物資調達
明日、クエストの目的地に出発すると決めて
ラックとバーナードら3人は食堂で別れた。
ラックはその足で
冒険者ギルド内にいるギルド長に会った。
クエストの報酬については依頼主が設定するものだから
変更することはできないが物資の提供については
ギルドの裁量だと思ったラックは物資提供について
ギルド長ボーグに無理難題を吹っ掛けまくった。
「陛下ならこの程度のクエストに
大量の物資などいらないのでは? 」と
難色を示したので
ボーグの頭をラックは拳骨で頭を吹っ飛ばした。
ボーグは自身の能力ですぐに頭が元通りに修復した。
主筋のラックに逆らった事をボーグは深く反省して
ラックに土下座してボーグは物資提供を了承した。
ラックは買い物をしようとギルドの窓口で
多少のお金をおろすと冒険者ギルドを出た。
ラックは街の武器屋に寄った。
魔法武器はかなりの高価であった。
男性店員に一番安い魔法の剣を
ラックは見せてもらえるかと店員に頼んだ。
店員は数本の魔法剣を持ってきてくれたが
店員からそれぞれの魔法剣の説明を受けると
費用対効果が悪いな。とラックは思った。
「呪われた剣とかでもいいから
尖がった特性を持つ剣とかないですかね。」
男性店員は困った顔で頷くと、店の奥に入り
しばらくして一振りの剣を持ってきた。
「こちらの剣は『殺意の人面剣』でございます。
気に入った所有者には名剣となり
気に入らない所有者には死を与える剣です。
買い手が見つからず、
ずっとうちの倉庫に眠っていました。
この剣なら金貨2枚でお譲りできます。
決してお勧めできる商品ではないのですが
観賞用としてでもいいので是非、買ってください。」
男性店員は懇願するような口調だった。
箱に収めてあるその剣をラックは手に取った。
剣の鍔には人の顔を象った装飾があった。
「おい! 起きろ! 」とラックは剣に言った。
剣の人面の目がギロリと開いた。
ラックはその目を見て満足げな表情を浮かべた。
店員に向かってラックは口を開く。
「これ買います。
値段を負けてもらえませんか?」
「え!? 買って頂けるのですか!?
すぐに買って頂けるのでしたら
金貨1枚でいかがでしょうか。」
「ではそれでお願いします。」
カウンターで支払いを済ませると
ラックは武器屋を出た。
ラックは鞘までおまけで付けてもらっていた。
ラックは剣の人面をジッと見た。
殺意の人面剣もラックをジッと見た。
「お前、悪魔のくせに
剣の真似事をして悪さしてたのか? 」
ラックは呆れたような口調で人面剣に話しかけた。
人面の口が開いた。
「むむ。おぬし、ナニモンじゃ。」
「紫だよ。」
ラックの左目に紫色の光が浮かぶ。
「・・・へ?・・陛下・・・。」
人面は困惑した表情を浮かべる。
「悪魔が武器の真似事して
人を殺すっていうのは悪魔としては正しいよ。
でも、これからは無意味な殺人は許さないからね。
俺はいま人間として活動してるんだ。」
「陛下は復活されたというのに
人間の真似事をなさっているのですか。」
「おい! 真似とか言うな。俺は人間なの!
俺が所有者になったんだから俺の言う事聞けよな。」
「はは! 陛下に永久の忠誠を誓いまする。」
次にラックは防具屋に寄った。
「すいません。
軽くて丈夫な皮の下着ってないですか? 」
ラックは防具屋の女性店員に尋ねた。
「ありますがどのような用途でお使いでしょう? 」
「怪物に嚙みつかれまくる予定なので
怪物の牙でも貫通しない感じの皮がいいのですが。」
「なるほど。お客様は冒険者の方なのですね。
ご予算にもよると思われますが
一番良いのは竜の皮の下着ですね。
上下で金貨100枚になりますがいかがでしょうか。」
「いや、もう少しコスパがいい商品はないですか? 」
「では、結晶棘大亀の皮の上下なら
金貨10枚でご提供できます。
通気性は抜群で軽くてとても丈夫ですよ。」
「では、現物を見せてもらえますか。」
「はい。すぐご用意します。」
店員は棚から丁寧に畳まれた上下の皮の下着を
手に乗せて持ってくるとラックに差し出した。
ラックは商品を手に取ると
皮の表面を撫でてから
ジッと皮の表面を見つめた。
皮の表面に粉上の結晶がキラキラと光っていた。
「これを頂きます。
女性用の上下で二組でお願いします。」
「はい。かしこまりました。
包装は贈り物用になさいますか? 」
「はい。それでお願いします。
あと、お値引きキャンペーンとかしてませんか?」
女性店員は少し悩んでから
「お客様は初めて来店して頂いて
買い物をして頂いたので
10%割引をさせていただきます。」
「ありがとうございます。
お姉さん優しいですね。これからも買いにきます。」
「どうぞこれからもご贔屓になさってください。」
ラックは会計を済ませると防具屋を出た。
(あとは馬車だなぁ。
ギルドで貸し出される馬車でもいいんだけれど
何かグッとくるような機能性と利便性に富んだものは
ないかなぁ。やっぱ、ないのかなぁ。)
そんな思いを抱きながら馬車屋に入った。
店に入ったラックは度肝を抜かれる。
店の広い展示フロアの中央に
飾られた銀の馬車にラックは心奪われた。
「あれ!!! トラックじゃんか!
ヤバいかっこよすぎてヤバい! 」
店内の中央に飾られた銀の馬車は
乗車空間と荷台が仕切られており
荷台には丈夫そうな生地の幌が装備されていた。
見た目は現代のトラックのようなデザインに見えた。
店の女性店員にラックは駆け寄った。
「あ・・あのぉ。」
ラックはお目当てのものが
みつかった興奮で少しモジモジしていた。
「何かお探しですか? 」
ラックに女性店員が話しかけた。
「あの馬車が欲しいです! 」
店の中央に展示された銀の馬車を
ラックは指さした。
女性店員はあからさまに
困った顔をラックに向けた。
「お客様、あの馬車は展示用の馬車でして
売り物ではございません。」
「そこをなんとかなりませんか? 」
ラックは引き下がらなかった。
女性店員はため息をついた。
「あの馬車はガンボルト軍の軍用馬車でして
廃棄処分になる予定のものを下取りしたのです。
ミスリル銀製のとても重たい馬車ですので
普通の馬が引けるような代物ではありませんよ。
展示が終われば、ミスリル銀を溶かして
再利用する予定なのでございます。」
「おいくらなら譲っていただけますか? 」
「お客様、話を聞いてくださってましたか?
ふぅ~。仕方ありませんね。
では、店主に一応、確認を取ってきますので。
しばらくここにてお待ちくださいませ。」
女性店員は店の奥にある事務所に
小走りで向かっていった。
しばらくして中年の店主と思しき中年男性と
女性店員が事務所から出てきてラックの元に歩み寄った。
「お客様、わたくしがここの店主でございます。
あのミスリルの馬車をご購入したいと伺いましたが
ガンボルト公国との取引契約の条項で
そのままの状態での売買を禁止されています。
軍事機密に抵触しますし、軍事転用されては困るのです。
失礼ですがお客様は他国の軍事関係者ではありませんか? 」
「わたしは冒険者です。
名をラック・デストといいます。
決して怪しいものではありません。」
店主は目を大きく見開いて驚いた。
「デスト家の英雄様でしたか。大変失礼致しました。
しかし、デスト家の方でもお売りする事はできません。」
店主は申し訳なさそうに深く頭を下げた。
ラックはゴリ押ししても無駄だと理解した。
「無理を言ってこちらこそすみません。
明日、クエストに出かけるので馬車が欲しかったんです。
残念ですが、諦めます。この悔しさをガンボルト大公に
ぶつけて憂さを晴らしたいと思います。」
店主はビックリしてラックの目を見た。
ラックの目が本気の程を伺わせていた。
「御冗談ですよね。」
店主は冷や汗をかきながら言った。
「いえ、俺の気分を害した輩を
生かしておくほど寛容でもありませんので。」
ギネタール平野で一騎で2000の敵兵士を
斬殺した人間の言葉である。
店主は大きなトラブルに巻き込まれる予感がした。
「・・・れ・・・レンタルではいかがでしょうか。」
「え? 貸して頂けるのですか! 」
ラックの表情がパァ~っと明るくなった。
「店主様、本当によろしいのですか? 」
女性店員が心配そうに店主に声をかけた。
「契約条項に民間への貸し出しは禁止されていない。
催し物の展示やパレードでの使用は許可されている。
あくまで軍事利用での使用の禁止だ。
冒険者が移動で使いたいというので
貸し出しましたという事ならいくらでも言い訳がつく。」
小声で女性店員に店主はそう言った。
ラックは口を開いた。
「では、店主さん、レンタル料はいくらですか? 」
「無料で結構です。
お金を頂いてしまっては後で万が一、
問題になった時に言い訳に困りますので。」
ラックは申し訳ない気持ちになった。
「クエストが終わったら必ずお返しに上がりますので
どうか気に病まないで頂きたいです。すいません。」
ラックは店主は微笑んだ。
「ええ。デスト家には大変お世話になっていますので
お返し頂けるのであれば私どもは何も不満はございません。」
「明日、馬を連れてこちらに伺いますので
馬に取り付けてもらえると嬉しいのですが。」
「はい。かしこまりました。
店は午前9時からの営業となっております。
9時以降にお越しくださいましたら
馬に馬車を取付させて頂きます。」
ラックに店主はそう告げた。
「わかりました。明日、お伺いします。
ありがとうございました。」
店主と女性店員に深々と頭を下げて馬車屋を出た。
(威圧して人に言う事を聞かせるのは
悪魔としての俺なら気持ち良いはずなのに
いまはなんだかすごく心苦しいな。)
ラックは自分の浅はかな言動を反省しながらホテルに向かった。
はじめまして。
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