試合終了
エリックは体を捻って見えない剣で
バーナードの薙ぎ払い受けると、カンッ!と
上方に弾き返した。
槍が上に弾かれてバーナードは
仰け反って体勢を崩した。
「うぐっ!
なんて戦いにくい相手なんだよ! 」
バーナードが仰け反って空いた空間に
スッと、エリックは踏み込んで入り込む。
必殺の間合いに入られそうだと
感じたバーナードはすかさず両足で
地面を蹴って後ろに飛んでエリックと間合いを取った。
「さすが、お兄さん相当に戦い慣れているね。」
エリックの呼吸にまったく乱れが無い。
「ハァ・・・ハァ・・・うるせえ。
上から物言ってんじゃねぇよ。」
バーナードは息が乱れて自分の耳からは
自分の呼吸音と心臓の鼓動が聞こえていた。
だんだんとバーナードの攻撃は単調になっていく。
バーナードが踏み込んで槍で攻撃すると
エリックが見えない剣で
弾いてバーナードの体勢を崩す。
そこを踏み込まれてエリックに間合いを詰められると
バーナードは、なりふり構わずに
必死に距離を取ろうとした。
明らかにバーナードの方が無駄な運動量で消耗していた。
槍と剣のリーチ差をエリックに簡単に埋められてしまう。
エリックは押し切れば
簡単に勝てそうなのに押し切らずに間を取る。
明らかに手加減しているのがわかった。
バーナードは眉間に皺を寄せながら
「ふぅ~。クソったれ!
マジで子供扱いされている気分だぜ。」と憤る。
バーナードは目を瞑る。
「オレも全力全開は見せてないけどな!
槍術『瞑想一閃』! 」
バーナードは目を瞑ったままで
槍を右手に持って小刻みにステップしだした。
エリックは嬉しそうな顔をバーナードに向けた。
スイスイと氷の上を滑るような移動で
バーナードとの間合いを素早く詰めようとした時。
シュンッツ! と何かが飛んでくるような気がして
エリックは体を捩じって横に回避した。
自分がいた場所からの風圧で
何かが通った事がエリックにはわかった。
エリックは、なるほど。という顔をした。
「すまないね。
お兄さんの実力を侮っていたわけじゃないんだ。
むしろ、評価していたから実力の底が見たかった。
まさか、オレっちの反応速度以上に
速い攻撃が出来るなんてね。」
バーナードは目を瞑ったままで
集中しながら半身で左右にステップしている。
エリックの肩の辺りから血が流れる。
「あれ? オレっち怪我してる。
これってオレっちの負けかな? 」
エリックはラックの方を見た。
ラックが大きく口を開けた。
「負けだと認めたら負けだからね! 」
エリックはフッと笑った。
「認めたくは・・・ない! 」
エリックの目がギラリと輝いている。
両手を大きく広げた。
エリックは両手にマナを集めた。
「ほう、そんな事もできるんだね。」
ラックにはエリックの両手に
何かが見えているようだった。
エリックは左手を胸に当てて
右手を下に下ろすとゆっくりと
バーナードに歩み寄っていく。
バーナードは自分の間合いにエリックが
入るのをステップしながら待っている。
エリックがバーナードの間合いに
足を踏み入れた。
それと同時に神速とも言える速さで
バーナードの槍の突き攻撃がエリックの胸を貫いた。
貫いたはずだった。しかし、
槍の穂先はエリックの胸の前で空中停止していた。
何が起こったかわからずにバーナードは目を開けた。
突然、バーナードは首筋に
刃物が付きつけられた感触を覚えた。
バーナードのすぐ目の前にエリックの顔がある。
バーナードは大きく息を吸って吐くと
もう一度、大きく息を吸って口を開けた。
「ラック!!!! やっぱ負けちまった! 」
その言葉にラックは立ち上がる。
「それまでです! お疲れ様でした!
すごくいい試合だった。感動した! 」
パチッ! パチッ! パチッ! パチッ!
ラックは試合終了を告げて拍手した。
テューネとノーラも立ち上がって拍手した。
バーナードとエリックは姿勢を正すと握手を交わす。
「オレの名はバーナード・オルグレンだ。
悔しいが手も足も出なかった。
お前に最初から本気だされてたら
オレはたぶん何も掴めずに終わってた。
勉強になったぜ。感謝する。」
「いえ、こちらこそ。
お兄さんの実力は本物だと思ったぜ。
お兄さんはこれからきっともっと強くなる。」
その時、また手合わせできたら嬉しい。」
バーナードとエリックはラックの元へ歩み寄った。
バーナードは頭を掻きながら
「最後の槍の一閃が何かに止められた。
何に当たったのか全然わからなかった。
あれって、何だったんだ? 」
エリックは「フフフッ」と笑うと
ラックに視線を向けて
「あんたには見えていましたか? 」と言った。
「見えない剣があるなら
見えない盾だってあるだろうね。」
ラックの答えにエリックは呆れた顔をした。
エリックは「あはは。」と笑って
「やっぱりな。
あんたと戦わなくてよかった。」と言った。
はじめまして。
Cookieです。
もしも続きを読みたいを思って頂けたのなら
ブックマークや評価をして頂けると励みになります。
よろしくお願いします。




