3話 待っていた。このモノを。
野球にやっと突入。
午後5時半。軽いアップを済ませてちょっと寮の下で休憩。
「あの・・・」
後ろから不意に声をかけられる。向くと後島さんがいる。
「まだ5時半にもなってないけど。」
「いえ、出て行かれるのをみたのでちょっと気になって。」
「まだ誰も来てないしなあ・・・」
ここで何年も聞いてきた声が沈黙を破る。
「お〜いえいてつ〜」
この声はマルだ。
「他の奴らは?っていうかなんでお前が?」
「大中君に聞いて。大中君たちは監督にグラウンドを使う許可をもらってる。ちょっと苦戦中だけど多分大丈夫。それよりお前」
ここでこのクセモノは後島さんに聞こえないように
「もう彼女作ったのか?お前かわいいからって早過ぎないか?」
「バーカ。寮の隣の子だよ。」
「いいな〜俺らは部活寮だから一応1人1部屋だけどせまいし女子は建物自体違うしさあ、飯は休日以外決まったものしか食べられないさ。何が共学だよ。」
声がでけえよバカ。そういう視線を送る。
「あの・・・」
後島さんが後ろをつつく。
「これから何があるんですか?」
「まあ1年部員の親睦会みたいなかんじかな?」
だいたいあってると思う。
「ちょっと走ってくる。来たら待ってて。」
そういい残しマルは荷物を置いて走りにいった。自分も体が冷える前に体操等を済まさねば。
「10分後。
大中と他数名がくる。ん、あれは・・・
「やっさんお久しぶりです。」「久しぶりやないか英哲。」八頭明弘。通称やっさん。シニアの先輩でポジションはセカンドでやることなすこと全てうまい。この人に中2の時何度助けられたか。この学園に進学後も1年の夏からレギュラーらしい。
「大中っていうのがちょっと気になってな。どれくらいのキャッチャーなのか。マルと俺以外でで捕れるのかどうか。まあ今日はとれなくてもいいとおもうが。」
実はこの先輩は自分のスライダーを捕ることができる。自分が中2の時は自分がピッチャーをするときのみキャッチャーをしてもらった。本当に感謝している。この学校を選んだのはこの人に誘われたからでもある。
その後マルが帰ってきてグラウンドへ移動。すると・・・
「は?」
そこには監督がいた。
「あー言い忘れたけど監督もいてのグラウンド使用許可って。怪我とかされたら困るからって。」
ここで監督について軽い経歴を。本名、月丸大二郎。元プロ野球の有名捕手。高校野球の監督をしたいという理由で35歳で早く引退。2年後この学校の監督に。ちなみな独身ではないし子供も3人いる。俺の親父と同じ高校で神宮春夏国体の4つを完全制覇。プロでは違うチームだったが交流は深く一緒に自主トレをオフにはしていたし、俺も何回かあったことがある。
道具を出して、軽いキャッチボールをしてサード側のブルペンに入る。 ブルペンで投げるのは夏以来だ。マウンドの感触にひたりながら肩をあたためていく。ブルペンの近くで後島さんと監督が話している。監督の表情はそこまで怖くないので部外者だからとかで追い出されたりはしないだろう。 さあ肩が温まったし始めるか。
最初はストレート。自分は冬に相当走り込んで大体マックスは夏に記録した135から144くらいにまで上がった。コンスタントなら136から140くらいか。自分でいうのもアレだが速くなったと思う。数球投げたがどのボールもバシッといい音がミットから聞こえる。さすがにうまい。ワンバンも簡単に捕る。
そろそろ投げるか。
「スライダー。」
球種を大中に教えると目が変わったのがわかる。監督が話しをやめてこっちをみる。
深呼吸を1回。人に対して投げるのは久しぶりだ。
捕ってくれよ。頼むから。
ワインドアップからの一球。
「!!」
内角から外角へ曲がる横のスライダー。
結果としては捕れなかった。しかしミットのアミに入りかけた。
英哲としては感激モノだった。
これは絶対今月中には捕れる。スライダーの開発に付き合ってくれたマル以外でやっさんしかいなかった。
これは本気で甲子園と・・・
大中は別の意味で感激していた。
こんなスライダー、いやこんな変化球初めて見た。
キレ。曲がりはじめの位置、ノビ、コントロールだけは一球では計れないがすごい。すごい。すごい。
並のキャッチャーでは扱える品物ではない。
それに・・・このボールに140くらいのストレートがあるのだからまず普通に組み合わせていればまず打たれない。
捕手に恵まれなかったな。もしチームに捕れる捕手がいたなら。丸山君が右利きなら。っていうか左利きでもバッテリー組ませるべきだったはず。
自分は幸運だ。3年間こいつとバッテリーを組めるのだから。まあそのためには捕手のレギュラーを捕らなければならないのだが。
「大中、ちょっときてくれ。」
監督がマウンドに入って来る。何だろう。
「えっとね。今週の日曜日1年対2、3年で9回延長なしのゲームをやるわけ。それで1年はお前らに好き勝って采配していいから。それで・・・」
「そのときにバッテリー組めと?」大中が質問。
「逆。先発では投げてほしくないんよ。」
「は?」
2人でハモる。どういう意味だよ。
「もうどんな球かは大体わかったし。他のピッチャーをみたいんよ。だけどやるなら勝ちたいやろ。」
2人とも頷く。当たり前だ。
「だから6回以降ならいっていい。ただ他のピッチャーが調子いいなら投げ続けさせていい。6回まで大中はキャッチャーしといていいし、森も他のポジションを守っていい。」
要するにリリーフで入れと。まあ俺が監督だとしても1人に完投はさせないな。
「ということでよろしく。言い忘れたけど点差でのコールドはなしだし何点差になろうと6回までは投げさせないからな。」
監督が不適な笑みを浮かべる。その不気味さは尋常じゃない。
日曜日はどうなることやら・・・
スライダーの真実。多分球種がわかってればかなりのレベルに達した捕手なら捕れる。まあそういってもトップクラスの1年なのだが。 やっと野球パートに入れて感激。次か、次の次で試合にはいるのでせれまでにアレはどうにかします。アレはわかる人だけでいいです。




