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31.エターナルリディット

本編に戻ります。

「ねーえー!何か分かったー?」

「ぐふっ。」

急に後ろから勢いを付けてもたれかかってきたシェリーに驚き変な声が出た。

後ろからの攻撃に思わず前のめりそうになる。座っている時で良かった。そして顔に擦れるシェリーの髪がこそばい。


私の肩に顎を乗せて手元で開いていた図録を覗き込んでくる。

きっとあの日記の最後に書かれていたことを指しているのだろう。

「いや、まだだよ。」

肩をすくめると、ふーんと言ってどこかに行ってしまった。何がしたかったんだ!と言いたくなった。



図録――。

この家にずっとあるというたくさんの本たち。その中でも薬草の図と説明書きが記載されている物を借りて日記に書いてあったものと特徴が合いそうなものを探していた――。





ちらちらと雪が舞い始めた今日この頃、外の仕事はほとんどなく、畑で育てた作物は外の納屋に保管してある。山の中にあるこの家は雪深くなるらしく、外へ出れそうにない時は保管している作物でしのぐらしい。


だから、以前よりリヒトの呪いを解くために奔走する時間が確保されて逆に良かったのかもしれない。

―――これ以上に寒くなるのは初体験で憂鬱だが・・・




白く冷たく 手がかじかむ

誰も知らないそこ 忘れられたようにひっそり

健気な虹 水のしずくがキラリ

求むもの ここにあり



白いとは?花?葉?でも冷たいなら水?霜が降りてる状態?

考えれば考えるほどよく分からなくなってくる。



日だけが無情に過ぎていき、気づけば膝より少し下くらいまで雪が積もっていた。

最近は食後に暖炉のすぐ前を占領することも多い。エスポワールやリヒトは慣れている様で寒さを気にしている感じは見られない。

皆それぞれ調べものもするが、いつも冬の間は繕い物など、室内でできることをしているらしく、リヒトも一応簡単な針仕事なら出来ると聞いてびっくりだ。

そんな彼は今、雪ウサギを狩りに暖炉の側にかけてあった熊の毛皮をなめしたものを身にまとって、弓を持って出かけて行った。

納屋に野菜があるとはいえ、冬の間野菜だけでは体が持たない。幸い雪山を駆るウサギやシカなどがいるため、天候の悪くない日はリヒトが狩りに行ってくれているのだ。



それぞれがこの家での役割を果たしながらリヒトのためにと心を一つに頭を捻っていた。

そんな日が続いていたある日―――。


「そういえば、私がまだ子供の頃だったかいな?色とりどり花弁をもつ花があると聞いたことがあったような・・・」

暖炉前のテーブルに全員が着席しており、自分が調べたことを共有していた時にエスポワールが何か記憶に引っ掛かるものがありそうな顔で口火を切った。


「え?」

「色とりどりの・・・花弁?」

「なんですかそれ。」

「どんな作用があるんですか?」

エスポワールの言にみんながそれぞれに反応する。


「ええい、いっぺんに喋んなさ。聞き取れんが。――私もそう覚えとらんよ。ただ、とても珍しい花で数が少ないから採られちゃかなわんってんで図録には載せないことになったって言ってたような気がするのぅ。口伝じゃてたとえ他に魔女たちがいたとして伝えられているのか・・・そもそも覚えてもないか知れんがな。」



口伝・・・


誰かが呟いたが、その時ひときわ大きく暖炉の薪が爆ぜた音がしたため、その声は掻き消えた。

図録になくどんな形か分からない。口伝だからいつかは忘れられていく――。

現にエスポワールは遥か過去に聞いたそれをほとんど覚えていないようだった。

せめて効能が分かればそれが私たちが求めている物なのか探す必要のないものなのかが分かるのだが・・・。



手を温めるようにマグカップを握っていた手を離し、やおら腕組をした彼女は小さく首を傾げた。腕組をしたときにもたれた椅子の背がギィと音を立てた。


「他に・・・何か情報はありますか?」

いつになく真剣な表情をするリヒトに思わず目が行く。そんな顔もできるんだ・・・。


「そうな・・・ただの治療目的では使わんものだった気がする。観賞用なんて論外だ。とても貴重なものだしな。何で使ったって言ってたかいな・・・?」

うーんと目を瞑って考え込むエスポワールに早く思い出してくれと祈る。


「・・・御礼参り・・・」

「・・・?御礼参り?」

何の?という視線がエスポワールに刺さる。

「うーん、だった気がするって程度だがな。呪いをかけられた御礼参りに使ったと言っていたような言っていなかったような?」

あいまいな記憶に思わず半眼になる。


「呪いをかけられたら普通怒りや憎しみみたいな負の感情が出るじゃないですか。それなのになんで御礼?」

なぜか胸元で小さく挙手をしたプレジールがみんなを代表して質問する。


「たしか気性の荒い人が自分の子供だったか親だったか、とにかく近しい人に呪いをかけられて御礼に呪いを返してやるって言ったことから呪い返しを別名御礼参りと言っていた時期があったみたいじゃて。なんでも、その時使われた例の花のおかげで被害者の呪いは解けたことはもちろん、加害者には何倍にも強くなって呪いが返ったそうな。」

「でも相手がいたから返せたんでしょ?リヒトは?相手とっくの昔に死んでるでしょ?」

それまで沈黙を通していたシェリーが口を開く。幼く可愛い顔をして死んでるんでしょ、だなんてなんてことを言うんだ。

ああ、そんな可愛く首を傾げたって無駄なんだから!発言のパンチがありすぎるのよ!


なんて1人脳内でつっこみをしていたら話が先に進んでいた。


「だがな、その時の呪いっていうのが1人だけじゃなくて3人からかけられていたらしい。だが、かけた方は内2人がすでに世を去っていた。魔力はそれぞれ違うから普通かけた本人の方へかけた分だけが返る。だから理論上2人分の呪いは返せないはずなんだが解けたという。ならその花の効果を期待するのは道理だろう?だから探してみるのも価値があるんじゃないかい?」

「死んだ2人分を生き残った1人に返ったというのは?」

「無理があるだろう。たしかにそう考える人も昔はいたそうだがな。倫理的にそれを背くようなことを神は望んでおらんだろうしな。創造神でもあるまいし、ただの一花草(いちはなくさ)にそのような力なんぞ持っておらんだろうて。」


うーんと唸りながらプレジールが中指で日記の開いているページを叩く。

時計の秒針のようにリズムよくトントンと音が響いて消える。

「やっぱりそれにすがるしかないか・・・詳しい特徴があれば探しやすいのに・・・」


「ああ、そういえばエターナルなんとかって名前じゃったかの?エターナル・・・エターナルリット・・・エターナルディック・・・・・・ああ!エターナルリディット!」

「え?」

「え?」

どこかで聞いたような名前だ。そしてハッとなりプレジールと顔を見合わす。

「もしかして・・・!」


分厚い日記のページをくってそれが書かれていた文章を見つけた。

「あった!これですか!?」



『12月30日

最後に足りなかったものが分かった。今更―――ところであの子は帰ってこないのに。

教えて――たプレヴに八つ当たり―――。ごめん。まだ自分の中でも整理が――んだ。言い訳しか言えない自分が嫌になる。エターナル――トか・・・。どうせもう1人だ。時間ならいくらでもある。探してみようか。』


シミで読めなかった部分。リディットと書かれていたのか。

この日付の冒頭に最後に足りなかったものと書いてあるから私たちが一度試した時に使ったものにこれを足せばいいのか。あの時術自体は作動していたから、今度こそきっと・・・――!



エターナルリディットを探すためにどこに自生しているか、調べ始めた。

私たちには一つの希望の光が見えた気がした。



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