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フクス・ズィルバーの数奇な事件簿  作者: ベルゼリウス
シーズン1 マンザナール砂漠封鎖事件
6/15

イルシオンシティ ピエタアンジェロ(慈悲の天使)病院 7F 特別治療室前廊下 23:35

「畜生......!!」


 ズィルバーが走る中、視界には荒らされる病院が映っていた。

 爪痕の残る壁、血に染まった床、おそらく化け物と対峙して虚しくも散ったであろう、警備員の死体。

 何故? ズィルバーの脳内に疑問が駆け巡る。

 今回の事件のこともそうだし、この状況も理解できない。

 ギリ、とズィルバーが歯軋りをする。 

 全てが謎だらけだ。

 渦中のど真ん中にいるのに訳もわからず走り回っているのが、とてももどかしい。

 だが、今はユアンとあの子供の元に急いで駆けつけるのが先決だ。

 そう考え、足により一層力を込める。

 時間にして、数十秒。

 ユアンと子供がいる特別治療室にたどり着いた。

 ドアは取り壊され、深々と爪痕によってえぐられた壁が痛々しい印象を受ける。


 ……いる。 確実にいる。


 ズィルバーは怪物相手には意味ないと分かりつつも、懐にしまった拳銃を取り出し、強くグリップを握りしめた。


「......っ!!」


 その場の勢いで部屋の中に侵入し、銃を構える。

 ズィルバーの視界に入ったのは、激しい戦闘の跡と、頭から血を流し項垂れているユアン。

 そして......


「なっ......」


 大木を薙ぎ倒しそうな太い尻尾。

 何もかもを切り裂きそうな爪。

 ワニか何かを思わせるような、全てを噛み砕くことができそうな顎。

 尻尾から頭にかけて、全長五メートル程の怪物。

 それが息を荒くしながら、ズィルバーを睨みつけている。


 ......無理だ。


 今の装備であの怪物と対峙できない。

 今の状況で如何なる戦闘術や、知識を以ってもアレには敵わない。

 そう、ズィルバーは悟ってしまった。


 だが、それでも。


 ズィルバーは拳銃を怪物の方へ構える。

 本能や勘が無理だと告げても、ズィルバーの理性が、感情がユアンと子供を守らなければ、と告げている。

 そうだ、最善を尽くせ。

 自分に求められているのは、この状況を打破すること。

 そのためには......


「おや、遅かったわね」

「っ?!」


 ズィルバーは驚き、声の方は視線を向ける。

 そこには、すやすやとベットで眠る例の子供と、それに寄り添うように寝顔を覗き込んでいる人物がいた。

 フードを被っていて顔がよくわからないが、声からして女性......しかも、少女といえるほどの若い声だった。


「何者だ!? 何が目的だ!?」

「ふふっ......私はこの子の姉。 私はこの子を取り戻しにきただけよ」

「やはり、その子供が目的か。 だが、ここまでの騒動を引き起こして、はいそうですか、と渡せるはずないだろ!!」

「ふうん。 悪いけど、あなたに拒否権はないわ」


 その瞬間、ドスン、と鈍い衝撃がズィルバーを襲った。


「ぐぅ!?」


 吹っ飛ばされている間、ズィルバーは瞬時に何が起きたのか理解した。

 少女に気を取られているうちにあの怪物がズィルバーに太い尻尾で薙ぎ払ったのだ。

 勢いよく、ズィルバーは壁に叩きつけられ、壁には衝撃で深い亀裂が走る。

 チカチカとズィルバーの視界の端に火花が飛び散った。


「ぐ、はーーーー」


 さらに視界が暗転し始めた。 どうやら意識が落ちかけているようだ。


「別にあなたたちの命は取りはしないわ。 さっきも言ったけど、私はこの子を取り戻しにきただけ」


 そういうと、フードの少女はベットで眠っている子供を担ぐ。


「じゃあ、さよなら『えいゆう』さん。 今後、二度と会わないよう、心から願うわ」

「ま、てーーーー」


 そのままフードの少女は怪物の背に乗り、そのまま怪物は窓際に行く。

 そして、窓を枠ごと破壊したのち、7階もある病棟から地上へと飛び降りていった。

 


「ーーーークソッ」



 意識が完全に暗転して、ズィルバーの体から力が抜けていく。

 そして、ズィルバーの視界が真っ暗になり、そのまま気を失った。


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