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17.旅の準備

シェリーと話した次の日。――というか夜中に話していたからその日の日が昇ってから。

日中はそれぞれ仕事があるため何も話せそうになかった。

夜、食事が済むと団らんとまでは言えないかもしれないが、このまま一息つく。


その時にシェリーから口火を切った。

昨日私に話したことをみんなに説明する。


「本当にあるのか、確認してからの方がいいんじゃないのかい?私たちとしてはそこに解決策があるならぜひとも行きたいがね。なんせ遠い。それにかの国に入るのは先祖がひと悶着あったからね。あまり大っぴらに行くことはできんよ。」

エスポワールの昔の話を聞けばそういう反応もさもありなんといった感じだが、私は正直医療の元祖へ行ってみたい気持ちもある。

エスポワールが行くと言うと思っていなかった私たちは軽く目を見張った。


「いや、ナディエと行こうと思ってたんだけど。まだ魔女のことを知っている人がいるかもしれない、というかそんな何百年も経ってるわけじゃないから知っているだろうし、この家のこともあるし、少なくともエスポワールとリヒトは残った方がいいと思うけど。」

小さい見た目と違い、大人なことを言っている人型シェリーに目を向ける。可愛らしいぷっくりしたピンク色の唇を少し尖らせている。そういえばこの子は子供に見えるけどいったい何歳なんだろう・・・聞いたら怒るだろうか、と聞いてみたいという思いが(よぎ)るが頭を振り思考を元の話に戻す。


「だけど遠いし危ないだろう、若い女だけの旅なんて。」

最近はちらほらと女性だけの旅も見られるようになったがまだまだ少ない。

「変装すれば大丈夫だと思いますけど・・・まずこの髪の色がなんとかなれば。」

ロドス帝国ではシルバーやブロンド系の髪の人が多いが、ベネリビアもクウェナーダもほとんどいないから、道中目立つこと間違いなしだ。

男装はできなくとも(してもきっとばれるだろう)、髪色でなんとかごまかせないか食後のブドウをちまちまと食べながら考える。


「まあ、なるべく治安のいい所を選んで行けばなんとかなりそうかい?リヒトも付いて行ければいいんだけどね・・・。」

「何日かかるか分からないし、その間リヒトさんが不在となるのは困ると思うんです。」

「そうさなあ、まあ、今すぐ行くわけじゃないんだろう?何事にも準備は必要だ。」

早く行きたい気持ちもあるが、エスポワールが言うことにも一理ある。


「私も行くよ。1人でも多い方がいいでしょう?それにナディエ、庶民の暮らし、分かる?ばれないようにふるまえる?」

たしかに。そこには考えが及ばなかった。

今でこそ女だてらに医師として働いているが、幼き頃より学んできたマナーは体が覚えている。無意識に出てしまうだろう。意識して庶民のように振る舞おうとしても、私1人ではきっと貴族のお忍びのように見えるに違いない。ここは貴族・庶民問わず関わりのあるプレジールに来てもらった方がいいだろう。


「・・・そうね。お願いするわ。」

「え?本当?やったー!私あっちの国に行ったら見てみたいものとか食べたいものあったんだー!」

了承したとたん幼子(おさなご)のように両手を上に広げ満面の笑顔になる。


先ほどまでのシリアスな場面が台無しだ。

道中、安心していいのか悪いのか、分からなくなってきた。

ちょっとだけ頭痛のする頭に手を置く。


「すまんな。俺も行けると良かったんだが・・・」

申し訳なさそうに言うリヒトへ首を振る。

「いいえ。プレジールほどではありませんが、私も他国へ行くのは初めてで、いろいろ見てみたいと思っているので。」

すると急に立ち上がり、自室へ行ってしまった。

急な行動に訳が分からず、首をかしげること数分。

何かを手にして戻って来た。

「ちょっと手を出してくれるか。」

素直に左手を出す。すると赤色と黄色で編まれたミサンガが手首に括られる。リヒトの暗赤色の髪がさらりと前に落ちる。森の中にいるような(実際そういう所にいるんだが)落ち着く匂いがした。


「ちょっとした御呪(おまじな)いだ。獣除けと心やましい者を近寄らさないように。」

「ありがとうございます。」

プレジールには水色と黄緑で編み込まれた物を手首に括っていた。

「これ、色によって作用が違うんですか?」

「いや、ないな。青や緑は気分を落ち着ける作用が・・・」

「それ私に落ち着きがないって言ってますよね?」

ジト目で見られたリヒトは珍しく表情を崩す。ちょっと焦ってるようだ。

「そういえばシェリーには?」

「シェリーは腕にしたら猫になった時に落ちてしまうだろう。だからどこがいいかと思ってな。」


話題を逸らそうと思ってそういえばシェリーにはまだしていないことに気づいた。

指輪みたいにしても・・・と思ったが、土がつくし、長距離歩けば切れてしまうだろう。せっかくの物だ。帰ってくるまで大事にしたい。

「そうだ!じゃあ、首輪にすればいいんじゃないですか?もうちょっと長くしたらできそうじゃないですか?」

ポンッと手を叩きプレジールが案を出すが、私はあの長い後ろ髪を括ればいいと思ったんだけど・・・。

継ぎ足しても効果は変わらないみたいで、ちょっと自分の意見を言える雰囲気じゃなくなってしまった。





3日後、鏡の前に立つ自分はまるで自分じゃないみたいだ。

エスポワールが調合した粉を頭に振りかけ、私のプラチナブロンドの髪が茶髪になったのだ。目は飲み薬で青から黒へ変貌していた。

鏡の前でひらりと一回りする。

庶民の旅装束を着て、見た目はどこからどう見てもベネリビア人だ。きっと知人とすれ違っても気付かれないだろう。

何で作られたのか知らないが、魔法ってすごい、便利だと思う。

目の飲み薬は1日1回、髪は濡れれば色落ちするものの、髪色は以後はトリートメントをすれば今の色をキープできるというものを貰った。しないだろうけど、野宿しないようにしなきゃ。


部屋を出るとリビングでプレジールとシェリーが待っていた。

プレジールはクルミ色の髪にこげ茶の目になっていた。うん、パッと見は誰か分からない。

髪と瞳の色が違うだけでここまで変われるんだなと感心した。

シェリーは人型でも黒髪に黒目だからそこは変える必要がない。

ただ、首には赤紫とグレーの色で編まれたミサンガがネックレスのように少し長めに巻かれていた。

そして、シェリーは耳を隠すために帽子をかぶっていた。尻尾は服の中にしまったようだ。

それぞれがカバンに変装用の薬と着替え、路銀など、必要なものを詰め込み、肩から下げる。

――肩が凝りそうだ。


「町には馬車も走ってる。それを使えば早く到着するだろうし、変なのに絡まれる心配もないさ。」

3人、互いに顔を見合わせて頷く。



「さあ、気を付けて行っておいで!」

背中を押されるようにして外へ一歩を踏みしめた。



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