暗黒騎士
ラックは食堂から出ると
冒険者ギルドの会議室に向かった。
ラックはロビーの壁に貼ってある案内札を頼りに
建物の階段を登って3階の廊下に出た。
「さて、どの部屋にクラウスがいるのかな。」
ラックは左右にズラリと並んでいる扉を見ながら考えこんだ。
左の奥の扉から人が出てきた。
筋肉質の中年の男性、20代くらいの正装の女性、そして、
ブレザーにチェックのスカートを着た女学生の3人組だった。
3人組の20代の女性はギルド職員と思われた。
3人組はラックの方向に歩いてくる。
ラックはギルド職員と思われる女性に
クラウドがいる会議室がどこかを尋ねようと思った。
ラックはそのギルド職員に声をかけようと歩み寄った。
近づいてくるラックに気づいて3人組の中の
筋肉質の男性が口を開いた。
「お前、ここで何をしている。」
ラックは3人組の前で歩みを止めた。
「ええと、知り合いに会いに来たんですけど
どの会議室かが、わからなくて困っているんです。」
「3階の会議室は利用者以外は
許可なく立ち入りは禁止ですよ。」
ギルド職員の女性はラックに注意をした。
「すみません。
俺、まだ、冒険者になりたてなんで
細かいルールとか知らなかったんです。」
「ほう、では、F級か。
新人冒険者が誰に用があるんだ? 」
筋肉質の男性がラックに問いかけた。
「探しているのはS級のクラウスという人です。
どこにいるかご存知ありませんか? 」
「なに? クラウス様に用とは?
どんな用があるのか話してみろ。」
筋肉質の男性は警戒感を露わにした。
ラックは不機嫌な表情になった。
「なぜ、あなたにそんな事を話さないと
いけないのか理由を説明して頂けますか? 」
ギルド職員の女性が口を開いた。
「まだ、ご存知ないのは仕方ありませんが
この方は、冒険者ギルド帝都本部の
ギルドマスター『ボーグ・テシュワルド』様です。」
それを聞いてラックは姿勢を改めた。
「そうだったんですね。
知らないとはいえ、失礼しました。
俺は、ラック・デストを言います。」
ボーグと他の二人は驚いた表情を見せた。
「ほう。ギネタールの金色の英雄か。
その英雄がクラウス様に用があるとは気になる。
差し支えなければ、話してくれないか。」
ボーグは興味津々の用だった。
ラックは困った表情を浮かべた。
金の無心に来たとはさすがに言いづらい。
「秘密の用件ですので、どうがご容赦を。」
「ふむ。残念だが仕方あるまい。
秘密の用件であるというなら
それを聞くことには我々にも
それなりのリスクを伴うということだろうな。」
ボーグはあっさりと納得した。
女学生が口を開いた。
「ボーグ殿、わたくしは急いでおります。
予定の時刻に遅れるわけにはまいりません。」
「これは皇女殿下、お急ぎなのに申し訳ありません。」
ボーグは10代くらいの女学生の少女に頭を下げた。
ギルド職員の女性がラックに耳に唇を近づける。
「貴方から見て、
左の一番奥の扉にクラウス様がおられます。」
そう耳打ちしてきた。
「ありがとうございます。
お急ぎのところを
時間を取らせてすみませんでした。」
ラックは頭を下げて、廊下の奥へと歩きだした。
皇女と呼ばれる女学生の少女の横を会釈しながら
通りすぎて、ふと、首元を見て視線を止めた。
「ギルマスさん。
その女の子の首元の黒い痣が
何なのか知っているのか? 」
ラックの殺気に気づき、ボーグは警戒する。
「痣だと?
殿下の肌の特徴などオレが知るわけなかろう。」
「はぁ~?
ボーグ・・・お前、『暗黒騎士』だろ。
俺は悪魔の判別くらい一目で出来んだよ。
俺に、嘘ついたって事は死ぬ覚悟は出来てるんだよな。」
「!!!!!・・・ラック・・お前は一体? 」
ラックは少女の右手首を捻り上げた。
「うううっ・・・痛い!
無礼者! 何をするのだ! 」
少女は自身の身体を
バック転させて捻りを解こうとした。
ラックも身体を前転させて
少女の手首の捻りを外さなかった。
ボーグは構えると、その瞬間に姿がかき消えた。
ラックの背後にフッと、ボーグは姿を現すと、
右手でラックの首を握って、押さえつけようとした。
「貴様、皇女殿下を離せ! 」
ボーグは精一杯の力を込めたがラックはビクともしない。
「バーカ。」
そう言うとラックはグググッと
頭を動かしてボーグの胸に頭を置いた。
「『爆発勁』」
ボーグは胸の奥に熱い何かが発生したのを感じた。
ドババババッババッッバッバッババ!!!!!
ボーグの肉体の各部位が小爆発を起こして
ボーグの身体はバラバラになって吹き飛んた。
肉片が壁に張り付いて、壁は血で赤く染まった。
「キャーーーーーーー!!!!」
ギルド職員の女性は悲鳴を上げながら
へたり込んで床に腰をついた。
「あなた・・・殺し屋なのですか?
わたくしはここで死ぬわけにはまいりません。 」
少女は全身に力を入れると、フッと、姿がかき消えた。
「やっぱりか。」ラックはつぶやく。
階段付近で少女が姿を現した。
少女が後ろを振り向くと、目の前にラックがいた。
ラックは少女の首を右手で掴んで
少女の身体を持ち上げた。
「お前、その痣の意味を知っているのか? 」
「も・・・もちろん知っています。
わたくしを殺すのはおやめなさい。
わたくしを殺せば、
紫に属する旅団があなたを殺すでしょう。」
「アホらし。紫に属するって、
その紫って何を意味するのか知ってんのか? 」
ラックは呆れた顔を少女に向けた。
「・・・そんなことはわかりません。」
少女は苦しげな表情で答えた。
「その紫ってのは・・俺の事だ。
それで、皇女さまよぉ。
俺の配下が俺に何するっていうんだよ。
もう一回、考えて言ってみろ。」
少女に絶望の表情が浮かぶ。
「・・・そんな・・殺さないでください。」
少女の目から頬に涙が溢れ始めた。
ラックは少女の首から右手を放した。
少女は床に落ち、へたり込む。
「助けてください。お願いいたします。」
少女はラックに土下座をして命乞いをした。
「お前、上の服を脱いでみろ。」
少女の身体は、ビクっとして震え始めた。
少女はヨロヨロと立ち上がると
ブレザーを脱いで床に置き、シャツも脱ぎ始めた。
少女の上半身は下着だけの姿となった。
少女の上半身は黒紫の大きな痣が
無数に広がっていた。
「はぁ。こりゃ、ひでぇなぁ。
あんた、このままだと長生きできねぇぞ。」
ラックはため息をついた。
「・・・そんなこと知っております。」
少女は恥ずかしさで顔を紅潮させながら言った。
「時間を取らせて悪かった。
もう、行っていい。あ。名前だけ聞いておこうか。」
「行って・・・いいのですか。
わたくしの名は、リエラ・モルドベン。
モルドベン帝国の第一王女です。」
「リエラか。わかった。
人が来る前に服を着てくれ。じゃあな。」
ラックは興味が失せたように後ろを向いて
廊下の奥へと歩き出した。
廊下の奥へと進むと、
ボーグとギルド職員の女性が片膝をついて控えていた。
「なんと。陛下であらせられましたか。
私の無礼をどうかお許しくださいませ。
では、クラウス様・・いや『ルシファー』閣下の所へ
私どもが案内いたします。
「おう、許そう。大義である。
暗黒騎士の『量子転移』と『身体量子再生』か。
身体を瞬時に再構成するのは便利なスキルだな。」
「陛下、わたしは夢魔ヒリアスと申します。」
ギルド職員の女性の頭に羊の角が顕現していた。
「うむ。では、そこまでだが案内してもらおうか。」
リエラはなぜかラックの後ろをついてきていた。
「ん。あんた、急いでるんだろう?
早く帰りなよ。マジでもう用はないんだからさ。」
ラックは、あっち行けと手振りした。
「わたしはクラウス様の配下となった身です。
そのクラウス様の主はわたしの主でもあります。
忠誠を誓わせて頂きたいのです。」
そう言って、ボーグの横に並んで片膝をついた。
「お、おう。あんたはクラウスに忠義を尽くせばいい。
それが俺への忠誠になんじゃねぇの。」
「ありがたきお言葉。
このリエラ・モルドベン。
ラック・デスト様に一生の忠誠を誓います。」
「うむ。その誓い。確かに受け取った。」
「皇女殿下、お時間が迫っております。
早く行かれなさいませ。」
ボーグがリエラを促した。
「はい。では、わたくしに
改めてラック様にご挨拶の機会をお与えください。」
「いいよ。俺は冒険者だからここに来れば会えるさ。」
ラックはリエラの願いを了承した。
リエラは深々とラックにお辞儀すると
急ぎ足で階段に向い歩き始めた。
ラックはボーグとヒリアスの
後ろについて、クラウスのいる会議室に向かった
はじめまして。
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