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ブエレンの街

 ラックら5人は馬車に乗り込んだ。


体力が消耗しているバーナードとテューネ、


その二人を回復するノーラの3人は


馬車の乗車席に座った。


エリックとラックは馬車の操縦席に座った。



 なぜ、ブエレンを襲ったはずの不死魔術師リッチ


避難キャンプを偽装してまで街道に陣取ったのか。


クエストを達成はしたが色々と疑問が残っていた。


それを少しでも解決すべくラックら一行は


『ブエレン』の街に向かうことにした。


先ほどの食屍鬼グールとの戦闘での


バーナードとテューネの消耗は激しかった。


二人は次の戦闘を戦えるような状態とはいえない。


特にテューネの体力の回復がかなり遅い。


馬車の中でも継続的にテューネに


ノーラは回復法術を施した。



 エリックは横にいるラックに話しかけた。


人面剣ソードマンの力は強力ですけれど


かなりのリバウンドがあるみたいですね。」



 ラックはエリックを横目でチラっと見た。


「あれは呪いの武器とも言える一品なんだ。


使用者に力を与える代わりに使用者の精神や体を奪う。



 エリックはなんとなくそうじゃないかとは


思っていたのか、驚いた表情は見せなかった。


「そんな恐ろしい武器を使い続けたら


テューネの命に関わるんじゃないっすか? 」



 ラックは前を向きながら口を開いた。


「大丈夫。人面剣が力を加減して使ってくれてる。


本来は人面剣が使用者を乗っ取って力を発揮するから


本当なら使用者が消耗する事なんてないんだ。


でも、テューネさんは消耗している。


人面剣が使用者を乗っ取らずに


絶妙に加減しながら力を出してた証拠だよ。


それは実に不効率でいびつな力の使い方だけれど


使用者は疲労という形で対価を支払っているし


人面剣は敵から魔力を


吸収しながら魔力を使っていたのかもな。


ギリギリの健全性で最大限の効果を出したんだろう。


でも、テューネさんは頑張り過ぎた。


女性の体にはかなりの負担だったのは事実だろうね。


人面剣はテューネさんから返してもらうから心配はないよ。」



 ラックの説明にエリックは納得した。


「テューネは強くなる喜びを知ってしまった。


テューネが人面剣ソードマンの力に魅了されて


返却をこばむなんてこともあるんじゃないですか? 」



 エリックの言葉にラックはうなずいた。


「その可能性はあるとおもう。


テューネさんに返却を拒まれたら奥の手はある。


俺は以前、テューネさんに


試合で勝った事があるんだけれど


テューネさんは試合に負けたら


何でも俺の言う事を聞くって約束をしたんだ。


まだ権利を行使はしていないけれどね。」



 エリックは笑った。


「あははは。その権利を貸した剣を


返してもらうために使うんですか。


ラックさんはかなりのお人好しですね。」



 ラックはムッとした表情をした。


「元々、使うつもりのない権利だったんだ。


それを使うべき時があるなら使っても損じゃないよ。」



 ラックらの乗る馬車は坂道に差し掛かり


馬車はその坂を上った。


坂道を登り切ると、視界に盆地ぼんちが広がった。


すぐ目と鼻の先に大きな街が見えた。



 ラックは驚いた表情を浮かべた。


(なるほどねぇ。手が込んでるわけだ。)


ラックには街が巨大な魔力で


覆われているのが目視できた。


ラックは馬車を止めた。



 エリックが不思議そうな顔をした。


「どうしてこんなところで止まるんです? 」



 エリックにラックは笑顔を向けた。


「少し、作戦会議をしようかと思ったんだ。」



 エリックとラックは馬車の操縦席から降りると


馬車の乗車席に乗り込んだ。


乗車席は4人乗りだったので5人乗るとキツキツだった。



 乗車席に乗り込んだラックは口を開いた。


「今日は引き返しても中途半端だし、


ここで野営をしようと思うんだけど。どう? 」



 仲間達はラックの意見に異論はないようだった。



 ラックは話を続ける。


「みんな、ダンジョンって知ってるよね。」



 ラックの言葉に仲間全員がうなずいた。



 ラックは安心した顔をした。


「あくまで予想だけれど


ブエレンはダンジョンになってると思う。」



 ラック以外の一同が驚愕の表情を浮かべた。



 バーナードは口を開いた。


「ラック、なんでそんな事がわかるんだ。」



 ラックは口を開く。


「さっきの戦闘でレベルが上ってね。


『魔力感知』のスキルに


スキルポイントを全部、振ったんだ。


そのおかげで少しだけ魔力を


感じられるようになった。


あの街自体に強力な魔力を感じるんだ。」



 ラックの魔力感知スキルを


取得したという言葉がバーナードには


なんとなく嘘の方便のような気がした。


しかし、魔力を感じられるという言葉には


バーナードは真実味のある響きを感じた。


「土地から大きな魔力を感じるっていうんなら


ほぼ間違いなくダンジョンなんだろうな。」



 バーナードにラックは問いかける。


「ダンジョンの怪物にバーニーは勝てるかな。」



 バーナードは首を横に振った。


「対ダンジョン用の武器を持ってきていない。


『断罪のスピア』では迷宮怪物ダンジョンモンスター


効果があるか不明瞭ふめいりょうだ。


迷宮ダンジョンはA級上位の団体パーティー


全力全開を出して、やっと、


ギリギリで狩りや探索ができる場所だからな。


迷宮に関しては


オレは根拠の無い強がりは言えないぜ。」



 バーナードの言葉にラックは大きく頷いた。


「推測の話だけれど、リッチがクエストの依頼をした件は


冒険者ギルドに迷宮の情報漏じょうほうろうえいや


帝都から冒険者や軍を派遣されて


迷宮建設の邪魔をされたくないために


被害者を装うためにリッチは避難キャンプを作り


クエストの依頼者となって


依頼者であり被害者だと冒険者を安心させた。


そうやって油断させてから


A級団体パーティー冒険者たちを撃退したんじゃないかな。


いわゆる水際作戦みずぎわさくせんってやつ。


報酬金額が安いのも冒険者を撃退すればするほどに


冒険者は割に合わない依頼だと言って


依頼を受けたがらなくなるってのも計算してかもなぁ。」



 ラックの話に一同は納得の表情でうなずいた。



 ラックは話を続ける。


「ブエレンの街を野放しにするのは心苦しいけれど


ブエレンの街については仕事の依頼ってわけでもない。


俺たちが命をかけても報酬が無いわけだから


プロフェッショナルとしては意味がないと言える。


無意味にハチの巣をつつくような戦闘はしないで


クエスト達成した喜びを胸に帝都に無事帰還しようと思う。」



 ラック以外の4人はそれぞれ複雑な表情を浮かべたが


迷宮攻略だんじょんこうりゃくは1組の団体パーティーがどうこうするには


問題があまりにも大きすぎた。


迷宮が出来ていたという情報を


冒険者ギルドに持ち帰るのが


この団体パーティーの優先すべき事柄だと一同が判断できた。



 ラックは一同を見渡した。


「納得してもらえて嬉しい。


クエスト達成の勢いに乗ってブエレンも攻略だ。なんて 


言われたら俺は困り果ててしまっていたよ。」



 ラックの言葉に仲間一同から笑いがれた。



 ラックは馬車の扉を開けて馬車の外に出た。


「俺はまだまだ元気だから


いまから『ブエレン』を偵察ていさつをしてこようと思う。」



 バーナードは驚いて口を開いた。


「一人でか!? お前は強い。でも、それでも


あまりにも無謀だろう。


せめてエリックを連れていかないのか。」



 ラックは首を横に振った。


「ここだって安全というわけではないだろ。


いま、万全に戦えるのはエリックだけだ。


エリックを連れていくわけにはいかない。


少し、様子を伺ってくるだけだ。すぐ帰るよ。」



 ラックの『すぐ帰る』という言葉を聞いて


仲間たちは安心感を覚えた。



 エリックは口を開く。


「仕事じゃないんだ。無茶はしないでくださいよ。」



 ノーラも口を開く。


「ラックさんはわたくしたちが止めても


絶対に行っちゃうんでしょ。


敵に見つからないようにしてくださいね。」



 テューネも口を開く。


「あたいも着いていきたかったよ。


まだ、人面剣ソードマンを使いこなせてないのが悔しいよ。」



 テューネの『まだ』という言葉にラックは不安を覚えた。



 バーナードが口を開く。


「オレたちは晩飯の用意をして待ってるからな。


夕食に遅れるんじゃねぇぞ! 」



 ラックは仲間達に向かって手を挙げた。


「夕食には帰るから美味しいご飯をお願いします。」


ラックはそう言うと走り出した。


ラックはブエレンの街に続く坂道を下っていった。









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