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8.町へ


てくてくとリヒトの斜め後ろを付いて歩いている。顔に当たる風は冷たいが、山よりも暖かい気がする。

「リヒトさん、この薬の卸し先まであとどれくらいですか?」

首を少し右に向け顔を上げる。住宅街、というわけではないが、まばらに家が建っている。2階建て、3階建て、クリーム色の外壁にオレンジ色の屋根、群青色の屋根の所もある。

ロドス帝国の貴族の居住区は大体の色が統一されていたからここの色とりどりさに目移りしそうだ。

でも、異国の地、というのと色とりどりさで心はウキウキする。


「もう少し。・・・そこの角を曲がった先だ。」


曲がってから50mは歩いただろうか。周りの家よりも少しだけ広い敷地に家と倉庫らしき建物が建っている。

家の前では小さな子供が3人走り回っていた。


「あ、お兄ちゃんだ。」

「本当だ。薬の兄ちゃん。」

「こんにちは。じいちゃんなら買い物に行ってるけどもうそろそろ帰ってくると思うよ。」

どうやら顔見知りのようだ。元気いっぱいの子供たちにリヒトの口元が弧をかく。珍しい物を見た。

「こんにちは。そうか。じゃあ待たせてもらうよ。」

なんか普段聞いている声と違くないか?なんだこの優しい声は。

珍しいものを見たというようにまじまじと隣を見てしまった。一瞬こっちを見たがすぐに目を外される。


子供たちは見たことのない私にも元気に挨拶をしてくれた。ちょっと不思議そうな顔はされたけど。


町といっても住宅街からは離れているため静かではあるが、子供のはしゃぐ声や遠くで犬の鳴く声が聞こえてくる。興味津々という感じで周りを見渡していたら大きな袋を下げた白髪交じりの薄茶色い髪の男性が私たちが歩いてきた道から帰って来た。


「おお、薬師さんとこの兄ちゃんか。すまん、待たせたかいの?」

「じいちゃん遅ーい!お腹すいたー!!」

「お前がどうしても食べたいというからわざわざ市まで行っとったというのに、なんじゃその言い草は。」

ムッとした顔で言うおじいさんに子供たちがケラケラと笑っている。

「今先ほど着いたばかりなので大丈夫ですよ。」

そうかそうかと家の中へ案内される。


「手洗ってからじゃぞ。」

おじいさんに注意されながら渡された袋を嬉しそうに抱えた子供たちはやったーと叫びながら走っていった。


「毎度毎度騒がしくてすまんの。」

「いえ、お構いなく。普段静かなのでこういうのもいいな、と思ってます。」

そこで私たちがいる客間に赤茶色に半分は白髪と思われる、ふくよかな女性が入って来た。手にはお盆。上にグラスが3つと菓子が置かれていた。

「最近町で売られるようになった甘味でね。口に合うかは分からんが食べてみてくれるけ?」

「ありがとうございます。頂きます。」


ほんのりとレモンの風味がするケーキよりしっとりした生地にスライスされたアーモンドがたっぷりと乗っている。中にはチーズが入っていてコクがある。

「美味しいですね。くどくなくて食べやすいです。」

「そうかい、そりゃよかった。で、姉ちゃんは先生のとこの手伝いさんかい?」

「あ、はい。これからお世話になります。」

「そりゃあ良かった。いつも兄ちゃん1人で重いもん背負って大変じゃ思っとったからの~。」

優しいおじいさんとおばあさんだ。

そしてリヒトが背負ってきた荷物を手渡す。


「うん、数も()うとる。今日も良い物をありがとさん。・・・ほい、金額が()うとるか確認してくれ。」

重そうな麻の袋を前に出される。リヒトが中身を確認する。おもむろに1枚テーブルの上に置いた。

「すみません。今日はこの後買い物に行くのでこれを両替してもらえませんか。」

「分かった。ちょっと待っちょれ。」


見送られておじいさんの家を辞する。

買い物に行くと言っていたな、たしかにここに来る前にエスポワールから頼まれていた。何を買うんだろう?


行きついた先はおそらくおじいさんが先ほど行っていた市だろう。地面に布を敷き、商品を並べている。食べ物や服を売っている店は木棚の上に商品が置かれている。時計屋さんや本屋はいいとして占い屋なんてのもある。まるで市というより庶民のお祭りのようだ。

きょろきょろして歩いていたらある店の前で立ち止まった。


「この中にあるお金で服とか必要なものを買ってきてくれ。俺は頼まれた物を買ってくるから。またここで合流な。」

「え、でも・・・。」

「いいから。」

先ほどのおじいさんに渡された袋とは別に小さな袋を渡される。今まではエスポワールの妹が昔着ていたという服を貸してもらっていた。たしかに借りっぱなしで申し訳ないが、だからといってお金をもらうのも・・・なんて考えていたが押し付けるようにして渡され、私が手に持った瞬間向こうへ行ってしまった。唖然とする。袋の中を見ると銀貨が7枚、銅貨が10枚入っていた。


「ここなら揃っているかな?」

今一番困っているのは服というより肌着だ。自分用にあるとすごく助かる。別れた側の市にも服は売っていたが、そこにショーツなどは売っていなかったため少し歩く。市の裏側に見つけた店には下着から服、果ては靴までそろっている。ちょっとしたアクセサリーも売っているようだ。まあ、貴族の生活をしていたころに比べると格段と質は落ちているが。いまいちここに売っている物が安いのか高いのか分からないが、とりあえず動きやすい服と肌着を数セットを店員に渡し、銀貨6枚、銅貨5枚支払った。良かった。予算の範囲内だ。


もと来た道を戻るとすでにリヒトが待っていた。そんなにゆっくり選んだつもりはないが待たせてしまったようだ。

「すみません。待たせてしまいましたか。」

「いや・・・。買えたか?」

「はい、おかげさまで。ありがとうございました。」

行くぞ、と先を向いて歩き始める。市を抜ける途中、彼を知る人がいたようだ。


「あれ、薬屋の兄ちゃんじゃないかい?そういえばさっきレッグさん家の奥さんにお手伝いさんが増えたって聞いたよ。良かったじゃない。」

あの家を出てからそんなに時間が経っていないはずなのになんだこの情報が回る速さは。

「薬師になるために弟子入りさせてもらったんです。」

ということにした。


そうかい、がんばんな。と手を振って、私たちはまた森に向かって歩いていた。すでに夕刻。空は茜色になりつつあった。



来たときと同じく魔方陣で家に戻る。山はすでに薄暗くランプが点いていた。

「お帰り。初めての町はどうだったい?」

「にぎやかで、ちょうど市が出ていて活気がありました。」

「あそこはナルミアの中でもクウェナーダに近い位置にある。ナルミアの中心に近くへ行けばもっと活気があるしなんでも揃ってるよ。うちはいつもあそこにしか薬を卸さないからそれより先はほとんど用がないと行かないがね。機会があれば行ってみな。」

クウェナーダの近くまで飛んでいたということに驚いた。ロドス帝国とナルミアの境の山を登っていたからここはそのあたりのはず。クウェナーダといえば大陸の中では北に位置し、東西に長い大国だ。ナルミア国内といえどそこの近くまでとはかなりの距離を飛んだことになる。

魔女という言葉自体が禁忌と考えられているロドス帝国では当然だが、やはり魔女ということはあまり知られたくはない様子だ。今日の町の様子じゃ、あそこらの人たちもきっと知らないだろう。

過去の事件と関係があるのだろうか。

気にはなったが今は聞いても答えてくれないような気がする。



こうして本日の町へ行くというミッションは終了したのである。

金貨1枚1万円、銀貨1枚1000円、銅貨1枚100円程の設定です。

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