4話
4話
初心者の草原と呼ばれている名の通り、凶暴そうなモンスターはどこにも見当たらない。
大人しそうに草を貪っている羊。草原を駆け巡るダチョウのような魔物。そして、草を貪っている羊を襲って食べている、赤色の狼。
どれも温厚そうな魔物である。
道は一応整備されているようで、門を出たところから、一直線に道が伸びている。
そこら辺を歩いていた冒険者の話によると、道を外れて奥へと進んでいくと、森があるらしい。
この草原で出る魔物とは比べ物にならないくらい強いそうだ。気をつけよう。
私は魔物を狩るため、整備された道を外れて草原へと繰り出していった。
––私はまだ知らなかった。このゲームの運営の、鬼畜っぷりを。
羊の魔物などが多くいる、所謂【湧き場】についた私は〈魔銀のテーブルナイフ〉をインベントリから一本取り出して、右手に構えた。
そしてそれに対し、ある魔法を発動させる。
「空間魔法〈第1階位:回帰付与〉」
『空間魔法のレベルが【1/30】→【2/30】に上昇しました』
【空間魔法Lv2】
上限レベル:30
最大階位:7
第1階位:〈回帰付与〉〈収納空間〉
第2階位:魔法レベル5で解放。
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ちなみにだが、〈回帰付与〉の効果は〈対象に回帰を付与する〉である。まあ名前の通りだね。
例を挙げて説明するなら、私がどこか遠くに〈回帰付与〉をしたものを投げる。
そのあとに私が「回帰」と言うと、その〈回帰付与〉されたものが私の元へと戻ってくる、みたいな感じかな。
魔法の効果を実際目で見るためにも、早速狩ろう。
私は魔銀のテーブルナイフを羊型の魔物目掛けて投擲した。
名前:なし 種族:草原羊♂
Lv2 HP250/250 MP87/100
流石は〈魔銀のテーブルナイフ〉と言うべきか、私の投擲技術と言うべきか。
私の投擲したそれは、見事【草原羊】の脳天に突き刺さり、その全てのHPを削りきった。
『スキル〈投擲技術Lv3〉種族スキル〈魂食〉を獲得しました』
『経験値を20獲得しました。スキル〈魂食〉により経験値を20を獲得しました』
「〈回帰〉」
そう唱えると、魔銀のテーブルナイフは私の手元に戻ってきた。…血濡れた状態で。
あ、そういえば描写の設定するの忘れてた。まあ血は見慣れてるし別に問題はないんだけど。
私はテーブルナイフを振り下げて、テーブルナイフに付着している血を払った。
『隠密術のレベルが【2/10】→【3/10】に上昇しました』
……やはり初心者の草原と呼ばれているからか、魔物から得られる経験値の量が低い。
なぜこのタイミングなのかはよくわからないけど、先ほど獲得した〈魂食〉とかいうスキルのおかげで経験値は二倍になってるけど、それでも低いものは低い。
まあ初心者の平原で敵も弱いから仕方ないんだけどね。
−−獲物を捕らえた狩人は、隙が多い。
昔趣味で猟師をやっていた父親に、その事を教えてもらっていたのにもかかわらず、私は周りを警戒せず思い耽ってしまっていた。
––空よりこちらを狙う、一筋の閃光に気付かずに。
それに私が気付いたのは、もうそれが私の頭上に迫っていた、その瞬間で––
「………悪魔を捕捉。命に従い、排除します」
その一撃で、私のHPは底を突いてしまった。突然目の前が真っ暗になり、なにも出来なくなってしまった。
これが某ゲームでいう、「目の前が真っ暗になってしまった!」状態かもしれない。
『種族スキル〈不死〉を獲得しました。スキル〈不死〉を使用し、復活しますか?』
【不死Lv–】
上限レベル:–
レベルを1消費して、最大HPの3割で復活する。これを使用した場合、デスペナルティは受けない。ただしレベルが1の場合、使用不可能。
YES/NOという選択肢が、ポツンと私の眼前で揺らめいている。
うーん。レベルを消費するのは痛いけど、せめて敵影だけでも確認したい。一回だけ、使ってみようかな。
私はYESと念じる。
『不死を使用したため、レベルが【6/50】→【5/50】に下降しました。HP、MP、SPが100下降しました。SPを1喪失しました』
黒一色に染まっていた視界が一瞬でクリアになり、私は草花が揺らめく地面の上で復活した。
––そこにいたのは、天使だった。
男か女か判別のつかない、中性的な顔立ち。
純白の髪はまるで絹のように一本一本がとても綺麗で、瞳も同じく真っ白だ。
肌にはシミひとつなくまるで赤子のようで、腰のあたりからは猛禽類のような白色の翼が生えている。
さらには身長は大体165cmくらいで、私よりも15cmも高い。くっ、羨ましい…。
「………かわいい」
「……?」
天使がボソリとなにかを呟いたようだが、私はそれをうまく聞き取ることができなかった。
魔法の呪文かなにかだったのかもしれない。
私は魔銀のテーブルナイフをそっと構え、天使を警戒する。
おそらくというか、十中八九これが【神の呪い】とやらだろう。
スッと、天使が右手をゆっくり上げた。
命の危機を感じた私は、反射的にバックステップで天使から距離を取る。
「……怯えてる姿もかわいい。やばい、鼻血でそう……」
天使の位置が遠くてなにを言ってるのかよく聞こえないが、おそらく良からぬ事を企てているに違いない。
……それはさておきこの状況。選べる選択肢は二つのみ。逃げるか、戦うか。そのどちらかだ。
おそらく逃げる事は不可能。ここは草原で、隠れられる場所なんて全くない。
もしあったとしても、私を殺したあの技(?)を使われれば隠れても意味がない。
それならば、死ぬ事を前提に戦うしかない。流石にもう〈不死〉は使わない。デスペナルティは痛いが、仕方ない。
『隠密術のレベルが【3/10】→【4/10】に上昇しました』
私はもう一本魔銀のテーブルナイフを取り出し、2本ともを天使に向かって投擲した。
スキルの補正もあるからか、ナイフは標的に向かって一直線に飛んでいく。
「……攻撃もかわいい」
天使はまるで虫でも払うかのように、右手で宙を扇いだ。すると2本のテーブルナイフはそれだけで、勢いを失いポトリと地面に落ちた。
『食器戦闘術のレベルが【1/30】→【2/30】に上昇しました』
「––一瞬で殺してあげる」
「ッ!〈回帰〉」
天使の姿が一瞬ブレたと思ったら、彼女の拳が私の眼前に迫っていた。
「ッ!速––ッッッ!!!」
避けれない、と思うと同時に、ゴリッという鈍い音が聞こえた。
顔面を殴られたのだろう。痛覚の設定はしてあるので、痛みの代わりにとてつもない衝撃が私を襲った。
顎の骨が砕けたのか、思うように喋ることができない。HPは6割ほど減っていて、非常にマズイ状態である。
喋れないということは、魔法を発動させられないということである。つまり、〈回帰〉が使えない。
––気がつくと私は、草原に仰向けで倒れていた。殴られて吹っ飛ばされたのだろう。
私は慌てて足腰に力を入れて、立ち上がった。
しかしどこを探しても天使がいないのだ。
戦闘において相手を見失うのは、非常にまずい。まあほぼ勝ち目のない戦闘ってわかってるからあんまり気にしてないけども。
私は少し焦りつつ辺りを見回すが、どこにも天使の姿は−−
「ふふっ。焦ってる姿もかわいいぃ。苦痛に歪む顔が見たかったけど、なにか対策でもしてあるのかな……?」
突然耳元でそう囁かれたと思ったら、ゴキンッという鈍い音とともに、私の身体が動かなくなった。
HP0/1400
こいつは本当に天使なのだろうか。薄れゆく意識の中、私はそんなどうでもいい事を思った。
とりあえず……戦闘可能フィールドに出れないって、私詰んでない?
……オンラインモードはとりあえず諦めて、ストーリーモードをしようかな。
街の噴水広場で復活した私は、ログアウトの項目から〈ストーリーモード〉に切り替えた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
前回はたしか……ご主人様の傷を直したところで終わりましたね。
私は椅子に座って毛布に包まり、眠っているご主人様に近づいていく。
因みにだがこの毛布は私が悪魔術で創ったものだ。一応解説しておくと、悪魔術とは自分のMPを消費して、それ相応のアイテムを得る。所謂創造魔術である。
基準がなにで決まっているのかはわからないが、毛布は300MPで創ることができた。
『悪魔術のレベルが【1/10】→【2/10】に上昇しました』
さて、ご主人様が起きるまで何をしようか。
あ、そういえばレベル上がってたっけ。スキルポイントもゲットしてるだろうし、色々見てみようかな?
名前:イア・ノワリンデ 性別:女 種族:悪魔族LV5/50
【中立】
HP【1400】400up
MP【1400】400up
SP【1400】 400up
《神の呪い》
〈固有スキル〉
《黒霧》
〈種族スキル〉
《魂食》《不死》
〈術系統スキル〉
《契約術Lv2》《料理術Lv1》《食器戦闘技術Lv2》《投擲技術Lv3》《掃除術Lv1》《幻惑術Lv1》《悪魔術Lv1》《交渉術Lv1》《隠密術Lv4》
〈魔法系統スキル〉
《空間魔法Lv2》
〈その他スキル〉
《変装Lv1》《威圧Lv1》《鑑定Lv1》《人化Lv–》《世界共通言語Lv–》《嗅覚上昇Lv1》
残りSLP5
SLP5なら、一つくらいは獲得できるかな?なにか有用そうなスキルないかな…。
私は獲得できるスキルの一覧表を開き、面白そうなスキルがないかを探した。




