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異世界からのリベリオン  作者: 言乃 葉
3/7

マイアの願い

「……あなたは今、異世界にいます 」

「……は? 」


 状況を説明してくれるはずが、余計に状況が分からなくなった。

異世界? 元いた世界とは別の場所? つまり俺は今、日本どころか、地球にすらいないということなのか? まだ話は始まったばかりだと言うのに、もう頭がついていかない。


「まぁ、私たちからすれば、貴方が異世界から来たのだけれど 。私が異界召喚の術を使って、貴方を召喚しました 」


 俺の反応を気にせず、マイアが話を続けるが、すでに思考が停止してしまっているので、全く話が入ってこない。その様子に気付いたのか、カミラが話に割って入る。


「あの、マイア様。おそらく話についてこれていないのでは…… 」

「……あら? まだ何も説明してないようなものよ 」

「急に異世界と言われても、にわかには信じがたいのではないでしょうか……」

「ふーむ。でもこれに関しては、信じてもらうしかないのよね…… 」


 彼女たちもどう説明していいのか困っているのだろうか。マイアは少し考えてから、改めて話し始めた。


「まず、貴方が今いるこの場所は、イーヴァリア大陸の南に位置する国エリザルシア帝国。私はエリザルシアの皇女マイアと申します。そしてこちらが私の専属の侍女、カミラです。……あなたのお名前も聞いていいかしら? 」


 大陸も国の名前も、全く聞き覚えがない。マイアの言うことが事実なら、異世界に来てしまったと言う話を信じるしかないようだ。しかも、俺をここに連れて来たのは、マイア本人だということか。まだ半信半疑だが、今は聞かれたことだけ答えることにした。


「……千暁です。小路真 千暁 」

「コジマチアキ?流石に異世界から来ただけあって変わったお名前ね 」

「いや、あの……。コジマチアキじゃなくて、名前がチアキで名字がコジマです 」

「まぁ!名字があるの? 元の世界では貴族の方なのかしら? 」

「貴族……? いや、全然そういうんじゃないんですけど……。ま、まぁ……チアキと呼んでくれればいいです。あ、そういえば、怪我を治して頂いてありがとうございます 」

「あぁ、気にしないで。当然のことよ 」


 これは後に聞いた話だが、この国では、名字というものは、一部の例外を除き、貴族や皇帝の一族しか名乗ることが許されていないらしい。この世界では珍しいことではないようだ。しかしこの時の俺は、話が噛み合っていない事には気づいていたが、名前のことなんかどうでもよかった。それよりも、知りたいことが多すぎて、自己紹介なんかさっさと終わらせてしまいたかったのだ。


 それからマイアは色々な事を教えてくれた。ここは『ナドナ』と呼ばれていて、その昔、ファーレンという神がこの世界を創り、そのファーレンがナドナに一番最初に生み出したものが『世界樹マハリタ』という神聖な大樹らしい。この世界の全ての生物や植物は世界樹マハリタから生まれた。……と、いうのが、この国の国教でもあるファーレン聖教の聖書に書かれた教えのようだ。ナドナの人々は世界樹からの加護を授かり、魔法のような不思議な力を使うことができるらしい。俺の怪我を治したのも、その力のおかげというわけだ。


「まるでゲームの中の世界に来たみたいだな…… 」

「……え?なにか言った? 」

「あ、いえ……何でもないです。続けて下さい 」

「そう?じゃあ続けるわね。ここからが貴方が一番気になっているところだと思うけど―― 」


 ついに来た。ここがどこなのか、というのも気になるところではあったが、一番重要なのは、何故ここにいるのか?だ。マイアが喚び出したというのはさっき言っていたが、それ以上のことはまだ聞けていない。


「貴方をこの世界に喚び出したのは、あるお願いを聞いて頂きたいからなの 」

「あの……、その前にひとついいですか? 」

「何かしら? 」


 話の途中ではあったが、俺が一番気になっている事を先に聞いておきたかった。


「……なぜ、僕なんでしょうか?僕じゃないといけない理由があるんですか? それとも……別に誰でもよくて、たまたま僕がここに来たとか? 」

「……どちらかというと、後者に近いかしらね 」


 分かってはいたが、どうやら俺が選ばれし勇者だった――なんていうゲームの主人公のような展開ではないようだ。……どうせならそっちの方がよかったけど。


「異界召喚は、特定の相手を指定して召喚することもできるわ。人間に限らず、魔界から悪魔を喚び出すこともね。でも、それはあくまでも召喚する相手を知っている場合のみ。もちろん私に異世界の知り合いなんていないから、誰かを指定することなんて出来なかったわ。その代わりにある条件をつけて召喚したの 」

「……ある条件? 」

「……そう。その条件は、《元の世界で死ぬはずだった人間》。あれだけの怪我を負っていたんですもの。心当たりがあるはずよ 」


 …そうだ。確かに俺は事故に遭った。あのまま召喚されずにいたら、そのまま地面に叩きつけられて死んでいたということか。事故直後のあの奇妙なスローモーションは、もしかしたらその異界召喚とやらのせいなのかもしれない。


「た……確かに…。心当たりがあります 」

「そう。少しは信じてもらえたかしら? 」

「まぁ、信じるしかない。……という感じですかね…… 」

「……そうね。今はそれでいいわ。これから先、こちらの世界のことも色々説明していくわ。 とりあえず、話を戻していいかしら? 」

「あ、はい。お願いします 」


 おそらくこれが、現時点での最後の疑問。ここがどこで、なぜここにいるのかは分かった。あとは――


「何故喚び出したのか?……ここからは私達から貴方へのお願いになるのだけど…… 」


 マイアがまるで焦らすように、用意された飲み物に口をつける。焦らしていると言うよりは、言いにくいことなのだろう。


 この世界に来てから信じられないことばかりだが、少しづつ落ち着いてきた。もっとも、受け入れるまでにはまだ時間がかかりそうだが。なぜマイアは、異界召喚なんてものを使って、俺を召喚しなければならなかったのか?俺は黙ったまま、マイアが話し始めるのを待つ。


「この城に捕らえられた、ある男を脱獄させてほしいのです 」


 訂正しよう。落ち着いてきたなんてのは嘘だ。どうやら俺は、まだまだ受け入れられそうにない。


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