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山猫サーカラン

 ラックとサーカランはフィガロ軍本軍から


北東へ1kmほどの位置で馬を止めた。


サーカランは馬を降りると


ベルトに装着されている小さな巾着袋から


巻物を取り出した。


敵の第一軍がすぐ近くまで


接近してきているのが見える。



 「ん。それ、アイテムボックスですか。」


ラックは興味深げに巾着袋を見た。



 「ええ。よくわかりましたね。」


サーカランは得意げな顔をした。



 「そっか。アイテムボックスなんて貴重品を


持ってるなんて先輩って本当にすごいね。」






 フィガロは目視でラックとサーカランが


定位置についたのを確認した。


「マーチス、全隊に九字を切るよう指示しろ!」


フィガロはマーチスに指示を出した。



 隣にいたマーチスは各隊長に向けて指示の合図を送った。



 フィガロは「皆のもの!九字を切れ! 」と叫んだ。


フィガロの号令に全兵士が右腕を天に掲げた。


フィガロが「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前」と唱え始める。


フィガロは右腕を上から下へ振り下ろし、そして、左から右へを振った。


全兵士がフィガロに合わせて同じように九字を切った。


「りん・ぴょう・とう・しゃ・かい・ちん・れつ・ざい・ぜん」と


本軍の全員で何度も繰り返し、繰り返し唱え続けた。






 「なんか後ろからお経が聞こえてくるんですけど。」


ラックは後ろを振りかえって不審な顔を浮かべる。


「お祈りして戦争に勝てるんだったら武器なんていらないね。」


ラックは呆れた顔をした。



 突然、サーカランの体からほのかな光を放ち始めた。



 「うわ! 先輩! 大丈夫っすか?


ラブリーサンシャインみたいに光ってますよ。」


ラックは驚愕の表情を見せた。



 「あ、光ってますか? 護法っていうんですけれど


仲間の祈りをチカラに変える術なんですよ。


僕一人のチカラなんて微々たるものなんです。」



 「祈りをチカラに変えるって事は法術系っすね。


お経も戦争の役に立つもんなんですね。」



 「そうですね。


術式はかなりアレンジされてますが


その効果は強力ですよ。」


サーカランは巻物を口にくわえて、両手で印を結んだ。


「(千人分身法術!発動!)」


そう心の中で叫ぶと横にズラーーーーーっと


サーカランが1000人に増えていった。



 「増えてる! サーカラン先輩がめっちゃ増えてる!」


ラックは嬉しそうに叫んだ。



 「一時的な術です。この人数を維持して


戦うほどのチカラはないです。」


サーカランは巻物を巾着に戻すと、サーカラン本体と分身たちが


独鈷杵どっこしょ』という楔のような道具を


巾着から出して地面に投げつけて突き刺した。



 「へぇ~。その法具、カッコいいですねぇ。」


ラックは金色に輝く独鈷杵を見て欲しくなった。



 サーカランはまた巾着袋から別の種類の巻物を出した。


「ラックさん、ここからが作戦開始です。


敵が一定距離に近づいたら術を発動します。


ラックさんは頃合いを見計らって暴れまわってください。」


そう言って巻物を口にくわえると、両手で印を結んで待機した。



 「オッケー。


戦争って、ほとんど待機ばっかりだよね。楽でいいけれどさ。」


ラックは戦斧バトルアックスを肩に担いで待機した。






 「前方に突然、敵部隊が現れました! 


敵の数、およそ1000と思われます! 


そこにペガサスと金色の騎士も視認いたしました。」


伝令兵の報告に、ファルミット侯爵は驚愕した。



 「伏兵か!? ここは平地だぞ。


どこに隠れていたというのだ? 」


ファルミットは悩む。



 「父上、嫌な予感しかしないです。


ここは引き返しましょう。今ならきっと間に合います。」


モーリスは真剣な表情でファルミットに進言した。



 「モーリス、黙っておれ。


1000名程度、敵兵力が増えたから何だというのだ。


フィガロの事だ。ハッタリやもしれん。


大隊長2人に大見得を切ったのだ。


ここで引き返せば、我が家は後世まで笑い物にされるわ。


ふん。突撃するにはいい頃合いだと思っておったのだ。」



 「わかりました。父上。」


モーリスは父の思考が


どこかズレているような感覚を憶えた。



 「おい、伝令兵!


全軍に突撃準備をしろと伝えろ! 


騎馬大隊に敵の歩兵どもを蹴散らして


金色の騎士の首を取ってまいれと伝えい! 」



 第一軍は全軍で突撃する準備態勢に入った。


敵に突撃を悟られないようにゆっくりと進軍していた。


騎馬隊とラックたちとの距離が1kmほどに近づいたその時。



 「全軍突撃!!! 」


ファルミットは全力の大声を張り上げて号令した。


第一軍は全速力で


ラックとサーカランの分身たちに近づいていく。






 敵の突撃を視認したサーカランは


目を閉じて神経を集中する。



 「あ、敵さん走ってきてるよ。」


ラックは能天気に敵軍を見つめていた。



 「(ラックさん、頼みましたよ。


水遁術『雲流霧隠れの術』発動!!!)」


サーカランは術を発動した。


地面に突き刺さっていた1000個の独鈷杵から


光が放たれ地面に法力が伝播していく。


前方に扇型にチカラが伝播していくと


地面から水蒸気が広範囲に立ち上った。






 突然、前方から霧が立ち込め始めて


第一軍騎兵大隊は大隊長は困惑した。


「これでは前が見えんではないか!


しかし、全軍が突撃している以上、


止まる事はできん。進むしかない。」


騎兵大隊は1000は速度を緩めずに前進した。






 サーカランはすぐに巻物を取り換えて口にくわえた。



 「うわ! 本当に霧を出せるんだね。すごい。


巻物をくわえるだけで無詠唱でこんな大規模な術が使えるのか。


巻物ってすげぇ。カートリッジみたいだ。」



 「(ラックさん、そろそろ準備お願いしますよ。


土遁術『深泥の大沼』発動!)」


サーカランの独鈷杵がまた光を放ち法力が地面に伝播していく。


地面がドロドロになって扇状に泥の沼が拡がっていった。



 うわぁぁぁぁぁ!!!と


騎兵大隊隊長は前方から大勢の味方の悲鳴が耳に入った。


すぐに大隊長の視界に前方の味方が見えた。


騎兵の馬が地面に足を取られて沈んでいくのが見える。


「なんだと! これは不味い! 全部隊に停止命令!」


そう号令を出した時にはもう遅かった。


大隊長が乗る馬も泥に足を取られ、ジワジワと沈んでいく。


「こんなことがあってたまるかぁ。こんな死に方は嫌だぁ! 」


大隊長は馬を飛び降りた。


大隊長の足はズボッと地面にめり込んだ。


足掻けば、足掻くほどに地面に埋まっていく。


そして、大隊長の頭が地面に沈み、見えなくなった。






 サーカランは地面に倒れ込んだ。


サーカランの分身たちは姿が霞み消えていく。


「僕はここまでのようです。


無理なチカラを使いすぎました。


少し、休んで撤退します。」



 「先輩。本当に無茶しやがって。


かっこよすぎだっつーの。


すまないけれど先輩はここに置いていくよ。


やっと、俺の出番が回ってきたんだもんね。」



 「ご武運をお祈りしています。いってらっしゃい。」


そう言ってラックは目を閉じた。



 「じゃ、行ってくるわ。」


そう言ってラックは柄の長い戦斧バトルアックス


片手でバトンのようにクルクル回した。


「ラブリーサンシャイン。突撃だぁ~!」


ラックはペガサスの腹を蹴った。


ペガサスは助走をつけて飛び上がり飛行した。


沼地になった地面を避けるためである。


前方の第二大隊のど真ん中にペガサスは着地した。


ラックは戦斧を横八の字に振り回しながら


敵の歩兵を無慈悲に切り裂いていく。


「(スキル『領域吸魂』自動吸魂を発動!)」


ラックはスキルを発動した。


ラックを中心にした広範囲から


死亡した敵兵士の魂が左目に集まって吸収されていく。


泥の下に沈んだ兵士の魂もラックに吸収された。


ラックはスターテス画面を視界に展開させる。


「お。ポイント残1220か。


攻撃力に1020振って、1100。


防御力に160振って200。


新スキルが解放されたな。


【人体錬成】 0/10


【超再生】 0/10


【超加速】 0/10


魂破壊ソウルブレイク】 0/10


スキルに40ポイント全振りしとくか。


魂破壊は人間に使うのはもったいないな。


対象の身体にダメージを与えると


魂へのダイレクトアタックになるスキル。


魂のHPっていくつって、そりゃ1でしょ。


魔物でも1撃で倒せるって恐ろしいスキルだなぁ。」


ラックは今回のスキル取得に満足げだった。



 敵の歩兵部隊がラックを取り囲んで攻撃してきた。


ペガサスが華麗なステップで方向転換しながら


歩兵への前蹴り、後ろ蹴りで


絶妙な間合いとったり、


翼の風圧で矢を落としたり敵を怯ませた。


敵の動きを見て縦横無尽に素早い回避をおこなったり


ラブリーサンシャインは戦場で素晴らしい動きを見せた。



 「ラブリーって戦い慣れてるね。


びっくりしたわ。相棒と認めざるおえんな。」


ラックはペガサスの動きの良さに感心した。



 ペガサスは嬉しそうな目をラックに向けた。


ずっとダイモンド家の馬小屋で


飼い殺しにされていたストレスは


相当なものだったのだろう。


ラブリーサンシャインの動きはキレッキレだった。



 「おりゃ! おりゃ! おりゃぁ~! 


腕にそんなに力を入れなくても敵の体がプリンみたいに


簡単に真っ二つに切れてしまうんだけれど


あッ。攻撃力上がったからか。」


いつの間にかラックの周囲には


数多くの敵兵士の死体が無残に散乱していた。






 第一軍騎馬大隊全滅の報せがファルミットに入った。


「地面が底なし沼になっただと?! 魔法か!


フィガロめぇ。こんな手段を隠し持っておったとは。


悔しい! いまいましい! 


苦渋の選択だがここで撤退するほかあるまい。


フィガロが大規模魔法を奥の手で使ってくるとは


予想もつかなんだ。


この情報をもって成果とするほかあるまい。


全軍に撤退命令を出せ!!! 」


ファルミットは第一軍に撤退命令を下した。


しかし、第一軍は霧に覆われて視界が悪く撤退が進まない。


どんどん日が落ちて辺りも暗くなり始めていた。



 「前方からペガサスに乗った金色の騎士が


一騎で突撃して参りました!


前方の部隊は大混乱に陥っております! 」


伝令兵がファルミットに伝えた。



 「たかが一騎だろうが。何をしておるか! 」


ファルミットは怒鳴った。



 副官のバリーがファルミットに近づいた。


「閣下、ご子息とともに逃げてください。


フィガロは異常な戦力を保有していると思われます。


まだ、敵に策があれば我らは全滅してしまいます。


言いにくい事ですが、第二大隊も金色の騎士一人に


壊滅させられたようなのでございます。」



 「馬鹿な!


その騎士は本物のフォード・アルブルドとでもいうのか。」



 「いいえ、フォードと背丈や特徴が違いすぎます。


そして、もっと残念な事はここにいる金色の騎士の方が


フォードよりも遥かに強いという事実です。


もう時間がありません。早くお逃げください。」



 「ううう。


フィガロ配下の将にそのような豪傑がおるとは。


フィガロがそこまで力をつけていようとは。


わしは情けない。


男子、三日会わざれば刮目してみよということか。」



 霧が薄れてきた。もう辺りは薄暗かった。


ファルミットは周囲を見渡して驚愕した。


右手の方向を見ると、


すぐ近くにプレスミン軍が迫ってきていた。



 「ああああ。終わりだぁ~~~!!!」


ファルミットは思い切り頭を抱えた。



 「父上、逃げましょう。


父上さえ生きていれば再起は図れます。」


モーリスは父の腕を取って引っ張った。






 エトミア第一軍のすぐ西側に


プレスミン軍ナイトメア兵団は猛烈な加速で


進軍して第一軍本隊近くで兵を止めた。


団長のモーリック・ドルグデン侯爵は


薄くなりつつある霧の中で


金色の騎士の武勇を目を凝らしながら確認した。


「見事な武勇だ。


あれほどラブリーサンシャインを乗りこなすとは


一騎で大隊を全滅させる勢いだぞ。」



 「これは助けねばなりますまい。


フィガロは若き英雄にラブリーサンシャインを託した。


その度量は認めざるおえますまい。」


副団長ビリエは目頭を熱くした。



 「はははは! 


久々に思い切り暴れたくなったわ!


全隊、ナイトメア(黒ユニコーン)の力の制限解除。


全軍で本隊を打ち抜く! 


それでこのいくさは決着するだろう。」



 全ての黒いユニコーンの各関節から蒸気が立ち上り始めた。



 「突撃形態『一閃』にて敵を殲滅せよ! 」


団長モーリック・ドルグデン侯爵からの号令で


ナイトメア兵団3000は敵本隊へ突撃を開始。


ドドドドドドドドドド!!!と


馬蹄の音が大きく地鳴りする。


黒いユニコーン騎兵たちは


どんどんと加速し速度をあげていく。


ナイトメア兵団は、第一軍、本隊へ突進した。


その異常な加速の突進はまさに疾風のようであった。






 「父上、早く、友軍の陣まで逃げましょう。」


モーリスはファルミットへの説得を続ける。



 ようやくファルミットが我を取り戻したその時。


黒い風が物凄い勢いで西からブワっと通り過ぎていった。



 ファルミットは頭も体もナイトメア兵団の


ランスによる刺突で丸い穴だらけになっていた。


グラっとバランスを崩して落馬した。


ファルミットは地面に横たわり絶命していた。



 モーリスも父にもたれ掛かるように落馬して


父の手を握りしめるようにして息絶えていた。



 親子の周囲には同じように


体中に穴が空いた兵士の死体が


大勢、地面に横たわっていた。



 エトミア軍第一軍は壊滅した。


生き残って、のちに第二軍に合流できたのは


わずか230名であったという。






 クルトとカールは第一軍の壊滅を目視した。



 「ファルミット卿は気の毒だが


俺らは気持ちを切り替えねばならない。


俺たちの戦いはまだこれからなのだからな。」


カールは精一杯の声を張ってクルトに言った。



 「フィガロは稀代の英雄の器とは思えないが


歴史に名を遺すだけの英雄ではあるのだろう。


我らも無名では終わらぬ。


次の戦いで必ずや挽回せねばな。」


クルトは冷静を装ってはいたが


ダイモンド軍の圧倒的で異常な力に動揺していた。


白聖虎騎兵大隊2000と第二軍からの増援部隊1000は


静かに東の山道へと撤退を始めた。



 ギネタール平野は夜の闇に包まれようとしていた。







はじめまして。


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