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4.国外追放


ここは森の中。鬱蒼(うっそう)と茂る草に背の高い木で覆われている。木は枝葉を伸ばし日陰を作ってくれているが太陽があまり入らないため今の時期は肌寒い。白い小さな花が所々密集して咲いており、山に慣れていない人にとっては薄気味悪い世界の中でそこだけが可愛らしさを演出しているようだ。



皆さんこんにちは。ナディエ・スチュワードです。あ、先日追放処分をされたので今はただのナディエですね。私は今、1人で誰かが作ってくれた細い山道をえっちらおっちら歩いています。はあ、山道は歩きなれてないと大変ですね。休憩したいけど小屋もなければ切り株なんかもないから腰が下ろせません。

何故ここにいるか?


そう、あれは1週間前・・・。



「ナディエ・スチュワードだな。騎士団及び医師団から禁忌薬の使用があったと告発があった。大神官もおられる。このまま私に付いて来い。」


そうして連れていかれた先の部屋には懲罰部隊の所属する第1騎士団の団長と副団長、医師団の総長とその息子のドゥム・ゲヘンバル、医師団の2人に神殿のトップ、大神官アシュレイ・ラザヴェールがいた。それぞれ着席していたが私が入ると一斉に目を向けられる。いや、1人、大神官だけは開いているのか開いていないのかよく分からない目だった。


「なぜ呼ばれたか、理由は聞いたな?では、言い訳があるなら聞こうか。」

座っていた騎士団長が立ち上がりゆっくりと私に向かってあるきながら話してくるが、本当に身に覚えがない。

「私は禁止されている薬を使用したことなどただの1度もありません。」

「ほう、知らぬ存ぜぬで通すつもりか。証拠ならここに。」

そう言って渡されたのはあの戦時中に記録していたもの。そしてドゥム・ゲヘンバルが私の前に出る。


「先生のおかげでこの通り良くなりましたよ。右足はまだぎこちないですが、()()は元通り。あんなに酷い傷を治せるなんてさすが先生ですね。」


それを聞いて私は違和感を感じる。それに傷を負ったにしては傷跡がなく綺麗な足をしている。

カルテを見ると左上肢と()()()の損傷と書かれている。神経も負傷ありと・・・。

たしかに左足も無傷ではなかったが擦過傷(さっかしょう)程度で治療が必要なほどではなかったはず。それにこのカルテの字、自分の字に似せてはあるが自分の字ではない。

(まさか書き換えられたの・・・?何で・・・?)


自分の字ではないと訴えるが聞き入れられず、周囲の者も私の字だと証言していると言っている。なんなら両足とも私が治療したと証言している者もいると・・・。


「あなたはロメティス神聖書の序章に書かれていることを覚えていますか?


 我ら智恵と技術の神、ロメティスから創造されし者――

 ロドスの国に生きとし生けるもの全て神の御許にあり――

 智恵を用い技術でもって栄しロドスの民よ――

 神に(ひざまつ)き裏切ることなかれ――

 神を信じぬものは加護もなく闇に葬られる――


分かりますか?我が国での神はロメティス神のみ。神の力と反するものを使用するのは反逆とみなされます。そう、例えば『魔女の秘薬』のような・・・ね。」


そこでようやく私は大神官がこの場にいる理由を知った。


― 魔女の秘薬 ―

魔女の扱う魔力を使用した薬で、どんな傷も病気も治してしまうと言われている。そんなものだから少量でも高額で平民にはとても手が出せない代物だ。魔力、というように神力とは違った力を使っているため、この薬を使用することはわが国ではタブーとされている。


そんな薬、使えると便利だろうが国教で禁止されているため使おうと思ったこともない。手に入れるのも困難であり、もし手に入ったとしても、悪いがドゥム・ゲヘンバルには使いたくないし使わないと思う。うん。

なんてことは落ち着いた後から思ったことで、その時はただただ訳が分からなかった。なぜこんなことになったのかと。


「あのカルテには神経損傷ありと書かれているが、左足の感覚はしっかりあり、痺れもないと本人は話している。それに傷痕1つない。魔女の秘薬は少量しか入っていないが1瓶で腕や足なら1本綺麗に治ると言われている。高額なものだ。より酷かった右足に使ってくれたんだろう。息子を治療してくれたことには感謝するが、神を冒涜するような行為をされてしまったのはとても残念だ。」


父を将軍職から降ろして王派の者を着かせたのと同時に何人か王派の者が騎士団・医師団で上の地位に繰り上げとなっている。そしてこの件もその流れのうちの1つということか。引きずり下ろしたいなら罪をでっち上げると。元々気に入られていなかったというのもあるだろう。


「王もこの件についてはすでにご存じだ。今すぐに国外追放としたいところだが今までの働きも考慮し、今日から1週間の猶予をやる。家族に別れを告げこの国を発ちなさい。もちろん国を出たかの確認はさせてもらいます。」

「引継ぎはいらん。カルテを見れば分かるし、シュティレ医師が指導していたんだ。彼にそのまま引き継いでもらうつもりだからな。」



各々に口答えは許さないとでもいうような勢いの話し方をされ、表情や雰囲気にのまれ、追い立てられるように王宮を離れた。退室する前に見た、普段は目を閉じている大神官が薄っすらと目を開け、その目にあざ笑うような色を見つけたときには、ああ、神殿もグルだったのかと察してしまった。



家に帰ると早速長兄に捕まる。

「父様が呼んでいる。付いて来い。」

早歩きで兄の後ろを付いて歩く。

父の執務室に入ると、そこには既に家を出ている双子の姉が待っていた。

「ナディ―!大丈夫?」

「ナディエ!誰にやられたの?」

「「お姉ちゃんたちがとっちめてくるから言いなさい!」」

入った瞬間にズズイと迫ってきてドアップの顔で言われる。急な展開についていけない。

「セリーナ姉様、マリーナ姉様もおられたんですね。」

「「妹の一大事に暢気に家に居られますか!」」


「そこ、もういいか。話が進まん。王宮からの使いが来てすぐ兄弟全員に知らせた。」

前半は姉に、後半は私に向かって話す。それにしても騎士の家系のせいか、昔から貴族の優雅さやお淑やかさなんて見られない。結婚して子供までいる姉たちも家の中では未だに売られた喧嘩は買うといった好戦的な性格が変わっていないことに、こんな状況下だが思わず笑いそうになってしまう。


「今回の儂の辞職から始まり貴族派が要職から追い出されているのは王派が動き出した証拠だ。神殿は今の王政が続いた方が美味しいから王派のバックについている。現状貴族派の我々はかなり動きづらくなってしまったが王派の悪行や神殿の王政介入の件など証拠を集めている。ラディ―エ公爵家も動いている。お前たちは情報統制を図れ。こちらが王派にとって不利の証拠を持っていることを悟らせるな。」

王弟である公爵が動いているならもしかしたら今後情勢が変わる可能性がある。みな神妙な顔で話を聞いていた。

「ナディエは表向きは王家に従って国を出たことにする。こちらとしては避難の意味合いが強い。情勢が落ち着いたらこちらから連絡する。なに、影が動けばお前がどこにいてもすぐに見つけるさ。ただ・・・そうだな、指定はされなかったからこのまま北に行ってナルミアに入るんだ。あそこは他の国に比べて脱国者にも優しい。言語もここに近いから困ることも少ないだろう。」

侯爵家当主についている影の団体を実は見たことがない。来てくれても気付くか不安だが家族の良い返事を待とう。




そうして動きやすい服装に着替えた私は、最低限の荷物と最小限のお金(絶縁させたと思わせるためだが実際は各所に隠し持っている)を持ち、大陸の中では中央辺りに位置する国、ナルミアへ向かって歩き始めたのだった。



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