21話
花粉で目が痛すぎて書く時死にそうでした
それはさておき、ブックマークに高評価、感想ありがとうございます!
ものすごく励みになります。そのうち聖女様も続き書きたいですね…
21話
馬車の床に空いた穴を悪魔術でちゃちゃっと直し、気絶……眠っているアルジェントの頭を私の膝に乗せる。
ジト目で見つめてくるご主人様から目を逸らし、こほんと咳払いをする。
「アルジェントには後ほど伝えることにしましょう。今から話すのは、私たちがウロボロスを殺す為の作戦です」
私は指をパチンと鳴らし、空間隔離を発動させる。盗聴防止のためだ。
もしかしたら、私たちの話を聞いている不届きものがいるかもしれないからね。
念には念を、だ。
「一応ボクも考えてはみたぞ。お前ばかりに頼っては不甲斐ない主人と思われてしまうからな」
「自覚はあったんですね」
「……なんか言ったか?」
ご主人様は眉間に皺を寄せて、キッと睨みつけてきた。
うーん。ご主人様の顔、可愛い系だから睨みつけられても怖くないんだよなあ。
「なんでもありませんよ。──ではまず、ご主人様の作戦からお願いいたします」
「ならいい。──まず第一に、ボクたちが真正面からウロボロスに挑んで勝てる可能性は0%だ。お前のような大悪魔がいても、流石に信者を多く抱えた神には勝てないだろう」
「大悪魔だなんて。私はまだ生まれたばかりですよ」
なんかリヴさんも言ってましたけど、なんで信じてくれないんでしょうかね。
まだレベルも17ですし、そこまで強くないですし。なんか疑われるような要素ありましたっけ……?
「誰も信じないぞ?そんな冗談。──さて、真正面から挑んで勝てないならどうするか。こうなればお前が前に言っていたことを実行すればいい」
おやおや。どうやらご主人様と私の考えている作戦は、見事に一致していたみたいだ。
「つまり、信者を皆殺しにすればいいということですね?」
私の言葉にご主人様はフッと自虐的な笑みを浮かべ、首を縦に振った。
「そういうことだ。復讐に他人を巻き込むなという輩もいるだろうが、そんなの関係ない。何人死のうが、誰が死のうが、利用できるものは利用して、復讐を達成するのみだ」
ぎゅっと拳を力強く握り締め、復讐の炎をギラギラと燃やすご主人様。
手からは血が滲み出ていて、その思いの強さを伺うことができる。
それもそうだ。彼は何回も何回も転生を繰り返し、その度に大切なものを失い、凄惨な死を遂げた。
そして今回の生で、彼はようやく私という悪魔を手に入れたのだ。
消えかけてた復讐の炎は、私という燃料によって再燃した。
その想いは、心は、魂は。
──ああ、なんて芳しいのだろう。
──ああ、なんて美しいのだろう。
──ああ、なんて美味しそうなんだろう。
じゅるりと、出るはずのないよだれが口の中を潤す。
今すぐ食べてしまいたい。この炎が消え去る前に、今すぐ自分のものにしてしまいたい。
悪魔らしい本性がとめどなく溢れ、私の思考を占領する。
そのせいか、人という化けの皮が剥がれ、悪魔らしい部分が露わになってしまう。
目が真っ黒く染まり、頭には4本の大きな角が現れる。体の至る所が黒と赤に染まり、人という原型を留めれなくなってしまう。
──と、そこでようやく私は冷静さを取り戻した。
こんなの、私の思い描く"悪魔らしい"姿ではない。失態だ。
ご主人様はこちらをみて茫然自失としていて、私は慌てて人化をし直し、戻れ戻れーと身体に力を込める。
「失礼いたしました、ご主人様。少々感情が昂ってしまいまして……。お恥ずかしいところをお見せしました」
その言葉にご主人様は顔をハッとさせ、ぶんぶんと首を振った。
「いや…。お前は本当に悪魔なんだなと思っただけだ」
そういうご主人様の顔には何やら翳りが見える。
まあ、人としての姿で接してきましたからね。
多少の情は私に沸いていたのでしょう。そういう人らしい部分、私は嫌いじゃないですよ。
「というかなんだ。そんなにお前の感情が昂るようなことを言ったか?」
「ええ、まあ。ご主人様の復讐に対する熱意に、感銘を受けまして。絶対に復讐を完遂させてみせる、と思いましてね」
まさかご主人様が美味しそうで食べちゃいそうになった、なんて言えませんからね。それらしいことを言っておきましょう。
ああ、本当になんたる失態か。恥ずかしくて仕方がない。
「なるほどな、やる気十分というわけだ。じゃあ次は、お前の案を話してくれ」
ご主人様は満足げに頷いてから、私に話をするよう促してきた。
いやご主人様、その皆殺しにする方法は考えていないんかいっ!まあ、計画を遂行するのは私だし、別にいいか。
「ではまず、私の計画を話す前に聖国にある、ある仕組みについて説明したいと思います」
「わかった」
ウロボロスを崇める国──聖国はまず、さまざまな用途に使われる水を、隣接している世界一広い川、リンネ川という場所から補給している。
ただそのままでは飲料等に使えないので、聖国は"アリア"と呼ばれる浄化システムによって水を浄化し、使っている。
このアリアは非常に優秀なもので、この世に存在する人体に害のあるものを浄化する性質を持つ。
そう。この世に存在する全てだ。
「なんだその馬鹿げたものは。泥水が飲料水に変わるなんて、いったい何人の人が救えるのか……」
「素晴らしいですよね。ウロボロスの力は。輪廻──循環の権能を用いているのでしょう」
本当に、神っていうのは馬鹿げている。奴らは信者がいる限り、無敵と言っても過言ではないのだ。
それはさておき、今回はこの仕組みを利用する。そう、この世にあるものに反応するのならば、この世にないものを作り出せばいい。
「この世にないもの、か。そんなもの可能なのか?」
「ええ。私の力を持ってすれば、ね」
この世──というのは、地球ではなくこのゲームの世界を指している。
要するに、この世界の文明では作ることのできない、なおかつ強力なものを用意すればいいのだ。
私はインベントリから貯めておいたあるものを取り出す。
無色無臭の液体。今はご主人様に見せるために、私の半分くらいの魔力をもって作った瓶に入れている。
「何かの液体か……?お前の扱い方からして、非常に危なさそうなものみたいだが」
「これは、非常に危険な毒物──サリンといいます」
「さりん?」
あの事件を聞いたことがある人ならば、誰もが知っているであろう、非常に強力な毒物、サリン。
神経毒の一種であり、呼吸、皮膚、経口、いずれの条件でも死に至るものだ。
致死量は約1.5ml。難点として加水分解や熱分解されやすいくらいか。
しかもその弱点は、悪魔術で作る際になんと無くすことができた。ファンタジーパワーさまざまだ。
「名前はなんでもいいんです。非常に強力な毒物、しかもこの世界に存在しないもの、とだけ認識してください」
「つまり……アリアを貫通できるということか」
「そういうことです」
というわけで私たちは聖国に向かっていた進路を変え、リンネ川──ではなく、その上流であるリンネ山という場所へと向かうことになった。
「ああ、そういえば忘れてました」
私はご主人様の腕を掴むと、その服についている1番上のボタンを引きちぎり、馬車の外へと投げた。
「急になんだ、急に」
「いえいえ。どこぞの虫が、ご主人様のボタンについていただけですよ」
さて。勇者はどう動くかな。
そういえば私のあたらしく作ったTwitter @8uTpDb78x09nyBlでイアと悪魔とアルジェントの姿絵載せときました
興味あったら見てね




