魔術師
次の日の朝早くに
ラックら『ダンデライオン』の5人は
『ボモガロ』の町の宿を出て
馬車に乗りこみ『ブエレン』の街に向かい出発した。
昼過ぎに、道の左右に多くのテントが
立ち並ぶ場所へとラックらの馬車は差し掛かった。
ラックらの馬車はテントに住む住人たちの
道路への飛び出しに注意をしつつ
徐行しながら道路を通っていた。
テント村の住民たちが馬車に気づいて
住人たちが道路内に入ってきて集まり出し、
テントの住民たちがラックらが乗る馬車を取り囲んだ。
ラックは馬車を止めざるおえなかった。
道を塞ぐ群衆の中から
テント村の代表らしき男性が
馬車の操縦席のすぐ横に歩み寄ってきた。
代表らしき男性はラックらに会釈した。
「通行を妨げてしまい申し訳ありません。
もしや、あなた方は冒険者でしょうか? 」
ラックは代表らしき男性に会釈を返した。
「ええ。そうですが。
俺たちに何か用なのですか?
我々は道を急いでるので
通行を止められるのは困ります。」
代表らしき男性は
申し訳なさそうな顔をして口を開く。
「この道を西に行くという事は
ブエレンへ向かわれるのですか? 」
ラックは頷いた。
「ええ、そうです。
怪物がブエレンという街を
占拠しているというので
ギルドの依頼で俺たちは討伐しに行く途中です。」
おおおおおぉ! と
周囲の群衆から歓喜の声が上がった。
「わたしらはブエレンの住人なのです。
街からなんとか逃げ出してここに辿りついたのです。
冒険者ギルドにブエレンを
襲った怪物どもの討伐を
依頼をしたのは我々なのです。」
ラックは代表らしき男性をジッと見た。
「そうですか。依頼主の方々でしたか。
では、ぜひ詳しい話をお聞きしたいです。」
ラックは代表らしき男性にそういうと馬車から降りた。
操縦席にはバーナードとエリックも座っていた。
ラックは馬車を降りる際に
バーナードに軽くなにか耳打ちをした。
仲間4人を馬車に残して
代表の男性に伴われてラックはテント村に入った。
代表の男性に案内されて
男性とともにラックは
大きめなテントの中に入った。
入ったテントは集会所用のテントらしく
大きなテーブルと椅子が置かれていた。
男性に促され、ラックは椅子に座る。
代表の男性はラックの正面の椅子に腰掛けた。
テント村の住人らしき女性が
トレーを手に持ち、テントの中に入ってきた。
その女性はトレーに乗ったティーカップを
代表の男性とラックの前に丁寧に置くと
ラックにお辞儀をしてテントを出ていった。
代表らしき男性は50代くらいに見える。
代表の男性が口を開いた。
「我々の依頼に応じて頂きありがとうございます。
私はこの避難キャンプの
代表をしているモーレルを申します。」
「はじめまして。冒険者パーティー『蒲公英』の
リーダーをしているラックといいます。
この度は、ブエレンが怪物たちに襲われて
大変な目に合われたみたいですね。」
「はい。5ヶ月ほど前に突然、怪物が街を襲いました。
怪物の襲撃が深夜だった事もあり
我々は着の身着のままで街を逃げ出してきたのです。
周辺の町からの協力や帝国からの支援物資で
なんとか我々は日々生活ができてはいます。
しかし、このままでは
我々は明日への希望を見いだせません。
ラック様、
我々の街を襲った怪物どもを駆除して頂きたい。
我々の住む場所と生活をどうか取り返して欲しいのです。」
「はい。全力は尽くすつもりです。
で、・・・モーレルさん、
生き残った街の住人というのはどこにいるのですか? 」
ラックは両肘をテーブルに置いて両手を組んだ。
「はい? それはどういう意味でしょうか?
この避難キャンプ以外に、という事でしょうか? 」
ラックを見つめて、モーレルは小首をかしげた。
ラックは首を軽く横に振った。
「俺の見た限り、この避難キャンプの住人の方々は
みんな、生きてはいないじゃないですか。」
モーレルの表情が固まった。
「生きていないとは、どういう意味でしょう? 」
モーレルの気配から敵意が漏れ始めた。
ラックは微笑みを浮かべた。
「質問をしているのはこっちです。
生きている住人はいるのですか? 」
「・・・それは・・・
残念ながら、一人もいないですね。」
モーレルから魔力が放出された。
モーレルの顔は髑髏に変化し
黒いローブを纏っていた。
ラックは表情を変えない。
「ふ~ん。で、ブエレンを襲ったのはお前か? 」
「ふははは! 答えてやる義務などないわ! 」
モーレルの右手に長い杖が出現し、
モーレルは立ち上がると杖をラックに向けた。
「お前、不死魔術師か。
クエストの依頼主が説明を断るなんて不親切だなぁ。
お前を倒せばクエスト達成になるのかな? 」
「・・・倒す? 人間ごときが、わしを倒すとは
大言壮語も甚だしいわ! フフフフ。
お前の仲間もすでに死体となっておるだろうよ。」
「そうかなぁ。死体人形では俺の仲間は殺せないよ。」
ラックは椅子から立ち上がる。
テントの中に控えていた住人5人の姿が
食屍鬼に変化してラックに襲いかかった。
食屍鬼はラックの体に覆いかぶさり
ラックの体の各部位に噛み付いた。
モーレルは呪文を詠唱し始める。
「・・・我が主、黒の支配者よ。
その権能を以って抗う者を石と化し給え。
『石化』!!!!!」
モーレルの杖からラックに向け魔力が放たれた。
不死魔術師が
放ったドス黒い魔力がラックを襲った。
ドス黒い魔力がラックを覆った。
しかし、すぐにラックを覆った魔力はかき消えた。
「・・・馬鹿な!
なぜだ。なぜ魔法が効果を発揮しない。」
ラックはニヤリと笑う。
「『覇』!!!」と
ラックは気合いを入れるとラックの気が
ラックの体の周囲に発散した。
ラックに噛み付いていた食屍鬼たちの体は
ラックの気の衝撃波で
粉々に砕け散って肉片となり、
テント内の壁や地面に張り付いた。
ラックは自分の衣服を手でパンパンと、はたいた。
「ほう。黒の支配者ねぇ。お前、『黒』の配下か。
じゃ、殺すと、少しややこしい話になりそうだ。
いや、お前みたいな末端を
『黒』は気にもかけないか。」
「『黒』の陛下を知っているだと、お前、何者だ。」
「俺? 『紫』だけど。」
ラックの答えにモーレルは
カタカタと全身の骨を震わせた。
「・・『紫』・・そんな・・・
お前が人間世界を三度も滅ぼした魔王だというのか。
そんなわけあるか! お前は間違いなく人間のはずだ! 」
「そうだ、俺は人間だ。
そういうお前は悪魔のフリした元人間じゃないか。
お前に人間だの悪魔だのと言われるのは心外だなぁ。
悪魔にとってはお前という存在は所詮は部外者だぞ。」
「我が主、黒の支配者よ。
その権能を以って敵に死を与え給え!
『死』!!!!!」
ラックは両手をあげて、やれやれ。という仕草をした。
モーレルから放たれた魔力はラックを包み込んだが
すぐにかき消えてしまった。
ラックはゆっくりとモーレルに歩み寄る。
モーレルは後退りし始めた。
「来るな! 不死のわしを殺せはせんぞ! 」
「ほう、そうかなぁ。
不死とか言ってるけれど、
お前、人間の魂が宿ってるじゃん。
魂を奪ってしまえば、お前は消滅してしまうよね。
それが死かと言われれば違うのかな。
死という概念の解釈の違いってやつかな? 」
「魂だと? うわぁ。来るな!
わしを殺せば、『黒』の魔王がお前を殺すぞ。」
「ま、それも面白そうだな。
あいつ、俺に土下座して命乞いした魔王だぞ。
『黒』が俺に反抗するっていうなら
それもまた一興だなぁ。楽しみだ。
あいつとも久々に話をしたいな。
あいつ、念話番号は変わってないか?
9624だったと思うんだけれど合ってる?
あ、俺、いま念話スキルないから念話は無理だな。」
その言葉にモーレルは愕然とする。
「ああああ・・・本当に『紫』の魔王陛下なのか。」
ラックはモーレルのすぐ前に立った。
「お前を生かしておいてもよかったんだけれど
お前を討伐するクエスト依頼があるから
討伐依頼を受けた冒険者の立場である俺は
お前を討伐せざるおえない。
自分の依頼で死ぬなんて滑稽すぎる結末だな。」
モーレルは骨の体をカタカタと震わせた。
「『紫』の魔王陛下。どうかお許し下さい。
わしは命令に従っただけなのです。どうか御慈悲を。」
モーレルは両膝をついて両手を組んで命乞いした。
「ごめん。無理。」
ラックの左目から紫の魔光が漏れる。
「紫の魔光!? そんな。御慈悲を!
『紫』の魔王陛下、どうか・・どうか御慈悲を! 」
モーレルはラックの腰に抱きついた。
「命乞いしたブエレンの住民たちも殺したんだろ。
自業自得じゃないか。さよならだ。・・・『魂吸収』。」
モーレルの体から青白い球体が飛び出て
ラックの左目に吸収された。
モーレルの骨の体はバラバラとなりその場で崩れ落ちた。
黒いローブの上に転がったモーレルの髑髏を
ラックは右手で拾いあげた。
「さて、たぶん、クエストは達成だな。
外のみんなはどういう状況になっているかな。」
(ブエレンの街はどうなっているんだろう?
クエストを達成したがブエレンの様子は見に行くべきか。)
ラックはゆっくりと歩き出した。
ラックがテントから出た。
モーレルという施術者を失って、
避難キャンプの住人たちはただの死体となって
避難キャンプ内の至るところに転がっていた。
はじめまして。
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