表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/47

3話

3話




 夕飯を食べ終わって、お風呂や家事も済ませたので再ログイン。


「リンクオン」


………

…………

……………


 気がつくと私は噴水の縁に腰掛けていた。

 ざわざわと、人々の活気溢れる声が聞こえる。

 私は立ち上がり、辺りにちらりと目を向ける。


 まず注目したのは、建物の造り。こちらから見る限り、建物は石造のものばかり。

 そのことから、このゲームの時代設定は中世ヨーロッパあたりであることが推測できる。


 だが、空気の淀みや道路への汚物の廃棄もない。つまり、下水管理はされているということになる。

 そのことからは、このゲームの時代設定が中世ヨーロッパではないことがわかる。


 つまり、チグハグなのである。


 まあそんなこといま考えても無駄か。運営さん以外答えは持ち合わせていないからね。


 私はふう、とため息を吐いて目的の場所へと歩みを進め始めた。

 道行く人々(プレイヤー)が、私を指差して驚いていることに気付かぬままに。




 というわけで、私がやって来たのは【鍛治屋】である。その理由は、武器の調達である。…本来の使い方は武器ではないんだけどね。


 住人が優しい人で助かった。道に迷っていた私を、わざわざここまで連れて来てくれたのだ。


 私は木で作られたドアを、壊さないように慎重に開ける。

 カランカランと、ベルの鳴る音が聞こえた。


「……らっしゃい」


 無愛想で感情のこもっていない野太い男性の声が聞こえた。自然と目線が、声のした方へと向く。

 店番だろうか。そこにいたのは、身長140cmくらいしかない小さなおじさんだった。

 私よりも身長が10cmほど低い。よっしゃ、勝った!


「…なにやら勝ち誇った顔をしているところ悪りぃが、俺の身長が低いのは種族的な特徴だ」


 小さなおじさんは可哀想なものを見るような目で、こちらを見てきた。


 ……やめて!虚しくなってくるから!


 気まずくなった私は小さなおじさんに向けていた目線を、商品の方へと移した。


 ––とまあ、茶番はこれくらいにして…。


 おそらく、というより確実にこの小さなおじさんは技人族(ドワーフ)だろう。

 こびりついた「火」や金属の匂い。鍛治を長年やっている者にしかつかない匂いだ。


『スキル《嗅覚上昇》を獲得しました』


 商品は武器の他にも、防具やツルハシなどの道具、そして食器など、多種多様なものが置かれていた。

 まあ、これが鍛冶屋の普通なんですけどね。


 勘違いしている人も多いが、鍛治屋=武器防具屋ではない。そもそも武器だけで生計を立てれる鍛冶屋なんて一握りだ。

 ……まあそんなことはどうでもいいか。


 私は食器の置いてあるスペースに向かう。

 そこには、フォークやスープン、お皿やナイフなどが置かれていた。因みにだが、全て銀製であった。


 –––現在の私の所持金は1000G。そして銀食器の値段は大体300G。つまり、安い。


 鍛治屋の腕が悪いから安いのか、別にそういうわけではない。あくまでも素人目の鑑定眼だが、どれも手は抜かれておらず、食器としては一級品である。


『スキル《鑑定》を獲得しました』


 どこか近場に銀が大量に産出される鉱山があるのか、それともこの世界ではそこまで銀に価値がないのか。疑問は出てくるばかりである。


 私は銀で出来たナイフを三本手に取り、小さなドワーフおじさんのところへ持っていった。


「……どっかの貴族様の遣いか?」


 私が銀食器を渡すと、小さなドワーフおじさんはギロリとこちらを睨みつけてきました。

 

 メイド服を着てるから勘違いされたみたい。

 ……それにしてもこの人、貴族に恨みでもあるのかな?ものすっごく殺気が篭ってるけど。


「いえ、こんななりをしていますが私は貴族の遣いではありません。この食器は私が使うものです」


 私がキッパリと告げると、小さなドワーフおじさんは軽く目を見開き、ふぅ、と息を吐いた。


「……ちょっと待ってろ」


 小さなドワーフおじさんは私にそう言って、店の奥へと入っていった。

 それから数分、私がボケーっと商品棚を眺めていると、ようやく店の奥から小さなドワーフおじさんが、手に二本の銀色っぽいテーブルナイフを持って出てきた。


「お前……アレの使い手だろ?」


 小さなドワーフおじさんがニヤリと笑い、私に問いかけてきました。

 ……アレってなんだろう。この状況から察するならば、《食器戦闘技術》のことだろうけど。


「ええ。アレの使い手です。まだ素人ですがね」

「ふん、どうだかな。–––さっきの詫びも込めてだ。この二本をテメエに900Gで売ってやる。どうだ?」


 コトリと、小さなドワーフおじさんはカウンターの上にそのテーブルナイフを置いた。


 先ほどのテーブルナイフは3本で900G、そしてこのテーブルナイフは2本で900G。つまりこのテーブルナイフの方が何かしらのメリットがあるってことだけど…。


 私はつい先ほど《鑑定》スキルを獲得したのを思い出した。

 というわけで私は《鑑定》を発動させる。


〈銀製のテーブルナイフ〉

製作者:ギール

名工ギールによって作られたテーブルナイフ。切れ味は抜群で、銀で作られているため軽い。戦闘には向かない。

装備条件:特になし


魔銀(ミスリル)のテーブルナイフ〉

製作者:ギール

名工ギールによって作られ、そして強化されたテーブルナイフ。切れ味は銀製の比ではなく、魔銀で作られているためとても軽い。

付加能力:《切れ味上昇》《魔法微強化》

装備条件:《食器戦闘技術》を獲得している。


 前者が3本で900Gのものであり、後者が2本で900Gのものである。……うん。後者を買う以外の選択肢はないよね。


「買います」

「おぉう…、即答だな。–––毎度あり」


 私は900Gを小さなドワーフおじさんに払い、2本の魔銀のテーブルナイフを受けとった。


 残金残り100G。これじゃあなにも買えないかな?稼がないとね。


「それじゃあまた来ますね。小さなドワーフおじさん」

「……なんだその呼び名は。俺の名前はギールだ。断じてそんな変な名前じゃねえ」


 この人店番じゃなくてここの鍛治師だったんだ。薄々は感じてたけど……、うん。気づいてたことにしよう。


「–––金が貯まったらまたこいや。悪魔のお嬢ちゃん」

「……気付いてたんですか」

「安心しろ。俺は別に悪魔排斥者じゃねえ。そいつらにも突き出したりはしねえよ」

「…そうですか」


 私は魔銀のテーブルナイフを装備して、インベントリにしまった。


 さて、ストーリーを有利に進めるためには…レベル上げかな。

 間違いなく戦闘も起こるだろうから、強くなっておけば楽に済むだろうし。

 

 私は鍛治屋を後にして、フィールドへと向かうことにした。


『スキル《交渉術》を獲得しました』



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 トコトコトコと、入り組んだ道を歩いて凡そ5分。私はようやく大通りに出ることができた。


「今ならリプルが一個70G!さぁ、買った買ったー!」

「キクコの串焼きが一本200G!うちはそこらの店とわけが違うよ!」


 街の住人たちの賑やかな声が聞こえる。みんな笑顔で仕事に励んでいる。

 みんな仕事中毒者(ワーカーホリック)なのだろうか。

 馬車がガタガタと音を立てて大通りを走り抜けていく。

 だが、誰も轢かれていない。しっかりと交通の整備がされているのだろう。

 私は大通りの人の流れにスッと入り込んだ。誰にも違和感を持たれぬままに。


『スキル《隠密術》を獲得しました』


 どうやら《隠密術》は街の中でも発動できるようだ。…常時発動させておこう。


 ––そのまま人の流れに沿って歩いていくと、ようやくフィールドとこの街の境である門に着いた。


 門番は2人いるようだが、特に出入りの検査はしていないようだ。仁王像のようにドンッと突っ立っている。


 私が門からフィールドに出ようとした、次の瞬間––目の前に厳つい顔が現れた。


「お嬢さん、身分証はお持ちですか?」


 めちゃくちゃビックリした。いや、無表情は保ったけどめちゃくちゃビックリした。


「いえ。持ってないです」

「では仮の身分証を発行致しますので、50Gのお支払いをお願いします」


 私は言われた通りに、門番さんに50Gを払った。門番さんは50Gを受け取りうむ、と頷き半透明のプレートを渡して来た。


「これが仮の身分証だ。無くすなよ?これを冒険者ギルドに持っていけば冒険者証明証と交換できる」


ご丁寧にも仮の身分証の説明もしてくれた。顔に似合わず良い人なのだろう。


「魔物にはお気をつけて」


 強面の門番さんは私にそう告げて、もとの立ち位置へと戻っていった。


 さて、レベル上げ頑張りますか。


 私は門を抜けて、所謂初心者の草原に出た。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 粋なおじさんだった
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ