の影が降りてきた。
ラックの正面にその影は着地すると片膝をついた。
ラックに向かって悪魔は顔をあげた。
人間の老人の姿をした悪魔だった。
ラックに悪魔は真剣な表情を口を開いた。
「ご復活おめでとうございます。
魔界を統べる『紫』の魔神アッシュベルク様。」
はじめまして。
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