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1話

以前書いていたものを焼き直したものです。

前のは一応消していないので、今後書き直すつもりですが、ある程度の流れを先に把握しておきたいと言う方はそちらもお読みください!


1話




 これで何回目だろうか。君の死を見届けるのは。

 口から血を零し、息絶え絶えの君の様子を見て、僕は地面に膝をつき慟哭する。


 剣が彼女の胸を貫き、そこからおびただしい量の血液が溢れ出している。

 確実に、心臓が貫かれている。もう絶対に助からない。

 いや、もしかしたら助かったのかもしれない。

 ただしここが、「悪魔の山」と恐れられている山の、頂上でなければ。


 なんでこうなったのだろう。そう思ったのも、これで何回目だろうか。


「──ね」


 やめてくれ。


「──ごめんね」


 その言葉を、呪いの言葉を吐かないでくれ。


「──約束を守れなくて、ごめんね」


 頼むから、逝かないでくれ。

 彼女がこちらに伸ばしてきた手を、僕は縋るような思いで必死になって掴み、神に祈った。

 ……無意味なことだと、わかっていながら。


 やがて彼女はなにも映っていなかった虚ろな瞳をゆっくりと閉じて、そのまま息絶えた。僕を、一人残して。


「なあ神さま」


 泣いた。その涙が枯れ果ててしまうほどに。叫んだ。まるで獣のように。


 虚しかった。いつものように、最後に残るのは空虚だけ。


「なんで僕が、僕だけがこんなにも苦しまなければならないんだ」


 僕は貴方になにかをしたか、神にそう問いただしたかった。


 僕はヨロヨロと立ち上がり、空を見上げた。

 すでに日は沈み、月が顔を出している。

 爛々と輝く星々は、まるで僕を嘲笑っているように感じた。



 ──気づけば、僕は彼女の胸から剣を引き抜き、刃先を自らの胸の前に持ってきていた。


「また、か」


 僕は自分の行動を内心鼻で笑いながら、自らの胸に剣を突き立てた。

 全身に力が入らなくなり、その場に仰向けに倒れてしまう。

 彼女と同じように、僕の胸や口からはおびただしい量の血液が溢れ出してきた。


「あと何回、繰り返せばいいんだよ………!」


 もう数えることすら辞めた。何回死んだかも覚えていない。心の内で神を呪う。

 瞼が重い。呼吸がしづらい。もう、僕は死ぬのだろう。


 ──いつか見た夢を、また今日も見ている。そう感じたんだ。


「悪魔でも、何でもいい。僕と彼女を、助けてくれ………!」


 いつものよう(・・・・・・)に、その台詞を吐いた。

 だがそのとき、ふと僕の倒れている周囲がなにやら鈍く光っているように見えた。

 いったいなんの光なのか──


 ──そうして僕は静かに息絶えた。死に際に見えた鈍い光を、疑問に思いながら。


「──神に造られた身でありながら、神を呪うか。自らを不幸だと嗤うか」


 いつもなら、あの時(・・・)に戻っているはずだ。なのに何で、死んだはずの今の僕にまだ意識があるんだ?


 ここには、僕と彼女以外居なかったはずだ。なんで他の何かの声が聞こえるんだ?


「ククク。暇つぶしに召喚に応じてみたが…、これはまた奇怪な運命を持つものに呼び出されたものだな」


 うまく声を出せない。まるで喉元を押さえつけられているみたいだ。


 なにも見えない。黒以外なにも見えない。

 だが失明しているのではなく、何かに目を押さえつけられていて、目が開けることができないように感じた。


いったい、なにが──


「私は悪魔。気紛れで現れて、対価を代償に、呼び出したものの願いを叶えるものだ」


 なにも見えないはずなのに──悪魔が、嗤ったように感じた。全身が恐怖に震える。


「なに、怯えることはない。橋銭は既に頂いている。私は貴様に危害を加えるつもりはない」


 悪魔がそう言うと、まるで魔法にでもかかったように、それに対する恐怖心が薄れてきた。


「あ、あああ。……ふぅ。おまえは、悪魔、なのか?」

「ああ。私の名前は──」


………

…………

……………


『名前を入力してください』


 突然世界が静止し、無機質な声が()の耳に入った。


 ……どうやら、勝手に口が動くシーンは終わったみたいだ。

 とりあえず……、穴があったら入りたいっ!

 私は両手で顔を覆い隠しながら、心の中で絶叫した。


 そう。これはつい一週間ほど前に発売されたばかりのゲーム、《The Ideal Story》略してTISと呼ばれるVRMMORPGだ。

 そしていままで行われていた行為は、私の選んだ種族である"悪魔族"のストーリーの初期PVのようなものである。


 ……あんなの公開処刑でしょ!

 いや誰も見てないから別にいい…、いやよくないけど。

 なんであんな恥ずかしい台詞を言わないといけないの……?!


『名前を入力してください』


 あ、はい。すみません。

 私はその入力画面に【イア】と念じた。


『名前を【イア】に決定します。よろしいですか?』


 その言葉に、私はYESと念じる。


『名前を【イア】に決定しました。セカンドネームをランダムで選出します……決定しました。セカンドネームは【ノワリンデ】となります』


 名前も決まったことだし、これでストーリーが再開するのかな?

 私が疑問に思っていると、今度は私の目の前に親の顔より見た現実の私の姿が映し出された。


『人化した際の容姿を制定します。ランダムで作ることができます。自分で作りますか?』


 もちろん自分で作るよね!やっぱりMMOの醍醐味はアバターリメイクだと思う。


『了解致しました』


 すると私の目の前…目の前?に半透明の板のようなものが現れた。

 そこには髪の色や顔の形、目の色や睫毛の長さ、量など思わず引いてしまうほどの設定項目があった。


 ……うん。キャラメイクはMMOの醍醐味とか言ったけど、やっぱり面倒くさいからそこらへんのやつは現実と同じでいいや。


 人の印象は髪の色とかでも変わるって言うし……、髪と目の色だけ変えよっか。


 悪魔と云えば…、やっぱり紫っぽい色かな?いやでも白色とかでもいいかも…。うーん。あ、そうだ。


………

…………

……………


『……瞳および髪の色をアルパイン・ブルーに決定しました』


 ふう、ようやく納得できる色になった。いやあ、とてもつもなく時間がかかっちゃった。


 いや、ね?私の納得する色が無かったから『声』に色を混ぜれないか、って聞いたの。    

 そしたら絵の具みたいなのを出されて、これでどうぞって……。

 まあでも不満はないんだけど。


 よし、容姿はこれで決定と。


『容姿を決定します。本当にこれでよろしいですか?』


 YESと念じる。


『…もし身バレ等が起き、なんらかのトラブルに巻き込まれても、当社は責任を負いかねます。本当にこれでよろしいですか?』


 別に問題ないです。


『…容姿を決定致しました。続いて、初期スキルの設定を行います』


 すると今度は目の前にタブレットのようなものが現れた。…このタブレットどうやって浮いてるんだろう。不思議パワーってやつかな。

 そこには、こう表示されていた。


名前:イア・ノワリンデ 性別:女 種族:悪魔族(デーモン)LV1/50

【中立】


HP【1000】

MP【1000】

SP【1000】


《神の呪い》


〈固有スキル〉

《未設定》


〈スキル〉

《未設定》


残りSLP25


 ふむふむ。なんかやばそうなのがあるけど他は普通なのかな。

 それにしても、【神の呪い】ってなに。

 私なにもしてないのに、なんでそんな物騒なものに呪われてるのかな?


【神の呪い】…神は唯一無二の存在である。自ら以外の"神"になり得る存在を認めない。

〈オンラインモード〉で戦闘可能エリアにいる際、神及び天使族に命を狙われる。


 なにそれ。説明みたいなやつも気になるけど、それ以上に神や天使に命を狙われるって、詰みゲーじゃない?

 神や天使って言うからにはえげつないくらい強そうだし。

 いや、多分大丈夫かな。そこまで運営も鬼畜じゃないだろうしね。

 まあ、その時になればわかることだし今はどうでもいいかな。


『まず、固有スキルの設定を行います』


 しつもーん。固有スキルって何ですか?


『固有スキルとは種族:悪魔族だけが持つ能力です。種族等の説明は要りますか?』


 じゃあお願いしようかな。


『了。この世界には、大きく分けて三つの勢力があります。

一つ、光の勢力。

二つ、闇の勢力。

三つ、中立勢力。

光の勢力には【獣人族(ライカンスロープ)】【森人族(エルフ)】【普人族】。闇の勢力には【魔人族(デミノイド)】【竜人族(ドラゴノイド)】【魔物族(エネミー)】がいます。そして中立勢力にはイアさまの種族である【悪魔族(デーモン)】【天使族(エンジェル)】【技人族(ドワーフ)】がいます』


 つまり大まかにまとめれば九種の種族がいる、ということ?


『YES。ただし【獣人族】及び【魔人族】、【魔物族】はあくまでも総称です』


 ということは、その種族の中でさらに分類分けされてるってことか。


『はい。【獣人族】には例えば【犬人族】【猫人族】など、さまざまなものがありますし、【魔人族】には【吸血族】や【巨人族】などがあります。【魔物族】は…多すぎて把握しかねます』


 すごい手が込んでるねえ。さすがはフルダイブ型のVRを開発した会社だね!


『……恐れ入ります。──では説明は以上です。改めまして、固有スキルの設定を行います』


 ピコンという音を立ててタブレットの画面が切り替わり、スロットのようなものが表示された。


 わかりやすい言い方は…パチスロのスロットの部分かな。


 それぞれのスロットには1〜7の数字がかかれているみたいで、数字の目が高いほど、その【固有スキル】の能力が高くなるんだろうなと予想がつく。


『それではどうぞ』


 『声』がそう言うと、その画面の下の方に【ストップ】という項目が現れた。


 どうせこういうのは運営側に確率操作されてるのがオチだし、適当に止めて問題ないよね。


 私はトトトッ、と三回連続でタップした。いや指はないから念じた、が正しいんだけど。

 

 すると三つのスロットは面白いように2、2、2で止まった。ゾロ目である。


『おめでとうございます。2のゾロ目ですね。固有スキルは【黒霧】となります』


 【黒霧】って……なにそれ名前からして弱そう。やっぱりゾロ目でも数字の目が小さいとしょぼいのかな…。


【黒霧】…黒色の霧を発生させる。


 名前の通りだった。いや、うん。囮がわりには使えるかも。あとは目眩しとか。

 決して現実逃避とかではないよ、うん。


 ──私はこのとき知らなかった。この固有スキル、【黒霧】に秘められた、その可能性を。


『意気消沈のところ悪いですが、次に初期スキルの設定を行います』


 ……はあい。あ、その設定『声』さんにお願いしても大丈夫ですか?


『私にでしょうか?』


 そそ。悪魔になったからには悪魔っぽくやっていきたいからね。私は悪魔についてそこまで詳しくないし…。


『かしこまりました。では、少々お待ちを』


 それから十分くらい経ったあと、『声』さんは設定が終了したのか私にその旨を伝えてくれた。


 というわけで私のスキルはこちら。



名前:イア・ノワリンデ 性別:女 種族:悪魔族(デーモン)LV1/50

【中立】


HP【1000】

MP【1000】

SP【1000】


《神の呪い》


〈固有スキル〉

《黒霧》


〈スキル〉

《契約術Lv1》《威圧Lv1》《空間魔法Lv1》《料理術Lv1》《食器戦闘技術Lv1》《掃除術Lv1》《変装Lv1》《幻惑術Lv1》《悪魔術Lv1》


残りSLP0



 ……いや、なにこれ。悪魔に掃除術とか料理術とか必要なの?しかも食器戦闘技術ってなに?


『はい。【悪魔族】とは自らを呼び寄せたものと契約し、その願いを叶える者です。つまり……必要です』


 いや、理由になってないけど。まあいっか。

 こうやってAIさんが推してきたってことは、いずれ必要になる、ってことだろうし。


『──これで設定は以上です。お疲れ様でした。それでは、引き続きストーリーモードをお楽しみください』


 『声』がそう言うと、止まっていた世界が再び動き始めた。

 ちょ、突然すぎない?!


「私の名前はイア。さあ小僧、願いを言え。無論、代償は頂くがな」


 …いつまでこの羞恥プレイは続くのかな。

2025/8/27 誤字・脱字修正を行いました

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― 新着の感想 ―
今読み返して思ったことだけど、もしかしたら悪魔の山で災厄の悪魔が倒された?
[一言] 作者さん、もしかして、、、 「“魔王”とか“魔帝”とかに仕えてる第一の腹心にして圧倒的万能メイド」とか好きなんじゃなかろうか? 私も好きです
[良い点] メイドの悪魔には夢が詰まってる!
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