観察92:友達の作り方?
今回は、俊行視点とこころ視点の二つがあります。
「ふ〜ん……あれが雪奈の……」
後ろで髪をまとめた少女は平凡そうな少年を面白そうに観察していた。
「まあ、予定通りに行くだけね」
そういって少女――幼いこころ――は少年――幼い俊行――へ向かい走り出した。
「そこの男子避けなさい!」
後ろから声がかけられる。振り返って見ると、見ず知らずであったこころがオレに向かって走ってきていた。そんな状況でオレにあった選択肢は――
1:右に避ける
2:左に避ける
3:出会いを求めて避けない
4:明日へ走り出す
この4つ。そしてあの時オレが選んだのは――
「は!?」
と、あたしはまさかの展開に驚いたのを覚えている。よりにもよって、あの時俊行は前に向かって走り出したのだった。横に避けたり、反応出来ずに止まっていれば簡単だったのに。おかげであたしはスピードを上げるしかなかった。
「は!?」
と、オレはまさかの展開に驚いたのを覚えている。嫌な予感がして走り出したのはいいんだが、避けてと言ったこころがスピードを上げてオレに迫ってきていたからだ。事実はどうあれオレを追ってきているようにしか見えなかったし、ジグザグに走って、元の場所に戻ってなおオレに向かっていたんだからそうなんだろう。そしてその頃にはオレは体力も切れ、
「いたっ!」
こころのタックルを受けた。
「いたた……もう、避けてって言ったのに……」
倒れたこころは立ち上がりながらそんな事を言った。
「何で逃げたのよ?」
「避けてもぶつかる気がしたから」
「全く……余計な手間をかけさせないでよ」
「……やっぱり最初からぶつかるつもりだったわけか」
「………………ソンナコトナイワヨ?」
「………で? オレに何の用だよ?」
「実はあたしは転入生なのよ。だから友達になって」
「却下」
「なんでよ?」
「話の脈絡がないのと、タックルをしかけてくる女の子を友達にするのは嫌だから」
「………どうしてもダメ?」
「ダメ」
はっきりとオレは言った。
「……………月夜ばかりと思うなよ」
数秒の沈黙の後、こころはそう言い残して去った。
「…………何だったんだ?」
オレは首を傾げた。
「なあ、こころ。オレとお前が会った時のこと覚えてるか?」
現在、観覧車の中。オレはこころにそう聞いた。
「………覚えてる」
「結局アレは何だったんだ?」
「何でもいいでしょ? 今更」
「確かに今更だけどさ……友達になるって言うまで毎日タックルしてくるってどうよ?」
雨の日も風の日もこころが風邪の日もタックルを続けたんだからなんというか………。
「毎日逃げつづけたあんたもどうかと思うけどね」
「いつの間にか雪奈と仲良くなってるし、初めてぶつかった日の次の日にオレのクラスに転入してきた時は本当に驚いたぞ」
「とにかくあたしは俊行と友達になりたかったの。それでいいでしょ?」
「……その理由を聞きたいんだけどな」
「ふふん。秘密よ」
「……秘密かよ」
「いい女の条件だからね」
はあと、オレはため息をつく。ただまあ、こころと友達になれてよかったと思う。じゃなければ、オレと雪奈の関係はあの日終わってそのままだったろうから。
………あの日を思い出そう。