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断罪のスピア

 不死魔術師リッチを討伐したラックは


歩いて道路に出ると、仲間が乗る馬車に向かった。



 ラックは馬車のある付近近づくと、


攻撃を受けたとみられる住人の破損した死体が


道路の上に所せましと地面に倒れていた。



ラックはパッと付近を見ただけで


死体の数は千近いのではないかと思われた。



 ラックは馬車を目視すると、


馬車の横でバーナードが座り込んでいた。



 バーナードの横にはテューネが横たわっている。



 テューネの横には両膝りょうひざ


ついているノーラがいた。


テューネをノーラは介抱しているようだった。



 エリックは馬車の荷台から箱を降ろしている。


ラックの姿が目に入り、


エリックは嬉しそうな表情を浮かべた。



 「みんな、無事? でも、なかったみたいだね。


みんなを手伝えなくてごめんなさい。」


ラックはバーナードたちに近づいて謝罪した。



 ノーラは目いっぱいの笑顔をラックに向けた。


「ラックさんがご無事でなによりです! 」



 ラックに顔を向けたバーナードは苦笑いをした。


「気にすんな。


仲間が誰も死ななかったのは


ラックがこいつらの正体に気付いてくれたおかげだ。


それより、その骸骨がいこつ


ラック、その手に持ってる骸骨は何だ? 」



 ラックは右手をあげて髑髏ドクロを見た。


「たぶん、クエストの討伐対象の不死魔術師リッチだと思う。


このリッチが冒険者ギルドに依頼を出していたんだ。」



 「それは本当か。


怪物が何のために


そんな、まどろっこしい事をしたんだ? 」


ラックはバーナードは説明を求めた。



 ラックは小首をかしげる。


「わかんないけれど、状況から考えれば


冒険者をおびき寄せるためかな。」



 バーナードは不可解といった表情をした。


「ま、別に理由なんてどうでもいいさ。


クエストが達成されたかどうか確認する。」


バーナードは立ち上がった。


馬車の操縦席に置いてあるカバン


バーナードは手を伸ばすとクエスト依頼書を取り出した。



 バーナードの言葉にラックは驚いた顔をした。


「え? 達成したかが今、わかるの? 」



 バーナードはクエスト依頼書を両手で広げた。


ラックの言葉に対してバーナードは頷いた。


「クエストを達成すると


依頼書に『達成』という赤い文字が


大きく浮かんでくるんだ。


どういう仕組みかはしらんがな。」



 ラックは真剣な表情を浮かべる。


(人間世界のあらゆる事柄の情報を


リアルタイムで管理するなんて事は


天界しか出来ないはずだけれど。)


ラックは考えを巡らせた。



 バーナードは依頼書を見て歓喜の表情を浮かべた。


「おおお! 達成って文字が浮かんでるぜ!


これでみんなで帝都に帰れるんだな! 」



 ラックは口を開く。


「やったね! 


俺も初クエストを成功できて嬉しいよ。」



 ノーラも飛び上がらんばかりに喜んだ。


「全員、無事にクエストを達成できるなんて


神のおぼしめしに感謝いたします! 」



 エリックは笑顔を浮かべた。


「オレっちもみんなのお役に


立てたのなら嬉しいです。」



 テューネは弱々しく右手を上げて親指を立てた。



 ラックは周囲を見渡した。


「全員が大怪我せず、命も落とさずに


クエスト達成できたなんて本当に嬉しいね。


辺りの状況を見る限り


みんなは食屍鬼たちと戦闘になったんだろ。


戦闘の内容を誰か報告してはくれないか。」



 バーナードは首を横に振った。


「戦闘に必死で全体の状況は見てねぇ。」



 ノーラも首を横に振った。


「わたくしは馬車の中から


精神を集中して回復魔法を使っていたので


事細かな事までは目を向けられませんでした。


報告に齟齬そごや誤りがあってはいけないので


わたくしは報告について遠慮をしたいです。」


 地面に横になっているテューネは


かろうじて意識はあるようだが


疲労困憊ひろうこんぱいといった様子だった。



 エリックが置いた箱から


中級ポーションの小瓶こびんをノーラは取り出した。


テューネの上体をノーラは起こすと


テューネの口にノーラは中級ポーションをそそいだ。



 エリックが手を挙げた。


「オレっちでよければ報告します。


一応、周囲全体を見ていましたし、


一番、冷静に戦えていたと思いますので。」



 ラックはうなずいた。


「うん。端的たんてきでいいので報告よろしく。」



 思い出すような様子をしながら


エリックは頭の中で事柄をまとめて口を開いた。


「ラックさんが住人の男性に連れられて


ここを離れたあと、しばらくは住人達とオレッち達は


談笑してたんですけどね。


いきなり、周りの住人達が食屍鬼グールに変化したんすよ。


操縦席にいたバーニーとオレっちは


襲い掛かってくるグールを押しのけて


すぐに馬車から飛び降りたんです。


バーニーは馬車の右側を


オレっちは馬車の左側に陣取ったんす。


バーニーは奮戦して多く敵をなぎ倒しました。


オレっちは領域を展開して領域内に入った敵を


次々とマナで作った剣でグールたちを斬ったんです。


馬車からテューネも降りてきたんですが


テューネが人面剣ソードマンを抜くと、


テューネの体から物凄い殺気を放たれたんす。


テューネは一刀両断でグールを切り倒しまくった。


テューネはまるで誰かに


操られているかのような動きでした。


オレっちは聖属性の剣で


死霊系である敵を戦闘不能にできた。


テューネはなにか魔力のような力で敵を殺したのか。


テューネが斬ったグールは


元の人間の死体となって転がり動きませんでした。


ただ、グールをバーニーが攻撃しても


なぜかグールに効いていなかった。


グールをバーニーが槍で突き刺しても


グールは死ななかったんす。


バーニーがグールの、どの部位を攻撃しても効かない。


バーニーはどんどん追い詰められていったんです。


バーニーにノーラが集中的に回復法術をかけてました。


バーニーのフォローにテューネがまわると


テューネの身を削るような獅子奮迅ししふんじんの活躍で


おそってくるグールの群れを討伐は出来ました。


ラックさんが来る少し前にテントの中から


沸いて出てきていたグールが


ピタっと出てこなくなりました。


遠巻きにいたグールたちも


人間の死体に変化して倒れたんす。


そして、今に至るってわけです。」



 バーナードは頭を掻きながら悔しい表情を見せた。


「レベルも階級もこの中で一番高いオレが


一番の役立たずになっちまった。


クエスト達成は嬉しいが自分の不甲斐なさが悔しくて


今夜は眠れそうにねぇぜ。


みんなに迷惑をかけた。本当にすまねぇ・・・」



 ラックは口を開いた。


「バーニー、そんなに自分を攻めることない。


バーニーが弱かったわけじゃない。


きっと、武器の特性が生かせなかったんだよ。


この食屍鬼グールは元々はブエレンの善良な市民だ。


グールとなってからも人殺しはしていないのかもしれない。


相手の罪の量でダメージが


増加する特性の『断罪のスピア』は


罪がない敵には何の効果も発揮しない。


グールではなく、もしも、リッチと対戦していれば


その槍の特性を十分に生かせたと思う。


本当にたまたまそうなっただけなんだよ。」



 バーナードは納得いかない様子だった。


「違うな。オレの慢心が招いた準備不足だ。


準備不足は冒険者にとって命の明暗を分けるって


オレは当たり前のようにわかってると思い込んでた。


でもよ。オレは、この『断罪のスピア』に依存しすぎていた。


この槍の強さに何の疑いも持たず考える事さえやめていた。


それに比べて、ラックは自分の強さに慢心せずに


謙虚に仲間のために粛々とクエストの準備を進めていた。


そのおかげで馬車での移動速度は早くなったし


テューネは用意してくれた武器で強くなった。


ノーラの法術もラックのアドバイスで強化された。


新しい戦力のエリックも得る事が出来た。


オレがリーダーのままだったら絶対に出来ない事ばかりだ。


オレは今日の事を決して忘れない。


オレの中で戒めにするつもりだ。」



 バーナードにラックは「それは違う。」と言った。


「バーナードや知り合いのテューネさんが


いなかったら、


俺はそもそもこのクエストを受けていない。


天馬ペガサスもたまたま実家から


借りてたものだし


軍用馬車だって、たまたま馬車屋にあったものだ。


人面剣ソードマンもたまたま帝都の武器屋で見つけたものだ。


エリックとの出会いだってたまたまだよ。


たまたまが有利に働く事もあるし不利に働く事もある。


仲間のイレギュラーや


弱点を仲間同士の助け合いで乗り切ったんだ。


それがパーティーを組む意味って


事なんじゃないかな。」



 バーナードはうつむいた。


「オレは何度かパーティーに参加した事があるが


その中でもこのパーティーは


比べ物にならんくらい優秀だぜ。


オレはこのパーティーに参加できた事を誇りに思う。」


バーナードは顔を横に向けて


仲間に表情を見せないようにして言った。



 バーナード以外の4人はバーナードに微笑みを向けた。







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