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フクス・ズィルバーの数奇な事件簿  作者: ベルゼリウス
シーズン1 マンザナール砂漠封鎖事件
2/15

イルシオンシティ 劇場『カーテンコール』前 19:07 ②

「さて、着いたで。 ここにギンちゃんに見てほしかったものがある」


 会話に夢中になっている間、いつの間にか目的の場所についたらしい。

 目の前には大きなドアがある。

 どうやらここは本来、劇などで使う大道具を収納する部屋のようだ。

 なら、見せたいものとは大きなものだろうか?

 唾を飲み込んで意を決し、ウィルはドアを開ける。

 すると見えたのは数多くの檻、だった。


「ここは?」

「今回のオークションの商品置き場や。 ここで攫われた、もしくは売られた身寄りのない子どもや女が仰山囚われていたわ」


 確かにマルダ―の言う通り、ここには数多くの者たちが囚われていたのだろう。

 どの檻にも何かしらの抵抗した跡が見受けられる。


「もちろん、囚われていた連中はすぐに体に異常がないか病院で検査を受けておるわ。 まあ、どいつも衰弱した様子は見んかったから大丈夫やろうけど」

「適切な処置だ。 さすが慣れているな」

「当たり前や。 どんだけ俺ら、場数踏んでいると思っとんねん」

「おっと、失言だったな。 すまない。 ……で、僕に見せたいものは? これだけじゃ無い筈だ」


 すると、マルダ―は奥を指さした。


「あれや。 ちょっと処理に困っていてな」


 目を凝らし、ズィルバーは指定された方へ視線を向ける。

 そこには数多くの檻が無造作に置かれているなか、そこだけライトがそれを照らしていた。


「……むう」


 唸りながらも、虫が光に吸い寄せられるようにズィルバーは近づく。


「どや? ギンちゃん」

「どうって……これはどう見ても人間の子供じゃないか」


 それこそ、マルダ―がズィルバーに見せたかったもの。

 それは緑色の調整槽に浸かった人間の男の子だった。

 その有様はまるでホルマリン漬けの標本のようにも見える。

 だが、時折口から気泡が出ているので、生きているのは確かのようだ。


「しかし、なんで人間の子供が? オークションではどうなっていた?」

「商品紹介も値段も不明。 なんでなんも価値のない人間の子供がオークションに出てたのか全く分からん」

「うーん……」


 またもや、ズィルバーが唸る。

 パッと見て、12歳ぐらいの雄だ。

 髪は金髪で背も体型も標準。

 しかし、長い時間調整槽で眠っているのか、髪や爪が異様に伸びていた。

 全裸でなければ雌のようにも見える。 

 ……こうしてみるとまるで彫刻のようで、こういった美術品だ、と説明されたのなら納得がいくほどだ。

 背に純白の翼が生えていたのならば、大変美しい天使の芸術品のようにも見えた。


「ショタコンの変態をターゲットにした商品か? まあ、金持ちの趣味は理解できんが……」

「いや、それがこいつ非売品やったみたいでな」

「非売品? なら、こいつは何のために?」

「分かってたら、ギンちゃんを呼んでないわ。 それに、こいつ死んでないやろうな?」

「いや、それはない。 このタイプの調整液は中で息が出来る代物で、昔、魔道医療用で見たことがある。 おそらく、対象の細胞を眠らせ、一時的に保存するのが目的だろう。 いわゆる、氷漬けと同じだ」

「おお、それじゃあ、その気になればこのまま置いといてもいい、ちゅうわけか。 うう、おっかないのう」


 恐らく、自分がこの中に入ったのを想像したのだろうか? マルダ―は体を縮こまっている。

 しかし、マルダ―もオークションの参加者を凄惨なやり方で殺しているのだ。

 何をいまさら、とズィルバーは呆れてしまった。


「すまんが、俺は今後、ここの後処理をせんといかんからのう。 ウィルちゃん、こんガキを付き添ってくれんか?」

「もちろんそのつもりだ。 というか、そのために僕を呼んだんだろう?」

「へへ、バレたか」


 罰の悪そうに舌を出すマルダ―。

 いつものことだ。

 厄介ごとがあるとこうやってマルダ―はズィルバーに押し付けていた。

 だが、不思議とズィルバーはそのことについて嫌悪感は抱かなかった。

 慣れてしまったのか、もともとお人よしなのか?

 ……それはズィルバー自身も分からなかった。


「……ところでよ」

「ん?」


 急に神妙な顔付きでマルダ―はズィルバーに近づく。


「ギンちゃん、自分のこと僕って言ってたっけ?」

「ああ、なんだそんなことか」


 とん、と近づいてきたマルダ―を押しのけ、くるりとズィルバーは出口に体を向け、歩き出す。


「ただのイメチェン、だよ。 んじゃ、その子の病院の搬送よろしく。 僕は先に病院に行っているよ」


 そういって、ズィルバーは背を向けたまま、手を振りその部屋を後にした。


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