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7.手伝い?もとい学び


ここに来て、気づくとひと月近くが経っていた。元々は魔女とリヒトとシェリーの3人?暮らしのはずなのに部屋が多く、一歩外に出れば辺りは広い畑で近くに集落がある気配なんてない。

周りは畑といえど山の中だし、畑の向こうはすぐに森になっているから正直夜は怖い。絶対1人で外に出れないと思う。今ではちょっと慣れてきたが、夜、ふと目を覚ました時に外で動物の鳴き声や歩く音などが聞こえてくると、ここにいることをちょっとだけ後悔する。でも運が良ければそこかしこに仕掛けた罠に引っ掛かっており、ありがたくいただいているため怯えてもいられない。先日はウサギが捕まっていた。今までは調理後の食材しか見ていなかったから、普段仕事で血や内臓なんかを見ることだってあるといっても気分が悪くなった。ちなみに処理はいつもリヒトがしてくれているため、私はその光景を見たことしかない。




「あとこれも洗ってくれるか」

今日は洗濯当番。天気が良くシーツを洗って物干し竿に干していく。風があるためパタパタとなびいている。洗濯物の追加があり、外の蛇口をひねり洗濯物を入れた桶に水をはっていく。ここは近くの川から水を引いているためとても冷たい。

魔法が使えるなら洗濯や掃除など、魔法でするのかと思いきや意外と人力だった。いざという時に魔力がないと困るから、というのと、魔法に頼り切ると魔法が使えないときや人前で何もできないため基本は使用しないようだ。

石鹸で洗った後すすぎ洗いし、絞っては一枚ずつしわを伸ばし物干し竿にかけて留めていく。

春と言えど雪が解け切ってそんなに日も経っていないため冷たい水を触れば手がかじかむ。一時は手荒れもひどかったが、気づいたエスポワールが軟膏を作ってくれて塗り始めてから徐々に手荒れも治っていった。

ひび割れた所がしみていたから本当にありがたかった。


洗濯だけでなく、今では掃除も簡単な料理もできるようになった。まあ、料理は本当に簡単なものでレパートリーは少ないんだが。

こうして私は生活能力を身に着けていったのである。





ここでの生活も慣れた頃、ようやくもう一つの目的、薬草の勉強ができるようになった。

「ナディエ、明日はあんたも薬草摘みに行くよ。まだ日が昇り切らない早朝に行くからね。いつもより早起きするんだよ。起きて来なかったら置いてくさね。」

「本当ですか!?ありがとうございます!」

心の中でガッツポーズをしたのは言うまでもなく。

そんなウキウキで布団の中に入った私は楽しみではしゃぎすぎている子供のように、結局一睡も寝れず朝を迎えたのだった。


隣で寝てたプレジールの呆れ笑いといったらもう・・・。いや、自分でもどうかと思うよ?うん。



ランプと籠を持ち、行ったのは家の裏の畑の奥にある薬草園。貴重な薬草も数多く植えているため、密猟者予防に魔女の結界という名の人除けの術をかけているらしい。認められたものだけがここの存在をを知ることができる。道理で今の今までこんな薬草園が家からも見えなかったわけだ。ここからは普通に家が見えるのに。


「ものによっては早朝が一番高い薬効の状態で摘めるものがあるのさ。今日はカブルートとココートを採るよ。作用は知ってるかい?」

「カブルートは抗菌薬ですよね。ココートは確か部位によって違って・・・葉が胃薬で根っこが抗炎症剤でしたっけ?」

「根っこは抗炎症といっても皮膚炎にしか効かんよ。あと花も使えるさね。毒消しに。王家では常備していたんじゃないのかい?」

「ああー、王族専属の医師たちは知ってると思いますが私は騎士団所属だったもので。知らなかったです。」

「騎士だって戦場に行けば毒塗りの矢だの槍だの降ってくることもあろうに。じゃあ、それぞれの見た目の特徴は?」

言われてみれば確かに。今まで実例はなかったと思うがリスクはかなり高い。よし、覚えておこう。

「正直薬草の取り扱いは薬師に任せきりで。学生時代に一応習ったのは習いましたが、もう忘れました。」


情けない話、餅は餅屋、薬は薬屋と考えていたため、薬効しか覚えてなかった。庶民の医師は自分で薬師の代わりに調合もしているため王宮気分でやっていたらだめだな、と思った。まあ、庶民の医者として今後生計していくかは置いておいて。


実際の物を見せてもらいながら説明を聞く。

カブルートの葉はギザギザしており、葉の表面には小さな棘が密集しているため採るときは刺さらないよう注意が必要。また、ツンとした刺激臭がある。

ココートの花は明け方のたった2時間しか咲かないためタイミングを見て来なければならない。花はピンク色で8枚の花弁が付いている。

葉は中心が黄緑色で外側に向かって緑色に変化している。中心まで緑になると薬としては使えなくなる。スーッとした鼻の通るような匂い。

根っこは紫色をしている。断面も紫色に染まっている。


ここにペンと紙を持ってこなかったことを後悔した。でもそんな余裕もないか。手汚れてるしね。頭の中にインプットして帰ったらメモしなくては。

私が説明を受けている横でプレジールはてきぱきと収穫していた。長いこと居るだけあって慣れたもんだなあ。


さて、この薬草をどうするのかと聞けば、麓の町に薬屋として時々卸しに行っているらしい。

薬草は全て乾燥させるのではなく、物によっては採りたてをすり潰すらしい。今日の収穫だった根っことそれぞれの葉は乾燥するのに天井近くに張られている紐にぶら下げて、花は洗って早速エスポワールがすり鉢で潰していた。


それにしても町に卸す薬に毒消しなんて必要なんだろうか。

「たまにね、いるんだよ。山に入って毒の葉で腕を切った、とか毒キノコ食べた、とかね。使用頻度としては少ないから向こうの在庫がなくなったって聞いたら作るようにはしてるのさ。」

そうですか、ご説明ありがとうございます。


一旦朝食を挟み、作業を再開する。乾燥した葉も混ぜてさらにすりつぶしたり、オイルに浸けてあった葉を混ぜたり何やら手の込んだ作業のようだ。葉の独特な匂いもする。というか、この部屋自体が調剤部屋にしているのか、草臭い。


「できたよ。リヒト、ナディエ連れてちょっと町まで行っておくれ。ついでに足りないものなんか買ってきな。」

そういって背中に背負うような形の大きな籠に塗り薬や飲み薬を入れたものを渡された。

「ああ、待ちな。あんたの髪色は今から行く町じゃ目立つ。」

そう言って頭から粉をかけられる。思わずむせてしまったが目を開けた先、鏡を見たらあら不思議。プラチナブロンドがこげ茶色に代わっており、なんなら髪も傷んでるみたいに少しぼさぼさになった。

「え・・・すご・・・」

まじまじと鏡の中の自分を見つめているとリヒトにせかされてしまった。

「早く行くぞ。」

荷物は既に彼が背負ってくれていた。慌てて付いて行く。

「すみません。よろしくお願いします。」

ただ、もう昼前だ。今から町に行ったとて着くのは夕方近くにならないのか。なんて不安はすぐ解決した。

「町近くの森の入り口に印を付けているからね。ここからそこまで飛んでるんだよ。」

にこやかにエスポワールが見送ってくれると思ったら急に足元が光りだす。

「目、閉じてろ。」

気付いた時には知らない森の中。足元の光は消えていく。

そうか、印って魔方陣のことだったのか。ぼんやりしていたらまたせかされた。



いざ行かん!町へ!



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