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メイドな悪魔のロールプレイ〜強制ハードモードなメイドの奮闘記〜  作者: ガブ


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12話

12話




「オレを助けに来ただと……?ハッ、そんな言葉で騙されねえよ。どうせお前も奴隷商の仲間かなんかだろう?」


 猫の獣人は怨みのこもった瞳でこちらを見つめてきた。

 ボロボロな服、目の下のクマ。青黒いアザに腫れや人の手形のあと。

 ここでどのような扱いを受けていたのかは火を見るより明らかだった。


「……あなたは私を馬鹿にしておいでで?私があのような不味そうな魂を持つものを主人と仰ぐわけないでしょう」


 私は猫の獣人の言葉を鼻で笑い、まだわからないの?と馬鹿にするような目で見つめる。


 人型になれるということは、魔物の中でもある程度は上位存在であることだ。

 そして頭から生えている獣耳は、これが獣型の魔物から進化したものという証。それならば匂いや気配には敏感なはずなのだ。


「……色々と匂いが混ざってやがるな。それに、吐き気がするような濃い血の匂い。……テメエ、悪魔か」

「ご明察。とはいっても、私はまだ生まれたてですがね」

「ハッ。冗談は大概にしろ。竜の匂いがこびりついてるテメエが生まれたてな訳ないだろ」


 猫の獣人はニヤッと笑い、こちらが盗賊の手の者ではないとわかったからか、警戒を解いてくれた。

 うーん、こう見えても生まれたての悪魔なんだけどね……。


「悪魔にもプライドはある。それこそ、どんな生物よりも。契約者との契約を最も重じ、破ったものには制裁を加える、だろ?」

「その通りでございます」


 私は笑みを浮かべて、首を縦に振る。

 さすがは上位存在なだけはある。豊富な知識を有しているようだ。


「──で、当然だが助ける見返りは欲しいんだろ?テメエか、いやテメエの契約者は何をお望みだ?」

「わかっていらっしゃるようで。獣人さん、私の眷属になりませんか?」

「ふうん。眷属ねえ」


 耳をピクピクと動かして、とても興味ありげのようだった。私は私の眷属になるメリットを指を立てながら順々に挙げていく。


「メリットは衣食住の保証ですね。職も与えようではありませんか。私のご主人様の使用人、どうですか?」

「……って眷属化自体のメリットはねえのかよ?」

「私があなたの居場所を把握できる。互いに力が増す、くらいですね」


 猫の獣人は顎に手を当てて考え込んだ。しかしすぐに顔を上げてニヤリと笑った。


「乗ってやろうじゃねえか!助けてもらう礼もあるしな。テメエの眷属になってやるよ」

「ありがとうございます。では──」


 私は自分が入ってきた牢の鉄格子を両手で掴んでさらにぐにゃりと曲げて広げ、彼女でも通れる穴をつくった。

 ……高身長羨ましい。


「……アダマンタイト製の鉄格子をへしゃげさせるとかどういう力してんだよ……」


 猫の獣人が驚いたように目を丸くして、へしゃげた鉄格子を見つめる。

 ……ここに入ってきたときにもへしゃげさせたはずだけど、見てなかったのかな?まあいいけど。

 それはともかく、アダマンタイトと言えば……ファンタジー作品でよくある最も硬い鉱石、だったっけ。

 何かに使えるかもしれないし、あとで全部回収しておこうかな。


「ほら、ボーッとしてないでさっさと出てきてください。念願の脱出でしょう?」

「あ、ああ」


 私が彼女に向かって手を差し伸べると、彼女はパシッと手を取った。そして私はその手を引っ張り、彼女を立たせる。


 ……改めてよく見てみると、本当に酷い怪我だ。打撲痕はもちろん、青痣や切傷なんて数え切れないほどある。


「とりあえず……【浄化(クリーン)】」


 この魔法は掃除術Lv1で獲得できたものである。効果は初期のものにしては中々のもので、【汚れを浄化する】というものである。


 多分だが、これで傷口の化膿は防げるはずだ。魔法に関してはよく知らないので、絶対とは言い切れないが。


 ──次に私は【悪魔術】で、彼女用の服を創った。まあ、私と同じメイド服と、女物の下着である。

 執事服でもいいかなと思ったが、中世のあたりは女性が男性の服を着るのは異端とされていたらしいので、やめておいた。


「……傷口の気持ち悪さが、消えたのか……?」


 猫の獣人はいつも感じていた傷口の気持ち悪さが消えたことに、戸惑いを覚えていた。

 ……もしかして、スキルについての知識はないのかな?


「気にしないでください。私のスキルであなたの傷口を消毒しただけです。あ、それとそのボロ切れを脱いでこちらの服を着てください」


 私はそう言って、彼女にメイド服と下着を手渡す。彼女はメイド服と下着を受け取ると、何だこれと言わんばかりに、怪訝そうな目をして私を見つめてきた。


「……まあ、そうですよね。着せ方を教えますから、とりあえずそのボロ切れを脱いでもらえますか?」

「わかった」


 彼女は粗雑にボロ切れを脱ぎ捨てた。彼女のありのままの姿が露わになる。

 ボンキュッボンとまではいかないが、整ったプロポーション。同じ女としては、ちょっと……、そう。ほんのちょっとだけ羨ましく感じてしまう。


「……なに見てんだよ」

「いえ。ちょっとこの世の不条理さを感じただけです」


 そして私は彼女に、下着とメイド服の着方を丁寧に教えてあげた。





「お、おお!なんだこの服。見た目の割にはめっちゃ動きやすいじゃねえか!」


 服を着て、牢から出た彼女がまずはじめにしたことは、この服の機能性を調べることだった。

 壁に突き刺さっていたサバイバルナイフを引き抜いて素振りをしたり、宙を蹴ったりと、色々なことをしていた。


「ご満足して頂けたようで、何よりです。さて──」

「おう。お前の眷属とやらになればいいんだろ。なにをすればいいんだ?」


 眷属──それは、魂ではなく、血と血による契約である。それを使えるものは力のある吸血鬼だけとされているが、実際は違う。悪魔もその契約を扱うことができるのだ。


 そもそも、契約に関する術を生み出したのは悪魔なのだ。扱えない筈がない。


 さて、はじめに眷属化は血と血による契約だといったが……、別に血で行う必要はない。

 吸血鬼が魔法などを行使するのに血を媒介としていたから、そういうイメージがついてしまっただけだ。

 眷属化で、最も簡単なのは──


「私が貴方に名前を与えて、貴方がそれを認めれば眷属化は成立します」

「ふぅん。名付け、ね。まあ好きにしな。てきとーにつけたらぶっ殺すからな」


 流石は人間に化けれる魔物。適当とテキトーの意味の違いを理解しているようだ。


 さてと。どのような名前にしようか。猫の獣人、猫といえば月…?そういえば、毛並みは銀色なのかな?

 銀……、銀、ね。それなら……


「よし、決めました。貴女の名前はアルジェント。アルジェントです」

「……アルジェント、か。ふふ……ん"ん"!…… 気に入った!今日からオレはアルジェントだ」


 彼女──アルジェントは一瞬だけ頰を綻ばせたが、咳払いをしていつものキリッとした顔に戻ってしまう。

 だが気に入ってもらえた様子で、尻尾は嬉しそうにゆらゆらと揺れている。


『特異個体:月の猫(ムーンキャット)〈銀〉と悪魔族(デーモン)イア・ノワリンデの間で名付けによる眷属化が成立しました』


 その言葉が聞こえた瞬間、私の身体にとてつもない倦怠感がのしかかってきた。


『眷属化に伴い、契約者イア・ノワリンデは最大MPの9割を消費します。また、被契約者であるアルジェントは種族が進化します』


 目眩と頭痛が酷い。立っていることはできるが、歩くことはできない。声を出すのも億劫だ。

 なんとかアルジェントの方に視線を向けると、いつのまにか彼女はその場に倒れて鼾をかいて寝ていた。

 彼女に運んでもらおうと思ったが、進化による強制睡眠ならば仕方がない。

 私ははあとため息を吐き、インベントリから初心者セットに入っていたマナポーションを取り出し、飲み干す。


『個体名:アルジェントの種族が【月の猫〈銀〉】から【月の銀獅子】に進化しました。全能力値が上昇。新たなスキルを獲得しました』

『契約者である者は、被契約者──眷属の能力を会得することが出来ます。会得しますか?』


 魔力が回復したからか、先ほどのような倦怠感は私の身から姿を隠し、目眩や頭痛もいつのまにか回復していた。

 ──もちろんYESだ。私はそう念じた。


『固有スキル《月下の獣》を会得しました。ただし種族的に能力が合わないため、その能力は弱体化します』


 《月下の獣》……満月の夜、全ステータスが50%上昇する。


 そのスキルの説明を見て、私は苦笑いを口元に浮かべる。

 なんともまあ、破格なスキルである。満月っていう限定はあるけど、それでも充分すぎる程に、性能がイカれてる。

 ……これで弱体化されてるんだよね。実際はどんなのか想像が難しい。


「……さて、ご主人様のところへ戻りますか」


私は眠りこけているアルジェント──もう名前長いからアルでいいや──を肩に担ぎ、盗賊団のアジトを後にした。

 そういえば、なにかを忘れているような……。


「あ、そういえばお宝の回収を忘れてますね」


 1番大事なことを忘れるなんて、危ない危ない。私は踵を返し急いで盗賊団のアジトへ戻った。



 こんな盗賊団でも溜め込んでいた金貨や銀貨、宝石などは相当なもので、私はニッコリ笑顔でインベントリに詰め込んでいった。


 目に見える範囲のものを全て回収し終えた私は、ご主人様のところへ戻るため、盗賊団のアジトを後にした。


……この猫いい加減起きてくれませんかね。

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