報せ
フィガロはずっと東の山を見つめていた。
プレスミン公国軍ナイトメア兵団は
エトミア公国軍第一軍の西側で
ある程度の距離を取って停止していた。
敵味方の両軍は何の動きも無くずっと膠着状態であった。
ラックはペガサスの上で退屈そうにパンを齧っている。
「もう城に帰りたいなぁ。」
ラックは愚痴を口にする。
辺りは暗くなり始めていた。
西に日が落ちようとしている。
夜になれば、敵を視認できず
味方も見えなくなるため同士討ちのリスクがある。
当然、野戦は行えなくなる。
フィガロが東の山に目を凝らすと
長細い一本の煙があがるのが見えた。
それは奇襲作戦の成功を知らせる合図であった。
「息子たちよ!ようやった!わしらの勝ちじゃ!!!」
フィガロは両拳を頭上に掲げてブンブン振りながら
体いっぱいに嬉しさを表現した。
マーチスや他の家臣たちから歓声が上がった。
ラックには敵本隊への奇襲作戦については
知らされておらずキョトンとしていた。
「なんだ?勝ったのか?」
フィガロと家臣たちの喜びように
ラックはなんとなくそう察した。
「まぁ、城に帰れるならなんでもいいや。」
長い時間、ずっと、じっとしている事に
ラックは飽き飽きしていた。
「静まれぇ~!!!!
皆の者よ。だが、これからじゃ!!!」
フィガロは家臣たちを制止する。
「このまま夜になれば、わしらの逃げ切り勝ちになる。
総大将がおらねば敵も撤退するほかあるまい。
しかし、その前に敵が総大将が討たれた事が知れれば
全軍で襲い掛かってくるかもしれん。
皆の者、気を抜くな!無事に城に帰るまでが戦争じゃ!!!」
オォーーーーーーーー!!!!と
家臣たちがフィガロの言葉に応じた。
フィガロは手を合わせて太陽に祈る。
「太陽よ。早く落ちろ。早く落ちろ。早く落ちてください。」
フィガロの家臣たちも手を合わせて祈った。
フィガロはふと東の山の方向に目をやる。
真っ赤な色をした三本の煙が立ち上り始めるのが見えた。
エトミア軍第一軍司令官ファルミット・ヘスウッダ侯爵は
白聖虎騎兵軍の後方にいた。
本軍から、第一軍第二軍は
夜間に密かに移動し本軍と合流せよとの指示があり
馬上で第一軍の撤退のタイミングを計っている。
「先ほど、敵軍の狼煙らしき煙が上がったが
まさか、コルクスター公国軍の狼煙ではないだろうか。
早く本陣と合流して早急に軍議せねば・・・・・。」
兵士がファルミットの前に跪いた。
「報告します。後方の山に赤き三本の狼煙が上がりました。」
「なにぃ!赤き三本の狼煙だと!?
それは味方の狼煙だ。
赤き三本の狼煙は総大将の死の報せじゃないか!
クソッ!!!!
ハルク王弟殿下・・・・。
なんてことだ。おいたわしや。
コルクスター公国軍の仕業か。
しかし、コルクスター軍の警戒には
第三軍があたっているはず。
う~む。情報が足りん。わからん!!!
全軍、ここから撤退するほかあるまい。」
伝令兵がファルミットに馬で駆け寄り
下馬して跪く。
「司令官閣下!第二軍から情報伝達!
北側から東方向に向かう白聖虎の軍勢を
目撃したとの報告がありました。」
「ん。白聖虎の軍勢だと。」
ファルミットは南方のフィガロの軍勢を目視した。
「おらん。フィガロの軍に白聖虎がおらん。
(フィガロは元々、我がエトミア公国の将。
野戦に白聖虎騎兵を率いておらんのはおかしい。)」
ファルミットはベルトの小物入れから
望遠鏡を出してフィガロの軍を
じ~っと凝視した。
「(フィガロの軍、なにやら雰囲気が盛り上がってないか?)
はっ!・・もしや、フィガロ
・・・お前の・・・まさかお前の軍の仕業か!!!」
ファルミットの胸に疑念と怒りが込み上げてきた。
はじめまして。
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