冒険者
フィガロから褒美をもらった3日後の朝。
ラックとマリアは帝都へ旅立つ事になった。
旅立つ当日、マーチスが嫁入り道具といって
山のように家財道具を用意しており
ラックは閉口した。
マリアも家財道具は持っていくと言うのを
ラックはマーチスとマリアに
住むところも決まってないので
現地で買った方がいいと説得した。
サーカランが嫁入り道具を
アイテムボックスに入れて運ぶと
言い出したのでラックは
その気持ちだけ受け取っておくと断わった。
ラックはサーカランに
アイテムボックスだけ貸してと
頼んだがやんわりと断れた。
フィガロから、金色の鎧を誰も使わないから
持っていってと言われたがラックは断わった。
領民から沢山の食料が送られたが
腐るからとラックは受け取りを断わった。
ギネタールの人々に見送られ
ラックは新たな人生を歩みだす決意を新たにする。
ラックとマリアはペガサスに乗り、空へと飛び上がった。
帝都まで北へ大小5カ国をまたぐ長い旅路のはずだった。
しかし、なんと昼過ぎにペガサスは帝都についてしまった。
「ラブリーサンシャインって大陸のどこでも
すぐに行けちゃうくらい速いんじゃないのか? 」
ラックはなんだか拍子抜けしてしまった。
大都市、帝都『ブリエアンタレス』に
到着したラックは
検問の兵による入国許可をあっさりと通過した。
『デスト』の本家は帝都の名家らしく
ラックがデストの分家だとわかると検問の兵に
歓迎されて、帝都にすんなり入れた。
その大規模な街並みと人の多さと
賑わいにラックとマリアは驚いた。
警備兵の一人が、案内についてくれた。
ラックとマリアはペガサスを降りた。
ペガサスの手綱を引いてラックは歩く。
デスト本家の当主の子息は帝都の警備を司っていると
その警備兵が教えてくれた。
ペガサスは帝都でも
とても珍しいらしく周囲の通行人の注目を集めた。
ラックが手頃な宿屋はないかと警備兵に訊くと
警備兵は高級ホテルへラックとマリアを案内した。
案内されたホテルは安い部屋でも
1泊金貨1枚はするという。
「手頃じゃないよ! 」と、ラックは渋ったが
「ある意味、これって新婚旅行なんだからね! 」と
マリアに押し切られ、1泊金貨10枚の部屋を取った。
マリアは買い物をするというのでホテルに残した。
ペガサスはホテルに預けた。
ペガサスの手綱を預かったホテルの従業員たちは
本物のペガサスを初めて見るらしく度肝を抜かれていた。
警備兵とラックは歩いて冒険者ギルドへと向かった。
警備兵はラックを冒険者ギルドに案内すると
「隊務がありますので、私はここで。」と言うので
ラックは「本当に親切にして頂きありがとうございます。」と
深くお礼を言って、警備兵に金貨1枚を渡した。
警備兵はそれを断わったが
「今後も困った時はお世話になるかもしれないので。」と言って
渋る警備兵の手を取って金貨を渡した。
警備兵は渋々、金貨を受け取ったあと
「この帝都で困った時は帝都警備隊に頼ってください。
私は第11警備隊所属の
トスコ・ダルミといいます。」と言った。
ラックとトスコは強く握手をして別れた。
ラックは冒険者ギルドの建物を見上げる。
「ここが冒険者ギルドか。
なんだこの豪華さは。
儲かりまくってんのか?」
ラックは驚愕し、萎縮した。
入り口の開けっ放しの大きな扉から
ギルドの建物内に入るのを躊躇した。
冒険者ギルドは高級ホテルよりも
大きく豪華な建物であった。
冒険者ギルドの入り口は
武装した頑強な肉体の人々が往来していた。
ラックは勇気を出して
冒険者ギルド本部の建物に入った。
豪華な装飾が目をひく内装、広大なロビー。
(ここで頑張って働いて無収入、無職から卒業するぞ。)
ラックは期待で心が踊った。
ラックは冒険者新規登録受付の札を見つけて列に並んだ。
自分の番が来て、受付カウンターの椅子へ座った。
受付の担当者は正装をした綺麗な女性だった。
「ようこそお越しくださいました。
冒険者の新規登録の手続きでよろしいですか?」
ラックは緊張した様子で頷く。
「はい。冒険者登録したいです。」
「担当はミリスです。よろしくお願いします。
では、この書類に必要事項を書いてください。」
「わかりました。」
ラックは出された書類に必要事項を
記入して書類を受付嬢に渡した。
受付嬢ミリスは書類の不備を目視で確認した。
「職業名の記載が抜けています。」
「無職です。」
「失礼致しました。
書類を受理いたします。」
ミリスが受付内に
設置されている水晶玉に書類を照らすと
水晶の中からカードが排出された。
「こちらはギルドカードになります。
ランクはFからのスタートですが、
ランクの指定がなければ
どのランクの依頼も受ける事は可能です。
他の冒険者と、依頼の受託が競合する場合には
ランクが高い冒険者が優先的に依頼を受託できます。
あちらにあるクエストボードに貼り付けられた依頼書を
クエストカウンターに提出して受理されれば
クエストを受託することができます。
何かご質問はありますか?」
「ええと~。特には無いです。」
「では、これで登録は終了になります。
ラックさま、あなたの未来に光があらんことを。」
「ありがとうございます。」
ラックはミリスからギルドカードを受け取って席を立つ。
ラックはクエストボードに向かわずに
ロビーと隣接したフロアにあるレストランに向かった。
冒険者ギルドはレストランも広かった。
ギルドのレストランは一般客も利用できるらしく
観光客らしき人々や
冒険者パーティーなどの客で店内の席は
ほぼ満席に近い状態であった。
入り口で女性の店員に案内されて
ラックは2人席に腰をおろした。
「一人きりの就職祝いでもするか。」
ラックはメニューを開いて一通り眺めると
銀貨2枚のコース料理を店員に注文した。
しばらくして店員がラックの元に来た。
「すみません。お客様、店内満席のため、
相席になっても構いませんでしょうか?」
「いいっすよ。」
ラックは店員に了承した。
店員が若い男性を連れて
ラックのテーブルにやってきた。
その男性は端正な顔立ちの中に厳しさを備えていた。
青い鎧を着ており、長い槍を持っていた。
その装備の美しさで高ランクの冒険者だと推測できた。
冒険者の男性はラックの向かいに座ると
槍を置いて、店員に酒を注文した。
ラックは冒険者と
お近づきになりたくて男性に話しかける。
「かっこいい装備ですね。」
男性はブスッとした態度で
「おお。まぁな。」と答えた。
「俺は今日、冒険者になりたてなんです。」
「ほう、Fランクか。
Fランクでここで食事をするなんて金持ちか。」
「いえ、冒険者になれたのでそのお祝いです。」
「ブッ! あはは。ボッチでお祝いとか寂しすぎねぇか。」
「前祝いですよ!
帰ったら奥さんとお祝いします。」
「お前、その歳で妻帯者なのか。
なら、真っ直ぐ帰って嫁と祝ったらどうだ。」
「ごもっともな意見ですけれど
奥さんは、いま、買い物がてらの
散歩に出かけてると思います。」
「そうか。まぁ、早く帰ってやれよ。」
「そうします。
俺はラックといいます。よろしく。」
「オレはバーナード・オルグレンだ。
ま、一応、A級のソロの冒険者だ。」
「ソロでAランク! 凄すぎる!
やっぱり高ランク冒険者だったんですね。
装備を見て、そうじゃないかなぁって思ってました。」
「大したことねぇよ。
お前だって、頑張ればなれるかもしれないぜ。」
「ありがとうございます。
A級になれたらいいなぁ。
憧れちゃいます。」
バーナードは照れたように頭を指でかいた。
ラックとバーナードがいるテーブルに
屈強な男性三人組が近づいてきた。
「よう。『青き流星』。
お前が連れと食事なんて珍しいじゃねぇか。」
3人組の中の赤い兜の男性が
バーナードに話しかけてきた。
「チッ!うるせいな。ボイマン。
お前ら、用が無いなら、自分の席に戻りな。」
3人組のスキンヘッドの男性が口を開く。
「ったく、つめてぇなぁ。
お前の連れなら、相当に強いんだろ。
俺たちにも紹介してくれてもいいじゃねぇか。」
「コイツは、今日、冒険者になりたてなんだ。
強くなんてねぇよ。だから、あっち行けよ。」
バーナードはそう言ってソッポを向いた。
「おお。新人か。
俺たちが冒険者の心得ってやつを教えてやろう。」
3人組の髭の長い男がラックに近づいた。
ラックは困った顔をしながら
「先輩たちの好意は嬉しいんですけれど
それはまた後日でいいですか?
飯がまずくなりそうなんで。」と髭の男に言った。
髭の男はカッと、なった顔で拳を振り上げる。
バーナードの酒を運んできた店員は
悲鳴をあげてトレイを落とした。
バーナードの注文したエールのジョッキが床に転がった。
「お前ら、オレの酒をどうしてくれる。
新人に絡むなんて、タチが悪いぞ。」
バーナードは立ち上がって、ラックと髭の男の間に
割って入って髭の男を制止した。
「ラック、お前もコイツらを煽るな。
こいつらはBランク冒険者だ。
お前が喧嘩を売ったって勝てるわけねぇ。」
バーナードの言葉に、ラックはカチンときた。
「バーナードさん、Bランクの先輩方が
俺を指導してくれるっていうんだ。
邪魔をしないでもらえますか? 」
「なんだよ。オレが庇ってやってるのに。
どうなっても知らねぇからな。」
バーナードは拗ねて席に座った。
「ガハハハ! 新人、言うじゃねぇか。
インドゥ、その新人に冒険者の強さを教えてやれ。 」
赤い兜のボイマンが髭の男にそう言った。
髭の男インドゥはラックの胸ぐらを掴んで
拳を振り上げると思い切り顔めがけて拳を振り下ろした。
バキッ!!! と鈍い音が店内に響く。
店内の客たちから悲鳴があがった。
「ぐああああああぁっっ!」
インドゥはラックの胸ぐらを離して
ラックを殴った右拳を左手で庇った。
そして、痛みのためかその場に座りこみ蹲る。
「どうした! インドゥ! 」
スキンヘッドの男がインドゥに寄り添った。
バーナードはその光景に目を丸くして驚く。
「お前、インドゥに何をしたぁ! 」
ボイマンは剣を抜いてラックに襲いかかった。
「おい! 刃物を出すなんてやりすぎだろ!」
バーナードはボイマンにそう叫んだ。
シュっと、ラックがボイマンの視界から消えた。
いや、高速でボイマンに踏みこんで懐に入っていた。
(戦争後に取得した新スキルを使おっか。)
ラックはボイマンの腹に鎧の上から両手を触れた。
「浸透把! 」
ボイマンは腹の中に何かが通り過ぎた感覚を覚えた。
ボイマンの動きがピタリと止まった。
ボイマンは片手で握っていた剣を床に落とした。
ラックの両手から放たれた振動波が
ボイマンの内蔵をズタスタにしていた。
ボイマンは床に仰向けに倒れ込むと
白目をむいて泡を吹いている。
「おい! マズいぞ! こりゃ死んじまう。」
バーナードはベルトに装着している革の小物入れから
中級ポーションを取り出した。
ボイマンの上体を抱えて、バーナードは
中級ポーションをボイマンに飲ました。
じわじわと内臓がボイマンの修復がしていく。
「おい! 回復魔法師はいないか! 」
レストランの客たちに向かってバーナードは呼びかけた。
レストランのテーブルに
座っていた一人の神官らしき冒険者の女性が
ボイマンに駆け寄って跪き、両手を握り合わせる。
「神よ。
その慈悲深き愛をもってこの者に癒しの光を。
『回復』。」
女性神官はボイマンに回復魔法を施した。
ボイマンの身体は淡い光に包まれていく。
その瞬間、ボイマンの顔に血色が急激に戻り始めた。
「この様子なら、もう大丈夫そうだ。
お前等、すぐボイマンをギルドの診療所に運べ! 」
バーナードはボイマンの仲間の二人組に叫んだ。
インドゥとスキンヘッドの男は我に返った。
「バーナード! 恩にきる。」
「悪かった。この借りは必ずキチンと返す。」
スキンヘッドの男とインドゥは
バーナードに礼を言うと
二人でボフマンの両脇を抱えて
レストランを出て行った。
「レオナ、サンキュ。
S級冒険者には少ないかもしれないが
これは治療費だ。」
バーナードは腰の革袋から金貨を10枚出して
神官の女性に手渡そうとした。
神官のレオナは首を横に振る。
レオナはラックをチラっとだけ見た。
「ううん。バーナード。それは受け取れないわ。
だって、これは仕事ではなく
人助けなのですから。」
レオナはそう言うと、自分の席へ戻っていった。
ラックは席に座った。
「バーナードさん、ご迷惑おかけしました。
自分の強さを試したくなりまして。」
バーナードもテーブルの席に座る。
「はぁぁぁ。まったく。
お前は何者だ。さっきの殺気は只者じゃねぇ。
お前、人を殺した事があるんだろう。」
「ええ。この間まで傭兵をやってまして。
ギネタールって所で、なんですが
2000人くらい敵兵を殺しちゃいました。」
「ギネタールって、お前、まさか。
ギネタールの金色の英雄ラック・デストか。」
「え? 帝都に噂がきちゃってました? 」
「ったく。当たり前だ。
かつては最強を誇ったエトミア兵を二千も斬殺したんだ。
遠い帝都でも噂にもなるだろうよ。
まったく、お前、スーパールーキーすぎんだろうよ。」
「俺って有名人なんですね。
嬉しくなっちゃいましたよ。
バーナード先輩、
お詫びに、お酒を奢らせてください。
ポーションまで使わせてしまってごめんなさい。」
「飛びっきりの酒をボトルでおごれ!
それでチャラってことでいい。許してやる。」
「わかりました。
飛びっきりのボトルを奢らせてください。」
ラックは立ち上がると
レストランにいる人々に向かって
「お騒がせして大変申し訳ありませんでした!
深く反省しておりますのでどうかご容赦ください。」
と言って頭を深く下げた。
ラックは謝罪の意を示して席についた。
ラックとバーナードの二人は
このあと仲の良い友人のように
冗談を言い合いながら談笑して過ごした。
はじめまして。
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ド素人なのでプロットを作らずにおもいつきだけで
一発で書いているので
ちゃんと伝わる文章がかけてるか不安になっちゃいます。
だから、訂正更新が多いのです。すみません。
感想とか知りたいですがもう少しこの小説が書けたら
友達にも読んでもらおうかと悩み中です。




