出陣
城内正門前のすぐ前で
フィガロとラックは足を止める。
「お前には最高の馬を貸してやろう。」
フィガロはラックにそう言った。
「最高の足ですか?」
ラックは不審な顔をする。
ラックは金色の鎧を着せられた事で
フィガロから与えられる武具には
奇抜な発想が含まれている気がしたからだ。
ラックは城内の馬房の方角を見た。
その方向からマーチスが満面の笑みで
左腕で大きく手を振りながら
白馬を引いて向かってくる。
ラックはフィガロに顔を向ける。
「・・・あのぉ、あれって普通の馬ですか?
あの馬、めっちゃ光ってるんですけど。」
「めっさ、輝いとるやろ。
わしがプレスミン家にいた頃に
おねだりしまくって
王様から拝領したものや。」
フィガロは得意げな顔をした。
マーチスがラックの所に近づいてくる。
「やあ!ラック君、おまたせしたね。
この馬に乗って今から出陣するんだ。」
「え。・・・堪忍してくださいよ。
先生・・・俺、普通の馬に乗りたいです。」
ラックは頭を抱えた。
マーチスは困った顔をした。
「ん。なにを言ってるんだ。
ラック君、君は知らないだろうけれど
この馬は『ラブリーサンシャイン』という名の
由緒正しき名馬なんだ。
気性は激しいが足は信じられないくらい速いぞ!」
「先生。
すごい馬なのは一目見てわかりますが
その馬は哺乳類というカテゴリですか?
馬に生えちゃいけない物が生えてますよ。
俺、そういう感じな生物に乗った事がないんで。」
フィガロは目を輝かせながらラックの肩を抱く。
「お前、想像してみ。
黄金の鎧で
白金に輝く馬に乗った姿は
戦場で映えまくりやないか。
ラック!この馬で戦場を駆け回れ!!!」
「っていうか。
二人して、走るのが速いとか
駆け回れとか言ってますけど
この馬って
そもそも走ることを想定してますか?
明らかに飛びますよね!!!
ペガサスの乗り方なんて俺は知らないって
言ってるんですよ!!!」
ラックの目の前には
大きな翼を広げたペガサスがいた。
「ああ、そっちね。」
フィガロはトボけた素振りを見せた。
「君なら大丈夫。」
マーチスは無責任な発言をした。
「何か事情があるのなら言ってみてください。」
フィガロはバツの悪そうな表情を浮かべる。
「いや、この前、プレスミンの王様に会ったら
ラブリーサンシャインに乗ってないんやったら
返してくれないかって言われてなぁ。
実際、乗ってなかったし
わし、高いとこ苦手やん。
そんなこんなでラブリーサンシャインは
馬小屋の肥やしになってしもうてたんや。
でも、もらったものを返すって、なんか嫌やん。
使ってる所をプレスミンの援軍に見てもらったら
使ってるアピールになるかなぁって。
ペガサスって言っても乗り方は普通の馬と同じや。
要するに飛ばんかったらええやん。」
ラックは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「乗らないんなら返してあげましょうよ。
その方がこの馬にとっても幸せでしょうに。
まぁ、もういいっすわ。
飛ばんかったらいいんですね。」
兵士が大きめの赤い旗印を持ってきた。
「これは我が家の旗や。
これを背負って頑張って目立ってきてくれ。」
フィガロはそういうと
兵士はラックの鎧の背中に旗印を装着した。
旗は赤い布地に
金色の3つの丸模様があしらわれていた。
「この金の丸印の意味は金貨や。
戦場であの世でも金に困らんようにって意味やで。」
フィガロは自慢げにラックに説明した。
「絵にかいた金より
現物の金貨をくださいよ。
金といえば旅費の約束は
反故にしないでくださいね。」
ラックはテンション低めな表情でペガサスに飛び乗った。
「わかっとる!
まったく。失礼なこというな。」
フィガロはそう言ってから
すぐに正門の門兵の一人に向かって叫ぶ。
「おい!!!門兵!
ラックの準備できた!!!
跳ね橋を下ろせ!!!」
フィガロの号令とともに
正門の跳ね橋が可動を始める。
城内からマリアが走ってきた。
マリアはラックに向かって駆け寄ると
馬上のラックに手編みの腕輪を渡した。
「ラック、この腕輪はお守り。
怪我しないようにって祈りながら編んだんだから。
絶対に怪我しちゃだめだよ。」
「マリア、サンキュな。
この戦争が終わったら、俺と付き合ってくれ。」
「ホンキで言ってくれてるの?」
マリアは顔を真っ赤に染めた。
馬上のラックに兵士から戦斧を手渡された。
「マリア、ホンキもホンキさ。
じゃ、ちょっと戦場に行ってくる。」
「そう、わかった。
気をつけていってらっしゃい。」
跳ね橋が完全に降りて正門から
外の市街地の景色が見えた。
「ラック出陣します!」
ラックはそう叫んで馬の腹を蹴って勢いよく駆けだした。
「頼んだぞ!ラック!
あとで合流するからなぁ~!!!」
「ラック君!頑張れ~~!」
フィガロとマーチスはラックに向かって
大きく手を振りながら正門からラックを見送った。
周囲の兵士たちも沸き立ちながら
ラックに向かって手を振った。
駆けだしたラブリーサンシャイン号は
突如、翼をはためかせて空に舞い上がった。
ラブリーサンシャイン号は久々のお出かけに
はしゃいでしまっていた。
「なんか俺、飛んじゃってるよぉ。」
ラックは死んだような目で下に広がる市街地を見る。
ラックに空中飛行を楽しむ余裕はなかった。
はじめまして。
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