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観察93:終わってしまった日

「楽しみだなぁ……赤ちゃん」

「雪奈。少しは落ち着け」

あの日。雪奈の誕生日でもあった日。そわそわとしている雪奈にオレはそう言った。

「だって私がお姉ちゃんになるんだもん。落ち着いてなんていられないよ」

「だったらなんで病院に行かなかったんだよ?」

「そ、それは……誕生日だし、その……今日するって決めてたし……」

「まあ誕生日パーティーを別の日にするのはしまらないけど、やっぱり心奈さんも一緒がいいだろ?」

「パーティーじゃなくて…………その………」

そこで雪奈は黙り込んでしまった。



ううぅ……まさか私の誕生日と赤ちゃんが生まれてくる日が一緒になるなんて思ってなかったな。おばさん達に相談して、誕生日である今日にお兄ちゃんに言うって決めてたし……。

(………また緊張してきた)

おばさん達が帰ってきたら私はお兄ちゃんに『告白』するって決めてた。おばさん達も協力してくれるし、今日を逃すといつまでも告白なんて出来なそうで怖い。

「雪奈?」

「な、なに? お兄ちゃん」

「そんなに気になるんなら病院行くか? 母さん達が帰って来るまで少し時間あるし」

むぅ………お兄ちゃんてば何もわかってないよ。

「う、うん」

でも、私は頷く事しかできなかった。



疲れていたんだと思う。難産の末産んだ子は抱く事も出来ず死んでしまったと伝えられたから。

怖かったんだと思う。人の感情を露とも思わず、他人を、自分の子すらも道具として見るあの人が。

だから私は言ってしまった。あの人の血を引く雪奈に。

『いらない』

『あなたのせい』

そう言ってしまった。実際に言っていた時は支離滅裂で、何を言ったか覚えてるいない。ただ酷く取り乱して言ってはいけない事を言ってしまった。

「心奈さん……」

後悔していた私の元へ来てくれた紘輔君に私は縋り付く。

「ごめんなさい……」

全てに押し潰されそうになりながら、私は泣いた。



「雪奈…………帰ろう? きっともう母さん達が帰ってきてる」

病院に行こうなんて言わなければよかったとオレは思っていた。病院に来なければ、こんなにも雪奈が傷つく事はなかったんだから。

「今頃、雪奈の誕生日パーティーの準備をしてるよ」

「……………………………」

雪奈からの返事はなかった。

「主賓がいないと始まらないだろ?」

返事はやはりなかった。

「………いくぞ」

仕方なくオレは雪奈の手をとり、歩き始めた。



何も考えたくなかった。それなのに私はお母さんの言葉を何度も心の中で繰り返す。

『いらない』

そう言われた。怖かった。捨てられるんじゃないかと思った。それ以上にこめられた感情自身が怖かった。

「………いくぞ」

何度もお兄ちゃんに話し掛けられたのに私は答えられない。

「なぁ、雪奈」

歩きながら、お兄ちゃんは私に話しかけてくる。

「オレや母さんは、何があってもお前の味方だから」

「…………」

お兄ちゃんの気持ちは嬉しい。でも……

『いらない』

やっぱり、その言葉が離れない。

「とにかく、今日はお前の誕生日だ。嫌なことは忘れて、楽しもう」

「………うん」

やっとの事でその言葉を返す。

「うん……そうだね」

私が返事をしたことが嬉しかったのか、お兄ちゃんは安心したような笑顔になった。

(……うん。お兄ちゃん達が私にはいるもんね)

お母さんの言葉は離れないけど、それでもそう考えると少しだけ気が楽になった。

(それに、今日は告白するってきめたんだもん)

落ち込んでばかりはいられない。

「ん? 母さんたちだ。オレ達がいなかったから探しに来たのかな? 書き置きはしてたはずだけど」

お兄ちゃんの言葉に前を向いてみると、おばさんとおじさんがこちらに歩いてきていた。

「ほら、雪奈。笑顔だ。母さん達を心配させたくないだろ?」

横断歩道を挟んで、信号が変わるまでの間おばさん達と向かい合う。

「信号が変わったら笑顔だ」

私はお兄ちゃんの言葉にうなずき、うつむいて、心を落ち着ける。

「ほら、変わった」

お兄ちゃんの合図に顔をあげ、とびっきりの―――

「……え?」

―――笑顔で固まった。

「ぁ……」

顔をあげ、私が見たものは、高速で突っ込んできた車にはねられる二人の姿。

『ぴちゃっ』

と、顔に何かが跳ねてくる。

「ぃ……」

それが、はねられたおばさんの血だと分かった時、

「いやぁぁぁぁぁあぁああ!」

私は幼い恋心ごと壊れた。

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