疑似聖剣
「おっと、なんて殺気だよ。」
エリック・アルブルドは警戒して構える。
ラックは大きく深呼吸した。
「で? あなたは盗賊の一味って事でいいの? 」
エリックは少し考えてから口を開いた。
「盗賊の一味ってわけじゃねぇんだけれど
一宿一飯の恩義って奴?
何かとこいつらには世話になっていた。」
「で? あなたはどうしたいの?
俺たちにどうして欲しいと思ってんの? 」
ラックは落ち着いた顔でエリックに訊ねた。
エリックはまた考え込んで口を開く。
「こいつらを助けてやっちゃくれねぇか。
こいつらも女房や子供を怪物に食われたりしてさ。
切羽詰まってたんだ。
情けをかけてくれてもいいんじゃねぇの。」
「こっちはただの被害者だ。
それなら被害者への誠意ってのを見せてくれよ。
あなたが俺を殺せば、術は解けるよ。
俺はむしろ、あなたと戦ってみたいんだけれどね。」
「あんたを殺せる人間ってこの世にいんの?
悪魔とも竜とも力試しに戦った事があるけれどさ。
あんた、その悪魔や竜とも比較にならんほどの
強い気配を内に秘めてるじゃん。」
「はぁ~。言い訳か。
マナの術で対象の器を計って
進退の判断するのはわかるけれどさ。
あなたってつまらない人間だね。
興覚めしちゃったよ。
で、誠意は見せてくれないってわけかい? 」
「誠意か。・・・オレっちの命でどうだ。」
ラックは少し眉が動いた。
「・・・うん! いいですね!
でもあなたの命に価値があるのかわからない。」
「それもそうだ。
そこの強そうなお兄さんを倒せたら
オレッちの価値を認めてくれるかな? 」
「バーニー、あの人に勝てそう? 」
「おいおい。勝手に話を進めんなよ。
オレは人間と殺し合いなんてしたくねぇぜ。」
「もちろんさ。
俺は友人であるバーニーを失いたくない。
ただの試合って事で殺しは無しってどう?
お互い手加減して戦うって事なら
エリックさんに勝てそうかな。」
「・・・・試合か。
アルブルド剣術に
自分の武術がどこまで通用するか。
上を目指す武術家なら
みんながそう思っているだろうし
世界最強のアルブルド剣術と
戦ってみたいと思ってるだろうぜ。」
「じゃ、決まりだね。
エリックさんは
バーニーには価値のある存在だ。」
バーナードにラックはそう言うと
エリックに向かって大きく口を開いた。
「エリックさん!
殺しは無しの試合をしてバーニーに勝てたら
あなたの命をもらって、盗賊全員の命は助ける!
こちらの情けとしてバーニーがあなたに勝っても
あなたの命をもらって盗賊全員の命を助ける!
試合が終わるまでは
盗賊たちは死なないように調整するね。
だから、二人とも全力を出して頑張って! 」
バーナードは眉間を指でかいた。
「なんだか、のせられちまったな。
だが、アルブルド剣術と戦える機会なんて
一生に一度あるかないかだ。
試合っていうなら気持ちも集中できる。」
アルブルドは両手で大きな丸を作った。
「お兄さん、いつでもかかっておいで~さ! 」
得物を持っていないエリックに
バーナードは怪訝な表情を浮かべた。
「あんた、剣はどうした? 」
エリックは微笑みを浮かべる。
「あれ? お兄さんには見えないの?
オレっちの右手に持ってる聖剣がさぁ。」
ラックはバーナードの肩に手を置いた。
「マナってのは精霊界の生命エネルギー体。
魔力と同じく奇跡を起こす源だ。
エリックさんが右手に持っているというのは
たぶん、マナで作った目に見えない疑似聖剣。
アルブルド剣術は、きっと、
聖剣術が派生したものなんだよ。」
「聖剣術ってなんだよ? 知らねぇよ!
見えない剣に対応しろって無茶すぎるだろ。」
「お兄さんがこないならこっちから行くよ! 」
エリックは軽くジャンプすると
何もない背後の空中に力場の壁が発生し
その壁をエリックは両足で思い切り蹴った。
ブオォォィン!!!っとバーナードに向かって
飛びながら物凄い勢いで距離を詰めると
両手で見えない剣の切先をバーナードに突き立てる。
バーナードは地面を蹴って
横に転がる事で目に見えない斬撃を間一髪で回避した。
「ったく。世界最強なわけだ。」
片膝をついた状態でバーナードは苦笑いを浮かべた。
はじめまして。
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