観察95:温かさを
「? 誰もいないのか?」
雪奈の家にきたオレは呼び出しても反応が一つも返ってこないのに疑問を覚えた。
「……開いてはいるな」
少し考え、オレは勝手に入る事にした。親が死に、後見人には紘輔さんがなっていた。実の叔父でもあるし、そう問題はないだろう。もちろん心情的な抵抗はあるが。
「……しかし、本当に静かだ」
中へと入り、オレはそうもらした。
『ひっく……すんっ……』
一つの扉の前で啜り泣くような声がした。
「……雪奈? いるのか?」
そこは雪奈家の部屋だった。
『……………………』
オレが声をかけた後、啜り泣くような声が止まった。
「……いないのか?」
百パーセントいると確信しながらオレはそんな事を言う。
『……………………』
返事はなかった。オレは気にせず伝えたい事を言うことにした。
「オレがいるから」
聞いているだろうか? 雪奈は。もしかすると耳をふさいでいるかもしれない。
「頼りないかもしれないけど……」
そう考えながらオレは続けた。
「雪奈にはオレがいる」
小さな子どもだろうけど。それでも自分よりも幼い子の傍にいて安心させることくらいできるばずだ。
「そう思ってくれるなら……オレが支えになると思ってくれるなら……」
反応は何もなかった。
「……出てきてくれないか?」
『…………………………』
やはり返事はない。
「ダメ……………か」
ダメなのかと諦めそうになる。
「……もし、オレが支えになると思うなら、いつでもいい。夕方、海に来てくれ」
それでも、海でのこころとのやり取りを思いだしたオレはそう言っていた。あの温もりを雪奈にも感じさせたい。そう願えた。そうすることで自分も救われるんじゃないかと感じた。
「………お前が来るまで待ってる」
そう言ってドアにメモをはさみ、オレはその場を離れた。
私はずっと耳をふさいで声をひそめていた。お兄ちゃんには居ることがばれてるだろうけど、何も聞きたくなかった。
「……これは?」
気づくとドアに何かが書かれた紙があった。お兄ちゃんが残したメモかなと手にとる。
『夕方に海で。待っている』とそれだけ書かれていた。
「………どうしよう?」
私は悩む。はっきり言って、今、お兄ちゃんには会いたくない。
「……………行かなくてもいい……よね」
誰かに会うことが今の私は怖い。親しい……親しかった人に会うのは特に。お兄ちゃんに否定されてしまえば、私がどうなるか分からない。
「………怖いよ」
だから私は行かないと決めた。
「助けてよ………お兄ちゃん………」
そう決めたのに、私は矛盾することをこぼしていた。
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